甲斐田紅葉
目を覚ますとすでに彼が目を覚ましていた。
そして、なぜか私をあやすようにやさしく抱いていた。
「な、なにを!?」
「あ、目が覚めた?」
そういって、抱いていた私をベッドに座らせた。
少しその手が離れることに寂しさを感じたが意味が分からない状況で安心している自分自身を正す。
疑問をぶつけなければ。
「私はどうして、生きているんですか!?」
知らなければ。
ことと次第では逃げなければならない。
そう思い、身構えた。
が———。
「そりゃあ、助けたから生きているんじゃない?」
まるで当然、と言わんばかりに言ってのける目の前の男が怖かった。
「でも、胸を貫かれたような感覚が………」
「ああ、爆弾は取り除いていたよ?」
あれは、私の中の爆弾を取り除くため?
「………。だとしても、そんな一瞬でふさがるような傷じゃ………」
「そうだね。まさか、僕の心臓を入れた瞬間に自動再生するとは思わなかったなあ」
………。
はあ?
この男は、なんていった?
「し、心臓? 入れた?」
「そう。君に僕の心臓を移植したよ?」
そういって彼が羽織っていた服をずらすと縫合した痕跡があった。
「それじゃあ、あなたは………」
「今、人口ポンプで生きている感じかな」
意味が分からない。
「あ、それと君についていた爆弾は僕の血液ポンプに入れてもらったから」
「はあ!?」
ますますわけがわからない。
「君を生かしておくためだよ。そうしないと、上の人たちが納得しないから、ね?」
つまり責任を自分の命と引き換えで取ったということだ。
「なんで———」
その言葉を遮るように、
「これからは、君は僕の娘として生きていくことになる」
もはや言葉が出なかった。
娘!?
そういったのか?
「君はこれから甲斐田と名乗って生活するんだよ。」
「意味が———」
「でも、名前はどうしようかな」
「話を聞け!」
そういって彼の頬を叩いた。
彼の頭がグラついた後で、何かを思いついた顔になり、
「これはいいね。君の名前は紅葉だ。うんうん、いい名前」
もはや、勝手に決められた。
落ち着くために一呼吸入れて、
「どうして紅葉なんですか!?」
そういって疑問とビンタをかます。
そういうと、彼が叩かれた頬をおもむろに見せると疑問が消えた。
そこには真っ赤な手形があった。
「それにね、鏡を見てごらん」
「?」
出された手鏡を見ると変化したのは肌の色だけではなかったらしい。
ボサボサだった髪が整えられているのはいい。
だが、髪の色が朱色になっていた。
色鮮やかなほどの紅と朱。
「どうやら、移植すると人間に近くなるみたいだね。おかげで普通に触れられるよ」
そういって髪をなでられた。
子供扱いされているようで、ムッとしたがなぜか抗えない安心感があった。
「体に異常は?」
「知らない!」
もはや条件反射で怒鳴ることしかできなかった。
そういって対面したときに気が付いた。
「目の色が違う………」
先ほど見たときは私と同じ赤い色だったが今はまるで死人のような色彩が白いのだ。
「ああ、これ? 体質だから気にしないで」
体質で片づけていいのだろうか。
「あ、コーヒー飲む?」
「え?」
どこからともなく、カップに注がれた黒い液体が出てきた。
においだけはいいいが、見た目は毒そのものだ。
「そう警戒しなくてもいいよ。君、モミジちゃんように調整したものだよ」
その言葉に促され、カップを受け取り恐る恐る飲んでみる。
が———。
「うへっ、苦い」
おいしくないのだ。
「うーん、僕はブラック派だからな………。砂糖でも入れてみるか」
またどこから取り出したのかいくつかの白いキューブが空中を舞っていた。
それを一つ入れスプーンでかき混ぜてもう一度渡された。
それを口に運ぶと、
「………甘い」
美味しかった。
そして、手足の寒さが無くなり温かくなっていく。
「なるほど、モミジは砂糖派だね。よかった。これでミルクを要求されたらどうしようかと思った」
どうやらミルクはないらしい。
ゆっくりと飲んでいくと眠くなってきた。
「あれ、カフェインレスとはいえ、そこで寝ちゃう?」
どうやら、予想外らしい。
「しかたない。行政区のお役人もそろそろ帰宅しちゃいそうだから、手続き諸々済ませに行こう」
そういうと、まだふらつく足を無理やり立たせ、彼は私を優しく抱きかかえてこの白い空間を後にした。
先ほどまで敵同士だったのになぜだか異常なほど安心感があり、私は彼の胸の中で再度の眠りについた。




