047話 急転直下
西暦2074年5月某日。
桜が散ってから、もう一ヵ月近く経過していた。
すっかり日の暮れた闇夜を、二つの影が走る。
「どうだ? 紫苑。この仕事にもそろそろ慣れてきただろう」
「……はい。もう随分と流斗様と行動を共にしていますからね。ついでに言うと、寝食まで共にしていますから」
「別に同じベッドでは寝ていないだろう。誤解を招くような言い方をするな」
「ふふっ、すみません」
そう言って、紫苑は薄く笑う。
およそ半年間――去年の十一月から、神崎流斗と天枷紫苑は、神崎遥の指揮下を離れて二人で依頼を達成している。
その成果は、流斗の義父であり、遥の実の父である神崎士道も認めていた。
当初は、半人半魔である紫苑と契約を結んだことを否定的に捉えていた士道だったが、神崎家に新たなメイドとして仕えた紫苑の勤勉な態度に、士道も心打たれたようだ。
元々、士道は暗殺者であった流斗のことを引き取ってくれた、情に厚い人物である。
家族を失い、居場所をなくした紫苑のことを、今では遥と同じく自分の娘のように可愛がっている。流斗と紫苑は神崎家と血の繋がりこそないが、遥と士道とは互いを深く理解し合っている家族だ。
もちろん遥のメイドをしている、母親的存在の立花香織とも良好な関係を築いている。
特に紫苑は後輩メイドとして、先輩である香織から様々なことを学んでいた。
流斗にとっても、紫苑が成長していく様子を見ることができるのは幸せなことだ。
そして現在――
夜の街を駆ける流斗と紫苑は、遥に頼まれたC級魔術犯罪者を捕らえていた。
大きな怪我をすることもなく、無事に任務を果たした流斗と紫苑は、神崎家へと帰っている途中だ。
「なんでしょう……あの煙は?」
紫苑が指をさした方向に目を向けると、そこから灰色の煙が濛々と上がっていた。
あの方角は、まさに今自分たちが帰ろうとしている場所――神崎家があるところだ。
「……姉さん!」
流斗は走る速度を急激に上げた。
目の前に迫る二階建ての家すらも容易に飛び越える。
すると、背後から黒い翼を生やした紫苑に抱き締められた。
「流斗様!」
「……紫苑、こんな街中で悪魔の力を使うな」
「大丈夫です。闇夜に紛れて、地上からは私の翼は見えないはずですから」
「しかし……」
「急ぎましょう。遥さんや士道さん、それに香織さんが心配です」
「……っ、分かった。魔力を使い切っても構わない。最短最速で神崎家へ向かってくれ」
流斗がそう言うと、紫苑がいっそう強く流斗を自分の胸へ引き寄せる。半人半魔である紫苑の黒い翼が大きく羽ばたき、地上に黒い羽根を散らしながら急激に加速した。
久しぶりに日刊59位まで上がりました。
第五章までで感想とかありましたら是非お願いします。




