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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第一幕 異世界さんこんにちは!
10/21

第10話「私、普通の冒険者ですよね!?」

翌朝。


「……あれ?」


 私はステータス画面を見つめていた。


《セリス》


《Lv128》


 うん。昨日も見た数字だ。


 でも、改めて考えると、ちょっと気になることがある。


 この世界の冒険者って、普通はどれくらいのレベルなんだろう?


 昨日のA級冒険者さんたちは、ワイバーンを倒すのに五人がかりだった。私は一人で倒せた。


 ……まあ、魔術の使い方が違ったからかもしれないけど。


 それに、私のレベルが百二十八なら、A級の人たちはもっと高い可能性もある。


「……よし!」


 私は研究ノートを閉じた。


「聞きに行こう!」


 エルとレイが、揃ってぴょこんと跳ねた。


「君たちも一緒ね!」


 朝ご飯を食べて、宿を出る。


 リーヴェルの街は、今日も賑やかだった。パン屋さんからは焼きたての香り。


 道端では商人たちが荷物を運び、冒険者たちが依頼の相談をしている。


 そして。


「……串焼き!」


 私は足を止めた。まだ朝なのに、もう焼いてる。


 ……これは。


「一本ください!」


 銅貨三枚。


 朝ご飯を食べたばかりだけど、研究には糖分……いや、エネルギーが必要だ。


 うん。必要。


 私は串焼きを頬張りながら、ギルドへ向かった。


 扉を開けると、受付にいたミーナさんが顔を上げた。


「あら、セリスさん。おはようございます」


「ミーナさん、おはようございまーす!」


「……あら?」


 ミーナさんの視線が、私の腕の中へ向いた。


「その子たちは?」


「新しい研究仲間です!」


 私は二匹を持ち上げた。


「エルとレイ! よろしくお願いします!」


 エルがぴょん。レイもぴょん。


「まあ……かわいい」


 ミーナさんの表情が緩んだ。


「スライムを連れて歩く冒険者さんは珍しいですね」


「そうなんですか?」


「ええ。普通は討伐対象ですから」


「……えっ」


 私は二匹を見下ろした。


 エルとレイが、つぶらな瞳でこちらを見上げている。


「……こんなにかわいいのに?」


「ふふっ。セリスさんらしいですね」


 ミーナさんが笑った。


 ……うーん。


 この世界、まだまだ分からないことが多いなあ。


 私は二匹を抱え直した。


「あっ、そうだ! ミーナさん、ちょっと質問してもいいですか?」


「はい。何でしょう?」


「冒険者のレベルって、普通どれくらいなんですか?」


「……レベル、ですか?」


「はい! F級とかA級とか、ランクによって違うのかなって」


 ミーナさんは少し考えてから、説明してくれた。


「そうですね。もちろん個人差はありますが、F級なら十前後、E級なら二十前後……A級になると七十から九十くらいでしょうか」


「へええ……!」


 なるほど。


 思っていたより、ずっと低い。


「じゃあ、S級は?」


「八十五以上の方が多いですね。もちろん、ランクは実績や信頼も関係しますけど」


「ふむふむ」


 私は研究ノートを取り出した。


 F級、十前後。


 E級、二十前後。


 A級、七十から九十。


 S級、八十五以上。


 ……あれ?


 私はペンを止めた。


「……ちなみに」


「はい?」


「百を超える人って、どれくらいいるんですか?」


 ミーナさんの表情が、少し変わった。


「……百、ですか?」


「はい!」


「……セリスさん」


「はい?」


「普通、人のレベルは九十九までですよ?」


「…………」


 ……ん?


「……九十九?」


「ええ。人間だけでなく、ほとんどの種族に共通する成長限界です」


「…………」


 私は、そっとステータス画面を開いた。


《セリス》


《Lv128》


 百二十八。


 ……あれ?


「……えっ!?」


 思わず声が出た。


「じゃあ、百を超えたらどうなるんですか!?」


「通常は、超えられません」


「……超えられない!?」


「はい。九十九に達すると、それ以上レベルが上がらなくなるんです」


 私は自分のステータス画面を見つめた。


 百二十八。


 ……普通に上がってるんだけど。


「……ええええ!?」


 ミーナさんが驚いた顔をした。


「ど、どうしました?」


「い、いえ! ちょっとびっくりしただけです!」


 ……なるほど。


 この世界には、レベルの上限がある。


 普通は九十九。でも、私は百二十八。つまり...


「……私、普通じゃない?」


 思わず呟いた。ミーナさんが首を傾げる。


「……セリスさん?」


「あっ、いえ! こっちの話です!」


 私は慌てて笑った。


 ……いや、待って。


 これは、かなり重要な情報だ。


 どうして私は上限を超えられたんだろう。


 ビナーから来たから?


 魔力の性質が違うから?


 それとも、《越界励起》の影響?


 ……うーん。分からない。


 でも。


「……ふふっ」


 思わず口元が緩んだ。


 普通は九十九まで。私は百二十八。ということは-


「……まだまだ研究できるってことじゃん!」


「……はい?」


「いえいえ! 何でもないです!」


 私は研究ノートに大きく書き込んだ。


《疑問:なぜ私はレベル99の上限を超えられるのか?》


 ……よし。


 新しい研究テーマ、発見!


 そのときだった。


「……セリス」


 低い声が響いた。


 振り返ると、ギルドマスターのバルドさんが立っていた。


「おはようございます、バルドさん!」


「……ちょっと、話がある」


「……え?」


 バルドさんの表情は、いつになく真剣だった。


「昨日、ワイバーンが討伐された」


「……あっ」


 私は目を丸くした。


「はい! いましたね、ワイバーン!」


「……やっぱり、お前か」


「……えっ?」


 バルドさんは大きく息を吐いた。


「A級冒険者五人が、銀髪の若い女に助けられたと報告してきた」


「……ああ! あの人たち!」


「初級魔術でワイバーンを吹き飛ばし、空の雲を割ったそうだな」


「……あはは」


 私は頬をかいた。


「ちょっと、雲まで割れちゃいまして」


「……ちょっと?」


「でも! 地上は無事でしたよ!」


「……そういう問題じゃねえ」


 バルドさんは頭を抱えた。


 ……あれ?


 褒めてもらえると思ったんだけどな。


「……セリス」


「はい?」


「お前、自分がどれだけ異常なことをしてるか、分かってるか?」


「……えーっと」


 私は少し考えた。


 山頂を消した。


 薬草を変異させた。


 ワイバーンを倒した。


 雲を割った。


 ……うん。


「……ちょっと派手ですかね?」


「ちょっとじゃねえ!」


 バルドさんの声がギルド中に響いた。周囲の冒険者たちが、一斉にこちらを見る。


「……あはは。すみません」


 私は小さく頭を下げた。


 バルドさんは額を押さえたまま、しばらく黙っていた。


 そして、少し声を落とした。


「……お前、レベルはいくつだ?」


「……えっ」


 私は瞬きをした。


 ……どうしよう。


 さっき、普通は九十九までって聞いたばかりだ。


 百二十八って言ったら、また大騒ぎになりそう。


 ……うーん。


「……それ、言わなきゃダメですか?」


 バルドさんの目が細くなった。


「……言いたくないのか?」


「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」


 私は少し声を落とした。


「……普通より、ちょっと高いみたいで」


「……どれくらいだ?」


「……えーっと」


 私は指を折って考えた。


 百二十八。


 九十九との差は二十九。


 ……ちょっと、ではないかな。


「……結構?」


「…………」


 バルドさんが、深いため息をついた。


「……分かった。ここでは聞かねえ」


「……いいんですか?」


「ああ。ただし、後で俺の部屋に来い。ミーナも一緒にな」


「……はい!」


 私は頷いた。


 ……よかった。


 いきなり大勢の前でステータスを公開するのは、さすがに研究者としても避けたい。


 測定結果には、扱い方ってものがある。


 ……うん。


 そういうことにしておこう。


 バルドさんが背を向けかけたところで、私は思い出したように声をかけた。


「あっ、バルドさん!」


「……何だ?」


「レベルの上限を超える方法って、あるんですか?」


 バルドさんの足が止まった。


「……ある」


「……えっ!」


 私は思わず身を乗り出した。


「本当ですか!?」


「ああ。ただし、誰にでもできることじゃねえ」


「……どうやるんですか?」


「神の祝福を受け、成長の限界を突破する者がいる。極めて稀だがな」


「……神の祝福……」


 私は研究ノートを開いた。


 神。


 祝福。


 限界突破。


 ……なるほど。


 この世界には、通常の成長限界を超える仕組みが存在する。


 ただし、私は祝福を受けた覚えがない。


 ……いや。


 そもそも、この世界に来たばかりだし。もしかして、転移したときに何か起きた?


「……ふふっ」


 また一つ、調べたいことが増えた。


「……セリス?」


「はい!」


「……何で嬉しそうなんだ?」


「だって、面白そうじゃないですか!」


「…………」


 バルドさんが、天井を見上げた。


「……俺は頭が痛い」


「……えっ、大丈夫ですか?」


「……お前のせいだよ!」


「えええっ!?」


 ……なんで!?


 私は何もしてないのに!


 ……いや。


 山は消したけど。雲も割ったけど。


 ……うん。


 ちょっとは、してるかもしれない。


 私は小さく笑いながら、エルとレイを抱き直した。


「……まあ、いっか!」


 世界には、まだまだ知らないことがある。


 魔術の仕組み。レベルの限界。神の祝福。


 そして、私自身の身体に起きていること。


 ……ああ。


 やっぱり、この世界は面白い!


「よーし! 今日も研究、頑張るぞー!」


 エルがぴょん。


 レイもぴょん。


 その横で、バルドさんが深いため息をついた。


「……誰か、こいつを止めてくれ……」


 でも、私はまだ知らなかった。


 自分が普通の成長限界を超えている理由を。


 そして、その理由が、世界の常識をはるかに超えるものだということを。


 今はただ。


 新しい研究テーマが見つかったことが、嬉しくて仕方なかった。

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