豊穣祭の終わり②(フェリクス目線)
一粒の涙がボールルームの眩しい光にさらされ、アメリアの頬を流れ星のようにきらきらと滑り落ちていく。
それがあまりに美しく、また、フェリクスにとって初めて見るアメリアの涙だったことで、フェリクスは放心したまま二の句を告げなくなった。
しかし、どこか熱気の残った秋風が、フェリクスに現実感を連れてくる。
意識を戻されたフェリクスは、それでも状況を理解できなかった。
アメリアがなぜかカーテシーをとっているのだ。
それは礼の中でも、謝罪の型だった。
「恐れながら申し上げます。第三王子殿下の御前を下がりますことを、どうかお許しくださいませ。」
「…アメリア?」
「どうかお許しを……もしかすると風邪かもしれませんので、エスコートは————」
「!!そんなことは到底できない」
そう言うや否や、涙を拭ったアメリアの手をぶんどるようにしてエスコートし始める。
すぐに、アメリアが帰る旨を従者に伝え、右手でアメリアの手を取り、左手でアメリアの肩を抱き支えて歩いた。
パーティをすり抜けていく過保護なエスコートを、多くの人が生暖かく見守ったが、フェリクスの鬼気迫る様子から誰も話しかけることはない。
体調不良でアメリアが倒れてしまったら。
そう思って咄嗟にアメリアを抱き寄せて歩き出したが、肩を抱いた瞬間アメリアがフリーズしたのが、手のひらから伝わってきた。
たとえそれほど不快でも、文句も言わずにきれいなウォーキングを保つアメリアに「約束された役割と責任」という言葉を思い出し、見知らぬ地で置き去りにされたような感覚になる。
抱き寄せているのに、こんなに近くにいるのに、アメリアが遠くにいるようで、フェリクスは腕をほどけなかった。
こんなに美しいアメリアを誰かの目に触れさせたくないと思った。
それで人が少ないバルコニーに出たのも、少しでも一緒にいたくて話を長引かせたのも、紛れもないフェリクスのわがままだった。
でも、そのせいでアメリアに無理をさせては本末転倒だ。
まだ空気には夏の名残りがあって風も弱いが、これで彼女が風邪を引いたりしたら後悔してもしきれない。
そんな風に考えながらフェリクスはアメリアを馬車までエスコートし、思い詰めた背中でその姿を見送った。
ちなみに、そうして馬車が見えなくなるまで立ち尽くすフェリクスの様子は、騎士やメイドのみならず、バルコニーで見学していた貴族たちにもしっかり見届けられている。
しかし、思い詰めている本人はそれどころでない。
自分の腕の中でこわばっていた彼女が、馬車に乗りこんだ途端、やっと解放されたとばかりにその雰囲気を和らげたのを、フェリクスは見逃すことができなかった。
フェリクスにはそれが、放心したような、安心したようなものに変わったように感じられた。
思い当たる理由で良いものが一つもないことにフェリクスは気落ちしながら、会場に戻らずそのまま王城へと消えていった。
ブクマや評価ありがとうございます!
いつも喜んでおります。
エンジョイ&マイペース更新ですが、すこしでも楽しんでもらえたら嬉しいです!




