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終末世界の元暗殺者  作者: くろふゆ
第三章 魔術闘技会への挑戦状 severe battle
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019話 姉を侮辱する者は許さない

 休み明けの月曜日。


 土日にいつも通り遥と鍛錬を積み、少しだけ士道に訓練をつけてもらい、香織の手伝いをしながら、流斗はどうやって椿姫と仲直りをするか考えていた。


 やはり、出合い頭に開口一番、誠心誠意謝ることが最善である、という結論が出た。


 そして朝――


「じゃあ流斗、今日もまた校門でね」

「わかった」


 流斗は遥と別れ、自分のクラスへと向かう。今日は廊下で誰かとぶつかることもなく、無事に教室へとたどり着いた。流斗は扉を横に引いて教室に足を踏み入れる。

 その瞬間、クラスメイトが騒ぎ立てて流斗を取り囲んだ。


「ねぇねぇ、先週灰原に勝ったんだって?」

「俺は武藤にも勝ったって聞いたぞ」

「えー! あの武藤君に!?」

「神崎君、一つ質問してもいいかな?」


 クラスメイトから質問攻めにあう。


(またか……これは、土日の間に噂が広まったみたいだな)


「おう、相棒。二日ぶりだな」


 弾が近づいてくるだけで、流斗を囲んでいたクラスメイトの半数ほどが離れた。


(灰原弾、お前……どんだけ他の生徒に嫌われてんだよ……)


「……ああ、おはよう弾」


 流斗が弾に挨拶を返すと、


「神崎君、灰原といつの間に仲良くなったの?」


 とクラスメイトが疑問の声を上げた。

 しかもそこに二人目の声が流斗にかかる。


「おはよう神崎。僕は君を信じることにしたよ。でも監視は外せない。これからは僕とも仲良くしてもらうよ」


 相馬が微笑みを浮かべて歩み寄ってくる。

 だが、その目が完全には笑っていないことを流斗は見逃さなかった。


(……半信半疑ってところか。まぁ敵視されていないだけで十分だ)


 そう思い、


「ああ、よろしく」


 流斗は手を差し出して相馬と固く握手を交わした。


 (……というか、なぜ俺のところには男ばかりやってくるのだ……。女子とも交流させてくれ。あ、椿姫みたいなイロモノはなしな)


「え? なんか武藤君とも仲良くなってるし、一体何があったの?」


 クラスメイトたちの疑問は尽きなかったが、話の途中で教室に茜が入ってきたことで、みんなは大人しく自分の席に座った。誰も、茜のアイアンクローは食らいたくないのだろう。


「よし、全員席に着いたなー。じゃあ、今日は二週間後に行われる魔術闘技会に出る生徒の選出をします」


 黒板に大きく《魔術闘技会》と茜が書く。意外なことに字は綺麗だ。


「《魔術闘技会》?」


 流斗は疑問を口にするが、周りの生徒にそれを気にした様子はない。


「そうか。神崎は転校してきたばかりだからわからないな。じゃあ、私が改めて説明してやろう。ありがたく聞くことだな」


 流斗の呟きを、お得意の地獄耳で拾った茜が続ける。


「《魔術闘技会》というのは、クラスから代表を一人選出して、この中学内で学年ごとに代表者が戦い、各学年の優勝者でこの学校の最強を決める戦いをするというものだ。その戦いには厳密なルールがあるが、まず重要なこととして、戦闘時の魔術の使用が認められている。まぁ、国が優秀な魔術師を求めている以上当然の帰結だろう。だから、毎年ほとんどの場合、代表に選ばれる生徒は選択授業で《魔術》を専攻している者だ。いくらウチのクラスの灰原みたいに腕っ節が強くても、真の魔術師の前にはまったく歯が立たないからな」

「先生! そのたとえはひどいと思いますッ!」


 弾が喚く中、流斗は一人静かに考える。


(魔術科の生徒……しかもクラスから一人ということなら、俺には関係ないな)


「とまぁ、一通り説明を終えたので、そろそろクラス代表を決めたいわけだが」


 茜が腕時計を見ながら呟く。


「私は神崎君を推挙したいと思います!」


 と前の方に座る髪の長い女子が大きな声で言うと、


「私も賛成です」

「ああ。灰原はともかく、あの武藤と互角に戦えるなら、今年は神崎だな」


 他のクラスメイトたちも次々と続ける。


(――は? ちょっと待て、もしかして俺!? 俺は武術科だぞ……)


「へぇ……面白い。以外にも代表候補は神崎か。他には誰かいないのか? 自信のある奴は自分から名乗り出ても構わないぞ。なにせ、この戦いの結果で、職員室での私の立ち位置が決まるんだ。――本気でヤれよ」


 茜の化けの皮がもはや完全に剥がれている。


「去年と同じく、僕はこれに出ないからね。僕も神崎を薦めるよ」

「同じくオレも! やっぱ相棒が出るからには優勝を狙わねェとなァ」


 相馬と弾まで自分を推してくる。


(クソ、こいつら……ふざけやがって! 俺はこれ以上目立つわけにはいかねぇんだよ)


「先生! ちょっと待ってください! 俺はそんなのやるつもりは――」


 流斗は立ち上がって抗議する。しかし、


「うるさい、邪魔をするな! 選ばれた以上、死ぬ気で戦え! 否、死んでもいいから勝て」


 興奮状態に入った茜に容赦なくぴしゃりと撥ねつけられる。


(……ひどい、ひどすぎる。この人、本当に教師か?)


「いや、俺にも事情が――」


 なおも不服を唱える流斗の声を、よく通る高い声が遮った。


「ちょ、ちょっと待ってくださいな」


 クラスの真ん中の席に座っていた椿姫が、縦ロールを揺らして立ち上がる。


(よし! いいぞ、まさかこいつが俺を助けてくれるとはな)


「そんないい加減な選出を認めるわけにはいきません。魔術の実力から考えて、このわたくしが魔術闘技会に出るべきです! それを転校早々ちょっと目立ったからという理由でこの変態にされては困りますわ!」


 ……神崎流斗は、いつの間にか変態扱いをされていた。


「クラスの代表は、この中で実力が上位の人間がなるべきです。去年と同じく武藤さんが出ないのであれば、このわたくしが出るのが当然ですの」


 椿姫の中では、流斗が相馬と互角以上に戦ったことはなかったことになっているようだ。


 別に椿姫が出るというのなら、流斗は辞退すればいいと思っていた。むしろラッキーだ。椿姫の態度は鼻につくが、代わってくれるというのなら、それも我慢しよう。


「それに、去年生徒会長をなさっていた、神崎先輩の親戚のようですけど、別に彼女も大したことはなかったじゃありませんか。《魔術闘技会》にも一度も出たことはないようですし。おおかた、負けるのが怖かったのでしょう」

「――あァ?」


 椿姫のその言葉は、流斗の理性を簡単に吹き飛ばした。

 鈍い光を放つ、黒く濁った目が鋭く細められる。


「オイ……黙って聞いてれば調子に乗るなよ、ドリル女」

「な、なにか文句でもありますの?」


 流斗の剣幕に、椿姫の隠し切れない恐怖心が見え隠れする。それはもう、ドリル女と言われても言い返せないほどに。


「俺のことはどう言おうが構わない。だが、姉さんの悪口だけは聞き捨てならないな」

「ふ、ふん! 姉さん姉さんって、あなたシスコンですの?」


 流斗は自分と遥との関係を馬鹿にされた気がして、頭に血が上る。


「お前こそ、理事長の娘らしいけど本当に実力あんのか? この前戦ったときはお前のことを強いなんて、まったく思わなかったけどな」

「なっ、なんですって!」


(やば……マズイ……)


 遥に仲良くしろと言われたばかりだというのに、つい怒りで口が滑ってしまった。


 椿姫の顔を見ると、怒髪天を衝くと言わんばかりに、いや、実際に縦ロールを逆立てて椿姫が顔を真っ赤に染めて怒りを露わにしていた。


(ちょっと待て……どうなってるのそれ?)


 そんな流斗の疑問をよそに、椿姫の怒りはヒートアップする。


「あっ、あなた! よくも、よくもわたくしを……っ!」


 これはもう、後戻りはできそうにない。


「わたくしと勝負しなさい! ギッタギタにしてやりますわ」


 音を立てて勢いよく机を叩く椿姫。

 その姿は言葉遣いのわりに、全然お嬢様らしくなかった。


「……これまたテンプレートな三下のセリフだな。仕方ねぇ、やってやるよ。とやかく言う前に体でわからせてやる」


 こうなったらもうやるしかない、流斗は自分にそう言い聞かせた。


「あらかじめ言っておきますけど、わざと負けたり、手を抜くことは許しませんわよ。後で言い訳されてもかないませんし」

「ハッ、それはお前の実力次第だな。ちゃんと俺に本気を出させろよ?」

「ぐっ……ふん! 言ってくれますわね。なんにせよ、ちょうどいい機会ですわ。これを機に、わたくし、宝条院椿姫と、あなたの実力差をはっきりと理解させて差し上げます。わたくしは何事も常に『一番』でなければ気が済みませんの。あなたがその障害となるのなら、容赦なく叩き潰しますわ!」


 結局、また戦うことになってしまった。この学園に来て、もう三戦目だ。……この学園、バトル大好きっ子多過ぎだろ。


「ルールはどうする?」

「この際、細かいルールはなしですわ。相手に負けを認めさせる、相手を気絶させる、もしくは相手が息絶えた場合。これが勝利条件ですの」


 先程の激昂はどこへ行ったのか、椿姫が冷淡でおぞましい笑みをその顔に浮かべていた。


「《魔術闘技会》まであまり時間がありませんわ。わたくしたちの決闘は明日でよろしくて?」


(チッ、先に切り出されたか……聡い奴め)


 周りのクラスメイトたちは、流斗と椿姫を面白そうに見ていた。


「構わない。お前に合わせてやるよ」


 流斗のその横柄な態度に、椿姫が目を吊り上げる。


「さてと、どうやら話はまとまったようだな」


 軽く二度手を打って、茜が話の流れを締めた。


「それじゃあ、二人の勝負は明日の放課後、予備アリーナにて行う。神崎と宝条院の二人はそれぞれ準備をしておくように。さてと、授業を始めるわよー」


 それを合図に、流斗と椿姫は互いを睨みながら席に座った。

日刊ローファンタジー18位ありがとうございます(*´ω`*)

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