才能と現実
「ぐへぇ」
案の定というか………歴然というか。
手加減をするので精いっぱいだった。
指一本チャレンジもできてしまった。
「ここまで、10戦したけどそろそろ限界でしょ?」
もちろんだが、私は魔法を使ってない。
身体能力だけで訓練をしていた………はずだ。
力加減を誤れば殺めてしまう危険性まであるくらい歴然だった。
そのくらい東雲という人物は、弱すぎたのだ。
返事が返ってこないことをおかしいと思い様子を見ると、少女は、呼吸がまだ整わないのか口から『ヒューヒュー』といった呼吸音が聞こえてくるだけだった。
しかたない。
彼女を担いで医務室のベッドまで運ぶことにした。
女医さんによると、突然の過剰運動による肉体的疲労だそうだ。
ようするに、『運動不足』だ。
そこで、疑問に思ったことを女医さんにぶつけることにした。
「こういった子も前線に立たせるの? 無謀としか言えないけど」
「正直、数年前の『MOTHER AI』の暴走が暴走して廃棄されたわ。その代わりに新しく導入された『HOPE AI』によってデザインチルドレンが変質したことも原因だけど、最も多い原因は就業難だね」
就業難?
「コロニー内部における仕事は、ほぼコロニー内部の進学校卒業組が占めているの。それに対して、地上地区の住民は、防衛局に就業するか、リステージ計画に参加するかのほぼ2択になって、例外はないわけではない………けれどその道は運要素があるかな」
そういって、今は意識がない彼女を見つめ直す。
「彼女は、魔法適正が防衛局向きではないのよ」
その言葉に、頷くほかなかった。
「さっき、練習試合をしてわかったけど、彼女の基礎体力も、基礎魔法力も底辺レベル。確実に戦闘向きの能力じゃないし、そもそもの肉体強度が低すぎる。これじゃあ、軍学校の卒業すらあぶなくない?」
「危ないというか、無理でしょうね。………もし進学校に入学できていれば事情は変わっていたかもしれないけれど」
その言葉に引っかかりを覚えた。
「進学校なら、この子の力が発揮される、みたいな言い方ですね?」
その言葉に女医さんがためらいながら口を開いた。
「その子は、軍学校での成績は見られたものではないけれど、軍部が使う補助具と言われるデバイスの組み立てに秀でているし、同学年の汎用性デバイス程度なら調整だけでなくコピー品も作れるくらいの実力を持っていますよ?」
ほーん。
なるほどね。
コロニーの制度に潰されたパターンか。
それに、『MOTHER AI』が無くなったことによって、人類の全体を俯瞰する傍観者がいなくなったことも起因している、と。
デザインチルドレンは防衛局以外の道はほとんどない。
月下健吾さんみたいに、多彩であれば他の道はあるが難しいだろう。
「それで、この子の試験練習にこれからも付き合うの?」
「私も暇じゃないの。それに、防衛局以外にもメイドとしての仕事があるから」
私は私という存在がよくわからない。
でもお父さんとお母さんは、得体のしれない私を可愛がってくれている。
だからと言って公私混同はしない。
お父さんは、仕事終わりの一時間は組手の練習に付き合ってくれている。
お母さんは、仕事の運営の仕方を教えてくれている。
何より難しいのは、言葉を発することはできるけれど、文字の読み書きができない点だ。
そこも含めてお母さんに指導されている。
でも、できたら喜んでくれるし怠けていると怒られる。
仕事は、一日おきに交互で行っている。
お父さんは、軍部に入れたくないと思っているらしく、お母さんは四乃宮家………というよりも、コロニーにあまり関わってほしくないという気持ちがあるらしい。
両親の複雑な思いもある。
だからこそ、私は早く自立して二人を支えられる存在になりたい。
ここで足を止めるわけにはいかないのだ。
そう思って切り捨てようとした時だ。
「ここまで、あなたに会いに来たのに?」
また含みのある言い方だ。
「何が言いたいの?」
「ここは防衛局よ? そして、彼女は軍学校の一生徒。ここに入れるパスは持ってないのよ。明らかに、罰則覚悟の侵入行為よ。そこまでして、あなたに会いに来るくらい憧れているんじゃない?」
「憧れ………」
よくわからない。
それに、その責任は個人の勝手だ。
私が負うべきものじゃない。
「個人の問題には立ち入らないわ」
そんな時だ。
「こんなところにいたのか、紅葉ちゃん」
お父さんが、迎えに来たのだ。
「お父さん!」
「どこかケガでもしたのか? それとも体調がすぐれないとか?」
「違うよ!」
そこで、ことと顛末をお父さんに話したら少し難しい顔になった。
「紅葉ちゃん、この子を可能な限り助けてあげなさい」
「え、どうして!?」
その問いに、お父さんは微笑みながら言葉を返してくれた。
「それが、君の大切な思い出になるからさ」
お父さんは時々、難しいことを言う。
でも、結果としてお父さんは間違えない。
だから、私の結論を変更する。
「わかった」
でも、どうしたものか。




