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すれ違う2人②







アメリアとフェリクスは、王城で開かれた豊穣祭のパーティにいた。



会場は、宮中でも一番広いボールルーム。

白とゴールドを基調とした厳かな室内に、彫刻を施した立派な柱が巡っている。

その柱の間にあるスペースには、それぞれの壁一面に大きなペイザージュ(風景画)が描きこまれ、より荘厳さをかき立てている。



中でもシャンデリアの存在感は圧倒的だ。

複雑に切り込まれたクリスタルや雫のようなカットの水晶が、すべての光の屈折と反射をくり返し、きらびやかなボールルームをいっそう輝かせる。





たくさんの挨拶を済ませ、2曲目のダンスを踊りおわったフェリクスとアメリアは、少し休憩するため静かなバルコニーへと向かう。

バルコニーに出る直前、窓のガラスがうっすらと2人の姿を反射した。



その時、パーティの喧騒の中に慌ただしく包まれたことで、コサージュの件から意識が逸れていたアメリアの目に、改めて現実が突きつけられる。



夜を薄暗く縁どった大きなガラスには、張り切って()()()をまとったアメリア自身と、胸元にラベンダー色のチーフを挿したフェリクスが見えた。

その薄色のハンカチはフェリクスの細身なグレースーツと非常に合っているし、きっとアメリアの髪色に合わせたコーディネートだ。



いつもなら、気恥ずかしくもすごく嬉しいことが、今は素直に喜べない。

コサージュのことはショックだが、さすがにアメリアも駄々をするわけにはいかないので、道中何度も「仕方ない」と諦めていた。

しかし、そうは言ってもやはり未練はしぶといようで、モヤモヤとらしくない感情を持て余してしまっている。



その一方で、こんな感情を表に出すなどとんでもないと、アメリアらしくいつも通りの笑みの裏に葛藤を隠しているため、フェリクスはその異変には気づかないままでパートナー(アメリア)をバルコニーへ連れ出した。



瞬間、アメリアは息が止まった。

ティリオーネがいたのだ。



ちょうどパートナーである彼女の兄と、バルコニーから部屋に戻るところだったらしい。

こちらに向かっていたティリオーネが、星空をバックに笑顔を浮かべながらこちらに気づいて手を振る。







「まあフェリクス様、ご機嫌麗しゅうございます。アメリア…あなたは今日も今日とて、なんて美しいのかしら…」






自分こそ美しいティリオーネの、色っぽいオレンジリップから溢れ出るうっとりした声に、花壇から聞こえた声がフラッシュバックする。



『第三王子殿下が、ティリオーネ様と王都のジュエリーブティックでデートしていたのですって!』



体の芯が震え、顔がこわばり、声が出ない。

無言でも返事になるように、なんとか礼のカーテシーをとった。

リアクションする余裕のないアメリアの隣で、フェリクスが口を開く。






「こんばんは、バートレット嬢。秋の夜は冷えますから、どうぞ中へ」






すぐにフェリクスが2人に入室を促し、鉢合わせた時間はほんの少しで終わった。

いささか簡単な挨拶に、フェリクスが後ろめたくて早く切り上げたのではないかと不安になってしまう。



そんなアメリアの心情など、知るはずもない。

ティリオーネたちが姿を消してすぐ、フェリクスは暗めの金髪をおさえながら星空を見上げ、そのアイスグレーの瞳をきらめかせた。






「秋の空気は透き通っているから、星が綺麗にみえるな。体は冷えないか?」






絶対に聞きたくないことがアメリアの頭に溢れていて、口を開けばこぼれてしまいそうだった。

気になっていることを全て、今すぐフェリクスに問い詰めたい衝動に駆られる。



いつもなら当たり前に我慢できそうなことが、耐えかねるほど辛い。

こんなに()()()()()自分に慌てたアメリアは、完全に余裕を失っていた。



フルートグラス半分で酔ってしまったのだろうか?

泡を弾くピンク色が入ったグラスを見ながら、アメリアは半ば呆然とする。



美味しそうにワインを嗜むフェリクスにつられ、今日はアメリアもシャンパンを飲んでいるのだ。

18歳のアメリアはケルディアール王国では成人だが、だからといって飲み慣れてはいない。



酒を飲むことを心配したフェリクスに、一杯だけ…お願いします…と願いを込めて言うと、彼は腹を殴られたような声を出し、縁にいちごの刺さったフルートグラスをとってくれた。



ぼんやりした頭をもてあまし、複雑な気持ちでフェリクスを眺める。

なんの反応もないアメリアを不思議に思ったのか、フェリクスがゆっくり振り返る。






「?……すまない。やはり夜風が冷たかっただろうか?」






「——殿下。今年のマリア・レティの日にも素敵なプレゼントをいただき、ありがとうございます」






中に戻ろうと体を動かしたフェリクスに、アメリアが静かに問いかける。



突然切り出したアメリアにフェリクスは驚いたような顔をしているが、今ここで切り出さなければ、ずっと触れられない気がした。

審判を待つようなアメリアのかすかな震えに気が付かないまま、フェリクスはおだやかに破顔して答えた。






「ああ、気に入ってくれたならよかった。私も嬉しい」






フェリクスは喜びの表情をそのままに、夜空を見上げる。

端正な顔から放たれるその満たされた笑顔は、彼が好きなアメリアにとってあまりにも攻撃力が高かった。

色々ありすぎてポーカーフェイスのまま動転したアメリアは、テンパってグラスの残りを一気に呷る。






「こちらの方が星が見えやすい。ほら」






視線をアメリアに戻したフェリクスは、あまりのときめきで起きたフィアンセの暴挙に気がつかないまま、手を差し伸べて彼女をバルコニーの端へと誘った。



エスコートを受けて手すりに着いたアメリアは、そこに両肘を乗せ、少し前のめりに体を預けた。

ほてった頬をなでる夜風が気持ちよくて、アメリアは目を閉じ、空気を吸い込む。



アメリアの母は下戸(げこ)だからアメリアもお酒に弱いのではと心配していたが、今のところ体調はいい。

「ほわほわ気持ちがいいし、私は父上に似たのかしら?」などとぼんやり考え始める。



そこからしばらくの沈黙があったが、ふと隣から視線を感じた。

何となくそちらを見ると、フェリクスが夜風に吹かれながらアメリアを見ていた。






「……殿下?」






「あ……ああ、メッセージカードにも書いたのだが、実はもう一つ送りたいものがあるんだ。今度のデートの時にぜひ受け取ってくれないだろうか?」






まるで射るように熱く見えた彼の視線がすぐに逸れてしまったのが、アメリアはなぜか寂しかった。

珍しく()()()()彼の横顔が、心なしか赤らんでいるように見える。



フェリクスも少し酔っているのだろうか。

そう納得しながら、アメリアは口を開いた。






「いえ、いただいた桔梗(キキョウ)は、ドライフラワーにもするほど気に入っています。ですから、これ以上いただくなど贅沢で……むしろ、プレゼントが足りないのは……私の方です」








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