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吸血鬼が憩える保健室  作者: 坂持


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正月遊戯部第一回すごろく大会

 今から完成したすごろくをやっていこう――ってところだけど、これがまあ酷い。


 永海先輩の考えた五つの指示。


 ――右隣の人を抱きしめたままプレイ。


 ――語尾がニャンになる。


 ――先生に自分の良い所を言ってもらう。


 ――先生に感謝の言葉を伝える。


 ――他のプレイヤーに指示を出せる。


 この五つ。私が一番恐れているのは最後の『他のプレイヤーに指示を出せる』のマス。聞いたところ、王様ゲーム的な感じらしい。悪ノリが進めばなにか過ちを犯しそうな予感がする。


 でもまあ、先輩のはまだまあまあ良心さえあれば大丈夫。問題は佳の考えたマスだ。


 ――十ターン休み。


 ――一マス戻る。


 ――スタートに戻る。


 ――一マス戻る。


 ――負け。


 この五つ。


 ………………『負け』ってなに‼


 分かってるよ、負けは負け。そのマスに止まった瞬間負けが確定してしまうというもの。酷すぎる……。


 後半になるにつれ、佳のマスをどこに置かせるかを考えていた。『負け』の一マス先に『一マス戻る』を置かれてしまったら更にヤバいし。


 でも佳も考えたらしく、最後まで残った『一マス戻る』のマスを『他のプレイヤーに指示を出せる』の一マス先に置いた。


 これにより、佳が私を負けのマスに移動させることもできることになった。


 ……酷すぎない?


 それでも、すごろくは完成。序盤と終盤にマスが固まったけど、とりあえずやってみなければ分からない。


 ということで、これからすごろくが始まる。


 使う駒は自分達の消しゴム。サイコロは佳の持っていた立方体に近い消しゴムを加工して、ペンで書いて作った。


 じゃんけんはもう飽きたから、順番はサイコロを転がして決めた。出た目が大きい人からスタートということで。


 結果、佳が六、私が二、先輩が四で、佳、先輩、私の順番でスタートになった。


「じゃー正月遊戯部第一回すごろく大会始めるねー!」


 佳がサイコロを振った。


「四」

「一、二、三、四――うわー!」

「フハハハハハハハハハ‼」


 いきなり佳は私の作ったマスに止まった。


 そのマスは『《時限爆弾》誰かと同じマスに止まればそのマスにいる全員スタートに戻る』のマスだった。


「でもこれ、私達も気をつけないと駄目だよ」

「絶対なっちゃんと同じになるよ、これは」

「同じにならなければどうということは無い!」

「次は私」


 続いて先輩の番。


 サイコロを振って出た目は二だった。あっ……。


 先輩の顔を見ると、先輩は固まっていた。元々表情に乏しいから分からないんだけど、これは確実に固まっていると分かった。


「あー……先輩……」

「ん。次は鳴月の番」


 私がなにか言う前に先輩にサイコロを渡された。佳は嬉しそうだった。おい。


 そして私の番。


「あー……先輩……お揃いですね……」


 先輩に遮られた言葉の続きを言った。


 出た目は一。これで私と先輩の十ターン休みが決まった。つまり佳が十ターン連続で行動できる。


「やったーーー! じゃーずっとうちのターン」

「十ターンだけね、ちゃんと一回一回行動してよ」

「分かってるよなっちゃーん」

「鳴月、佳が『負け』に止まれば私達にもチャンスはあるよ」


 先輩の言う通り、佳が『負け』に止まれば全て無かったことになる。私と先輩はそれを祈って佳のプレイを見守る。


 二巡目の最初は佳からだから、佳は十一回サイコロを振ることができるのか。


 まず出たのは五――なにも無いマス。そして先輩と私の一ターン目の休み。そして三巡目の佳のターン。


「よしよし、これで『負け』が射程圏内に入った」

「五以下を出してほしい」

「うぅ……キンチョーしてきた……」


 緊張しても振らなければならない。佳の今の位置からだと、五マス先に『負け』のマスがある。六を出せば安心だけど(『先生に自分の良い所を言ってもらう』マスだけど負けに比べればまだマシ)五を出せば『負け』だし、それ以下だとまだ『負け』チャンスが残る。ちなみに四を出せば『語尾がニャンになる』のマスに止まる。


 覚悟を決めた佳がサイコロを振った。そして出た目を見て、私と先輩はハイタッチ。佳はその場に崩れ落ちた。


「「はい、佳の負け〜」」


 見事ピンポイントで五を出した佳。自分で考えたマスのせいで負けてしまった。


「うあああああああああん! 負けたーーー!」

「全く、誰がこんな酷いマスを考えたのか」

「なっちゃんのいじわるー!」

「じゃあ十ターン経過で私と鳴月は復帰。二人の戦いだね」


 まさかすごろくで脱落者が出るとは思わなかったけど、負けたのが自分じゃなくてそのマスを考えた佳だから凄く楽しくなってきた。


 もう何巡目でもいいや。


 次は先輩の番でサイコロを振る。出た目は三で、最初佳が止まった《時限爆弾》のマスだ。


「これは……長期戦になりそうですよね」


 プレイヤーが二人しかいないのだから、その《時限爆弾》が爆発するのは私が同じマスになった時。二人しかいないのに、二人揃って最初から。私の体力が持つのか、今更ながら不安になってきた。


 私の振ったサイコロは四。これはなにも無いマスに止まった。


 そして先輩も四を出した。


「あ、私の考えたマス」


 先輩の止まったマスは『先生に感謝の言葉を伝える』のマス。


「なんか恥ずかしいですよね、こう感謝を伝えるのって」


 私が言う訳じゃないのになぜかムズムズしてきた。表情で読み取れないけど、先輩は自分で考えたんだし緊張しないのかもしれない。


「言ってくるね」


 立ち上がった先輩は和室から出て、不知火先生の下へ向かう。気になった私と佳も和室から顔だけ出してその様子を見守っていた。


「先生、いつもありがとうございます」

「え⁉ 永海さん、急にどうしたのぉ?」

「先生に感謝を伝えたかっただけです」

「あぁ~、なんかそう真正面から言われると照れちゃうねぇ」


 耳を赤くした先生がはにかむと、先輩はこちらへ戻って来た。


「言う方も言われる方も緊張するね。我ながら良いマスを作った」


 満足気でなにより。うん、私もなんか胸が温かくなった。


 ということですぐに私の番。


「また四」

「さっきから四ばっかだねー」


 私の進んだ先はなにも無いマス。ただ、もう『負け』が射程圏内に入っている。しかも佳がいたマスと同じで、私も五を出してしまうと負けてしまう。


 一応先輩も六を出してしまったら負けてしまう位置。


「六六六六六六六六六」

「鳴月、自分に返ってくるよ」


 そう言って先輩の振ったサイコロは五だった。


「次、一以外なら大丈夫ニャン」

「うおっ、可愛い……!」「えー、可愛い‼」

「これは恥ずかしい……ニャン」


 抑揚の無い声、あまり変化の無い表情、だけど可愛い。流石超絶美人の先輩。


 先輩からサイコロを受け取って振る。


「三――うーん……」


 三マス先はなにも無いけど、負ける可能性は消えない。


 先輩にサイコロを渡す。二人しかいないからかなりテンポよく進む。


「「「あっ……」」ニャン」


 テンポよく進むなと思っていたら先輩が一を出した。


「……負けたニャン」

「うわー、なんでここに止まっちゃうんだろー」

「えぇ……これ私の勝ちでいいの? ゴールまで行けるかやってみる?」


 私しか残ってないけど、ゴールせずして勝ちでいいんだろうか。だってまだ私も負ける可能性あるし……。


「ん。鳴月の勝ちで大丈夫ニャン」

「なっちゃんの勝ちー。二位は先輩」

「じゃあ……」


 と言いつつも、サイコロを振ってみる。出た目は五、私の考えたマス『自分の長所を三つ言う。言えなければ一回休み』に止まった。


「顔が良い頭が良い髪の毛が綺麗」

「もーなっちゃん勝ったんだよ⁉」

「ごめん言いたかっただけ」


 まあとりあえず、正月遊戯部第一回すごろく大会は私の勝ちで終わった。

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