046話 武藤相馬准尉VS仙波亮太少佐
武藤相馬准尉。
それが、今の日本軍に所属している相馬の階級だ。
父が戦死して、天涯孤独の身となった相馬は、神崎流斗と袂を分けてから、日本軍に所属している、仙波亮太元大尉、現少佐に引き取られて育った。
一年以上に渡る厳しい鍛錬を終え、今は正式に日本軍の軍人として在籍している。
そして現在、相馬は緑色のラインが入った青い軍服に身を包みながら、一人の男と対峙していた。
その相手は、相馬を引き取って育ててくれた恩師、仙波亮太少佐だ。
二人は軍の小さな戦闘フィールドにいた。
一対一での戦闘訓練。
周りには誰もいない。完全な貸切り状態となっている。
そしてその場は、二人の研ぎ澄まされた闘気に満ちていた。
武藤相馬、十五歳。身長176センチ。68キロ。
相馬が持つ武器は、刀身の白い魔装武器――その名を《蛇腹剣》。
白蛇の悪魔を材料に作られた、彼の父――武藤譲治の形見である。
刃の部分に魔力を通したワイヤーで全体が繋がれており、これを等間隔に分裂させることで鞭のように変化するメカニズムを備えた特殊な剣だ。
柄の部分に形状を変えるための機構があり、これに魔力を注いで操作することで、剣状から鞭状、鞭状から剣状へと自在に変化させる。剣と鞭の状態では間合いに大きな差が出るため、戦闘距離を自在に変化させることが可能だ。
蛇腹剣の剣状時の長さは一メートルだが、鞭状時には最大十メートルにもなる。
魔術がこの世に出現するまでは、剣状の強度に問題があり、鞭状になった刃を巻き上げて支障なく剣状に戻す仕組みが困難であることに加え、等間隔に分裂した刃は剣としての切れ味を維持することができず、現実には存在しえない架空の武器であった。
しかし魔術によって、連結部分のワイヤーを操作することで鞭状に変化させることをスムーズにし、武器としての硬度を剣状時に武装硬化させることで実現化した、悪魔を素材にして作られた《魔装武器》である。
仙波亮太、三十歳。身長179センチ。69キロ。
仙波が所持している武器は、柄が緑色の魔装武器――その名を《エラスティックランス》と言う。とある上級悪魔の角で作られた、伸縮自在の魔槍である。
槍の種類としては鍵槍に分類され、横手と呼ばれる取り外しが可能な鉤状の金具が刃元の部分に装着してある。これは相手の武器を受け止めたり、絡め取ったりするためのものであり、この工夫は実際の戦闘において非常に有効であった。
エラスティックランスの通常時の長さは三メートルだが、魔力を鍵槍に通すことで、その長さを一メートルから十メートルまで伸縮させられ、重量もそれに応じて一キログラムから十キログラムへと変化する。
槍は薙刀よりも小さく速い動作で扱うことができ、相手が鎧で体を覆っていても斬撃ではなく刺突で、剣よりも速く確実に敵を仕留めることが可能だ。
槍の欠点と言えば、取り回しの悪さと携帯性の悪さだが、サイズを自在に調整できるエラスティックランスなら、その点も問題はない。
武藤相馬准尉と仙波亮太少佐。
相対する二人は、互いの《魔装武器》を突き合わせて相手の動きを牽制する。
「では、ゆくぞ相馬!」
「……っ、はい!」
仙波が一直線に相馬へと突っ込んでくる。
両者の距離は一気に三メートルを切った。
すでに仙波の鍵槍の射程圏内だ。
仙波が鍵槍の柄を長く持って、相馬の剣が及ばない距離で刺突を放つ。
「はぁあああ!」
まずは突き技で攻め込み、次に払い技でガードをこじ開け、最後に斬り技で相馬の胴体を狙う。
「くっ……!」
仙波の槍術は、槍の性能を生かした多彩な攻めを得意としている。
相馬はそれをなんとか剣状の蛇腹剣で防ぐ。
槍が得意とする中間距離で切り結びながら、相馬は仙波の隙を伺う。
「相馬、反撃しなければこのまま終わってしまうぞ」
そう言って、仙波は畳みかけるように連続で刺突を放ってきた。
槍捌きは勢いを増し、苛烈な攻めが相馬の体を襲う。
相馬は仙波の刺突を上から蛇腹剣で叩き落とし、一度大きく距離を置いた。
「魔装武器解放――薙ぎ払え! 《蛇腹剣》」
相馬が流し込んだ魔力に反応して、白い刀身は剣状から鞭状へと変化する。
「うおおおおお!」
鞭状へと変化した蛇腹剣をしならせ、相馬は蛇腹剣を縦横無尽に操る。
「……ふっ!」
仙波はその攻撃に対して、鍵槍を手の中で回し、相馬の蛇腹剣をそらしたり受け流しては弾いて、次の攻撃に備えて構えを取る。仙波の槍術は防御も完璧だった。
そして、ついに仙波の鍵槍はただの槍ではありえない動きを見せる。
「魔装武器解放――刺し穿て! 《エラスティックランス》」
相馬に向けられた矛先。仙波の魔槍が瞬時に最長の十メートルまで伸び、その切っ先が相馬の胸へと勢いよく迫る。
ここまで見せていた曲芸めいた変幻自在の槍捌きから、強い胆力を込めた一直線の鋭い突き。長槍が相馬の体を刺し穿つ。
(クソッ……速い! だが――)
仙波が鍵槍に魔力を注ぎ込む寸前に、相馬は蛇腹剣を巻き上げて、元の剣状へと戻していた。
(――防げない速さじゃない!)
武装硬化によって硬度の増した蛇腹剣の峰で、相馬が仙波のエラスティックランスによる遠距離からの弾丸のような突きをガードした。
しかし次の瞬間、仙波はエラスティックランスの長さを最短の一メートルまで縮める。
柄の部分を握っていた仙波の体が地面を擦るように、相馬の懐まで急接近した。
さらに、仙波は鍵槍の柄を短く持つ。
――超接近戦。
相馬が目を剥いた。
元々、一メートルしかない短い槍なんてものはこの世には存在しない。
そんなものは槍と呼称されない。
しかし、伸縮自在の魔槍――《エラスティックランス》はそれを可能にする。
至近距離での突き、刺し、斬り、裂き。
本来、柄が長い槍は、ナイフのように接近戦では上手く取り回せないことを考慮しなければならないが、長さを一メートルにまで縮め、柄を短く持った仙波の槍術の巧みさは、プロのナイフ捌きにも匹敵した。槍術から杖術へのスムーズな移行。
相馬はその攻撃を咄嗟に対処することができず、片手で握っていた蛇腹剣を強烈な払い技で吹き飛ばされてしまう。
相馬の後方に飛んで行った蛇腹剣の剣先が突き刺さり、音を立てて倒れた。
「どうやら、決着のようだな」
仙波が鍵槍の切っ先を相馬の首元に突きつけた。
「……参りました」
勝負はほんの数秒で、呆気なくついてしまった。
しかし、それも魔装武器を得物とする者同士の戦いの特徴と言える。
魔装武器は他の武器と異なる能力を発揮するため、その勝敗は一瞬で着くことも多い。
魔装武器の使用以外で魔術を使わない武器戦。これはいざというとき、魔術に頼り切っているせいで油断することを未然に防止してくれる。
「そろそろ昼時だ。相馬、飯でも食いに行こうか」
「はい、仙波さん」
仙波の言葉に相馬が相槌を打つ。
(待っていてくれ……流斗。僕も強くなるから)
相馬には蛇腹剣の他にも、鍛え上げた強力な魔術がある。
(君に追いつき、君の隣に並び、そして君の前に立つから。僕がこの世界を変える……)
戦いを終えた二人は、先程の短い戦闘の内容を反省しながら、小さな戦闘フィールドを後にした。
第五章完結!
次章より急転直下のダークファンタジー始動。




