#04 生まれてきた理由がそこにあった
悩んでいた彼に申し出たのは自分だった。
親も亡くし、盗みを働くことでしか生きていけなかった。だけど、時が経てば経つほど自分が生きている意味がわからなくなった。
盗んで、逃げて、雨水をすすって。人の生活じゃないことは気付いてた。でも、それ以外の生き方を知らなかった。
そんなある日。あれは、日差しの強い日だった。もう5日も食べていない。日照り続きで水も手に入らない。このまま死んでしまうんだ。俺はどうして生まれてきたんだろう。
でも、これで楽になれるのかな?だったら、それでもいいかな。
本当は、もう、誰にも迷惑かけたくないんだ。
壁にもたれるように座りこんで、全てを諦めようと瞼を閉じようとした時、視界の端に誰かの足が見えた。
………誰? いつも盗みを働いてた八百屋のおやじ??
のっそりと視線を上げたら、そこには太陽が輝いていた。
「やっと見つけた」
低く心地いいその声の主はニッと笑うとその大きな手を差し出してきた。
あまりにも無防備な手に思わず自分のそれを重ねそうになった。でも、ダメだ。俺は迷惑でしかない。誰にも迷惑かけたくないっ…!
慌てて手を引いた。
だけど彼は手を取らなかった事が気に入らなかったのか、不満げに眉を寄せ、再度手を差し出される。
先程と違って少し勢いがついたそれに、甘えていいのかな?頼っていいのかな?
だって、このまま死ぬなんて、やっぱり嫌なんだよ。
嫌われたままとか、迷惑かけたままとか、ホントは嫌だっ……
「俺はお前を迎えに来た。お前が必要だ」
そんなこと、言われたことない。
なんとも言えない気持ちが溢れ出てくる。目の奥が熱くなった。
どうせ棄てる命なら、この太陽みたいな人にあげてもいいよね?それで、少しでも生まれた意味になるのなら。
戸惑いながらそっと手を重ねると、躊躇なく握られ、引き寄せられた。
地面に座り込んでいた自分がその力で立ち上がるやいなや、抱き上げられる。
十年の歳月を積み上げてきたが、いつも独りで、今までそんな経験がなかった彼は目を丸くしてその人を見つめる。
そこに更に眩しい笑顔と、頭をくしゃくしゃにする手が与えられた。
髪の毛が乱れるほど撫で回されているのにその大きな優しさに泣いてしまった。
突然泣いてしまったことが今でもあの人の不思議事件として確立しているようだが、原因を伝える時はおそらくないだろう。
今日は娘が産まれた日だから
と目元を和ませた人。その人が自分を抱き抱えたまま暫く歩くと大きな門が見えた。
門の向こうから立ち上る砂埃に驚く自分と空いた手で額を覆って困った顔をしている人と目が合った。
「ま。しょうがないわな」
そう言って諦めと笑顔を混ぜ合わせた表情で足を進める。
土煙はたくさんの人が駆け寄ってくる証しだった。
ざっと周りを囲まれる。きれいな円形を作り上げた全員が全員、鬼気迫る表情をしていたので、あまりの恐怖に色を無くした自分を見かねたのか一人の老人が一歩踏み出した。
そして、あろうことか自分を抱き上げている人を見て“国主よ”と呼び掛けたのだ。
俺でも知ってる。国主というのはこの国を治める一番偉い人。
この人は、その一番偉い人なのか!?
慌てて離れようともがいたけど、逞しい腕はびくともしなかった。それは、離すものかと言ってくれている気がした。
老人の声は重く、低く響いた。
今日がどんな日か貴方が一番わかっているだろう。
なぜ、一人で外に出たのか。
その子どもは何か。
その問いに国主と呼ばれた彼は
あぁ。
すまん。
拾った。
と律儀に一つ一つに返事をしていた。
やはり、最後の答えは老人の眉を寄せた。更に何か言い募ろうとした声をその口内に押し戻すかのように国主は更に続けた。
オレの妻であり、この国の託宣者スピカの神託だ。
スピカが俺に伝えた。
次のスピカを護る星がすぐ傍にいる。今まで小さな光だった星が、次期スピカが生を受けてから突然輝きを増した…と。
だから迎えに行っただけだ。その星を。
そう言いながら自分の頭を撫でると、一度優しい視線を投げ掛けて、老人へと流した。
「託宣者スピカの神託はこの国の意志だ。
何者にも遮らせはしない!」
強く言い切った言葉に臣家達は皆、一様に頭を下げた。
そして、戸惑う自分に撫でる手の代わりに今度は存在意義をくれた。
お前がもっと大きくなったら次のスピカ…俺の大事な娘を預けるから。
だから、しっかり強くなってくれよ。ガーディアン。




