014話 姉を知る男
「ここが地下格闘場だ」
一階から階段を伝って降りた先に、その光景が広がる。
幅広い格闘場には、空手道着、柔道着、剣道着、袴、ボクサーのような格好をした者など、様々な戦闘服に身を包んだ生徒たちがいた。中には流斗が見たことのない衣装をしている者もいる。
「凄い数ですね」
「それは生徒の数か? それとも行われている武術の種類か?」
「その両方です。こんなにいて、統制は取れているんですか?」
「ある程度、種目別に場所が分かれて教師がついているが、生徒各自の自主性に任されているところも多いな。ほら、あそこを見てみろ」
流斗が茜の指さした格闘場の隅に目を向けると、空手家と思われる者と柔道家と思われる者が戦っていた。
「なんですか、あれ?」
「ああやって両者の同意が得られた場合、どの武術にも関わらず異種格闘技戦のようなことが認められているのだよ」
「でも、各々の武術によってルールが違うのでは?」
「その辺は両者によって決められることだ。私も詳しくは知らん」
どういうルールを定めたのかはわからないが、柔道家が空手家をマットの敷いてある床に叩きつけ、空手家が意識を失ったところで勝敗は決した。
あそこで戦う者は、割と実戦に近い危険な試合をしているようだ。
「では、あらかた説明もしたことだし、私は帰るよ。そこに更衣室があるから着替えてお前も参加してこい」
茜は格闘場の入り口の横にある扉を指さし、立ち去ろうとする。
「――って、先生は入らないんですか?」
「さっき詳しくは知らんと言っただろう。私が担当する専門科目は陸上競技だ。まさか、この私が武術担当だと思ったんじゃないだろうなぁ?」
顔をひきつらせて訊いてくる茜に、流斗は必死に首を横に振った。
「まぁいいとしよう。じゃあ、頑張ってね~流斗君☆」
最後だけ猫を被り、茜は格闘場から立ち去った。
◇ ◇ ◇
「さてと、取りあえず着替えるか」
流斗は学年ごとに分かれた、二年と書いてある更衣室に入る。中では数人の生徒が着替えている途中だった。武術選択というだけあり、みんな相応に鍛え上げた体をしている。
靴下ごと靴を脱いで裸足になり、空いているスペースを陣取った。
下は黒のカンフーパンツに穿き替え、上に空手道着を着ようとカッターシャツを脱いでいる途中で、後方から声をかけられる。
「やぁ、神崎君じゃないか」
カッターシャツを脱ぎ終え、上半身裸になった状態で声の主を見る。
「武藤……相馬か」
相馬は上下ともに薄い道着に身を包んでいた。
「なんだ、武藤も武術を選択していたのか」
「そうだよ。神崎君の武術は空手かな?」
相馬は流斗の道着を見て判断する。
「別に空手だけってわけじゃない。あと神崎でいい」
「わかったよ。ところで神崎、今日は初日だし僕と一緒に練習をしないかい?」
「それは構わないが、理由はなんだ?」
流斗は道着を上に着て、真っ黒な帯を締めながら問う。
相馬が自分に接触してくることに、流斗は何か意図があると感じていた。
「僕は君に興味があるんだ。さっき少し見たけど、君の体は少し異常だ。極度に鍛えられている筋肉、その表面は傷だらけ、骨格もところどころおかしいし、臓器の位置もずれている。そして何より、普通の生徒とは練度が違う」
「何を言っているんだ? 俺は至って普通の一般人だよ」
流斗はとぼけた声でそう答えた。
「それを、今から確かめさせてもらう」
「……勝手にしろ」
更衣室から出た流斗に、相馬が後ろからついてくる。
「それに君からは死の匂いがする。遥さんとの関係も気になるしね」
「あァ?」
思わず低い声が出た。
(こいつ、姉さんの知り合いか?)
流斗がそのことについて問い詰めようとしてところで横槍が入る。
「おい、お前! 神崎流斗だろ?」
五人の取り巻きを引き連れ、くすんだ金髪を逆立てたボクサー風の格好をした生徒が、流斗の正面に立ちはだかった。
露出している上半身は鍛え込まれており、盛り上がった筋肉が直に見て取れる。
「……ああー。同じクラスにいた金髪ツンツン野郎か」
威嚇するように立つ金髪の生徒に対し、流斗は微塵も臆するような態度を見せない。
「誰が金髪ツンツン野郎だ! オレの名前は灰原弾だ!」
「そうか。で、灰原は俺になんの用だ?」
おおよその見当はついていたが、一応理由を尋ねる。
「神崎てめぇ、オレと勝負しろ!」
(……はぁ、やはりそうきたか。教室で殺気を放ったときから気づいていたが、こいつは強いやつを見つけたら、挑まずにはいられないタイプの人間だ)
「もうこの中でオレと対等に戦えるやつなんて、ほとんどいねぇんだよ。お前からは少しはオレを楽しませてくれそうな匂いがするぜ」
(さっきから匂い匂いって、男のくせに気持ち悪いやつらだな……。典型的な三下が……)
手を広げ格闘場を見渡して言う弾の顔には、あくまで自分が負けることはないという自信に溢れていた。確かに、他の生徒とは少し違う雰囲気を感じる。
「へぇ……お前、そんなに強いのか?」
「神崎、灰原はこの中学で五本の指には入る実力者だ。ボクサーの中ではこの御園中学で最強だろうな」
相馬が横から口を挟んでくる。
「ボクサー最強か。それで、お前は俺にどうして欲しいんだ? 武藤?」
「おい、武藤。邪魔はしないでくれよ」
流斗と弾の二人に問われた相馬が口を開く。
「別に、僕は灰原の邪魔をするつもりはないよ。もちろん、神崎に灰原との戦いを強要するつもりもない。ただ、純粋に二人の戦いを見てみたくはあるかな」
あくまで不干渉ということか。
「面白い。灰原、お前の挑戦受けてやるよ」
「なんで、てめぇが上から目線なんだコラァ!」
流斗の不遜な態度に弾が怒りを露わにする。
そうして、流斗と弾の間に目に見えない火花が散った。




