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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第一幕 異世界さんこんにちは!
9/22

第9話「スライムの魔力、いじってみたら!?」

串焼き、おいしい。


 昨日まで知らなかった食べ物なのに、もうすっかりお気に入りだ。


「はい、エル。こっちはレイね」


 私は串から小さく外したお肉を、二匹のスライムの前に置いた。


 エルがぴょこんと跳ねて、お肉を身体に取り込む。

レイはしばらく眺めてから、ゆっくり包み込んだ。


「……おおっ、食べた!」


 スライムって、お肉も食べるんだ。これは記録しておこう。


 ……あれ?


 でも、口がないのにどうやって消化してるんだろう。


「うーん……気になる」


 私たちがいるのは、《小鳥の止まり木亭》の部屋。窓の外では夕日が街並みを赤く染めている。


 ワイバーンを倒してリーヴェルに戻ったあと、私はいつもの串焼きを買い、エルとレイを連れて宿へ帰ってきた。


 今日の研究は、もちろんこの二匹だ。


「さてと。まずは魔力の流れを見せてもらおうかな」


 私は机の上に布を広げ、エルとレイを並べた。二匹はぷるぷる揺れながら、こちらを見上げている。


「痛いことはしないからね。ちょっと調べさせて?」


 エルがぴょん。レイもぴょん。


「ふふっ。ありがと!」


 まずは何もしない状態で、魔力の流れを観察する。


 エルの魔力は、身体の中心から外側へ広がっている。


 対してレイは、外側から中心へ集まるように流れていた。


 やっぱり、違う。


 同じスライムから分かれたはずなのに、魔力の向きが反対なんだ。


「……面白いなあ」


 私は《研究記録》を開いた。


《観測記録》


 エル:魔力の流れは外向き。


 レイ:魔力の流れは内向き。


 ここまでは、森で見たときと同じ。次は、少しだけ魔力を流してみよう。


「エル、ちょっと失礼するね」


 指先から、ごく少量の魔力を送る。エルの身体が、ふわっと光った。


「おおっ!」


 表面が淡い青色に輝き、身体の輪郭が少しだけ広がった。


 ……ん?


 今、外側へ流れる魔力が増えた?エルが少し大きくなった。私は指先を離した。


 すると、エルの大きさは元に戻った。


「なるほど。外へ広がる力が強くなったのかな」


 次はレイ。


「じゃあ、レイもいくよー」


 同じ量の魔力を送る。レイの身体が、きゅっと縮んだ。


「……あれ?」


 エルとは逆だ。


 魔力が中心に集まり、身体が少し小さくなっている。私は慌てて指を離した。


「だ、大丈夫!?」


 レイがぴょこんと跳ねた。


 ……元気そうだ。


「よかったあ……」


 でも、どうして同じ魔力を送ったのに、反応が違うんだろう。


 私は二匹を見比べた。


 エルは外へ。


 レイは内へ。


 魔力の流れが、そのまま反応の違いにつながっている?


「……ちょっと待って」


 私は研究ノートを引き寄せた。


 エルの外向きの流れ。


 レイの内向きの流れ。


 この二つ、ただ反対というだけじゃないかもしれない。


 外へ広がる魔力は、周囲へ作用する力。


 内へ集まる魔力は、内部へ蓄える力。


 もしそうなら……。


「……エルは放出型で、レイは蓄積型?」


 もちろん、まだ仮説だ。


 でも、面白い。


 すっごく面白い!


「よーし、もうちょっと調べてみよう!」


 私は机の上に、小さな木の実を置いた。宿へ戻る途中、道端で拾ったものだ。


「エル、この木の実に触ってみて?」


 エルがぴょこんと跳ねて、木の実に近づいた。


 ぷにっ。


 触れた瞬間。


 ころん。


 木の実が、少しだけ転がった。


「……おっ?」


 今、触れた力だけじゃなくて、魔力が外へ押し出されたような……。


 私は木の実を元の位置に戻した。


「もう一回!」


 エルがぴょん。


 ころころっ。


「おおおっ!」


 今度は、はっきり分かった。


 エルの魔力が外側へ広がり、木の実を押している。


「すごいじゃん、エル!」


 エルが嬉しそうに跳ねた。


 次はレイ。


「レイもやってみる?」


 レイがゆっくり木の実に近づいた。


 ぷにっ。


 ……動かない。


「あれ?」


 もう一度。


 ぷにっ。


 やっぱり動かない。


 でも、よく見ると……。


「……あっ!」


 木の実が、レイの身体に少しだけ引き寄せられていた。


 押すんじゃなくて、引く。


 エルとは反対だ。


「なるほどー!」


 私は思わず手を叩いた。


「エルは押す力! レイは引く力!」


 ……いや、待って。


 それはまだ言い切れないか。


 今の実験で分かったのは、エルの魔力が外へ作用し、レイの魔力が内へ作用したということ。


 条件を変えたら、違う結果になるかもしれない。でも......


「ふふっ。面白くなってきた!」


 私は《仮説登録》を開いた。


《仮説》


 エル:外向きの魔力循環により、周囲へ作用する性質を持つ可能性。


 レイ:内向きの魔力循環により、対象を引き寄せる性質を持つ可能性。


 検証は、これから。


 ……うん。いいね。


 私は二匹を見つめた。


「エル、レイ。君たち、すっごい才能あるかもよ?」


 二匹が揃って跳ねた。


 かわいい。


 ……そして、興味深い。


 もしこの性質を伸ばせたら、エルは魔力を外へ放つのが得意になるかもしれない。


 レイは魔力を内部に蓄えたり、周囲から集めたりできるようになるかもしれない。


 もちろん、今の段階では分からないけど。


「……ふふふ」


 想像するだけで楽しくなってきた。


 私は二匹をそっと抱き上げた。


「一緒に、いろんなこと調べようね!」


 エルがぴょん。


 レイもぴょん。


 ……ああ、幸せ。


 研究仲間が二匹も増えちゃった。


 私は机に戻り、今日の観測記録を整理し始めた。


 ワイバーンの戦闘。


 魔術の出力調整。


 エルとレイの魔力循環。


 それから、レベルアップによる能力値の変化。


「……あっ」


 そうだった。


 ワイバーンを倒して、十五レベルも上がったんだった。


 私はステータス画面を開いた。


《セリス》


《Lv128》


「……百二十八」


 改めて見ると、なかなか大きな数字だ。


 昨日、この世界に来たときは九十九だった。


 それが、もう百二十八。


「……ふふっ。順調順調!」


 私は研究ノートに数字を書き込んだ。


 次は、レベルアップ前後の能力値を比較してみよう。


 どれくらい成長してるのかな。


 ……ああ、楽しみ!


 窓の外では、街の明かりが一つ、また一つと灯り始めていた。


 その頃。


 リーヴェルの冒険者ギルドでは、五人のA級冒険者が、ギルドマスターのバルドに報告をしていた。


「……ワイバーンを、一撃で?」


「ああ。間違いねえ」


「しかも、初級魔術だと?」


「本人はそう言ってた」


 バルドは眉間に皺を寄せた。


「……どんな女だった?」


「銀髪で、青い目の……まだ若い女の子だ」


「…………」


 バルドの顔が、ゆっくりと険しくなった。


「……まさかな」


 その呟きを、誰も聞き取ることはできなかった。


 そして当の本人は。


「エルー、レイー! 見て見て! 能力値、こんなに変わってるー!」


 宿の部屋で、今日も楽しそうに研究を続けているのだった。

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