第65話「英雄たちの凱旋!」
絶望的な戦況の中、それでも人々を守り続ける竜人兵たち。
そして、ついに彼らのもとへ援軍が到着します!
かつて世界を救った英雄たちが、再び同じ戦場に立つとき。
もちろん、我らが魔法オタクも黙っているはずがありません!( *´艸`)
第65話「英雄たちの凱旋!」、お楽しみください!
竜人国北部、南へ続く街道。
「後衛、交代! 荷車を止めるな!」
指揮官の号令に、竜人兵たちが盾を並べ直した。
北の森から押し寄せる影は、途切れない。
槍で一体を貫けば、その身体が崩れきる前に、次の影が迫ってくる。
「右だ!」
「分かってる!」
若い兵士が盾を立てた。
重い衝撃に腕が痺れる。その脇から仲間の槍が伸び、影を押し返した。
「下がれ! 今だ!」
二歩退き、また構える。
城壁はない。
背後にあるのは、軋む荷車と、歩き疲れた人々の列だった。
影が近づくたび、胸の奥が冷える。
逃げたい。
盾を捨てて、走ってしまいたい。
「……兵隊さん」
荷車から、小さな声がした。
振り返ると、あの子どもがこちらを見ていた。
「大丈夫?」
兵士は、息を吸った。
「ああ。ちゃんと乗ってろよ」
笑えたかどうかは、分からなかった。
それでも、槍を握る手に力を込めた。
そのとき、前方から叫びが上がった。
「南側にも影! 街道を塞がれています!」
指揮官が振り向いた。
列の先で、荷車が止まりかけていた。
前後から、黒い輪郭が近づいてくる。
「前衛は道を開けろ! 荷車同士の間を空けるな!」
指示を飛ばしながら、残る兵を数える。
北へ回せば、南が足りない。
南へ出せば、横の林から抜かれる。
「隊長……!」
「持ちこたえろ!」
その声を、鋭い風音が追い越した。
南の街道で、黒い影が宙へ浮く。
荷車の帆布はほとんど揺れないまま、影だけが道の外へ叩き出された。
「……何だ?」
若い兵士が顔を上げる。
巨大な船が、街道の上へ滑り込んできた。
船底には幾つもの魔法陣。その光を背に、一人のドワーフが船縁へ立つ。
「よくぞ持ちこたえた!!」
戦場を貫く、太い声だった。
「ドーン・グラディウス! 友の故郷を守りに、参ったぞ!!」
年配の兵士が、息を呑んだ。
「……ドーン様」
「六英雄だ!」
声が広がる。
船上で、ドーンが戦槌を掲げた。
「南へ進め! 道は、わしらが開く!」
「ドーン、先に降りるなよ」
「分かっておる! ならば、さっさと頼むぞ!」
隣へ出た男が、剣を抜いた。
剣聖アルディス。
その刃が振られた瞬間、街道の前方を一筋の光が走った。
風で押し出された影が、横一線に断ち切られる。
道端の木々が遅れて揺れ、黒い身体が崩れ落ちた。
「……道が」
若い兵士が呟いた。
さっきまで、進めなかった道。
そこに、向こう側の地面が見えていた。
◇
「……今の、船から届いたんですか!?」
私は甲板から身を乗り出した。
アルディスさんの剣、速すぎる!
魔力が伸びたところまでは見えたけど、その先が分からなかった!
「セリス、見るならあとだ!」
「はいっ!」
慌てて地上へ目を戻す。
南の道は開いた。
でも、両側の林からは、まだ影が近づいている。
「レスターさん、もう少し離せますか!?」
「任せて。人のいる場所は避けるよ」
レスターさんが指を動かす。
風が何本もの流れに分かれ、影の群れを街道から押し離した。
荷車のそばでは、こぼれた毛布がゆっくり地面へ落ちるだけ。
……細かい!
あの距離で、風を通す場所まで選んでる!
「ミライ、荷車と兵士さんの位置を表示!」
『YES、セリス。観測結果を表示します』
青銀色の光に、街道の形が浮かぶ。
ここは空ける。
こっちは、もう兵士さんが下がった。
「《アースウォール》!」
地面が隆起した。
荷車の列に沿って、土の壁が次々と立ち上がる。
前後は塞がず、林から影が入ってくる場所を区切っていく。
「味方の壁だ! 南へ進め!」
止まりかけた荷車が、再び動き出した。
「……セリス、右の切れ目」
ネスラさんが指す。
壁を回り込んだ影が、最後尾へ迫っていた。
「《フリーズバインド》」
白い霜が地面を走り、影の脚を絡め取る。
すぐ隣にいた兵士さんの足元には、氷一つ生まれていない。
「ネスラさん、ナイスです!」
「……壁を伸ばして。拘束は、こっちで持つ」
「はいっ!」
私はミライを振った。
兵士さんが下がる。
その後ろへ、新しい壁がせり上がった。
これなら、通せる!
◇
『船、南西の丘へ寄せるにゃ。着陸場所は確保したよ』
通信魔道具から、ルカさんの声が響いた。
『東は駄目。窪地の向こうに、まだいる』
「了解したでござる!」
船が進路を変える。
丘の上には、黒と白の猫耳を持つ女性が立っていた。
誘導に従って船体が高度を落とすと、ルカさんが船縁へ軽やかに飛び乗った。
「遅いにゃ。温かいご飯、冷めちゃうところだった」
「まだ用意していませんよ」
「じゃあ、先に仕事かあ」
そう言って笑い、仲間たちを見回す。
アルディスさん。
ルシャナさん。
カナメさん。
ドーンさん。
そして、ルカさん。
五人が、同じ場所に立っていた。
「……来たんだね」
「ああ」
アルディスさんが頷く。
「待たせた」
「ほんとにゃ」
ルカさんの尻尾が、一度だけ揺れた。
次の瞬間には、地上を指している。
「北の群れが一番多い。東から回ってくる連中は、私が見ておく。南の街道は、この丘を越えるまで使えるにゃ」
「拙者は東を塞ぐ」
「私は救護を。ドーン、歩けない方をこちらへ」
「任せい!」
「北は俺が押す。ルカ、深いところまで行くなよ」
「そっちこそ、追いすぎるなにゃ」
短い言葉だけで、五人が動き出した。
アルディスさんが最初に地面へ降りる。
その背へルシャナさんの旋律が届き、カナメさんの足元に召喚陣が広がった。
……すごい。
誰かの準備が終わるのを待っている人がいない。
全員が、仲間の動く先を知っているみたいだった。
◇
北側の土壁を、アルディスさんが駆け上がった。
「こちらだ!」
影が顔を上げる。
飛びかかった一体を斬り、その背後へ着地する。
振り返った群れの間を、剣の光が走った。
一体ずつ追っているんじゃない。
兵士さんたちへ向かっていた影を、自分の方へ引きつけているんだ。
「後衛、下がれ! 今のうちだ!」
指揮官さんの声で、竜人兵さんたちが荷車へ追いつく。
東では、巨大な召喚獣が地面を踏みしめていた。
その身体を壁にして、カナメさんが影の流れを北へ曲げていく。
「そちらへは行かせぬでござる!」
脇を抜けた一体が、突然よろめいた。
「抜け道は閉店にゃ」
ルカさんだった。
短剣で脚を払ったと思ったら、もう次の影の背後へいる。
群れの正面には立たない。仲間の目が届かない隙間へ入り込み、抜けてくる敵だけを確実に止めていた。
「カナメ、右奥!」
「見えている!」
召喚獣が向きを変える。
その巨体に押し戻された影を、アルディスさんの剣が薙いだ。
街道では、傾いた荷車へドーンさんが肩を入れていた。
「乗ったままでよい! しっかり掴まっておれ!」
車輪が溝を抜ける。
同時に、背後から影が飛びかかった。
「邪魔じゃ!」
振り返りざまの戦槌が、影を横へ吹き飛ばした。
「車輪を直せ! その間は、わしがここにおる!」
ドーンさんが荷車の前へ立つ。
兵士さんたちが、その背後で負傷者を運び始めた。
そこへ、水の精霊が舞い降りる。
ルシャナさんの竪琴に合わせて、傷口を淡い光が覆った。
「歩ける方は、隣の方へ肩を貸してください。急がなくて大丈夫。列についていきましょう」
泣いていた人が顔を上げる。
けれど、震えまで消えたわけじゃない。
それでも、差し出された手を取って立ち上がった。
光の精霊が、進む道の先を照らしている。
戦う人。
運ぶ人。
歩き出す人。
ルシャナさんの旋律が、その全部をつないでいた。
「……セリス」
ネスラさんに呼ばれ、私は振り返った。
「東、また増えた」
「うわっ……!」
丘の向こうから、新しい群れが回り込もうとしていた。
「シルキーさん! レスターさん!」
「見えているのです!」
「風で街道から離す。シルキー、頼めるね」
「当然なのです!」
レスターさんの周囲に、複数の魔法陣が浮かぶ。
風が群れの側面へ回り、影を北の窪地へ押し流した。
同時に、その上へ紫色の光が集まっていく。
「ふふーん♪ 逃げ場はないのです!」
シルキーさんが杖を振り下ろした。
雷が、枝分かれしながら落ちる。
一本の巨大な雷じゃない。
押し集められた影を、それぞれ狙っている!
紫電が地面を走り、窪地の内側で収束した。
黒い輪郭が、まとめて崩れる。
「……すごい!」
「えっへん!」
シルキーさんが胸を張った。
「今の精度、見ましたか!」
「はいっ! 風が止まる前に、落下位置を合わせてましたよね!?」
「ふふーん♪ よく気づいたのです!」
「二人とも、続きはあとで」
レスターさんが、次の風を組みながら言った。
「……ただ、今のは見事だったよ、シルキー」
「当然なのです!」
「……自分も褒めるんだ」
ネスラさんが小さく呟いた。
◇
荷車の最後尾が、丘の南へ抜けていく。
でも、北の森には、まだ黒い影が残っていた。
倒せば進める。進めば、また現れる。
このままじゃ、英雄さんたちが離れられない。
私はミライの記録を見た。
《電磁加速砲》。
そして、狙った空間へ力を集中させる《インパクト》。
……あ。
「ミライ。弾体に、衝撃を顕現させる術式を重ねられる?」
『条件の指定が必要です』
「指定地点に届いたら起動。圧縮の中心を分けて、範囲の外には広げない」
『演算を開始します』
「……セリス」
ネスラさんが、こちらを見ていた。
「何を考えたの」
「《電磁加速砲》で、術式も一緒に届けます!」
「……届けて?」
「着弾したところで、《インパクト》です!」
「…………」
その目が、ゆっくり細くなった。
「どのくらい?」
「北の窪地に集まった影を、まとめて」
「……名前より先に、範囲を見せて」
私は空中へ地図を広げた。
丘の南には、避難民。
北の窪地には、押し戻された影。
その間には、私たちが作った土壁がある。
「ここです。アルディスさんたちが下がれば撃てます」
「窪地の向こうは?」
「ルカさんに確認してもらいます!」
カナメさんが、地図を覗き込んだ。
「以前の砲に、さらに術式を重ねるのでござるか」
「はい! ミライに、起動と制御を任せられますから!」
『演算完了。指定範囲を表示します』
地図に、青銀色の輪郭が重なった。
ネスラさんが、その外縁へ指を置く。
「……土煙は、こっちで遮る。撃つ前に、全員へ知らせて」
「はいっ!」
連絡が飛ぶ。
ルカさんが窪地の奥を確かめ、最後に残った兵士さんを南へ誘導した。
カナメさんの召喚獣が、群れを押し留めたまま横へ退く。
アルディスさんが、土壁を越えて戻ってきた。
「準備は?」
「もうできます!」
「分かった。見せてもらおうか」
その言葉に、胸が跳ねた。
私はミライを構える。
冷却。
磁場形成。
弾体の周囲に、顕現させる衝撃の条件を刻む。
青白い魔法陣が、杖の先へ幾重にも重なった。
自分で全部を組み立てていたら、きっと間に合わない。
でも今は、私が次を考えている間に、ミライが術式を整えてくれる。
『加速術式、安定。着弾時の顕現条件を確認』
「うん。その条件で!」
「……おいおい」
アルディスさんが、魔法陣を見上げた。
「ちょっと、じゃ済まなさそうだな」
「嬢ちゃん、そいつは何という魔術じゃ?」
ドーンさんに聞かれ、私は顔を上げた。
電磁加速砲と、インパクト。
雷みたいに速くて。
とびっきり強い衝撃を届けるんだから――。
「《超・ライトニングインパクト》です!」
「……超?」
ネスラさんが繰り返した。
「はいっ!」
『術式名を登録。《超・ライトニングインパクト》』
「……ミライも、覚えるの早いね」
えへへ。
格好いいと思うんです!
『発射可能』
私は窪地の中央を見据えた。
「いっけえええっ!!」
『《超・ライトニングインパクト》。発射』
青白い閃光が、空を裂いた。
次の瞬間、窪地の中央で光が弾ける。
けれど、衝撃は外へ広がらなかった。
幾つもの青銀色の魔法陣が地面すれすれに開き、その内側へ黒い群れが引き寄せられる。
逃げようとした影も、跳び上がった影も、重なり合う衝撃に挟まれて潰れた。
――ドォォォンッ!!
遅れて、音が届く。
土煙が噴き上がり、ネスラさんの氷壁へぶつかった。
レスターさんの風が、その煙を人のいない方へ流していく。
そして、窪地が見えた。
黒い群れのあった場所には、幾つもの窪みと、剥き出しの土だけが残っていた。
「…………にゃ?」
ルカさんの耳が、ぴんと立つ。
アルディスさんが剣を下ろした。
「……なあ、セリス」
「はいっ!」
「今の、いつ作った?」
「組み合わせたのは、今です!」
沈黙。
「……今?」
「元の魔術は、ちゃんと試してありますよ!」
「そこなのかにゃ!? 驚くところ、そこじゃないにゃ!」
ルカさんが私と窪地を交互に見る。
ドーンさんが、とうとう笑い出した。
「がっはっは! 聞いたか、アルディス! 今じゃと!」
「聞いたよ。聞いたから、困ってるんだ」
カナメさんは額へ手を当てていた。
「避け方を考えていた間に、別の魔術になってしまったでござる……」
「ふふっ。帰ってからのお話が、また増えましたね」
ルシャナさんが微笑む。
隣では、シルキーさんが杖を握り締めていた。
「むむむ……!」
「シルキーさん?」
「負けていられないのです! わたくしも、お兄様の風と雷を――」
「まずは救援を終えてからだね」
「分かっているのです!」
「帰ったら、一緒に考えよう。君の雷なら、もっと面白いことができる」
「……ふふーん♪ 約束なのです!」
すぐに機嫌が直った。
「……セリス。北、残ってる」
ネスラさんの声に、私は杖を握り直した。
「はいっ!」
歓声は、まだあとだ。
◇
残った影は、群れを立て直せなかった。
林へ戻ろうとした個体をルカさんが見つけ、アルディスさんが追いつく。
街道へ向かった影は、竜人兵さんたちの槍と、ドーンさんの戦槌に阻まれた。
やがて、指揮官さんが声を張った。
「周辺の影、討伐完了! 警戒を続けつつ、搬送を再開する!」
一瞬の静けさ。
それから、歓声が上がった。
「勝った……!」
「道が開いたぞ!」
「六英雄だ! 助けに来てくださった!」
槍を掲げる兵士さん。
家族を抱き締める人。
荷車の上で、声を上げて泣く子ども。
私は、ようやく息を吐いた。
間に合った。
あの列を、守れたんだ。
「……お疲れさま」
ネスラさんが隣へ来た。
「ネスラさんも!」
「結界、もう少し頼める?」
「はいっ。荷車について動かします!」
ミライへ魔力を送る。
喜びながらでも、進めるように。
少しでも、安心して歩けるように。
後ろで、ドーンさんの声が響いた。
「よくぞ、守り抜いた!」
指揮官さんが深く頭を下げる。
「援軍に、心より感謝いたします……!」
「お前さんたちが踏みとどまったから、わしらが間に合ったんじゃ」
ドーンさんは、その肩を叩いた。
「胸を張れ。立派な竜人の戦士たちじゃ!」
指揮官さんの口元が震えた。
若い兵士さんが、盾へ額を押しつけている。
荷車の上から、小さな手がその肩へ伸びた。
「兵隊さん」
兵士さんが顔を上げる。
「追いついてくれて、ありがとう」
その人は、何度も頷いていた。
アルディスさんが、少し離れた場所から見つめている。
「……あいつが見たら、喜ぶだろうな」
「ええ」
ルシャナさんが頷いた。
「きっと、誰より大きな声で」
ドーンさんの笑い声が、また街道へ響く。
私はミライを抱え直し、動き始めた荷車の隣を歩いた。
◇
竜人国、王都。
「北部撤退部隊より、救援成功の報告です!」
アルゼイン王が顔を上げた。
「避難民は?」
「護衛を再編し、南下を再開しております。負傷者への治療も始まりました!」
王の肩から、わずかに力が抜ける。
「……誰が、間に合った」
「六英雄の方々です。ルカ殿も現地で合流されました」
報告官が、続く記録へ目を落とした。
「さらに、《青銀の魔女》セリス・アルフィーネ殿。魔族国魔法師団長シルキー・リーン殿、教国魔法師団長レスター・リーン殿。そして、人間国魔法師団長ネスラ殿」
軍務官たちが、顔を上げた。
「各国の魔法師団長が……」
「はい。リーン兄妹が風と雷で敵を排除。ネスラ殿が拘束と防護を担当し、青銀の魔女が避難路を形成。大規模な魔術によって、敵の主群を撃破したとのことです」
王は、地図の街道へ手を置いた。
そこには、救援を求める札が残っていた。
「……来てくれたか」
遠い日、この国を守るために並び立った英雄たち。
その仲間が、再び竜人の民を守っている。
今度は、新たな者たちとともに。
「ドグル。お前の仲間たちが、帰ってきたぞ」
静かに呟き、王は顔を上げた。
「受け入れ先へ知らせよ。食事と治療の準備を急がせるのだ」
「はっ!」
「先遣隊には、民を守ってくれたことへの感謝を。撤退部隊とともに、最後まで送り届けてほしいと伝えよ」
報告官が駆け出していく。
王は、救援要請の札を外した。
まだ、空白の到着欄は多い。
それでも、一つの列が再び動き始めた。
◇
街道の東側で、ルカはしゃがみ込んでいた。
影が出てきた林。
その手前の泥に、足跡が残っている。
草を踏み倒した跡は、林の奥へ続いていなかった。
街道から外れ、木々の間へ入り、そこから再び街道へ戻っている。
「……こっちから?」
ルカは、折れた枝を持ち上げた。
幹に引っ掛かっていたのは、荷車の覆いに使う布だった。
少し先には、浅い車輪の跡もある。
人々が、ここへ逃げ込んだ。
その足跡に、影の通った痕跡が重なっている。
どちらが先か。
どこで出会ったのか。
まだ、分からない。
「ルカ殿、何か見つかったでござるか」
カナメの声に、ルカは顔を上げた。
「北から来た群れとは、別かもしれないにゃ」
「別?」
「東の連中。奥の森を通ってきたなら、もっと枝が折れてるはずなんだよね」
ルカは、街道へ続く跡を指した。
「でも、こっちにはある。人の足跡も、荷車の跡も」
遠くで、避難民を励ます声がした。
カナメが、静かに林を見渡す。
「……人々を追って、回り込んだのでござろうか」
「それなら、その前の足跡が欲しいにゃ」
ルカは立ち上がった。
「この一団が、どこから来た人たちなのか調べたい。護衛してた兵士にも、話を聞かせて」
倒した影は、もう何も答えない。
ルカは、踏み荒らされた地面をもう一度見た。
影が現れた森の奥ではなく。
人々が逃げてきた、街道の方を。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに英雄たちが再集結! やっぱり歴戦の仲間たちの連携は格好いいですね!
そしてセリスさん。
《電磁加速砲》と《インパクト》を組み合わせて、まさかの新魔術誕生です!
しかも名前は《超・ライトニングインパクト》!
……うん。ネーミングセンスまで含めて、実にセリスらしい!w
でも今回、個人的に一番好きなのは、あの若い竜人兵と子どもの再会です。
強い人だけが英雄じゃない。誰かを守ろうと踏みとどまる、その姿もまた英雄なんですよね。
さて、最後にルカが見つけた痕跡は……?
次回もお楽しみに!




