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すれ違う2人③






「いえ、いただいた桔梗(キキョウ)は、ドライフラワーにもするほど気に入っています。ですから、これ以上もらうなんて贅沢はできません。むしろ、プレゼントが足りないのは……私の方です」





今夜の豊穣祭で、青い薔薇のコサージュと青い蝶が出会うことはなかった。

それはアメリアのプレゼントが至らなかったからに他ならないはずだ。

アメリアはそれを心残りに思いながら、そうフェリクスに告げた。





「いや、あなたにこそ受け取って欲しいものなんだ。それに私はすでに十分もらっている。マカロンは執務中にも食べやすいし、とても美味しいな」





「………」





フェリクスがマカロンの感想とともに、「その気遣いもうれしかった。ありがとう」と言葉をくれる。

コサージュについても続きそうな流れにアメリアは緊張していたのだが、マカロンについて話したきり、フェリクスは何も言わない。



アメリアは破裂しそうな胸を抑えて、星空に逃がしていた視線を、恐る恐るフェリクスに戻した。

すると、アメリアと目が合ったフェリクスは、かすかに微笑んで小首を傾げる。

まるでアメリアの返事を待つように。

ありがとう、の後には何も続かないのだと知り、アメリアの心はみるみる絶望に染められていく。



あのコサージュは、無かったことにするほど気に入ってもらえなかったのか。

もしくは、あまりにも評価しづらくて、話題にも出さないよう気を遣ってくれたのだろうか。

黙り込んだアメリアに、フェリクスの気遣わしげな声が響く。





「どうかし……酔ってしまったか?」





なにか様子がおかしいことに気がついたフェリクスが、アメリアの顔を覗きこんだとたん、ぴたりと止まる。

そして、まるで眠る獣を起こしたくないかのように、ゆっくりと元の体勢へ戻った。

しばし沈黙した後、思い悩むようにフェリクスが告げた言葉は、さらにアメリアの胸を抉る。





「ワインは少し強いからな。……人前ではあまり飲まないほうがいいかもしれない」





人前に出られないほど酷い顔を、フェリクスに見られた−−−−−−−−



言葉を酔った思考でスキャンしたアメリアは、刹那フェリクスに背を向ける。

突然、尋常でないスピードで振り向いたアメリアに、フェリクスは何かあったのかと驚きながら、咄嗟にアメリアを庇うように歩み出た。

しかしアメリアは、もう想い人に()()()を見られるわけにはいかなかった。



アメリアは自分の肩に触れそうになったフェリクスの手を弾き、避けるように身を引いた。

その瞬間、アメリアは自分のしたことに息をのむ。



口をはくはくと動かすアメリアの背後で、フェリクスも硬直している気配がする。

第三王子が手を払いのけられるなどありえない、信じられないことだ。

あまりの失態で生きた心地がしないまま、アメリアは即座にフェリクスへ体を向け、深い謝罪のカーテシーをとった。






「恐れ多くも御身に手を上げたこと、あまりに失礼な許されざる行為でございました。謹んで、心よりお詫びを申し上げます」






「……っやめてくれ」






「いいえ、このような−−−」






「……急に触れようとした私がいけないのに、どうしてあなたが謝る。頼むから、顔を上げてほしい」






顔など上げられるはずがなかった。

しかし、これ以上食い下がる方がフェリクスの負担になると判断して、ゆっくりと姿勢を起こす。

それでも様々な理由から、アメリアは視線だけは地面から剥がすことができなかった。



こんな細いグラス一つで酔ってひどい醜態をさらした上に、フェリクスの趣味も汲めなかった。

そんなアメリアより、ティリオーネとデートをする方が楽しかったのではないか。

抑えていた不安に、混乱したアメリアの心が引っ張られる。



ワインの度数が強いことは、アメリアも知っていた。

けれど、今日のおそろいが実現できないなら、せめてフェリクスと同じものを、同じ時に楽しみたいと思った。

それこそが、身に余る願いだったのだと今さら気づく。



沈んでいく気持ちをなんとか引き留めて、アメリアは深く息を吸う。

反省も後悔も、後で1人ですればいいのだ。

そう考えたアメリアは、フェリクスにこれ以上不快な思いをさせないために顔を上げた。






「……本当は体調がすぐれないのだろう?私のわがままで、無理をさせてしまった。すまない」






下を向いたまま黙り込んでしまったアメリアに、フェリクスが心底悔やむような声で言った。

フェリクスが近くにいたウェイターを呼び止め、馬車を手配するよう指示する。

体を気遣ったフェリクスが上着をアメリアの肩にかけ、室内へ戻ろうとアメリアに手を差し出す。



この清廉なまなざしの、真綿で包むような優しさを、他の人には向けないで欲しいとアメリアは思った。

それと同時に、こんなに優しく誠実な人が、王都でフィアンセを差し置きデートをするなんて、やはり嘘だったに違いないとも思う。

そんなフェリクスにこれ以上あらぬ疑いを持ち続けるのは嫌で、アメリアは確信した上で問うた。






「最近、王都のジュエリーショップへおいでになりましたか?」






差し伸べられていたフェリクスの手が、ほんのかすかに震えた。

直後、アメリアの手を待っていたアイスグレーの瞳が見開かれる。

呆然としたフェリクスの金髪が夜風にさらさらと流れるのを、アメリアはどこか他人事のように見ていた。



アメリアは嫌な予感から目を背けたかったが、アメリアの紺色の瞳は文字通りフェリクスの驚愕に縫い付けられ、もう見届けるほかなかった。

フェリクスが、信じられないと言うように口をひらく。






「なぜ、それを知っている……?」







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