ユーリの見解
豊穣祭が明けた、次の日のこと。
フェリクスは、クラプトン公爵家をめずらしく訪れていた。
寡黙なフェリクスがユーリの家を訪ねることはそうそう無いが、なにやら内密に相談があって来たという。
めずらしいフェリクスを始めこそ茶化していたユーリだったが、フェリクスの切迫した様子から、今はユーリの自室でティータイムにしている。
そしてフェリクスから本題を聞いたユーリは悩ましい表情で、なんとも言いづらそうに口を開いた。
「フェリクス、それは…」
「………」
明るいキャメルカラーで統一されたユーリの自室は、やわらかい雰囲気の家主に似たのか、ふしぎと穏やかな気持ちになる空間だった。
そんな部屋に置かれた休息用のティーテーブルは、本来ならば特に落ち着くスペースだ。
だが今は、まるで詰所のような、あるいは窮地にある軍師会議のような、なんとも異様な緊張感に包まれていた。
ふわりとしたベロアの椅子に掛けるフェリクスは、背もたれに一度も背を預けることなく、膝においた腕で頬杖をついたまま微動だにしない。
フェリクスは、もしかすると食事も睡眠もろくにとっていないのではないように見えるほど憔悴している。
今まで幼馴染で親友として、長い時間をフェリクスと過ごしてきたユーリでも、ここまで参っている彼を見たのは初めてだった。
何もかも諦めたような、それでいて一縷の望みをかけるように言葉を待つフェリクスに、ユーリは慎重に言葉を選びながら続ける。
「……もしかすると、コーンウェル嬢に多大な誤解を与えたかもしれないよ」
「誤解…?何をだ」
「正確にはわからないが……その言い回しだと、まるで浮気を見破られたかのようだ。僕の経験上」
フェリクスはあまりの衝撃に閉口してしまう。
とんでもない仮説を立てたユーリに対して、信じられないという顔を向け、表情からその思いを受け取ったユーリは宥めるように言葉を繋ぐ。
「僕はねフェリクス、君が浮気したなんて夢にも思わない。フェリクスがどれだけ彼女を心酔…大事に思っているかを、君の近くで見て来たからね」
「では、アメリアもそれは−−」
「甘い。もちろん振る舞いは大事だし、気持ちは伝わるだろう。けれど女の子は、心のどこかで欲しい言葉を待っているものだ。そして時に言葉は、それまで積み上げた時間や行動を上回るほどの影響力を持つことだって、少なくはない。たとえそれが何気ない言葉であってもね」
それが、件のパーティーでは逆効果に働いてしまったのではないかと、僕は思う。
フェリクスから一部始終を聞いたユーリが、予想されることを粛々と付け加える。
いつもの掴みどころがない風体をしまって、真剣なまなざしで女心を語るユーリに対し、いつもなら「そんなまさか」と一蹴するフェリクスも、今回ばかりは半ば縋るように話を聞いた。
そして、いつになく頼りがいと説得力のある友人の話を聞くフェリクスは、汚名返上の手立てのために藁にもすがる思いだった。
もちろん、フェリクスはその仮説を認めたくはない。
しかし実際は、その通りなのかもしれないと思うような状況だったのだ。
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