028話 この先の未来へ
後書きが少し長いです。
――翌朝。流斗はいつも通り、義姉の遥と一緒に学校へ登校した。
昨日は流斗が気絶してからも、色々と大変だったようだ。
クラスメイトを全員無事に予備アリーナから脱出させた相馬と弾が、気を失った流斗と椿姫を運んでくれたらしい。弾は流斗が気絶したまま椿姫を抱きしめて立っているのを見て、その勇姿を散々クラスに吹聴していたそうだ。本当に、あいつは余計なことをする。
椿姫は気絶してから二時間後に目覚め、保健室で無事に治療を受けた。
その後、クラスメイト全員に迷惑をかけたことを謝ったらしい。
あの高慢ちきな宝条院椿姫にしては殊勝な心がけだと思う。
流斗は目を覚ます様子がなかったので、家族である遥に引き取ってもらったそうだ。
ここまでの情報は、すべて相馬が流斗に向けて書いてくれた手紙によるものである。
夕方に神崎家で目覚めた流斗は遥に抱きつかれ、たくさん説教をされた。
でも、最後は『流斗が無事で良かった』と言われ、心配をかけたことを謝った。
士道と香織も心配してくれていたようで、頭が下がるばかりだ。
そして、今、流斗は自分の教室の前にいる。
「……はぁ、今度は何を言われるのやら……」
この後のことを考えると、流斗がため息を吐くのももっともなことだろう。
どうせクラスメイトに質問攻めにあうに決まっている。
「面倒だ。……でも、仕方ないか」
流斗は後ろ頭を掻きながら、思いきって扉を開けて中に入る。
教室に足を踏み入れると、流斗の席に椿姫が座っていた。
いつもは後ろ髪を白いリボンで結んで纏めていたが、昨日そのリボンが焼けてなくなってしまったせいか、今日は髪を結んでおらずストレートである。以外にも似合っていて可愛らしい。ただ、見慣れていたせいか、やはりこの女は後ろ髪を結っているほうが似合っていると思う。さりげなく観察してみたが、体に大した怪我はなさそうだ。
「オイ、そこは俺の席なんだが」
「あら『流斗』さん。調子はいかがですか?」
椿姫がストレートな長髪を払い、優雅に振り返って言う。
(流斗……さん? いつの間にか、名前で呼ばれている?)
そう思いながらも、何食わぬ顔で返答する。
「悪くはない。あと、昨日のことなら別に気にしなくていいからな」
「そういうわけにはいきませんわ! けじめはきちんとつけなくては、宝条院の名が泣きます。……あ、あなたのお姉さんのことを悪く言ってごめんなさいっ!」
立ち上がった椿姫が、誠心誠意を込めて、流斗に頭を下げてきた。
「……もういいよ。それに、俺も色々と悪かったし。ちょっとふざけ過ぎた。ごめん」
つられて流斗も椿姫に頭を下げる。
「ところで、流斗さん♪」
椿姫が不意に流斗の腕に抱きついてきた。なんだかすごく機嫌が良さそうだ。
(……あれ? 胸を揉んだことはもう怒らないの?)
と、流斗がどうでもいいことを考えていると、
「あなた、わたくしの恋人になるつもりはありませんか?」
「――なっ!? え? ええ!?」
椿姫から衝撃的な告白を受ける。
(こいつは、急に何を言っているんだ!?)
クラスメイトたちが、椿姫の流斗への告白に騒々しく声を上げる。本当にこういうことが好きな連中だ。しかしそんな好奇な目に晒されても椿姫は何ら臆することない。
変なところで肝が据わっている女である。
「…………ね、ねぇよ」
それだけ言って、流斗は慌てて教室を回れ右した。
照れて赤くなった顔を、誰にも見られたくなかったからだ。
「ちょ、ちょっと、どこに行くつもりですの!?」
「今日は疲れたから、もう帰る」
流斗がそう言うと、
「それはまずいんじゃない?」
「オイオイ、さっそくサボりですかァ? 相棒もなかなかのワルだな」
廊下の反対側から相馬と弾が歩いてきた。
「茜先生が職員室で呼んでいたよ。あと宝条院さんも。昨日のことで事情聴取だってさ」
「オレたちも昨日いろいろ聞かれたんだ。まァ、頑張ってこいや」
相馬と弾が、それぞれ流斗の左右の肩に手を置く。
「チッ、それぐらいわかっているよ」
そう言って、流斗は職員室に向けて歩き出す。椿姫も流斗の後ろからついてきた。
「なぁ、宝条院」
「椿姫で結構ですわ」
「……つ、椿姫」
「な、なんですの?」
自分から名前で呼べと言っておきながら、椿姫は顔に手を当てて頬を染めながら体をふりふりと揺らしている。
「さっきのことなんだけど……」
異性に告白なんてされたのは、流斗の人生で初めてのことだ。正直どうしたらいいのかわからなかった。
「ああ、それでしたら、ただの冗談ですわ。あなたの度胸を試してみただけですから」
「……え? ――って、冗談かよ!? お前なぁ、冗談でそういうこと――」
「でも、あなたのことが好きなのは、嘘ではありませんわよ♪」
椿姫がずいっと近づいてきて悪戯っぽく微笑む。
その笑顔には、さすがに流斗も一瞬ドキッとさせられた。
あれ? こいつ、こんなに可愛かったっけ? 流斗がそんなことを考えていると――
なんの前触れもなく、椿姫が流斗の頬に口づけをした。
「なっ……! あ、ぁぁぁうぅ」
流斗の思考回路がショートする。ほんの一瞬、世界が停止したような錯覚に陥った。
「これは親愛のキス。昨日助けてもらった、お礼ですわ」
「……そ、そ、そうか……ありがとう」
戸惑いながらも必死に考える。
(こ、これは、いいタイミングなんじゃないか? 今、あれを渡すか……?)
流斗は教室に置けずにここまで持ってきていた自分のカバンから、包装された包みを出して椿姫に渡す。
「あのっ、これ、色々と迷惑かけたお詫びに」
「わ、わたくしにですの?」
突然プレゼントをもらったことに驚きながら、椿姫はそれを嬉しそうに受けとった。
「開けてみてもよろしくて?」
「ああ」
椿姫が包装紙を剥がして包みを開けると、中から黒いリボンが出てきた。
「あ、リボン……」
これは流斗が昨日の夜に街で買ってきたものだ。個人的な嗜好により、色は黒になった。
そして、そのあと怪我をしているのに外出したことで、また遥に叱られた。
姉が過保護である。『これ以上勝手な行動をするなら檻に閉じ込めるから』と言われた。
「その……昨日の戦いで、椿姫のリボンが燃えちゃったからさ」
流斗は気恥ずかしさを感じて、頭の後ろを掻く。慣れないものだ。
椿姫は後ろ髪を纏めて、流斗にもらった黒いリボンを結んだ。
「ど、どうかしら?」
椿姫が軽く一回転して、その可憐な姿を流斗に見せつける。
「うん。白いリボンも清楚なお嬢様って感じで良かったけど、黒いリボンも凛とした美しさがあって、とても似合っているよ」
流斗は思ったことを素直に口にした。
普段から遥に言っているので、こういうセリフはすんなりと言える。
「め、面と向かってそのようなことを……」
椿姫は顔を赤くしてうつむいた。自分からキスをしておいて、リボンを褒められただけで恥ずかしがる椿姫の羞恥心の基準がよくわからなかった。
でも、どうやら気に入ってもらえたようだ。
「椿姫。その、《魔術闘技会》のことなんだけど……」
「そのことでしたら、わたくしは出場を辞退しますわ。あなたに負けた以上、クラスの代表になる権利なんてありませんもの。他の方にご迷惑もいっぱいおかけしましたし」
「えっと、それなんだけど、俺も実は代表を辞退しなくてはならない理由があって……」
流斗は申し訳なさそうに言う。
「あなた……《魔術闘技会》へ出たくて、わたくしと戦っていたんじゃありませんの?」
「えーと、なんかその場のノリに流されまして……」
さらに申し訳なさそうに言った。
「でも……」
「正直、この際ぶっちゃけると、俺はただ、自分の姉さんを悪く言われたのが気に食わなかっただけだ」
「ホントにシスコンだったのですわね。……これは落とすのに時間がかかるかも」
後半は耳に届かないような小さな声で、ボソッと椿姫が呟いた。
「ですが、わたくしも昨日のことで少し、魔術の自信を失ってしまって……」
椿姫の目が不安げに揺れた。
昨日の魔術の暴走は、彼女の心に大きな爪跡を残したのだろう。
「なら、《魔術闘技会》の開催までは、俺が椿姫をサポートする。言っただろ、困っているときはそいつの側にいて支えてやるって。俺がお前の力になるよ」
「そ、それでしたら、わたくしがクラス代表を務めてもよろしくてよ。どうせ出るのなら目標は優勝! そのために、流斗さんには《魔術闘技会》開催日まで、常に一緒にいて頂きます。もちろん、責任を持ってしっかりと付き合ってもらいますからねっ!」
そう言うと、頬を染めた椿姫は、ご機嫌な様子で先に職員室に行ってしまった。
「お、おい! 待てよ。ったく、仕方ないな。じゃあ――」
流斗は気怠げに椿姫の後を追う。
(今から職員室に行って、こってりと絞られてきますか)
その先で、想像以上の説教を茜に食らうはめになるとも知らず。
これにて、『終末世界の流斗』、完結!! ………………の予定でした。
ですが、思っていたよりも多くの方にこの作品を読んで頂けました。
そしてこのエピローグまで書いて思ったわけです。
最強の義姉。この女、まだ最強にして最狂たる所以を見せていないな、と。
というわけで、読者の方が望むのであれば、物語の続きを書ければなと思います。
舞台はエピローグから三カ月後、寒空の冬を予定しております。
なんと流斗に女従者が……
ここまでご愛読頂いた方に最大限の感謝を(*´ω`*)




