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夜会の日






そして、いよいよ豊穣祭の日になった。




結局あの後もデートは取り付けられず、アメリアがフェリクスに会うのはコサージュを渡してからは今日が初めてだ。

今夜フェリクスがコーンウェル公爵家までエスコートに来る予定になっている。


今日の豊穣祭の会場はケルディアール王城である。

だが、わざわざ王城に住んでいるフェリクスを往復させるのは気が進まなかったアメリアは、出向いてもらうまでもないよう父にエスコートを頼もうとしていた。

しかし、いくら固辞してもフェリクスがエスコートすると言って聞かなかったのだ。





「ただでさえ敵が多いのに、着飾って狼たちの前にあらわすのはあまりに危険だ」





みたいなことを言っていた気がする。

敵とか狼というのはアメリアには理解できなかったが、誰かに危害を与えられると思っているのだろうか?

王室でのパーティはボディチェックもセキュリティ厳重だし、その不安はないはずだ。

なぜかフェリクスがあまりに心配しすぎていることはわかるので、アメリアはひとまず宥めてみた。





「大丈夫ですよ。王城のパーティで殿下が心配しているようなことは起こらないはずです」





「…奥ゆかしさも魅力だが、どうか気がついてくれ」





安心させるために言ったのだが、なぜかフェリクスは心の底から悔しそうというか、もどかしそうにしていた。

なんだか噛み合っていない気がする。内心で首を傾げながら、さらにアメリアがと言いつのる。





「ないと思いますが…もし万が一、マナーのない方に話しかけられるようなことがあったとしても、私自身できちんと断れます」





「ああ、そうだろうな。だができることなら断る機会すらも、ないようにしたい」





取り付く島もない。

頑なに譲らないのか分かりかねたアメリアは何度も協議は重ねたが、なにを言ってもフェリクスがああ言えばこう言うため、泣く泣くアメリアが引き下がったのが数日前だ。








そんなこんなで今日は朝から緊張しっぱなしのアメリアを、常にマーサが微笑ましく見守り励ましていた。


慌ただしくしながら身支度していたが、すでに着飾り終わってあとはフェリクスを待つばかりだ。

アメリアのドレスは、濃くも透明感があるネイビーで、形はオフショルダーのベルライン。

バストから二の腕周りにかけて、幅のある帯にホールドされている。


全体の布色は同じだが、スカート部分には上から重なるようにオーガンジーが連続しており、穏やかに波打っている。

それが薔薇の花びらのようなデザインで、落ち着いた色味でも華やかに見せてくれていた。

そんなドレスに身を包んだ主を見て、マーサが感激したような黄色い悲鳴を上げる。





「なんとまあ!アメリアお嬢様、本当にお美しいです!」





「ふふ。マーサありがとう。朝から心配をかけてしまったわね」





「とんでもございません!髪飾りもお似合いです」





アメリアの結った薄紫色の髪には、フェリクスのコサージュとおそろいの髪飾りが寄り添っている。

鏡の中の自分を見ると、別人のように磨き上げられていた。

それはもう、不安でへろへろに萎れていた朝の様子が嘘のように。



しかし、アメリアは、メイドたちに別人のように磨いてもらったのだ。

もうここまできたら覚悟を決めるしかないと、アメリアは気持ちを奮い立たせる。

そして、後ろに控えているメイドたちを振り返った。





「みんなありがとう。こんなに綺麗に仕上げてくれたのだもの。装いに恥じない振る舞いをしなくてはね。」





「もったいないお言葉です!お美しいお嬢様のお支度を手伝わせていただき、私たちこそありがとうございます」





「そうです!それに、お嬢様はすでに普段どおりの振る舞いが、全てのレディの憧れなのですから!」





しかもこの美貌なのですから、何も心配はございません!と胸を張る姿に、思わず笑みがこぼれた。

流石に誉めすぎではないかというくらい、メイドたちが口々にアメリアを称えてくれる。

あまりにも激しい愛情に、アメリアもメイドたちを嗜めかける。



しかし彼女たちなりに、きっと一日中緊張していたアメリアを、励まそうとしてくれているのだろう。

そう思ったアメリアはその優しさに感謝しながら、ありがとう、と言うにとどめた。



もし、今夜フェリクスがコサージュをつけていなくても、いい。

いやもちろん、ぜひ付けていて欲しいし、その方が圧倒的に嬉しいけれど。



でも今アメリアの胸の中では、コサージュに対する不安よりも、久しぶりにフェリクスに会えると言うことの喜びの方が、大きくふくらんでいる気がしている。

まあその会えなかった理由は、すべてアメリアの心情のせいなのだが。

実際、やきもちを妬いてしまうほどフェリクスが好きだと気づいた時は、恥ずかしさが勝っていた。



それでも、今アメリアが改めて自分の気持ちを見つめると、よりはっきりとしたフェリクスへの気持ち、純粋な愛しさがこみあげてくる。

だからこそ、会えること自体がうれしいし、それ以上の贅沢を望むなんて真似はしないと、アメリアは決めていた。



この後フェリクスがもし、アメリアのあげたコサージュをしていなくても。

豊穣祭のおまじないが破られたとしても。

笑顔でフェリクスを迎えると決めている。





「でも……どうか」





アメリアは胸の前で手を組み、声には出さず、最後に一度だけ祈った。

しばらく目を閉じてゆっくりと息を吐いたのち、顔を上げたアメリアはもう、白薔薇と呼ばれる公爵令嬢の顔になっていた。



部屋にある金細工の振り子時計を見上げると、もうすぐ約束の時間になるころを指している。

鏡を見ながらアメリアがそわそわし始めた時、エントランスの確認のため部屋を出ていたマーサが、フェリクスの到着を知らせてくれる。



アメリアはらしくもなく、飛び上がるように椅子から立った。

衝撃でドレッサーが若干揺れる。

その様子は部屋の入り口で控えるマーサに見られており、姉代わりの侍女は大層ほほえましげに見届けていたが、アメリは気がつかないふりをしてスカートを直す。



もう何も気にしている余裕がないほど、気持ちがエントランスに向いている。

恋しいフィアンス会うため、急く心をどうにか抑えながら、走り出しそうな足をゆっくりと踏み出した。












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