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終末世界の元暗殺者  作者: くろふゆ
第四章 囚われの半人半魔と契約者 illegal contract
39/53

039話 また会う日まで

 相馬の父親が死んだ。その事実が流斗の心に重くのしかかる。

 それは流斗が相馬のことを真の友人であると認めているからだ。

 だからこそ、相馬の今の精神状態が心配でもあるし、心も痛む。


 ノックをするのも忘れて士道の部屋へ駆けこむと、そこには椅子に座って厳しい顔をした神崎士道と、虚ろな目をした武藤相馬がいた。


「相馬!」


 思わず流斗は彼の名を叫ぶ。相馬がなぜここにいるのか、理解が及ばない。


「あぁ……流斗か……」


 声をかけられて振り返った相馬の顔には、まるで覇気がなかった。


「今回の戦いで、父さんが死んだんだ……」


 消え入るような声で呟く相馬を尻目に、流斗は士道に問いかける。


「どういうことですか、士道さん! 今回の戦いで一体何があったんですか? どこの誰と戦い、一体どれだけの被害が出たんですか?」

「今回の戦いで、我々日本軍は、負傷者多数と死者数名を出した。相手は魔術結社《暁の光》、国家に仇をなす反逆者たちだ」


 ――《暁の光》。流斗も噂には聞いたことがある。

 少数精鋭で、日本という国そのものを改革しようとしている魔術犯罪組織だ。


 彼等はまず、この日本を治めている日本政府、ひいては日本軍の壊滅を試みている。

 それが当面の目的であり、一般人には直接危害を加えていないが、当然戦いの火の粉は周囲の人物にも降りかかる。間接的には無関係な人間を傷つけていることに変わりはない。


「武藤譲治中佐は、途中まで俺と共に行動していた。しかし作戦上、やむを得ず途中で別れたあと、あいつは【暁の光】の幹部である一人の男と交戦し、敗れた。その男の名は、八雷雄吾やらいゆうご。そいつは雷の魔術を扱う契約者であり、A級の犯罪者だ」


 A級、それは犯罪者につけられる危険度を表す数値の一つ。


 ただの軽犯罪者にランクがつくことはないが、ある一定の危険度を超えると、一番下はCから順に、C、B、A、S、SS、最大でSSS級まである。


 まぁ、SSS級の犯罪者など今はこの世界に存在しないのだが。


 しかし犯罪ランクがA級にもなると、その危険度の高さから、指揮権限のない兵長以下(兵長、上等兵、一等兵、二等兵)の軍人は、その者と戦うことすら許されていない。


 それほどまでに凶悪で、強大な力を持つ魔術犯罪者。


「譲治はそいつと一対一で戦い、相手に深手を負わせることには成功したが、最終的にはやつの電撃を浴びて心臓麻痺で死んだ。だが、譲治のおかげで八雷が率いる《暁の光》のメンバーは後退し、今回の戦いは幕引きとなった」

「じゃあ、相馬の父親が、その八雷雄吾に痛手を与えていなければ、今日の戦いはもっと激化していたかもしれないってことですか?」

「そうだ。だから、今回は譲治の活躍のおかげで《暁の光》を退けられた」


 そう言った士道の顔は険しかった。譲治の死を深く後悔しているのだろう。


「流斗……僕は日本軍に入隊するよ」


 今まで部屋の隅でうつむいていた相馬がおもむろに口を開く。


「ちょっと待てよ。お前、学校はどうするんだ? そもそも日本軍には十五歳からしか入隊できないはずだろ。それにまだ、父親の葬儀も済ませていないじゃないか。決めるのなら、もう少し考えた後でもいいはずだ」


「学校は退学しない。生徒としての学籍だけは残して、不登校扱いで中卒の資格だけはもらうよ。それに、前から僕は早く軍人になりたかったしね。本当は軍に入って父さんの手伝いをしたかった。父さんと一緒に働きたかった。父さんと一緒に世界をより良い方向に導きたかった。でも、父さんはもうこの世にいない。だから、僕が父さんの代わりに、《暁の光》を殲滅しなくてはならない。正義を貫き通さなければならない!」


 相馬はそう自分自身に言い聞かせるように語った。


「そんなこと……できるんですか?」


 流斗は横目で士道に尋ねる。


「武藤譲治大佐の部下である、仙波亮太せんばりょうた大尉が、相馬君を引き取って育てると言っている。実は相馬君の母は、病気で五年前に亡くなっていてな。譲治の遺書には、相馬の面倒をできることなら仙波に見てほしいと書いてあった。幸いにも、仙波は元から譲治に何かあった場合、相馬君のことを引き取るつもりだったみたいだ。二人の間にはすでに友好関係もあるし、問題ないだろう」


 士道の言葉が途切れると、意を決したように相馬が口を開いた。


「だからね、流斗。今日はお別れを言いに来たんだ」


 相馬の顔には依然として覇気がなかったが、その目には何か底知れぬ強い決意を感じさせた。父一人、子一人で育った相馬にとって、譲治の存在は大きかっただろう。


「僕は日本軍に所属して、《暁の光》を……いや、それだけじゃなく、すべての魔術犯罪者を捕まえて処刑台に送る。それが父さんの子供として産まれた僕の義務だ」


 相馬が右の拳を流斗のほうに突き出す。

 せっかくできた親友を、こんな形で失うことになるとは思わなかった。


 流斗はゆっくりと、震える右拳を相馬の右の拳に近づけていく。

 少し前まで、半人半魔との《契約印》を浮かび上がらせていた、半契約者の拳を。


 流斗はすでに、遥を守るために、違法である契約者への道へと半分浸かりかけている。


 半人半魔との契約は違法ではないが、その先の《悪魔契約》に手を出さないとは限らない。遥を守るためならば、流斗は再びこの身を『悪』に染めることになっても構わないと思っている。だから、今度相馬と会うときは、もしかすると――


「僕たちは同じ志を持つ者同士だ。将来、必ずどこかでまた会う機会がある。そのときまで、お互いの腕を磨いておこう。親友の名に恥じぬように」

「……ああ、俺たちは今後必ずどこかで出会う。俺は姉さんを守るための力を身に付け、世界をより良い方向に変革していく。だから相馬、また会う日まで死ぬなよ」


 流斗と相馬の右拳が軽く触れ合い――そしてゆっくりと離れた。

 二人の繋がりを断ち切るように、それでいて心は繋がっていると信じて。


 そのまま相馬は無言で士道の部屋から出て行く。

 相馬に背を向けた流斗は、決して彼のほうを振り向かなかった。


 今度会うときは、今度顔を合わせるときは、お互いにもっと強くなってからだ。


「士道さん、実は今日、俺は半人半魔の女の子と《契約》を交わしました。そのことについて話があるのですが……」


 相馬の消えた部屋に、流斗と士道のやりとりが、やけに寂しく響いた。


 ★ ★ ★ ★ ★ 


 流斗の前に、見たことのない絶世の美少女がいた。


 切れ長の瞳に艶のある桃色の唇。澄んだ瞳はエメラルドグリーンに輝いている。そして、その左目の下にある泣きぼくろが、なんとも言えない妖艶さを醸し出していた。

 肩にかかるくらいの艶のある黒髪は横髪が少し長く、軽くシャギーが入っている。


 頭には純白のカチューシャを乗せており、黒のミニスカートに真っ白いエプロンを着込んでいる。まさにメイドさんといった風体。


「あの……これ、私のだけ……スカートが短くないですか?」


 少女が隣にいる香織のロングスカートと見比べながら、遥を咎めるような目で見つめる。


「いいのよ、可愛いわぁ~! やっぱメイドさんはミニスカートでしょう! まぁ、香織さんはさすがに年齢的に無理だろうけど」


 最後にぼそっと言ったセリフを香織に耳聡く聞き取られ、遥は香織に頭をがっちりとホールドされていた。


「えっと……お前、もしかして紫苑か?」


 脂ぎった黒髪を丁寧に洗ったあとに断髪し、身なりを整えて綺麗な姿に生まれ変わった少女に問いかける。


「はい、もしかしなくても私は紫苑ですけど。その……えっと、似合わないでしょうか」


 紫苑が恥ずかしそうにスカートの裾を握ってそわそわとする。

 その仕草と可愛らしい姿に、流斗の心は完全に魅了された。


(……凄い。めちゃくちゃ可愛い。あくまで俺は姉さん一筋だけど、紫苑って本当はこんなに綺麗だったんだな。姉さんと椿姫のロングヘアーを見慣れていたせいか、ショートヘアーも結構新鮮で良いかもしれない……)


 なんてことを考えていると、間近に紫苑が接近していた。

 流斗の思考を探るように、エメラルドグリーンの瞳で見つめてくる。


「いや、とってもよく似合っている。凄く可愛いよ、紫苑」

「……ありがとう……ございます」


 紫苑はそれだけ言うと、下を向いて顔を赤くしていた。

 たぶん、親以外の誰かに褒められたことがないんだろうな、と流斗は思った。


「姉さん、紫苑を春から御園高校に通わせるよ」

「なぁに? もう父さんと話をつけたの?」

「うん、学費は俺が軍の手伝いで稼いだ金で出す」

「そう、なら別にいいんじゃないかしら。ずっと家にいてもすることないだろうし」


 遥が適当な調子で言い、隣に並ぶ香織も頷く。


「ちょ、ちょっと待ってください。私は流斗様のメイドとしてこの屋敷で働くのではなかったのですか?」

「いいんだよ、俺も士道さんに『神崎家にいるなら学校に行って色々学んでこい』って言われているし。それに、紫苑の記憶を見た限りでは、お前は山奥での生活が長く、家事はある程度できても、機械類の扱いや礼儀作法がよく分かっていないだろう。御園高校に行って、選択科目で『家政科』を取ればいい」


「いいんですか? 本当に? 私なんかが学校に行っても」

「なんかじゃない。お前は俺のパートナーだ。それに御園高校には姉さんがいるし、来年には俺も、御園中学から御園高校に進級する予定だからな」


 神崎(日向)流斗は今年十五歳。天枷紫苑は今年十六歳。神崎遥は今年十七歳。

 三人は一つずつ歳が離れている。


「それならば、私はより流斗様に奉仕できるように、学校で家事スキルを磨き、神崎家に帰宅次第、存分にその腕を発揮したいと思います」

「家事について分からないことがあれば、先輩メイドの香織さんに聞けばいいしね」


 遥が香織の肩に手を置きながら言う。香織はその手を軽くあしらっていた。


「私もできる限りのことを、紫苑さんに叩き込むつもりです。先輩ですからね」


 香織のメイド魂が熱く燃え上がっていた。むんっと胸を張っている。


「それと、私も流斗様の仕事のお手伝いをさせてもらいます。仕える者として、主にお金を払わせるなんて、言語道断ですから」


 確かに契約した手前、紫苑だけを戦いから遠ざけることはできない。

 人間と半人半魔の共鳴度の高さは、二人の距離によって決まる。

 だから、戦闘中はなるべく流斗と紫苑は近くにいるほうがいいということだ。


「軍の手伝いの手伝いの手伝いか……」


 遥が困惑した顔で噛みそうになりながら呟いた。


「まぁ、ないよりマシか」


 そして、いつものように軽いノリで決めてしまう。

 それにももう慣れてきたところだ。


「では、これからは私たち三人の力を合わせて頑張るとしましょうか!」


 遥の言葉に、流斗と紫苑が続く。


「ああ、任せてくれ。姉さんは俺が守る」

「はい、私は流斗様がこれからどのような道を歩むのか、最期までお側で見届けさせてもらいます」


 ――《日本軍》VS《暁の光》。

 その大きな戦いの背後で行われていた、違法な奴隷売買はこうして決着がついた。

 新たに天枷紫苑という半人半魔の仲間を加えて。


 そして、今日のこの日が――

 神崎(日向)流斗、武藤相馬、神崎遥、天枷紫苑。

 この四人の運命を、この先に待つ未来を、大きく変えるきっかけとなった。


 やがて彼等は激しくぶつかり合うこととなる。己が信念のために命を懸けて。




 そうして、いくつもの夜と星が流れて月日は過ぎていく。

 ――――――それから、一年と数か月が経った。

第四章完結!そして第一部、中学生編も完結!

今までご愛読頂き、ありがとうございました(*´ω`*)

反響があれば、第五章の更新も考えます。

もし書くなら、第五章では流斗が御園高校の一年生になる予定です。

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