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終末世界の元暗殺者  作者: くろふゆ
第二章 御園学園 中学編
18/53

018話 姉と下校。姉の弟監視網は広い

 御園中学の校門に向かう流斗の顔は少しやつれていた。


 相馬に対して長々と一方的に語り去った後、弾と共に更衣室に向かった流斗は、そこで多くの生徒たちに囲まれてしまった。その生徒たちからは、相馬との戦闘の感想、流斗個人への質問等、訊きたいことが山ほどあると、目を見れば分かるほどの流斗への興味で溢れていた。


 流斗は着替えながら可能なことだけを簡単に答えて時間を稼ぎ、弾を盾にすることでなんとか更衣室を脱出してきたのだ。身代わりにされた弾が何か喚いていたが、明日謝っておこうと思うほどには、壁として役に立っていたと思う。


 その後も、下校しようと校門を目指している途中で遠目に椿姫と目が合ってしまい、迂回して逃げてきたところだ。前方にようやく校門が見えてくる。


 校門には遥が手に持った鞄を前にして立っており、その背筋の伸びた美しい立ち姿が周りの生徒の目を惹き目立っていた。


 生徒の中には、遥に興味を持つ男子生徒が多かったが、彼女の美しさに馴れ馴れしく近づくことができないでいるようだ。遥はそれに気づいてないのだろうか。


 遥が流斗の姿を捉えると、こちらに向けて軽く手を振ってくる。

 流斗は駆け足で遥との距離を埋め、横に並んで歩き出した。


 周りの生徒からなんとも言えないため息が漏れるが気にしない。おおかた自分のことを遥の彼氏か何かと勘違いしているのだろう。いい気味だ。姉さんは誰にも渡さない。


「流斗、遅い! まさか、私との約束を忘れていたわけじゃないわよね?」


 今朝、流斗は帰りに校門で落ち合って一緒に帰る約束をしていた。


「遅れてごめん、姉さん。もちろん覚えていたよ。俺が姉さんとの約束を忘れるわけがないだろう?」

「それもそうね。なら、何かあったのかしら? 大丈夫?」


 一転、遥が心配そうな顔で訊いてくる。


「えっ、えっと……」


 流斗は転校初日から廊下で乱闘騒ぎを起こし、闘技場でまで大いに目立ってしまったことは遥に隠しておきたかった。


「あ、えーっと、転校初日だし、まぁちょっとね」

「……ふ~ん…………………………」


 遥の何かを探るような目を避けるように、流斗は別の話題を振る。


「そ、そういえば姉さん。宝条院っていう名字、知っている? なんかどこかで聞いたことがあるような気がしてさ」


 と、あの金髪縦ロールこと宝条院椿姫を思い浮かべて尋ねた。


「宝条院? 宝条院美咲さんのこと?」

「……美咲? 誰?」


 予想と違う人の名前が出てきたことに首を傾げる。


(宝条院は『わたくしの名前を知らないのはおかしい』と言っていたが、姉さんも知らないなんて、本当は有名でもなんでもないんじゃないか?)


「流斗、あなた美咲さんのことを知らないの? パンフレットに書いてあったでしょう」


 流斗は頭の中を思い返す。

 そしてパンフレットの最初のほうに、写真付きで名前が書いてあったことを思い出した。


「――あ! 理事長か!」

「そうよ。美咲さんは私の父さんの友人で、流斗がこの学園に入ることに手を貸してくれた、御園学園全体をまとめる理事長様よ」


(ということもしかして……)


「姉さん、宝条院椿姫って知っている? 俺のクラスメイトなんだけど……」

「ええ、知っているわ。美咲さんの一人娘でしょう。そうか、あの子も流斗と同じ歳だったわね」

「やっぱりか! マズイ……」

「どうしたの? まさか、何か問題でも起こしたのかしら?」


 流斗は遥の追及に目を合わせられない。遥が綺麗な顔を寄せてくる。


「いいから、怒らないから言ってみなさい」


 遥がさらに詰め寄ってくる。近い。あと少しで唇が触れそうな距離だ。


「えっと、今日、ちょっと出合い頭に手違いがあって……で、椿姫さんといろいろあってバトって、その結果目をつけられました。校門に来る途中にも襲われかけて……」

「へぇー、彼女は普段からしっかりしていて、余程のことがなければそんなに怒ったりしないと思うけど?」


 遥の流斗を見る目が冷たい。いつもの優しい笑顔が消えている。

 自分にも多少の非はあるので、流斗は反論のしようがなかった。


「まぁいいわ。つまり、宝条院椿姫があなたの平穏な学園生活の邪魔になるというわけね。なら、私が処理しといてあげるわ。あの子にはなんの恨みもないし、美咲さんの娘ということもあって多少は心が痛むけど、仕方ないわね」

「……処理って?」

「処理は処理よ。なぁに? 詳しく聞きたいの?」


彼女の口元を見ると、『残念だけど、殺処分ね』と小さく紡いでいた。

 遥の暗く輝く瞳が、それを冗談ではないと告げている。


「ちょ、ちょっと待った! それはやり過ぎだ! そこまでしなくても大丈夫だから! 明日ちゃんと謝って仲直りしてくるから!」


 流斗は必死に遥を止めた。遥なら本当に『何か』やりかねないとわかっているからだ。


「……そう。なら、ちゃんと仲良くするのよ。明日は土曜だから次の登校日は月曜だけどね」


 正直、椿姫が流斗の話を聞いてくれるかどうかはわからないが、今は遥を止められたことが大きい。


「わかった。でも、どうしようかな」

「仲直りにはプレゼントがいいんじゃないかしら」

「プレゼント?」


 遥の言葉に流斗は首を傾げる。


(なぜ、俺があいつにプレゼントなんて買ってやらねばならないのだ。そんな金があったら、姉さんに何かプレゼントを渡したいよ……)


 でも、椿姫との関係はなんとかしなければならない。


「それにしても、姉さんは俺に普通の生徒でいて欲しいって言うくせに、自分は唐突に凄いことを言い出すからびっくりするよ」


 流斗は軽く笑みを交えて冗談っぽく言った。


「そうかしら? 転校初日から学園の廊下で乱闘騒ぎを起こし、あまつさえ選択授業でさっそく大目立ちしたあなたには言われたくないのだけど」


 遥がジトっとした流し目で放った予想外の言葉に、流斗は身を震わせた。


「……えっと、なんで知っているの? もしかして、そっちの高校にまで噂が広がった?」


(それはありえない。御園中学と御園高校では多少ではあるが、距離が離れている。それに、闘技場での出来事はつい一時間前のことだ。そんなに早く広まるわけがない)


「そんなに早く広まるわけがないでしょ。あの中学には、私のファンだっていう女の子が結構いるからねぇ。その子たちに『少しだけ』流斗の行動を把握してもらっていただけよ。それに……私は流斗のことならなんでも知っているもの」


 大きな胸を張って遥が誇らしげに言う。なぜか背筋がぞっとした。


「別にそこまでしなくても……」

「初日から問題を起こしたあなたのその言葉に、説得力はないわ」


 そう言われれば、流斗は何も言い返せなかった。


「はい、お説教は終わり! 早く家に帰りましょう」


 遥が豊かな胸の前でパンっと手を叩いた後、流斗の手を掴んで歩き出す。

 その顔には笑顔が広がっていて、先程のやりとりはもうなかったかのようだ。


「……相変わらず、姉さんは切り替えが早いな」


 流斗はこうして遥と一緒に学校に行き、手を繋いで二人で家に帰る。ただそれだけのことに、この上ない幸せを感じた。存外、流斗も切り替えが早いほうなのかもしれない。

お帰りお姉ちゃん(*´ω`*)

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