表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の元暗殺者  作者: くろふゆ
第三章 魔術闘技会への挑戦状 severe battle
25/53

025話 神崎流斗VS宝条院椿姫Ⅱ

 流斗は起き上がって椿姫の姿を探すが、砂嵐のせいで視界が悪くてよく見えない。


(こんな大規模な砂嵐を発生させやがって。今頃はクラスメイトたちにも砂塵が飛び、弾あたりがキレているだろうな……)


 流斗はもう一度目を凝らして椿姫を探す。すると、竜巻の向こうに椿姫の姿が霞んで見えた。なにやら魔術を発動しているのが分かる。


 空中に漂っていた砂は徐々に湿り気を帯び、固形になっていく。さらに、今まで渦を巻くように吹いていた風が、突然方向を変えて流斗のほうに吹いてきた。勢いのある風に、流斗はまたも吹き飛ばされそうになるが、腰を屈めて低くなることでなんとか耐え忍ぶ。


 そこに風に乗って湿り気を帯びた砂が流斗を襲った。

 流斗はコートを広げて顔を覆うことで、それを凌いだ。

 コートに付着したものを手で確かめると、水が混じって軟らかくなった土が付いている。


(これは……泥? そうか、魔術で水でも発生させて砂を泥に変えたのか。……チッ、姉さんにもらったばっかりのコートを汚しやがって。覚えてろよキサマ)


 流斗の怒りが戦闘とは関係のないことで沸々と煮える。

 だが、それよりも、流斗には気になったことがあった。


 砂埃程度なら視界が悪くなるぐらいだが、泥が飛んでくるとなると身動きは取りにくくなる。それでも身体的なダメージはあまりない。


(なぜこんなことをする? 右肩の痛みが引くまでの時間稼ぎか? それなら竜巻を発生させ続ければいいだけだ。もしかして、それができない?)


 魔術の発動には、ある程度精神が安定していなければならない。それも風を操って竜巻を発生させるなんて高度な技術には、余程集中力を使うことだろう。


(おそらく、宝条院は『痛み』に慣れていない。今まで努力を積み重ね、体力や精神力は鍛えられているだろうが、『痛み』はそう簡単に慣れるものじゃないからな)


 流斗のような人生を送ってこなければ、日常で『痛み』を感じる機会はあまりない。


(だとすると、あいつは体力的にも精神的にも、そろそろ限界ってことか)


 やがて突風は止み、泥が飛んでくることもなくなった。

 コートに着いた泥を払う。素材が良いのか泥はあまり染み込んでいない。


 流斗が椿姫のほうを見ると、彼女はいまだ右肩を抑えてうずくまっていた。

 距離は目算で二十五メートルといったところか。


「宝条院。そろそろ降参したらどうだ」


 遠方から流斗は椿姫に降伏を促す。


「だ、誰が降参なんてするものですか!」


 椿姫が左手のひらから風の弾を放ってくる。

 それは流斗の隣を通り過ぎた。流斗がわざわざ避けるまでもなく。


「もう、ろくに狙いも定まらないんだろう?」


 流斗は椿姫のほうへと歩きながら言う。

 椿姫が続けて風の弾を放つが、流斗のすぐ側を通り抜けるだけでまったく当たらない。


 風の弾の威力自体は落ちていなかった。

 つまり魔力不足というわけではない。やはり精神が安定していないのだ。


「こんなところで、負けるわけにはいきませんの。わたくしが『一番』になるまでは!」

「なぜ、そうまでして『一番』にこだわる?」


 流斗は歩みを止めずに尋ねた。


「あなた、日本で一番高い山はご存知ですわね?」


 椿姫が唐突に問題を出してきた。


「は? なんだいきなり。そりゃ富士山だろ」


 悪魔の襲撃によって損害を被っているが、依然として日本で一番高い山は富士山だ。


「その通りですわ。では、二番目に高い山は? 三番目に高い山は?」

「はぁ? えっと……いちいちそんなこと覚えているかよ」


 流斗にとって、山の高さなどどうでもいいことだ。

 その回答に、椿姫が「はぁ」とため息を吐いた。


「そういうことですわよ。誰かの記憶に残るには、『一番』でなければ意味がないのです。二番にも三番にも、価値などないのですわ」


 椿姫は冷めた目で言う。その言葉に流斗は、


「……なんだ。お前、誰かに認められたかったのか?」

「なっ……!?  ……え?」

「だから、誰かに認めて欲しかったんじゃないのか? 自分の存在を、自分の価値を」

「わ、わたくしは……」


 椿姫が攻撃の手を止めてうつむく。


「それとも、認めて欲しかったのは、お前の父親のことか?」


 流斗の言葉が鉛のように重く、椿姫の心にのしかかった。


「くっ……あ、あなたに、わたくしの何が分かるというんですの!」


 単発では当たらないとみた椿姫は、圧縮した風の刃を大量に発生させて放つ。


「《エアスラスト》!」


 流斗は風の刃をいくつかまともにくらうが、椿姫のほうへ歩む足を止めない。


「なんにも分からねぇよ。だから仲良くなりたいんだろ。互いに歩み寄るんだろ」

「勝手なことを! わたくしは、わたくしは一人で強くなる! 誰の力も借りない!」


 近づく流斗に対して、椿姫が地面を隆起崩壊させて攻撃する。

 流斗は、それを空中に高く飛び上がって回避し、椿姫の側に着地した。

 すかさず椿姫が左手に風を纏った手刀を放ってくる。それを、


「《小手返し》」


 椿姫の左手を捉え、逆に手首の関節をねじって地面に投げ出した。

 これは姉である、遥に教わった技だ。


「きゃあぁ!」


 短い悲鳴を漏らし、椿姫は地面に身を伏せた。


「宝条院。お前はどこか俺と似ている。俺もお前みたいに考えていた時期があった。一人でなんとかしないとって。でも本当はずっと一人で苦しかった。だけど、俺は姉さんに救われた。だから、お前は俺が――」


 流斗の言葉の途中で、椿姫は風を操って空中へと飛翔し逃亡を謀る。


「無駄だ」


 流斗がコートの裾から取り出したワイヤーが、椿姫の右足に絡みついていた。

 椿姫はバランスを失って地面へと落ちる。落下の衝撃は風圧でなんとか緩和した。


「話は後でもできる……か。ひとまず、この戦いはこれで終わりだ」


 流斗はワイヤーを掴んだまま、二十メートルほど離れた椿姫に告げる。


「このワイヤーは特別性だ。お前の攻撃では断ち切ることはできない。宝条院椿姫――いい加減、負けを認めろ」


 椿姫が風の刃で断ち切ろうとするが、まったく切れる様子はない。


「……負けられない……戻りたくない……昔とは、違う……私は……」


 椿姫の顔が絶望に染まり、焦点の定まらない瞳で不気味に何か呟き、歪に発狂する。


「わたくしが、わたくしがこんなところでぇッ! まだ負けられない! こうなったら、母さんから禁じられている、『奥の手』で!」


 椿姫が足に絡みつくワイヤーを掴むと、ワイヤーに熱が伝わり燃え上がった。

 火がワイヤーを伝って流斗にも襲いかかる。


「――火!? 燃焼魔術か!」


 流斗は体に火が燃え移る前に、ワイヤーをワイヤーアンカーから切り離した。


 椿姫が脱臼しているはずの右肩を無理やり動かし、右手のひらを流斗に向けて圧縮した火の弾丸を打ち出す。流斗はそれをなんとか避けるが、椿姫は止まらない。


 辺りに熱風をまき散らし、左右の手のひらからでたらめに火の弾を放つ。

 そのいくつかは観客席に飛び込み、席を破壊し出入り口の扉も壊れて塞がれてしまった。


「……な、なにこれ? と、止められない。制御できないっ!?」


 流斗と椿姫から離れた地点で激しい火柱が上がる。風と火の融合が、凶暴な破壊力を周囲にまき散らす。爆炎により、焦熱地獄が顕現する。

 予備アリーナは、椿姫の負の感情による炎で地獄絵図と化していた。


「おい、宝条院! なんとかしろッ!」

「それが、私にも制御が――」


 流斗のすぐ側で強烈な火柱が上がり、流斗の体を焼き焦がし、吹き飛ばした。


「ぐあああああぁあああ! ぁ……ああっ!」


『神崎、宝……院、試合…………を中止……ろ! どうな……てい――』


 予備アリーナの外から茜の声が流れるが、ザザッ、ザザッというノイズが合間に入ってよく聞こえない。どうやら予備アリーナのスピーカーも壊れたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ