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終末世界の元暗殺者  作者: くろふゆ
第四章 囚われの半人半魔と契約者 illegal contract
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036話 仮契約

「あの男は契約者ですね」

「……契約者?」

「はい。正式名は違法契約魔術師。悪魔と取引をして力を得た、強力な魔術犯罪者です」


 ――《契約者》。その存在は義姉である遥に聞いていた。


 なんらかの手段や魔術的媒体を用いて《魔界の門》の内側にいる悪魔と契約し、現世で絶大な力を得た魔術師のこと。

 もちろん、契約にはそれ相応の対価があり、契約者が欲する魔力によって、払う代償は異なる。魔術師だけでなく、《魔力神経》を持たない一般人でも悪魔との契約は可能だ。


 しかし、元々《魔力神経》を持っていない一般人は、一から《魔力神経》を生成することになるので、普通の魔術師よりも魔術の使えない一般人が払う代償は大きい。

 それになにより、悪魔との契約は法によって禁じられている。


「なるほどな、その力の秘密は悪魔との契約というわけか。間木、お前は一体何を悪魔に捧げたんだ?」

「ふっ、私の契約悪魔は大した奴じゃないよ、現に『嗅覚の喪失』だけで済んでいる」


 紫苑に弾き飛ばされた間木が、鼻を鳴らしながらゆっくりとこちらに歩み寄る。


「君は神崎の味方かな? その割には、奴隷のような格好をしているが」

「私は――」

「気をつけろ、紫苑。あいつの魔術は振動を増幅させる力だ。あの刀身に触れれば、お前の小太刀も粉々に砕かれるぞ」

「どうやらそのようですね」


 そう言って、紫苑はひびの入った二本の小太刀を見つめた。

 その直後、二本の小太刀はガラスが割れるように砕けた。

 しかし、紫苑が刀身の折れた二本の小太刀の柄に魔力を注ぎ込むと、驚くべきことに再び刀身が生えてきた。


 さらに紫苑は二つの小太刀を重ね合わせる。

 すると、長さ六十センチ程だった二本の小太刀が、三倍の長さの百八十センチ程の一本のクレイモアに変貌した。


 クレイモア――スコットランド・ゲール語で『巨大な剣』を意味する、代表的な両手剣。

 鍔の先端に四葉を模した輪飾りが付いているのが特徴である。


(物質に魔力を送り込み、形状や硬度を変えることが可能なのか……)


 と考えていると、両目を深紅に染めた紫苑がこちらを振り返って笑みを浮かべた。


「相手は契約者。ここは半人半魔である私にお任せください」


 そう言うや否や、目が赤くなった紫苑は、悪魔の如き速度で間木に突っ込んでいく。

 縦に振り下ろされる間木の日本刀を圧倒的な速さで通過することで避け、懐に潜り込んだ紫苑は二度三度、その白刃を間木とぶつけ合う。


 ――日本刀とクレイモア。

 刀身の長さはクレイモアが二倍、その重量はクレイモアが四倍はある。

 そんなことをまるで感じさせない人外の怪力で、紫苑は間木の斬撃を高速で薙ぎ払う。


 互いの顔の前で切り結び、紫苑の足を斬り落とそうとした間木の下薙ぎを軽く飛んで躱し、宙を舞いながら再び二度三度切り結ぶ。


 半人半魔の肉体は、間木の《加速剣技》にも劣らない絶大な力と速度を誇っていた。

 紫苑は猛スピードで間木の側面に回り、その首を狙ってクレイモアを振るう。しかし、


「《加速剣技・振動斬り》」


 右、左、正面。間木の日本刀に三度ぶつかったクレイモアの刀身にひびが入った。

 だが、すぐに紫苑の両腕からクレイモアの柄を通して刀身が再構築され、その形状を保ちつつさらに強固なものとする。


「はああああああああああああああ!」


 そのまま紫苑は頑強なクレイモアで、間木の日本刀をその手から弾き飛ばした。


 追い打ちをかけようと攻める紫苑に対して、素手になった間木はバク転の要領で縦に一回転しながら、足の爪先で紫苑の顎を蹴り上げようとする。


 それに気付いた紫苑が一歩下がった瞬間、間木は地につけた両腕を捻って回転しながら、強烈な足刀蹴りを交互に放つ。


 紫苑はそれもバックステップで華麗に躱すが、両足を地につけた間木の左中段回し蹴りをもらってしまう。メキメキと人体を破壊する嫌な音が鳴った。


「壊れろ――『振動脚』!」


 間木は続けざまに右中段回し蹴りを放つ。

 口から血を吐きながらも、今度は紫苑もクレイモアを横にして峰で防ぐ。


「ゴホッ……ごほっ、ごぶ……」


 しかし振動を増幅した強烈な蹴りは、紫苑を遙か上空へとゴム毬のように弾き上げる。

 空中でよろめきながらも、紫苑は半人半魔特有の黒い翼を背中から生やし、上空で息を整えようとした。その直後――


 跳躍力を増強した間木が、一瞬で紫苑のいる空中へと姿を現す。

 そして、いつの間にか再び手にしていた日本刀で、遙か上空から紫苑を叩き斬る。


 そのとき、強烈な轟音が地べたを叩きつけて枯草が宙に舞い上がった。

 暗い森の中に濛々と巻き上がる粉塵。

 その土煙を物ともせず、着地した間木は姿の見えぬ紫苑へと刃を振るう。


 紫苑はその白刃をクレイモアでなんとか受けきるが、強烈な衝撃と共に流斗のほうへと吹っ飛んできた。


「無事か! 紫苑!」

「仕方ありません、ここは一度引きます!」


 漆黒の翼を羽ばたかせ、紫苑は流斗の体を両腕で抱きかかえるように持ち上げて運ぶ。

 紫苑の柔らかい胸の感触がコート越しに伝わってくる。

 思わず顔を赤らめた流斗の視界の端に、一回転した間木が日本刀から剣閃と共に実体化した刃状のエネルギー波を放ってきたのが見えた。


「……飛距離のある斬撃!? ――避けろ、紫苑!」


 紙一重のところで、天枷紫苑が低空飛行に移して避ける。

 しかし、そのせいで体勢を崩した紫苑は、両腕に流斗を抱えたまま生い茂る暗い森を抜け、奴隷たちが収容されていた小屋の前に滑り込むように叩き付けられた。


「ひっ……!?」


 鍵を解除された奴隷たちが、自分たちのほうに突っ込んできた流斗と紫苑に目を見張る。

 怯える奴隷たちに、これ以上余計な心配はかけられない。


「クッ……ソが。力……力さえあれば……俺にもっとまともな《魔力神経》があれば……」


 流斗は痛む体を抑えながら起き上がる。

 その横では、同じく紫苑が肩で刻むように息をしながら立ち上がっていた。


「しまった。もう魔力が枯渇している。やっぱり契約がないと……」

「……契約? 契約をすれば、あいつに勝てるのか?」

「はい、半人半魔はパートナーとなる人間と契約することで、その力を何倍にも高めることができるんです」

「……契約。この俺が悪魔と、半人半魔と契約か……」


 厳密には、半人半魔との契約は違法ではない。しかし悪魔に地上を穢された人間は、どうしても悪魔を連想する人間と悪魔のハーフ、半人半魔とは関係を持ちたがらない。


 一瞬の躊躇いのあと、流斗は決意を固める。


 仕方ない。依頼を遂行するためだ。この際できることはすべてやってやる。


「紫苑! 間木が来る前に契約内容について話せ」


「……はい。半人半魔と人間の間に結ばれる契約には二通りあります。一つは仮契約。これは両者の《魔力神経》を半分共有する状態です。互いを縛る誓約は一切なく、両者の間に上下関係はありません。しかし、半人半魔である私は文字通り半分悪魔であるがゆえに、人間との契約によって《魔力神経》がより太く強化され、通常時の数倍の力を振るうことが可能となります。そしてその力は契約を結んだ人間も扱うことが可能です。もう一つの契約は……おっと、どうやらもう説明している時間もないようですね」


 太い木々の隙間から、間木がくすんだ灰色の髪を掻き上げながら現れる。


「もう一度聞くが、仮契約の場合は二人にとってメリットしかないわけだな?」

「はい、その通りです。契約は一瞬で終わります。あとはお互いの信頼関係の問題かと」


「出会ったばかりの奴と信頼関係を結べと言われてもな……」

「私では……やっぱり、半人半魔である私ではダメですか?」


 紫苑が不安げな様子で尋ねてくる。さっきまで勇敢に戦っていた姿とは大違いだ。

 半人半魔ではあるが、彼女も流斗とさほど歳の変わらないただの少女だということか。


「いいだろう、信じてやるよ。その代わり、期待には応えてくれ。目的は間木の撃破だ」

「かしこまりました。あなたを一時的に私の主として認めます。――『盟約に従い我を其の下に』!」


 体全身に駆け巡る強大な魔力。胸の内から湧き上がってくる、温かく力強いもの。

 確かに今、半人半魔である天枷紫苑とリンクした。

 果たして『魔』の力は、人である神崎流斗に感染する。


「迎え撃つぞ、間木を! 天枷紫苑、お前の力……ここで見せてみろ!」

「はい! 我が主。この力、存分に振るわせていただきます」

『力』を求めて『魔』を受け入れた流斗。その結末は……

作者取材のため休載致します。

次回の更新は一週間後となります。


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