↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第一幕 異世界さんこんにちは!
8/24

第8話「雲がわれたあぁぁ!?」


 森を抜ける小道を、二匹の青いスライムがぴょんぴょん跳ねている。


「エル、レイ。そっちは道じゃないよー?」


 声をかけると、二匹はぴたりと止まり、揃ってこちらを向いた。


 ……かわいい。


 さっき名前をつけたばかりなのに、もう呼びかけに反応してくれる。偶然かもしれないけど、少なくとも声に反応することは分かった。


 エルは魔力が外へ広がる傾向にあって、レイは内側へ集まる傾向にある。同じ個体から分かれたはずなのに、魔力の流れは少しずつ違っていた。


 この違いが成長にどう影響するのか。そもそも、スライムの魔力循環はどんな仕組みなのか。


 ……ああ、調べたいことがいっぱいだ。


「ふふっ。帰ったら、いろいろ試してみようね」


 二匹がぴょこんと跳ねた。


 リーヴェルに戻ったら、まずフィーネさんに薬草を届けよう。それからエルとレイを紹介して、魔力循環を観察して……。


 あ、そうだ。宿に戻ったら、今日の研究記録も整理しなくちゃ。


 やりたいことが多すぎるなあ。


 そんなことを考えていたときだった。


「うわあああっ!」


 遠くから悲鳴が聞こえた。


 続いて、木が折れるような音。


「……ん?」


 私は足を止めた。


「下がれ! まともに受けるな!」


「無理だ! もう盾がもたねえ!」


 風に乗って、切羽詰まった声が届く。


「……ちょいピンチ?」


 いや、声の感じからすると、ちょいどころじゃないかも。


「エル、レイ。ちょっと失礼!」


 二匹を抱き上げ、声のする方へ走った。


 木々の間を抜けた先には、少し開けた場所があった。


 そこで目にしたものに、思わず目を丸くする。


「……ワイバーン!?」


 大きい!


 緑がかった鱗に覆われた巨体。鋭い爪と長い尾。そして、左右に広がる巨大な翼。


 本物だ!


 あの翼の面積で、どうやってあの身体を飛ばしているんだろう。魔力による浮力の補助があるなら、翼は姿勢制御に使っているのかもしれない。


 ……って。


「今はそれどころじゃない!」


 ワイバーンの足元では、五人の冒険者が必死に戦っていた。


 盾を構えた男の人は片膝をつき、後ろでは仲間が負傷者を引きずっている。魔術師らしい女性も、杖を支えにして立つのがやっとという様子だった。


 ワイバーンが首をもたげる。


 狙われているのは、盾の男の人。


 あの距離なら、次の攻撃まで数秒もない。


「よーし、まずは引き離そう!」


 私はエルとレイを近くの茂みに下ろした。


「ここで待っててね!」


 二匹が小さく跳ねるのを確認して、前へ出る。


「みなさーん! 伏せてくださーい!」


「なっ!? 誰だ、お前!」


「説明はあとでー!」


 ワイバーンの頭が下がった。


 このまま地上で攻撃したら、冒険者たちまで巻き込んでしまう。


 なら、先に安全な場所へ移動させればいい。


 私は右手を突き出した。


「《ウィンド》!」


 初級風属性魔術。


 風を生み出す、ごく基本的な魔術だ。


 ただし、今回は風を横へ広げない。


 ワイバーンの腹の下へ魔力を集め、上向きの流れを作る。


 巨体を持ち上げるには、風の勢いだけじゃ足りない。翼の下面にかかる圧力と、姿勢を崩さないための流れの調整が必要だ。


 暴れられても地上へ戻らないように、風の向きを少しずつ変えていく。


「よーし、上がれ〜!」


 ゴオオオオッ!


 猛烈な上昇気流が、ワイバーンを持ち上げた。


「グギャアアアアッ!?」


 巨大な翼がばたつく。


 ワイバーンは姿勢を立て直そうとするけど、風はその動きに合わせて向きを変えている。


 翼を広げれば下から押し上げられ、閉じれば身体ごと持ち上がる。


 そのまま、巨体がぐんぐん空へ昇っていった。


「な……なんだ、あれ……」


「ワイバーンが……飛ばされてる……?」


 冒険者たちが呆然と空を見上げている。


 よしよし。これで地上から引き離せた。


 あとは倒すだけ。


 ……なんだけど。


「……あっ」


 私は右手を見つめた。


 前に無属性魔術を使ったときは、山のてっぺんがなくなったんだった。


 あれは、さすがにやりすぎた。


 魔物を倒せても、周囲まで吹き飛ばしていたら意味がない。


 今回はちゃんと出力を絞ろう。


 ワイバーンは上空。地上に人はいない。


 射線も確保できている。


 なら、魔力を拡散させず、細い範囲へ集中させれば……。


「……あれ?」


 思わず口元が緩んだ。


 風で持ち上げて、安全な方向へ撃つ。


 これなら威力を抑えつつ、周囲への被害も減らせる。


「ふふっ。天才か、私」


 ちょっと自分を褒めておこう。


 私は指先に魔力を集めた。


 前回の感覚を思い出しながら、出力を大幅に下げる。魔力の流れを一本にまとめ、余計な方向へ逃がさない。


 ワイバーンは十分な高度に達している。


 狙いを定めた。


「それじゃ、いっくよー!」


 《インパクト》。


 初級無属性魔術。


 指先から放たれた光が、一直線に空へ伸びた。


 次の瞬間。


 ドォォォォォォォォンッ!!


 空が震えた。


 光がワイバーンを貫き、巨体が一瞬で砕け散る。


 そのまま衝撃が上空へ突き抜けて――。


 雲が、割れた。


「…………」


 私は空を見上げた。


 白い雲の真ん中に、青空の道が一本できている。


「……雲割れたああ!?」


 思わず空を指さしてしまった。


 いや、待って。出力はちゃんと絞ったよね?


 前回よりずっと小さくしたはずなんだけど……。


 ……あ。


 そうだ、地上は!?


 慌てて周囲を見回す。


 木は倒れていない。


 地面もえぐれていない。


 冒険者たちも無事。


 遠くの山並みも、ちゃんと残っている。


「……おおっ!」


 私は小さく拳を握った。


「大成功じゃん!」


 雲は割れちゃったけど、地上への被害はなし!


 魔力の出力と射線を調整すれば、これだけの威力でも周囲への被害を抑えられる。


 うんうん。これは大きな進歩だ。


「ふふふ。やっぱり研究って大事だねえ」


 満足して振り返ると、五人の冒険者がこちらを見ていた。


 全員、口を開けたまま動かない。


「……あれ?」


 盾を持った男の人が、ようやく声を出した。


「……お嬢ちゃん」


「はい?」


「……今の、魔術か?」


「そうですよー」


「……何級だ?」


「初級ですけど?」


「…………」


 男の人が空を見上げた。


 雲の割れ目は、まだ残っている。


「……初級?」


「はい! 無属性魔術の《インパクト》です。最初に使った風魔術も初級ですね」


「…………」


 沈黙。


 隣の魔術師らしい女性が、震える声で呟いた。


「……私、二十年魔術を使ってきたけど……」


「おおっ、大先輩ですね!」


「……初級魔術で空が割れるなんて、聞いたことないわ……」


「えっ、そうなんですか?」


 私はもう一度空を見上げた。


 確かに、雲が割れるのは少し派手だったかもしれない。


「……まだ調整の余地がありますね!」


「調整……?」


「はい! 今回は地上への影響を抑えられたので、次は雲も割らないくらいにできればいいなって」


 女性は何も言わなくなった。


 ……あれ?


 変なこと言ったかな。


 まあいいか。


「それより、みなさん怪我は大丈夫ですか?」


 私は負傷者の方へ駆け寄った。


 倒れていた人は仲間に支えられながら身体を起こしている。腕を押さえていた人も、意識ははっきりしていた。


「……ああ。助かった」


 盾の男の人が、深々と頭を下げた。


「本当にありがとう。あんたが来なかったら、全滅してた」


「いえいえ! 間に合ってよかったです!」


 そう答えると、男の人は苦笑した。


「俺たち、全員A級なんだがな……」


「……えっ、A級!?」


 私は思わず目を丸くした。


 A級って、ギルドでもかなり上のランクだったはずだ。


「じゃあ、あのワイバーンって相当強かったんですね!」


「ああ。A級五人で、ようやく討伐を狙える相手だ。今回は完全に押されてたがな」


「へええ……!」


 なるほど。


 あの巨体に飛行能力、頑丈な鱗。


 確かに、地上から攻撃するだけでも大変そうだ。


 ……もっと観察したかった気もするけど、今回は仕方ない。


 怪我人がいたんだから、倒すのが先だ。


 そう考えていると、視界の端に文字が浮かび上がった。


《経験値を獲得しました》


《取得経験値増加補正が適用されました》


《レベルが上昇しました》


「……おっ!」


 レベルアップだ!


《レベルが上昇しました》


《レベルが上昇しました》


《レベルが上昇しました》


「……おお?」


 まだ続く。


《レベルが上昇しました》


《レベルが上昇しました》


《レベルが上昇しました》


 ……あれ?


《レベルが上昇しました》


《レベルが上昇しました》


《レベルが上昇しました》


 ちょっと待って。


《レベルが上昇しました》


《レベルが上昇しました》


《レベルが上昇しました》


《レベルが上昇しました》


 ……止まった。


 私は、そっとステータス画面を開いた。


《セリス》


《Lv128》


「…………」


 百二十八。


 さっきまで百十三だったから……。


「……十五レベル!?」


 思わず二度見した。


 ワイバーン一体で、十五レベルも上がったの?


 ……これは。


「ふふふっ」


 口元が勝手に緩んだ。


 すごいな、ワイバーン。


 経験値、めちゃくちゃおいしいじゃないか。


 十五レベルも上がったなら、筋力も敏捷も知力も、かなり変わっているはずだ。


 前回の記録と比較すれば、能力値の上昇規則ももっと詳しく調べられる。


 レベルによって上昇量は変わるのか。


 能力ごとの補正は一定なのか。


 ……ああ、早く見たい!


「……お嬢ちゃん?」


「はい?」


「……何か、いいことでもあったのか?」


「レベルが上がりまして!」


「……そ、そうか」


「ええ! 思ったよりたくさん!」


 男の人は少し不思議そうな顔をしたけど、それ以上は聞いてこなかった。


 私はステータス画面を閉じる。


 詳しい数値は、帰ってからゆっくり見よう。


 ……できれば、串焼きでも食べながら。


 うん。悪くない。


 そんなことを考えていると、冒険者の一人が空を見上げながら呟いた。


「……それにしても、なんでこんなところにワイバーンが……」


「……え?」


 私は顔を上げた。


「この辺りって、ワイバーンが出る場所じゃないんですか?」


「ああ。少なくとも、俺たちが知る限り、この辺りで目撃されたことはほとんどない」


「へえ……」


 珍しい魔物が、普段はいない場所に現れた。


 ……なぜ?


 私は腕を組んだ。


 考えられる理由はいくつかある。


 餌を追って移動してきた。


 縄張り争いに負けて追い出された。


 何かから逃げてきた。


 あるいは、生息環境そのものが変化した。


「……ちなみに、ワイバーンって普段はどこに住んでるんですか?」


「山岳地帯だな。特に人が近づかないような高い山だ」


「……山?」


「ああ。崖や山頂付近に巣を作ることが多い」


「…………」


 山。


 高い山。


 山頂。


 …………。


「……あっ!」


 私は、そっと視線を逸らした。


 昨日の光景が脳裏をよぎる。


 消し飛んだ山頂。


 住処を失った魔物。


 もし、あの山にワイバーンが住んでいたとしたら。


 山頂がなくなって、行き場を失ったとしたら。


 ……それで、普段は来ない低い場所まで降りてきた?


「……なるほど!」


 筋は通る。


 もちろん、まだ仮説だ。


 実際にあの山に巣があったかどうかは分からないし、別の理由で移動してきた可能性もある。


 でも、時期と場所を考えると……。


「……あの」


 私は盾の男の人に尋ねた。


「最近、この近くの山で大きな変化ってありませんでした?」


「……山?」


「はい!」


「……そういや、昨日、山頂が消えたって騒ぎになってたな」


「…………」


 ビンゴ。


 ……いや。


 待って。


 それって。


「……私じゃん!」


「ん?」


「あっ、いえ! こっちの話です!」


 私は小さく咳払いした。


 なるほどね。


 山を吹き飛ばすと、そこに住んでいた魔物が移動する可能性がある。


 つまり、魔術の影響は着弾地点だけじゃない。


 周囲の環境にも広がるってことだ。


 ……これは覚えておこう。


 次からは山を吹き飛ばさない。


 うん。


 今日みたいに、ちゃんと空へ向けて撃てばいい。


 幸い、今回は誰も死なずに済んだ。


 ワイバーンも倒した。


 レベルも上がった。


 ……だったら。


「……ま、次から気をつけよう!」


 過ぎたことは仕方ない。


 それより、次に同じ失敗をしないことの方が大事だ。


 私は茂みの方へ歩き、待っていた二匹を抱き上げた。


「エル、レイ! 帰ろっか!」


 二匹がぴょこんと跳ねる。


「今日は収穫が多かったねー。薬草も採れたし、ワイバーンも倒せたし……」


 ……十五レベル。


 思い出すだけで、また頬が緩む。


「ふふっ。帰ってからが楽しみだなあ」


 私は冒険者たちに手を振った。


「それじゃあ、みなさん! お気をつけてー!」


「……あ、ああ」


「……本当に、ありがとうな」


「どういたしまして!」


 私は軽い足取りで、リーヴェルへの道を歩き始めた。


 今日も、いい一日だった。


 薬草も採れた。


 エルとレイにも再会できた。


 ワイバーンまで倒して、十五レベルも上がった。


 しかも、山は無事!


 ……完璧じゃない?


「……ふふっ。私、なかなかやるじゃん!」


 腕の中で、エルとレイが揃って跳ねた。


 その背後で。


「……おい」


「ああ……」


「あの子、何者なんだ……?」


 五人のA級冒険者たちは、まだ雲の割れた空を見上げていた。


 けれど、そんなことは知らない私は。


「……今日の串焼き、一本増やしちゃおうかな」


 そんなことを考えながら、街への帰り道を進んでいくのだった。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。