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マリア・レティの日

マイペースすぎる投稿をおゆるしください…






アメリアがプレゼントを配達屋に預けてから2週間後、王城の執務室の一つに2人の男性がいた。



ケルディアール王国の第三王子であるフェリクスと、その侍従であるカインだ。

彼らは大きなデスクに書類を広げ、進めるべき事務仕事について話している。






「カイン。灌漑(かんがい)状況の報告書と、ペーデル領の蝗害(こうがい)についての対策案レジュメを作成し終えたところなのだが…他に急ぎの執務はないだろうか?」






「はい、他のものは済んでおります。フェリクス殿下」






「では、席を外しても良いだろうか?」






「どこへ行かれるのですか?」






「………」






今日はマリア・レティの日という、自分の好きな人にプレゼントを贈る日だ。

フェリクスは毎年この日はそわそわしてしまう。



なぜなら、アメリアに贈り物をする日であり、アメリアが自分にもプレゼントをくれる日だから。

フェリクスがいつもお菓子や紅茶のセットを受け取っているのを見たユーリからは「意外とさっぱりしてるな」と言われたこともあった。



しかし、アメリアが面倒がってレディメイドのスイーツを選んでいるのではないと、フェリクスは知っていた。

一緒にお茶をすることもあってか、アメリアが選ぶギフトの中身はいつも、フェリクスの好きなものばかりなのだ。




また、デートを重ねてアメリアが知ったのは紅茶の好みだけではない。

それは普段の堅いイメージに反して、フェリクスが甘いもの好きだということ。



アメリアがおすすめを教えてくれるのだが、楽しそうに説明をするアメリアが可愛くてついつい質問をするようになったフェリクスは、今ではそこらの令嬢より王都のパティスリーを網羅している。



そうしてスイーツ談義に花を咲かせているうち、マリアレティの日にもスイーツを選んでくれるようになった。

執務中も食べやすいようにと、一口サイズのプティ・フールにしてくれる気遣いぶりだ。



そして、フェリクスからは、耳飾りとブーケを贈るつもりだった。

キキョウという濃い青紫の花で、うつくしい薄紫の髪を持つアメリアを引き立ててくれるだろう。



それに花言葉は「永遠の愛」で、まさにフェリクスのアメリアに対する気持ちのようだ。

ジュエリーを渡すとアメリアが遠慮してしまうので、今までフェリクスは宝石を贈る事は控えていた。

こんなに重い花言葉を送っていることに彼女が気づいているかは定かでないが、ジュエリーよりはマシのようで、いつからか毎年プレゼントには大きなブーケを選んでいる。



しかし、今年はマダム・ルディという強い味方をつけて、控えめなアクセサリーを用意した。

ユーリ御用達のジュエリーブティックなのだが、百戦錬磨ビジュティエのマダムは相当心強い。



そんな事を思い出しながらフェリクスが考えていると、カインから控えめな制止がかかる。






「殿下。王城内のウエアハウスでしたらお止めしますが?」






「……行かないと、この後の作業効率が下がってしまう」






「すでに、普段の『手加減』している状態でも常人のスピードではありませんから、ご心配には及びません」






手加減とはどういうことか。

ケルディアール王国には王子が3人おり、王族としては珍しく、仲良く育ったその関係は今も続いている。

それで、第一王子の立場を脅かすことがないよう、学園時代から武勇に優れた第二王子殿下は、卒業後できるだけ執務から離れた。



フェリクスも同じく、文武どちらも飛び抜けたポテンシャルを「不穏分子」に担がれないように、ある程度スキルの見え方を調整しているのだ。

それで出た「手加減」という言葉である。






「…もう一度だけ確認したいんだ」






「だめです」






「なぜだ…」






「なぜって!王城のウエアハウスでは国内外から荷物の集配を行いますが、ただでさえ、国営デリバリーが国内の荷をさばくのも煩雑を極めているのですよ?第三王子にウエアハウスをうろうろされては、職員の神経がすり切れます!」






王城のウエアハウスを管理する職員たちや、デリバリーのスタッフの心労を想像し、カインはフェリクスに訴えかける。

なんせ、フェリクスは今日、すでに2回もウエアハウスに行っている。



もちろん、プレゼントが来ていないか確認するために。

その度にフェリクスが待ち侘びているであろう荷物を、職員たちは大慌てで探してくれるのだ。



一度訪れてルートを覚えたので、フェリクスは職員の案内を断るのだが、第三王子が来たとなると流石に気になるらしく、現場にとんでもない緊張感が走る。






「それもそうだな……」






フェリクスは元来、仕事仲間や部下思いであり、もちろん彼らには迷惑をかけたくない。

そして、いつも彼を側で見ているカインは、そのことも重々承知だった。



その無理を押しても行きたいくらい、フェリクスにとっては重大なのだ。

もし犬だったら、耳も尻尾もぺったり垂れるくらいしょんぼりしてしまった主を見て、カインは小さくため息をつく。






「………わかりました。私が代わりに行ってきますから」






「!! 本当か、ありがとう」






カインの友人でアメリアの侍女のマーサによれば、こんなにアメリアに焦がれているフェリクスの気持ちは、ご本人にあまり伝わっていないらしい。



いつも通りのポーカーフェイスで隠されていても、間違いなく大歓喜しているフェリクスを横目に、2人の切ない状況がカインはもどかしかった。







カインがウエアハウスにつくと、彼に気がついた職員に遠くから呼び止められる。



その職員の手には、今まさに届けられようとしていたアメリアからの荷物があった。

()()配達ボックスに入れられているのを見て、カインは苦笑いしてしまう。



それだけ急ぎでフェリクスに届けようとしてくれたのだろう。

職員が走って持ってきてくれる。






「お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。つい先ほど集荷場から届きまして…」






「こちらこそ申し訳ない。ありがとう、確かにお預かりしました」





ほっとした様子の職員たちに見送られ、カインは執務室に急ぐ。

やはり顔には出さないが、喜びオーラを振りまくフェリクスがラッピングを開くと、中にはマカロンが入っていた。



果物や木の実が好きなフェリクスのために、フランボワーズやレモン、アーモンドや栗のマカロンを選んだようだ。

甘く爽やかな香りと、可愛らしい見た目でほっこりした2人は、お茶の時間にすることにした。








しかし、フェリクスが受け取ったアメリアからのギフトは、それだけだった。



アメリアが確かにお菓子と一緒に包み、ポストマンに渡したはずのコサージュは無くなっていたのだ。







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