020話 作戦会議(姉不在)
日刊19位ありがとうございます(*´ω`*)
「…………………………………………やってしまった」
昨日と同じ服装に着替えた流斗の声が、弱々しく闘技場に漏れる。
「決まってしまったことはしょうがないじゃないか。全力を尽くすまでだよ」
同じく着替え終えた相馬がそう言えば、
「理事長の娘だかなんだか知らねぇが、向こうからケンカ売ってきたんだ。一発ドカンとやっちまえばいいんだよ!」
こちらも着替え終えて、準備体操をしている弾が続ける。
「そうは言ってもなぁ、俺にもいろいろあるんだよ」
具体的には、遥に対する言い訳をまた考えなくてはならない。
(まったく、姉さんになんて言えばいいんだ……)
心のうちに不安を抱えながら、流斗は相馬に疑問を投げかける。
「というか、武藤。お前、去年と同じく出場しないとか言っていたが、なんで《魔術闘技会》に出ないんだよ? お前なら代表もいけるだろ」
「僕は家の事情ってやつだよ。昨日みたいに、この闘技場で戦うのは許されているけど、クラス代表戦みたいな目立つ場所では、魔術を使った全力戦闘は禁止されているんだ」
「ふん、なるほどな。いつか軍に所属するというのなら、自身の魔術や実力はあまり多くの人に晒さないほうがいいって考えか。お前の親父さんは過保護だな」
「ん? どういうことだ?」
話の内容を理解できていない弾が口を挟んでくる。
「軍に所属したとき、敵対することになる犯罪者たちや敵国に、なるべく自分の魔術や特技などを知られていないほうが戦いを有利に運べる。つまり、その分こいつの生存率は上がるってことだ」
流斗は相馬のことを指さして言う。
「まあ、そうだね……」
それに相馬が苦笑いで答えた。
「そして、それは俺と宝条院の戦いにも言えることだ」
「戦いは明日だね。ちょっと準備期間が短いんじゃないかな」
「武藤の言う通りだ。あいつは俺より先に、『明日』という期日を出してきた。いくら《魔術闘技会》の本番が二週間後だからといって急ぎ過ぎじゃないか?」
流斗の問いかけに、弾が反応を示す。
「確かに、代表生徒の選出期限は《魔術闘技会》の一週間前だしな。つまり、宝条院は相棒に自分の情報を集められる前に、戦いに持ち込もうって寸法か?」
「弾のくせに頭の回転が速いな」
「おお、そうだろう。――って、それはオレをバカにしてんのか!?」
弾が何か喚いているが、流斗はいつも通り気にしない。
「まぁ、だいたい弾の言う通りだ。準備期間があればあるほど、俺は宝条院のデータを得ることができる。だが、逆に宝条院はいくら時間があろうが、転校してきたばかりの俺の情報を集めることはできない」
流斗は続ける。
「そして、一週間かそこらで急激に戦闘力を上げることも不可能だ。なぜなら、戦いとは敵対する両者が顔を合わせたときに、どれだけの実力があるかで決まるものだからな。だから、宝条院は自分のデータを俺に集められる前に戦うことを選択したんだ。怒っていた割に頭が回るほどの余裕はあった。つまり、普段はもっと聡明なんだろう」
「そうだね。彼女は選択授業で魔術を取るだけでなく、勉学にもいそしんでいるからね。それで、君はどうするつもりだい?」
準備運動を終えた相馬がこちらを見る。
「お前たち二人が知っている限りの、宝条院の情報を知りたい」
流斗が弾と相馬を見て言うと、弾が顔をニヤけさせた。
「まったく、相棒はオレの力がそんなに借りたいのか? よし! ならオレが知っていることを全部教えてやるよ。えーっと、宝条院の選択科目は魔術で、頭も良くて、運動もできる。それと、あの性格だからクラスにはあんま馴染めてねぇな。まぁ、それはオレが言えることじゃねぇけど。あとは……えー、金髪で縦ロール。それとお嬢様? そういや、あいつはロシア人のクォーターだから、あの金髪は地毛だ。あと――」
「もういい。お前が役に立たないことはよくわかった。武藤は何かあるか?」
気を落とす弾を尻目に、今度は相馬に尋ねる。
「僕が知っているのは、宝条院さんが使う魔術の系統くらいかな。彼女はとても素晴らしい魔力神経を持っている。それは、この学園の理事長の娘だから遺伝だろう。ちなみに理事長は学園全体に《幻術》をかけることができるほどの実力らしいよ。軍からも常にオファーがきているそうだ。頑なに断っているそうだけどね」
「理事長のことはいい。俺が今訊きたいのは宝条院椿姫の情報だ」
「それは君も知っているんじゃないかな? この前、彼女と廊下で戦ったみたいだし」
目を細めた相馬が、流斗を見据える。
「……なんだ、知っていたのか」
「確信を得たのは今朝だけどね」
そういえば、代表を決めるときにそんな話をしたな、と流斗は思う。
「俺が戦ったのはほんの一瞬だ。そのときは風を操っていた」
「そうか。でもそれは、彼女の力のほんの一部だと思うよ。彼女は太い《魔力神経》を使って空気中の魔力を大量に取り込み、自然に干渉する魔術を得意としている。おそらく、彼女にとって空気を操ることが一番簡単で応用が利くってことじゃないかな」
そこで、凹み状態から立ち直った弾が会話に入ってくる。
「そういや、相棒は知らねえと思うけど、明日戦うことになる予備アリーナの戦闘ステージは地面が砂だぜ。自然に干渉するってことは、文字通り地の利を生かしてくるんじゃねぇか?」
「……弾。お前は頭が良いのか悪いのかどっちなんだ?」
どうやら弾は、別にただのバカというわけではないらしい。たまにいいことを言う。
「それは僕もあると思うね。予備アリーナのフィールドは四方八十メートルと広い。まぁ、本物のアリーナは百メートルだけどね。そして彼女は遠距離戦闘を得意としている。だから接近戦を得意とする君は、彼女に一度距離を開けられてしまうと勝ち目が薄くなるよ」
(スチェッキンや手榴弾、投げナイフ等が使えれば、遠距離でも遅れは取らないんだが、もちろん使うわけにはいかないよな……)
と暗殺者としての思考が抜けない自分に少し嫌気が差す。
「試合開始時の位置取りはどうなる?」
「それは、両者共にフィールドの端から十五メートルの位置から始まる。つまり最初の位置取りで、二人は五十メートルの距離にあるということだ。君が勝機を見出すとすれば、試合開始と同時に一気にその五十メートルという距離を埋め、宝条院さんにろくに魔術を使わせず、速攻で倒すのが望ましいんじゃないかな?」
「勝負は一瞬……ってわけか」
だが、それは宝条院も想定済みのはずだ。さらにその裏をかかなくてはならない。
「宝条院さんの性格からして、素直に負けを認めるということはないと僕は思う。となると、接近して絞め技で落とすのがベストだろう」
「そうだな。宝条院はああ言ったが、まさか本当に殺すわけにはいかないからな」
流斗の言葉に、弾が再び割って入る。
「だが、魔術師同士の本気の戦いでは、命を落とす危険がある。だから戦闘前に『命の保証はできませんが構いませんか?』みたいな紙にサインさせられるぜ」
「軍事学校でもないのに随分と物騒だな」
自分のことを棚に上げて流斗が言う。
「だから、拳銃や爆発物などの化学兵器は禁止されているが、刃物などの単純な武器は使用を認められているんだぜ」
「魔術闘技会に出るような生徒は魔術に特化しているから、ほとんど武器を使用している人を僕は見たことがないけどね」
相馬が弾の説明を補足した。
「そいつはまた、戦略が広がるな」
(この戦いは互いの戦闘力はもちろんだが、相手との読み合いに勝つことも重要となる。いかに相手の隙をついて攻めるか。長期戦は俺の不利だ。となると……)
長考に入ろうとした流斗に、相馬が真剣な目で語りかけてきた。
「僕は君を信じている。……その期待を裏切らないでくれよ」
相馬の念押しに対し、流斗は無言で目を合わせる。俺を信じろ、と。
結局、三人で明日の宝条院との戦いに頭を悩ませているうちに時間が過ぎていった。
★ ★ ★ ★ ★
誰もいなくなった放課後の教室に、少女が一人佇んでいた。
綺麗な金髪が、開いた窓から吹く風に揺れる。その姿は煌めく夕日に映えていた。
午後からの選択授業で魔術を専攻している宝条院椿姫は、神崎流斗たちとは別の場所ですでに調整を終えている。
明日は魔術闘技会への出場権をかけて流斗と戦う。もちろんその対策は考えてある。
(神崎流斗の選択科目は《武術》。おそらく彼は、魔術をサポートとして使う武術家なのでしょう。前の廊下での戦いで、なんとなくではありますが、その考えが確かであることを、わたくしは確信している。なら、多彩な魔術戦には慣れていないはず……)
そして、明日戦うことになる予備アリーナの地は、砂である。
(であれば、その地を生かさない手はない。相手が自然に干渉する高度な魔術を使えないのなら、武術家には対処しきれないほどの、圧倒的な物量で押し潰してしまえばいい)
流斗と違って生まれつき《魔力神経》が優れている椿姫にはそれができる。この学園で『一番』を目指す椿姫は、こんなところで足止めを食うわけにはいかなかった。
「お父様……」
自分の前に立ちはだかるというのなら、それがどんな相手だろうと叩き潰すまでだ。
「お父様は誰よりも優しかった。けど、弱かったから死んだんだ……。わたくしは絶対に強くなる! ――誰よりも強く!」
椿姫は明日の戦いに向け、改めて強い決意を固める。その瞳には熱い闘志が宿っていた。
感想とかくれてもええんやで( *´艸`)




