023話 戦闘開始
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――翌朝。流斗は目を覚ますと、手早く着替え、香織が作った朝食を食べて家を出ようとする。遥には昨日、今日は先に登校する旨を伝えてあった。
支度を終えて玄関で靴を履いていると、まだパジャマ姿の遥が片手で目をこすりながら階段を降りてきた。もう片方の手には何か大きな袋を持っている。
「ふぁぁぁぁ~~あ、おはよう流斗」
遥が欠伸混じりに言う。その仕草一つも可愛らしい。
「うん。おはよう姉さん」
「今から学校行くところ?」
「そうだよ」
「なら、間に合ってよかった。はい、これ」
そう言って、遥が片手で抱えていた大きな袋を流斗に渡してきた。
「……何これ?」
「ふふっ、それはねぇ――――」
◇ ◇ ◇
早朝に学校の闘技場で用事を済ませた流斗は、席について授業を受けていた。
今日の《魔術闘技会》の出場権を巡る流斗と椿姫の戦いは、共通授業の四限目が終わり、昼休みを挟んだ後に予備アリーナで、クラスメイトとクラス担任である茜を観客に据えて行われる。そのせいか、直接試合に関係のないクラスメイトたちも、今日の授業中はどこかそわそわしていた。流斗はすでに朝のうちにアップを終えており、いつでも戦う準備はできていた。
そもそも、流斗は元暗殺者なだけあって、ろくな準備もなしにいきなり全力を出せる体になっている。だから、早朝のアップは流斗がそれだけ気合を入れている証拠だった。
学校に行く前に遥にもらった、大きな袋の中身についても確認済みだ。
椿姫のほうを見ると、少しは緊張しているのか、今日の午前中はしきりに縦ロールに指を通してくるくると回していた。普段から髪を回す癖はあるようだが、それにしても今日はいつもより多く回している。
共通授業が終わった後、流斗は昼食を弾と相馬と食べながら、椿姫との戦いに向けて最後の対策を練って備えた。
そして、戦いのときは訪れる。
――現在、流斗は予備アリーナの男子更衣室にいた。
おそらく、椿姫も反対側にある女子更衣室で待機していることだろう。
弾と相馬は更衣室の前で待っていると言って、流斗を一人にしてくれた。
流斗は『他の生徒と一緒に客席にいろ』と言ったが、内心は二人が一緒にいてくれることは心強く、今までにない気持ちを胸に抱いていた。
今朝、遥からもらった大きな袋を開いて準備を始める。
「――必ず勝つ! 姉さんの期待に応えてみせる!」
★ ★ ★ ★ ★
椿姫は予備アリーナの女子更衣室で試合の準備をしていた。
しかし、彼女にはこれといって準備をする必要などない。
なぜなら、椿姫は流斗のようにわざわざ戦闘服に着替えたりはしないからだ。
椿姫は普段と同じ純白に黒いラインをあしらった制服を着ている。
胸元を飾るリボンタイは青色、上着の細部には金色の刺繍が施されていた。少し長めのスカートの下には黒いストッキングを履いている。
この更衣室には彼女以外誰もいない。もちろん、更衣室の前で誰かが待っていてくれているということもない。別に、椿姫はクラスメイトに嫌われているわけではないが、かといって好かれているということもない。普段からあまり人付き合いのいいほうではないし、理事長の娘ということもあり、周りの生徒も声をかけにくいようだ。それに、椿姫は常に自分を磨くことに時間を割いている。クラスメイトとの青春物語にかける時間はないのだ。
椿姫には、たまたま誰かを助けることはあっても、誰かに助けられるということはない。
「――誰かに頼るということは、わたくしが弱いという証。誰かに頼られることは、その分わたくしの重荷になる。わたくしは、一人で強くなりたい……」
椿姫はすべての物事で『一番』になり、自分の存在を『誰か』に認めて欲しかった。しかし、その『誰か』が誰なのか、彼女にはもう思い出せない――
それでも、幼い頃のように何もできず、ただ泣いていることに我慢できなかった。
だから、力を求めて己を磨いた。
――勉強、運動、政治、経済、魔術、武術、あらゆることを極めていった。でも、その道に明確なゴールはない。だけど、そうだとしても――
「わたくしは負けるわけにはいかない……わたくしが負けるはずがない!」
椿姫の意思が言葉になって出る。
「なぜなら、この宝条院椿姫は常に『一番』でなければならないのですから」
椿姫の声が、彼女以外誰もいない広い更衣室に小さく響く。
椿姫は自身の金髪を翻し、扉を開いた。ここから先の戦いは一人だ。だけど、それはいつものこと。最後に頼りになるのは、磨き上げた己の力のみ。
★ ★ ★ ★ ★
流斗が更衣室で準備を終えて扉を開けると、外で弾と相馬が待っていた。
「おおー、気合入ってんなー」
「凄いね、それ。どうしたんだい?」
二人が流斗の姿をまじまじと見つめる。
流斗の格好は、動きやすそうな黒い戦闘用ブーツに、多種多様な武器を収容できるように、ナイフの差込口やベルト等が複雑に絡み合った黒いズボン。ズボンにはワイヤーアンカーを仕込んだ特殊なベルト。上は流斗の体に張りつくようにフィットした黒いタンクトップ。そのタンクトップにも特殊な肩掛けがしてあり、多くの武器を仕込めるようになっていた。その特殊な構造上、部分的に手で縫ってある跡がある。
その上に内側が紺色の黒い防刃コートを羽織っており、コートの中にもいろんなものを収容できるようになっていた。さらに、左右の手にはこれまた黒いグローブを嵌めている。
だが、弾と相馬にはその服の内部構造は見えず、流斗のその黒髪と黒目も相まって、全身真っ黒に見えるだけだ。
「これは今日、姉さんにもらってね。実は来週から相馬と同じように、俺も姉さんがやっている軍の手伝いの補佐をすることになったんだ。そのときに着る服がこれ。少し早いお披露目になるけど、今日の試合はこれで決めてきなさいって」
「いい姉ちゃんじゃねぇか」
「遥さんは……黒が好きなのか?」
弾と相馬がそれぞれ感想を口にする。
実は、流斗は暗殺者時代、依頼の際はこれとほぼ同じような格好をしていた。
だから、この服のチョイスは非常にありがたかった。
あまり、正義の味方には見えない服装だが。
「さぁ、決戦の時間だ。二人は客席で見ていてくれ」
流斗は黒いグローブを嵌めた手を開閉して感触を確かめ、気合を入れる。
◇ ◇ ◇
予備アリーナ中央で、流斗は椿姫と向かい合っていた。戦闘フィールドにはこの二人しかいない。審判は危険が伴うので場外にいることになっている。今回の審判は桐生茜だ。
クラスメイトたちは、流斗と椿姫の戦いを横から見ることができる位置に、うまい具合に二つの塊へと分かれていた。観客席では今か今かと二人の試合が始まるのを待ちわびている生徒たちが、なにやら声援を飛ばしているのが分かる。
「逃げずにここまで来たことは褒めて差し上げますわ」
椿姫が軽く鼻を鳴らす。腰に手を当てたポーズが様になっていて腹立たしい。
「そりゃどうも。つーか、お前は制服のまま戦うのか?」
「わたくしほどのレベルになれば、余計な装備はかえって邪魔ですから。あなたのように、そんな全身真っ黒に醜く染めずとも、華麗に勝ってみせますわ」
相馬に聞いた話によると、《魔術闘技会》に出るような生徒は魔術の実力が優れているため、流斗の様に細工や仕込みをする生徒は少ないらしい。
(それにしても……いちいち喧嘩を売ってきやがって。まだ怒ってんのかよ)
遥にもらった装備を馬鹿にされて腹が立ったが、流斗はなんとか憤りを抑え込んだ。
「あなたに、わたくしに謝罪する機会をあげましょう」
椿姫が右の人差し指で拳銃の形を作り、こちらを射抜くように向けてくる。
「このまま戦えば、わたくしが圧倒的な実力差で勝つことは、わざわざ説明しなくてわかることでしょう。ですから、転校早々クラスメイトに惨めな姿を晒したくなければ、今ここでわたくしに謝罪し、《魔術闘技会》への出場を辞退しなさい」
普段は綺麗な顔をしているのに、どうしてこう、こいつは他人に対して高圧的な態度なのだろう。
「悪いが、その必要はないな。なぜならこの勝負、俺がお前に勝つからだ。お前こそ、俺に負けたら姉さんを侮辱したこと、クラスのみんなの前で謝ってもらうぜ」
「ふん。残念ながら交渉は決裂ですわね。なら――」
椿姫が背を向けて、戦闘開始時の所定の位置へと向かう。
「――ここでお別れですわね」
流斗も反転して所定の位置へと移動を開始する。
「この戦いで……俺もお前も、何か変われるといいな」
その言葉に椿姫が一瞬振り返ったが、流斗はそれに気がつかなかった。
本日より、異世界転生ハイファンタジーを新連載しています。タイトルは……
魔の森の屍術王~異世界転生して王族に生まれたけど固有魔術が《屍術》だったから国外追放された~
になります。……長いね。是非こちらも一読願います(*´ω`*)




