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終末世界の元暗殺者  作者: くろふゆ
第三章 魔術闘技会への挑戦状 severe battle
24/53

024話 神崎流斗VS宝条院椿姫Ⅰ

日刊13位ありがとうございます(*´ω`*)感想も頂きました。

 流斗は所定の位置へとたどり着いた。


(ここ最近は、姉さんと士道さんに魔術を使わない体術で体を鍛えられ、この学園に入ってから戦った弾と武藤は共に肉弾戦。久しぶりに魔術師らしい魔術師と戦うわけだが……)


 椿姫のほうを見ると、向こうも所定の位置へと着いたようだ。

 ここから椿姫までは五十メートルある。


(この戦いでは、俺がこれから姉さんの補佐をちゃんと務められるかが問われる。なにせ、魔術犯罪者を殺さずに捕らえなきゃならないんだからな)


 予備アリーナに茜のアナウンスが流れる。


『えー、神崎、宝条院。準備はいいか?』


 戦闘フィールドの反対側では、椿姫が右手を上げていた。

 おそらく準備オーケーの合図だろう。流斗もそれに倣って右手を上げる。


「人を殺すだけが、俺の技術じゃないってことを見せてやる」


『では、カウントファイブで試合を開始する。五、四、三――』


 試合開始に向けて、心身共に熱く高ぶってくる。


『二、一、――――――試合開始!』


 その合図と同時に、流斗は一気に椿姫目がけて駆け出した。


(開始直前が勝負だ。一気に距離を詰めてケリをつける!)


 流斗の接近を、椿姫が空力操作の魔術で手のひらから風の弾を飛ばして拒む。

 それを流斗は最小の動きで躱しながら詰め寄った。


(――――あと四十)


 椿姫が片手では止められないと判断したのか、両の手のひらから風の弾を飛ばしてくる。

 流斗は足を止めることなく、紙一重で風の弾を避け続けた。


(――あと三十)


 距離が近づくにつれ、椿姫が放つ風の弾は避けにくくなる。


 接近する流斗に対して、椿姫は両の手のひらを重ねた。そこから圧縮された風が細く束ねられ、鋭い一撃が高速で流斗に向けて放たれる。


「《エアツイスト》っ!」


 圧縮された細長い竜巻が、矢のように流斗に迫った。


(これは……廊下で戦ったときに見た技!? だが、あのときより明らかに速い!)


「――ッ! 《神経加速アクセル》」


 運動能力、反射神経、動体視力、思考力、判断力等が通常時の二十倍にまで一気に跳ね上がる。今の流斗の目には、細長い竜巻のような攻撃すら緩やかに見えた。流斗はそれを難なく躱すと、二十倍に跳ね上がった運動能力で、一気に椿姫との距離を埋める。


「なっ……!」


 急激に加速した流斗の動きに、椿姫は目を見張った。


「《正貫せいかん突き》!」


 引き絞った貫通力のある正拳を、椿姫に鋭く打ち込む。


 だが、その直前で椿姫は低くしゃがみ、地面に手をついた。すると地面がせり上がり、土の壁が流斗の正拳を阻んだ。その土の壁は流斗の拳を受けてあっさりと崩れる。


 しかし、崩れた壁の後ろにもう一枚。さらに分厚い土の壁が出現しており、それが流斗目がけて倒れ込んできた。


「クソッ」と毒づき、流斗は後ろへ下がろうとするが、後方にも土壁が立ち塞がっていた。周りを確認すると、左右からも分厚い土壁が流斗を押し潰そうと迫りくる。


「――っ! 囲まれたッ!?」


 前後左右に逃げ場はなく、大質量の土壁が容赦なく流斗の体を押し潰した。


 ★ ★ ★ ★ ★ 


(やった、これで勝った! ――とでも思っているんだろうな)


「――《硬化螺旋貫手こうからせんぬきて》ッ!」


 流斗は全方位から迫る土壁を、魔力で《硬化》させた右拳が放つ貫手でぶち抜いた。


(……土壁は突破した。だが、その間に……あいつに距離を取られたか?)


 そう思い、遠方に椿姫の姿を求めるが見当たらない。そのとき、流斗の首筋に嫌な悪寒が走る。咄嗟に振り向くと、そこには三メートルほどの長槍を構えた椿姫が、濛々と立ち上った土煙を薙ぎ払い、弾丸のような速度で突進してきていた。


「――槍!? どこからそんなものを? それも、俺に対して近接戦闘だと!?」

「もらいましたわ!」


 旋風を纏って放たれる、稲妻のような一閃。普通の人間なら、この距離で避けるのは不可能だ。どてっぱらに風穴を開けられて、大量の血液と共に臓器が零れ落ちるだろう。


 だが、《神経加速》を発動している、今の自分になら――


 流斗は無傷で槍を避けることを諦め、ダメージを最小限に抑えようと試みる。

 その結果、椿姫の長槍は流斗の右脇腹を軽く抉るだけに留まった。

 防刃コートを着ているので、致命傷には至らない。


「チッ、あの槍も、あらかじめ地面の下に隠していたってわけか……」


 続けて椿姫が長槍で三連突きを放ってくるが、それも流斗は紙一重で回避。


 先程は不意を突かれたが、椿姫が接近戦を仕掛けてくることを想定していなかったわけではない。流斗は常に行動の前には必ずシミュレーションを行い、あらゆるパターンに対応できるように備えている。

 椿姫が接近戦に打って出ることも、可能性はかなり低いと踏んでいたが……想定済みだ。


 流斗は椿姫の槍撃を躱しながら、ズボンのサイドに付いているナイフケースから二十五センチほどの短刀を引き抜く。


 椿姫の長槍は攻撃の手を緩めない。流斗はそれを短刀で弾いて防いだ。

 ガキンガキンと激しい剣戟音が鳴り響き、戦いは加速していく。


 最初の一撃こそ虚を衝かれたが、どうやら椿姫は肉体強化の魔術は得意ではないようで、その動きは流斗には楽に捉えることができた。


 暫し、流斗と椿姫の身を削るような武器戦が行われる。

 だが、流斗の短刀術が椿姫の短槍とのリーチの差を埋め、徐々に椿姫を追い込んでいく。


「くっ……せ、攻めきれない――!?」


 劣勢と見たのか、椿姫は攻撃の合間に片手のひらを流斗に向けて風撃を放ってきた。


 流斗は、その風を地面に足を踏ん張ることで耐え抜く。しかし、椿姫は自身が起こした風の反動を、地面から足を離すことによって利用し、流斗から距離を取った。だが、


(まだ、あいつとの距離は十メートル。逃がさないッ!)


 流斗は膝を屈め、収縮した筋肉を一気に爆発させて、椿姫の前へと躍り出る。

 それに対して、椿姫は両の手のひらを流斗に向け、円を描くように回した。


「《円環風撃えんかんふうげき》!」


 手のひらから、円く繋がった風の輪が何重にも折り重なって放たれ、それが螺旋を描いて流斗に迫る。椿姫は今までの経験から、風の弾は躱され、竜巻の矢は打ち砕かれることがわかっていた。だから、攻撃範囲の広いこの風撃を選択したのだろう。


(だが、お前は知らない。この世には、相打ち覚悟で使われる技があるということを!)


「――《螺旋跳飛撃らせんちょうひげき》ッ!!」


 流斗は飛び上がり、回転させた左手で椿姫の攻撃に抑制を加え、それを支えとして右手の拳を急回転させ、椿姫の繰り出した風の輪に捨て身で突っ込む。


 椿姫が驚きに目を見開き、咄嗟に体をそらすがもう遅い。


 流斗の刃物のような突き手が、椿姫の右肩を襲った。人体を破壊する鈍い音が鳴る。


「ああぁぁあうっああああぁぁ!」


 椿姫は声にならない悲鳴を上げ、苦悶の表情を浮かべる。

 流斗の攻撃が当たる直前で体をそらしたことにより、椿姫は横向きに吹き飛ばされ、流斗はそのまま地面へと転がった。


 流斗が前回り受け身を取って椿姫のほうを見ると、椿姫は右肩を抑えており、なんとか立ち上がるので精一杯のようだ。おそらく右肩は脱臼しているだろう。


 あまり痛みを長引かせるのもかわいそうだ、早めにケリをつけてやる。そう思い、流斗は再び椿姫に接近しようと膝を屈める。だが、それに反応して、椿姫がダメージのない左腕で長槍を持ち上げた。風が長槍を包み込むように渦巻いていく。


 流斗の全身に悪寒が走る。己の本能が『あれ』は危険だと告げていた。


 渦巻く風を纏った長槍を、椿姫は流斗に向けて投擲した。

 光芒一閃――天下無双の槍撃が、空間そのものを歪める。


「――《スパイラルスピアー》ッ!!」


 力なく振るわれた左腕の動きに伴わず、小さな竜巻を纏った槍は風を切り裂きながら、超高速で流斗へと飛来する。


 流斗は椿姫が短槍を投擲する寸前に、なりふり構わず横に回転して飛び込んでいた。

 長槍は流斗が元いた場所を通り抜け、戦闘フィールドの外に飛んで行き衝突。

 凄まじい破壊音が鳴り、地べたに寝ころんだ流斗が振り向くと、椿姫の長槍はフィールドを抜けて観客席の下の壁を粉砕していた。


「なんだ、あの威力は!?」


 思わず槍が破壊した跡を呆然と眺めてしまう。


 その間に中央へと風が渦巻いていき、それに伴って発生した竜巻が流斗の体を吹き飛ばした。流斗は戦闘フィールドの端のほうまで飛ばされてしまう。


 竜巻は地面の砂を舞い上げる。まるで砂嵐が吹いているようだ。

今日はあと一話更新致します。

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