友達
甲斐田紅葉。
それが、私の名前。
私とお父さんを繋げる絆。
お父さんは、私をこの世界の縛りから解放するために、自分の心臓を提供してくれた。
当時、私は理解していませんでした。
心臓、という臓器に関して。
飴玉をあげるように、体の最も重要な臓器を気安く彼がくれた異常性を。
そんなことをして、支障をきたさないわけがないことを………。
そんな疑問を覆いつくすほどの幸福に、私は包まれていたことを。
私という存在を、疑問視することすらなく。
ただただ与えられる幸福に胸がいっぱいになるだけだった。
お父さんとの防衛局勤務を体験してから少し時間が過ぎたあたりだった。
私は、何気なく購買に行って、次の任務のための必需品を購入したときだった。
「あ、あの!」
うしろから急に声をかけられた。
丸渕眼鏡、ショート、カーディガンを羽織った少女。
とても防衛局勤務者とは思えない格好だった。
「か、甲斐田紅葉さん………で、ですか?」
その時の私は、少しだけその名前で呼ばれたのがうれしくてついつい自分から名乗ってしまった。
「ええ、甲斐田紅葉は私よ」
その言葉を聞いた目の前の人物は、目を輝かせていた。
羨望。
なぜそんな目でこっちを見る?
「私と同じ歳くらいで、あの『零』部隊で活躍しているって聞いていたから!」
見た目に反して結構、グイグイとくるタイプなのだろう。
たじろいでしまった。
が、気を取り直して聞かなければならない。
「それで、要件は?」
これでも、私は忙しい。
お父さんに甘えるとか。
お父さんにわがままを言うとか。
お父さんをぺろぺろするとか。
とにかく忙しいのだ。
こんなところで道草を食っている場合ではないのだ。
「た、単刀直入に言えば———」
少しためらって言うべきか悩んでいるところを見て、『あ、面倒ごと』と察してしまった。
「わ、私に訓練を付けてくれませんか!?」
ほら、面倒ごとだった。
口からため息が出そうになるのを我慢するので精いっぱいだった。
それが、私の友達である東雲アズサとの初めての邂逅でした。




