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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第6幕「絶望情報強度 ― Despair Information Intensity ―」
63/77

第60話「六英雄、緊急対策会議!?」

影との戦闘を経て、少しずつ集まり始めた観測記録。


セリスとシルキーの研究が進む一方、各国でも不穏な動きが……。


そして今回は、六英雄たちによる緊急対策会議!


果たして、魔法オタクのセリスは真面目に会議へ参加できるのでしょうか?(笑)


それでは、第60話をお楽しみください!


「おおっ! もう記録が届いてます!」


 翌朝、研究室へ入ると、机の上に報告書が並んでいた。昨日渡した試作指輪を使い、近隣の警備隊が比較観測を始めてくれたらしい。


 私はさっそく一枚を手に取った。


 同じ兵士さんが、同じ指輪で光を作った記録だ。

 詰め所では、補正はほとんど必要なかった。ところが、影が目撃された街道沿いでは、明るさを保つために何度も調整している。


「違いが出てますね!」

「ふふーん♪ こちらも見るのです!」


 シルキーさんが、隣の報告書を差し出した。


 そちらでは、影が現れた場所でも光は安定していた。一方、討伐後にも補正が必要だったという記録もある。


「……影がいた場所なら、どこでも同じってわけじゃないんですね」

「ええ。時刻も含めて、比べていく必要があるのです」


 私はミライに記録を整理してもらい、地図の上へ観測地点を並べた。


 私たちが行っていない場所にも、調べてくれる人がいる。

 昨日は分からなかったことが、こうして少しずつ届くのだ。


 次の紙を手に取ったところで、扉が開いた。


「シルキー様! 第二警備所から緊急報告です!」


 入ってきた魔術師さんが、息を整えながら書状を差し出す。


「昨夜出現した影は討伐されました。しかし、救護中の兵士に異常が続き、周辺では魔術の不調も確認されています」

「搬送は進んでいるのです?」

「はい。ただ、まだ現地に残っている者がおります。救護と護衛の増援を求めています」


 シルキーさんは書状に目を通し、頷いた。


「両班を手配するのです。わたくしたちも向かいます」

「はい!」


 私は観測用の指輪を箱へ戻し、ミライを手に取った。


「セリスさん、記録も持っていくのです」

「もう入れました!」

「ふふーん♪ では、出発なのです!」


     ◇


 第二警備所の門前には、救護用の馬車が並んでいた。


 担架を運ぶ人。その人たちの通り道を空ける人。街道へ目を配り、周囲へ合図を送る人。

 昨日伝えた役割分担が、ここではもう動き始めている。


「シルキー様!」


 隊長さんが駆け寄ってきた。


「搬送できる者から出発させています。残る一人が門へ近づくのを怖がっており、医療班が付き添っています」

「様子を見に行くのです。その間に、増援を配置してほしいのです」


 布で仕切られた救護所には、若い兵士さんが座っていた。

 毛布を握り、門の方を見つめている。


「……あそこには、戻りたくない」

「森へは戻りませんよ。馬車は、反対の街道へ進みます」


 隣にしゃがんだ医療班の人が、進む方を手で示した。


「ここから馬車までは、私も一緒です」


 兵士さんはしばらく動かなかった。

 やがて、毛布から片手を離し、差し出された腕へ触れた。


 私は入口で足を止めた。

 医療班の人がこちらへ小さく頷く。私も頷き返し、通り道を空けた。


「観測班の準備ができました」


 背後から声がした。


 シルキーさんが隊長さんへ振り返る。


「救護は、このまま進めてほしいのです。こちらは観測に入ります」

「承知しました」


     ◇


 最初の観測地点は、警備所から離れた街道だった。


 護衛が周囲を見る中、観測役の兵士さんが指輪をはめた。

 魔石から魔力が供給され、指先に小さな光が灯る。


「明るさ、基準どおりです。補正はほとんど要りません」


 記録を取ってから、昨夜の交戦地点へ移った。


 同じ人が、同じ指輪で、同じ明るさの光を作る。

 今度は、灯った直後に輪郭が揺れた。


「……少し、弱くなります」


 兵士さんが意識を集中させると、光が戻った。

 けれど、しばらくすると、また細く揺らぎ始める。


「ミライ、今の調整を記録して」

『YES、セリス。出力維持に必要な補正量が増加しています』


 私は光と、その向こうの地面を見た。

 昨夜、影が倒された場所だ。今は、焦げた跡だけが残っている。


「ここでも、続いてますね」

「ええ。次は時間を変えて、同じ地点を測るのです」


 シルキーさんが記録係へ声をかけた、そのときだった。


「森に影! 二体です!」


 観測役の兵士さんが光を消した。


 私も顔を上げる。

 木々の間に黒い輪郭が二つ。その一方がこちらへ進み、もう一方は街道の方へ身を翻した。


 ……また、馬車へ?


「救護班、出発するのです! 護衛は馬車について!」

「了解!」

「観測班は後退! 討伐班、街道側を押さえるのです!」


 声が飛び、兵士さんたちが動いた。


 記録用の魔石は箱へ収まり、観測班が下がっていく。馬車の車輪は、もう回り始めていた。


「ミライ、二体を捕捉!」

『対象二体を捕捉』

「セリスさん、森側を!」

「はい!」


 私は近づいてくる影へ、雷の術式を展開した。


 光の輪が閉じかけたところで、端がわずかに歪む。

 今度は、その揺れを待たずに魔力を調整した。


「そこ!」


 輪の内側を雷が走り、黒い身体を包む。

 影は腕を振り上げたまま崩れ、消えた。


『対象一体、消失』


 すぐに街道へ視線を移す。


 もう一体の前には、討伐班の盾が並んでいた。影が横へ抜けようとすると、紫色の雷が地面を貫く。


「そちらへは行かせないのです!」


 シルキーさんの杖が、影の動きを追った。


 馬車の護衛は戻ってこない。そのまま馬車を送り出し、討伐班が影の進路を狭めていく。


「右へ出るぞ!」


 兵士さんの声と同時に、影が身を翻した。

 その先へ、一本に束ねられた雷撃が落ちる。


 黒い輪郭が、光の中で崩れた。


「対象消失!」

「周囲の警戒は続けるのです!」


 シルキーさんの指示に、兵士さんたちが再び外へ目を向ける。


 私は街道の先を確かめた。

 救護馬車は、すでに遠ざかっている。観測班も、荷物を抱えて後方へ移れていた。


「……皆さん、早かったですね!」

「えっへん! 打ち合わせた甲斐があったのです!」


 シルキーさんが胸を張った。


 昨日は、影を止めながら、馬車をどう逃がすか考えていた。

 今日は私たちが倒し終わる前に、馬車が離れていた。


 私は戻ってきた観測役の兵士さんへ声をかけた。


「記録は無事ですか?」

「はい。全部持って下がれました」


 箱を掲げる姿に、思わず笑みがこぼれた。


「よかったです!」


     ◇


 夕方、本部へ戻った私たちを待っていたのは、ルシャナさんとカナメさんだった。


「お帰りなさい。ちょうど、こちらも準備が整ったところよ」


 ルシャナさんの隣で、カナメさんが床の魔法陣へ最後の線を加える。


「各国との遠隔会議でござる。二人の報告も、共有してもらいたいのでござるよ」

「遠隔会議!」


 私は思わず魔法陣へ近づいた。


「これ、複数の場所と同時につなぐんですか!?」

「そのとおりでござるが――」

「送り先ごとに回路が分かれてる! じゃあ、受け取る声はどうやって混ざらないように……」

「セリス殿。まず、つなぐ相手の話を聞くでござる」

「……あっ。はい!」


 ルシャナさんが、くすっと笑った。


「仕組みのお話は、終わってからね」

「約束ですよ!」


 カナメさんが苦笑しながら魔力を流すと、空中に光の窓が開いた。


『おう、セリス! 久しぶりだな!』

「アルディスさん!」


 思わず手を振る。

 その隣にも、別の窓が浮かび上がった。


 黒と白の猫耳を持つ女性が、頬杖をついてこちらを見ている。腰には短剣。背後で揺れる尻尾に目がいきかけたところで、女性が片手を上げた。


『やっとつながったにゃ。……お、初めましての子だ』

「セリス・アルフィーネです!」

『ルカ・ノクス。よろしくね〜』


「獣人国のルカ殿も、六英雄の一人でござるよ」


 カナメさんの説明に、私は背筋を伸ばした。

 すると、次の窓から大きな声が響く。


『がっはっは! 噂の娘がおると聞いて、楽しみにしておったぞ!』


 赤い髪に、編み込まれた立派な髭。

 分厚い鎧には神官らしい紋章があり、傍らには大きな戦槌が置かれていた。


『ドーン・グラディウスじゃ。よろしく頼む!』

「よろしくお願いします!」


 アルディスさん、ルカさん、ドーンさん。

 そして、この部屋にはルシャナさんとカナメさんがいる。


 ……ちょっと待って。


 六英雄と呼ばれる人たちが、五人も集まってる!?


 そこで最後の窓が開いた。


 立派な角を持つ竜人の男性が、静かにこちらを見渡す。

 銀灰色の髪と金色の瞳。背後には、広い王宮の一室が見えた。


 シルキーさんが姿勢を正した。


「アルゼイン陛下。お時間をいただき、感謝するのです」

『構わぬ。各国の状況を聞ける機会は貴重だ』


「竜人国の国王、アルゼイン・ヴェルグラード陛下よ」


 ルシャナさんが、そっと教えてくれる。


「こ、国王陛下!?」

『そう畏まらずともよい。今日は、皆の知恵を借りたい』


 慌てて頭を下げた私に、陛下は穏やかに笑った。


 カナメさんが一歩前へ出る。


「本日は、魔術師団長シルキー・リーン殿と、現地の調査に協力している冒険者にも参加してもらうでござる」


 こちらへ手が向けられた。


「《青銀の魔女》、セリス・アルフィーネ殿でござる!」

『ああ、この子がそうなのかにゃ』


 ルカさんが頬杖を外す。



「おおっ! もう記録が届いてます!」


 翌朝、研究室へ入ると、机の上に報告書が並んでいた。昨日渡した試作指輪を使い、近隣の警備隊が比較観測を始めてくれたらしい。


 私はさっそく一枚を手に取った。


 同じ兵士さんが、同じ指輪で光を作った記録だ。

 詰め所では、補正はほとんど必要なかった。ところが、影が目撃された街道沿いでは、明るさを保つために何度も調整している。


「違いが出てますね!」

「ふふーん♪ こちらも見るのです!」


 シルキーさんが、隣の報告書を差し出した。


 そちらでは、影が現れた場所でも光は安定していた。一方、討伐後にも補正が必要だったという記録もある。


「……影がいた場所なら、どこでも同じってわけじゃないんですね」

「ええ。時刻も含めて、比べていく必要があるのです」


 私はミライに記録を整理してもらい、地図の上へ観測地点を並べた。


 私たちが行っていない場所にも、調べてくれる人がいる。

 昨日は分からなかったことが、こうして少しずつ届くのだ。


 次の紙を手に取ったところで、扉が開いた。


「シルキー様! 第二警備所から緊急報告です!」


 入ってきた魔術師さんが、息を整えながら書状を差し出す。


「昨夜出現した影は討伐されました。しかし、救護中の兵士に異常が続き、周辺では魔術の不調も確認されています」

「搬送は進んでいるのです?」

「はい。ただ、まだ現地に残っている者がおります。救護と護衛の増援を求めています」


 シルキーさんは書状に目を通し、頷いた。


「両班を手配するのです。わたくしたちも向かいます」

「はい!」


 私は観測用の指輪を箱へ戻し、ミライを手に取った。


「セリスさん、記録も持っていくのです」

「もう入れました!」

「ふふーん♪ では、出発なのです!」


     ◇


 第二警備所の門前には、救護用の馬車が並んでいた。


 担架を運ぶ人。その人たちの通り道を空ける人。街道へ目を配り、周囲へ合図を送る人。

 昨日伝えた役割分担が、ここではもう動き始めている。


「シルキー様!」


 隊長さんが駆け寄ってきた。


「搬送できる者から出発させています。残る一人が門へ近づくのを怖がっており、医療班が付き添っています」

「様子を見に行くのです。その間に、増援を配置してほしいのです」


 布で仕切られた救護所には、若い兵士さんが座っていた。

 毛布を握り、門の方を見つめている。


「……あそこには、戻りたくない」

「森へは戻りませんよ。馬車は、反対の街道へ進みます」


 隣にしゃがんだ医療班の人が、進む方を手で示した。


「ここから馬車までは、私も一緒です」


 兵士さんはしばらく動かなかった。

 やがて、毛布から片手を離し、差し出された腕へ触れた。


 私は入口で足を止めた。

 医療班の人がこちらへ小さく頷く。私も頷き返し、通り道を空けた。


「観測班の準備ができました」


 背後から声がした。


 シルキーさんが隊長さんへ振り返る。


「救護は、このまま進めてほしいのです。こちらは観測に入ります」

「承知しました」


     ◇


 最初の観測地点は、警備所から離れた街道だった。


 護衛が周囲を見る中、観測役の兵士さんが指輪をはめた。

 魔石から魔力が供給され、指先に小さな光が灯る。


「明るさ、基準どおりです。補正はほとんど要りません」


 記録を取ってから、昨夜の交戦地点へ移った。


 同じ人が、同じ指輪で、同じ明るさの光を作る。

 今度は、灯った直後に輪郭が揺れた。


「……少し、弱くなります」


 兵士さんが意識を集中させると、光が戻った。

 けれど、しばらくすると、また細く揺らぎ始める。


「ミライ、今の調整を記録して」

『YES、セリス。出力維持に必要な補正量が増加しています』


 私は光と、その向こうの地面を見た。

 昨夜、影が倒された場所だ。今は、焦げた跡だけが残っている。


「ここでも、続いてますね」

「ええ。次は時間を変えて、同じ地点を測るのです」


 シルキーさんが記録係へ声をかけた、そのときだった。


「森に影! 二体です!」


 観測役の兵士さんが光を消した。


 私も顔を上げる。

 木々の間に黒い輪郭が二つ。その一方がこちらへ進み、もう一方は街道の方へ身を翻した。


 ……また、馬車へ?


「救護班、出発するのです! 護衛は馬車について!」

「了解!」

「観測班は後退! 討伐班、街道側を押さえるのです!」


 声が飛び、兵士さんたちが動いた。


 記録用の魔石は箱へ収まり、観測班が下がっていく。馬車の車輪は、もう回り始めていた。


「ミライ、二体を捕捉!」

『対象二体を捕捉』

「セリスさん、森側を!」

「はい!」


 私は近づいてくる影へ、雷の術式を展開した。


 光の輪が閉じかけたところで、端がわずかに歪む。

 今度は、その揺れを待たずに魔力を調整した。


「そこ!」


 輪の内側を雷が走り、黒い身体を包む。

 影は腕を振り上げたまま崩れ、消えた。


『対象一体、消失』


 すぐに街道へ視線を移す。


 もう一体の前には、討伐班の盾が並んでいた。影が横へ抜けようとすると、紫色の雷が地面を貫く。


「そちらへは行かせないのです!」


 シルキーさんの杖が、影の動きを追った。


 馬車の護衛は戻ってこない。そのまま馬車を送り出し、討伐班が影の進路を狭めていく。


「右へ出るぞ!」


 兵士さんの声と同時に、影が身を翻した。

 その先へ、一本に束ねられた雷撃が落ちる。


 黒い輪郭が、光の中で崩れた。


「対象消失!」

「周囲の警戒は続けるのです!」


 シルキーさんの指示に、兵士さんたちが再び外へ目を向ける。


 私は街道の先を確かめた。

 救護馬車は、すでに遠ざかっている。観測班も、荷物を抱えて後方へ移れていた。


「……皆さん、早かったですね!」

「えっへん! 打ち合わせた甲斐があったのです!」


 シルキーさんが胸を張った。


 昨日は、影を止めながら、馬車をどう逃がすか考えていた。

 今日は私たちが倒し終わる前に、馬車が離れていた。


 私は戻ってきた観測役の兵士さんへ声をかけた。


「記録は無事ですか?」

「はい。全部持って下がれました」


 箱を掲げる姿に、思わず笑みがこぼれた。


「よかったです!」


     ◇


 夕方、本部へ戻った私たちを待っていたのは、ルシャナさんとカナメさんだった。


「お帰りなさい。ちょうど、こちらも準備が整ったところよ」


 ルシャナさんの隣で、カナメさんが床の魔法陣へ最後の線を加える。


「各国との遠隔会議でござる。二人の報告も、共有してもらいたいのでござるよ」

「遠隔会議!」


 私は思わず魔法陣へ近づいた。


「これ、複数の場所と同時につなぐんですか!?」

「そのとおりでござるが――」

「送り先ごとに回路が分かれてる! じゃあ、受け取る声はどうやって混ざらないように……」

「セリス殿。まず、つなぐ相手の話を聞くでござる」

「……あっ。はい!」


 ルシャナさんが、くすっと笑った。


「仕組みのお話は、終わってからね」

「約束ですよ!」


 カナメさんが苦笑しながら魔力を流すと、空中に光の窓が開いた。


『おう、セリス! 久しぶりだな!』

「アルディスさん!」


 思わず手を振る。

 その隣にも、別の窓が浮かび上がった。


 黒と白の猫耳を持つ女性が、頬杖をついてこちらを見ている。腰には短剣。背後で揺れる尻尾に目がいきかけたところで、女性が片手を上げた。


『やっとつながったにゃ。……お、初めましての子だ』

「セリス・アルフィーネです!」

『ルカ・ノクス。よろしくね〜』


「獣人国のルカ殿も、六英雄の一人でござるよ」


 カナメさんの説明に、私は背筋を伸ばした。

 すると、次の窓から大きな声が響く。


『がっはっは! 噂の娘がおると聞いて、楽しみにしておったぞ!』


 赤い髪に、編み込まれた立派な髭。

 分厚い鎧には神官らしい紋章があり、傍らには大きな戦槌が置かれていた。


『ドーン・グラディウスじゃ。よろしく頼む!』

「よろしくお願いします!」


 アルディスさん、ルカさん、ドーンさん。

 そして、この部屋にはルシャナさんとカナメさんがいる。


 ……ちょっと待って。


 六英雄と呼ばれる人たちが、五人も集まってる!?


 そこで最後の窓が開いた。


 立派な角を持つ竜人の男性が、静かにこちらを見渡す。

 銀灰色の髪と金色の瞳。背後には、広い王宮の一室が見えた。


 シルキーさんが姿勢を正した。


「アルゼイン陛下。お時間をいただき、感謝するのです」

『構わぬ。各国の状況を聞ける機会は貴重だ』


「竜人国の国王、アルゼイン・ヴェルグラード陛下よ」


 ルシャナさんが、そっと教えてくれる。


「こ、国王陛下!?」

『そう畏まらずともよい。今日は、皆の知恵を借りたい』


 慌てて頭を下げた私に、陛下は穏やかに笑った。


 カナメさんが一歩前へ出る。


「本日は、魔術師団長シルキー・リーン殿と、現地の調査に協力している冒険者にも参加してもらうでござる」


 こちらへ手が向けられた。


「《青銀の魔女》、セリス・アルフィーネ殿でござる!」

『ああ、この子がそうなのかにゃ』


 ルカさんが頬杖を外す。


『おお! 王都の民を救った青銀の魔女か! がっはっは! 思ったより小柄じゃのう!』

「え、えへへ……」


 ドーンさんの声に、何と答えればいいか分からなくなったところで、アルディスさんが笑った。


『セリス、現場で見たことを、そのまま話せばいい』

「……はい!」


 そうだ。

 今日は、研究の結果を伝えに来たんだった。


 私はミライを持ち直した。


     ◇


「では、各地で起きていることを確認しましょう」


 ルシャナさんの言葉に、最初にアルディスさんが頷いた。


『人間国では、先日のスタンピードに気になる点がある。魔物の群れが、何かから逃げていたことだ』


 私は顔を上げた。


 本来なら争う魔物たちが、同じ方向へ押し寄せていた。

 あのとき私は土の壁で道を作り、人のいない谷へ誘導したのだ。


『災厄級の個体まで逃げていた。だが、何が追っていたのかは分からない』

「……森の奥の、あれでしょうか」

『ああ。お前が感じたものも、話してくれ』


 私は頷き、少し息を整えた。


「森の奥に、何かがいたんです。姿は見えませんでしたし、魔力を探っても正体は分かりませんでした。でも……ものすごく、怖かった」


 思い出すと、ミライを握る指が冷たくなる。


「防御結界は張れました。魔術が使えなくなったわけじゃないんです。それなのに、守れる気がしませんでした」


 光の窓の向こうで、ドーンさんが髭を撫でた。


『敵の姿も分からぬまま、それほどの恐怖を覚えたか』

「はい。エルもレイも震えていました。今回の影と関係があるかは、まだ分かりませんけど……」


『その場所は示せるか?』


 アルゼイン陛下の問いに、私は頷いた。


「正確に、何かがいた場所までは分かりません。でも、私が探った方角なら」

『それを記録に残してほしい。魔物の進路とも照らし合わせられる』


 ミライに地図を表示してもらうと、ルカさんが身を乗り出した。


『獣人国では、今のところ影の報告はないよ。でも、森の変化を探るなら手伝えるにゃ』

「偵察隊を出せるのです?」

『まず国境沿いの森と街道を調べる。ほかの国へ入るなら、受け入れ先も決めてもらえると助かるにゃ』

「それは拙者たちで調整するでござる」


 カナメさんが書き留める間に、ルカさんは大きく伸びをした。


『……明日の仕事が決まっちゃったにゃ』

『今日、手配だけはしておけよ』


 アルディスさんに言われ、ルカさんはひらひらと手を振った。


『分かってるよ。出発は早い方がいいんでしょ』


 眠そうな顔のまま、地図へ向ける目は動いていた。


     ◇


『教国では、すでに影が出ておる』


 ドーンさんが、戦槌の柄へ手を置いた。


『特に竜人国との国境付近じゃ。神官隊が救護に当たり、魔術師隊が神殿を守っておるが、討伐後も立ち直れぬ者がいる』

「私たちが助けた兵士さんたちも、同じような状態でした」


 私はミライに、観測記録を開いてもらった。


「それから、影を倒しても、魔術への干渉が残っていました。ここを見てください」


 警備所での記録と、本部で取った記録を並べる。

 現地では細かく揺れていた光量が、本部では一定に保たれていた。


「同じ回路を使っても、現地では何度も調整が必要でした。今日行った第二警備所でも、似たことが起きています」

『どの魔術にも起きるのか?』

「そこは、まだ調べきれていません。私たちは光と雷、防御結界で確認しています」


 ドーンさんの目が細くなった。


『治療の術も、念のため記録させよう』

「お願いしたいのです。使った術式と、そのときの不調を一緒に残してほしいのです」


 シルキーさんが、今日の配置図を示した。


「現場では、討伐、救護、観測の役割を分けたのです。影が現れても搬送を止めず、戦う者が進路を押さえます」

「今日は、影を倒し終える前に馬車を離せました」


 私が付け加えると、ドーンさんは大きく頷いた。


『その手順は、すぐに伝えよう。救護に向かった者まで動けなくなっては、助けられるものも助けられん』


「観測方法もまとめて渡すのです。試作指輪は数に限りがあるので、まず現地の観測担当者に使い方を伝えるのです」

「人員と物資の手配は、拙者たちで進めるでござる」


 カナメさんが顔を上げた。


「それから、連絡手段は複数用意しておきたいでござるな」

『通信魔術への影響を心配しておるのか?』

「まだ不調の確認はないでござる。ですが、使えなくなってから代わりを決めるのでは遅いでござるよ」


 私は床の魔法陣を見た。


 今は、遠くの声がはっきり届いている。

 この術式も乱れるとしたら、そのとき、どうやって知らせればいいんだろう。


「定時の連絡と、途絶えた場合の伝令経路を決めましょう」


 ルシャナさんの提案に、窓の向こうの人たちが頷いた。


     ◇


『我が国にも、気になる報告が届いている』


 アルゼイン陛下が、手元の書類へ目を落とした。


『北部国境で、複数種の魔物が生息域を離れ、同じ方向へ移動しているという』

「……同じ方向に?」

『ああ。争うはずの種同士が、互いを無視して走っていたそうだ。影は、まだ確認されていない』


 私はアルディスさんの窓を見た。

 アルディスさんも、真剣な顔で陛下の話を聞いていた。


『スタンピードの前兆と、断定はできぬ。しかし、確認すべき点は増えた』


 陛下は書類を置いた。


『北部の警戒を強める。周辺の村には避難先と経路を確認させ、教国との情報共有も進めたい』

『こちらも国境付近の救護拠点を確かめておこう』


 ドーンさんが応じる。


『感謝する。魔族国と人間国には、魔術師の支援を願いたい。現地で影に対処した者の経験を、我が国の兵にも伝えてほしい』

「部隊を編成するのです。観測担当も同行させます」

『人間国からの派遣も、こちらで調整しよう』


 シルキーさんとアルディスさんが答えると、陛下はルカさんへ向いた。


『偵察隊の受け入れ先は、北部の砦に用意しよう。周辺の地図も渡す』

『助かるにゃ。森に詳しい案内役も、一人お願い』

『手配する』


 話が、一つずつ具体的になっていく。


 誰が向かうのか。

 どこで合流するのか。

 何を調べ、どこへ知らせるのか。


 ルシャナさんが決まったことを読み上げ、カナメさんが連絡先を確かめた。


 私は、地図の上に増えていく書き込みを見つめていた。


 さっきまで遠い国の話だった場所に、会ったばかりの人たちが向かおうとしている。

 私たちが警備所で取った記録も、そこへ持っていってもらえるのだ。


『セリス殿』


 呼ばれて、私は顔を上げた。


『観測結果に変化があれば、我が国にも知らせてほしい』

「はい! 分かったことは、すぐに!」


 アルゼイン陛下が頷いた。


『こちらで得た情報も送ろう。互いの見えているものを、持ち寄っていこう』


 私はミライを見下ろした。


 明日には、また新しい記録が届く。

 今度は、この部屋だけで比べるものではなくなった。


     ◇


 遠隔会議が終わり、竜人国の王宮から最後の光の窓が消えた。


 アルゼイン王は席を立ち、控えていた側近へ向き直った。


「北部の監視を増やせ。避難経路の確認と、支援部隊の受け入れ準備も進める」

「はっ」

「教国との定時連絡は、本日から始めよ」


 指示を受けた側近たちが動き出す。


 窓の外では、王都の夕暮れが始まっていた。

 商人が荷車を引き、店先では灯りがともされている。広場を走る子どもを、大人が呼び止める姿も見えた。


「……何事もなければ、それでよい」


 王が呟いたとき、扉の向こうから足音が響いた。


「陛下! 北部国境より、緊急報告です!」


 入室を許された伝令が、王の前で膝をつく。


「魔物の群れが砦周辺へ流入しております。数は増え続け、街道にも出ているとのこと!」

「砦を攻撃しているのか?」

「いいえ。砦を避け、そのまま南へ走っております」


 アルゼイン王の視線が、壁の地図へ向いた。

 北部の砦。その南には、街道に沿って村が続いている。


「さらに、後方の森で――」


 伝令が息を継いだ。


「正体不明の黒い人影を、複数確認したとの報告です」


 側近の一人が、手にしていた書類を握り直した。


 王は伝令へ向き直る。


「砦は警戒態勢へ移行。周辺住民の避難を開始せよ。魔物の逃走路と重ならぬ経路を選べ」

「はっ!」

「黒い人影の追跡には深入りするな。救護と街道の確保を優先するよう伝えよ」


 続けて、側近へ指示を出す。


「教国と魔族国へ、この報告を送れ。先ほど確認した連絡経路を使うのだ」


 会議の記録が、再び開かれた。


 担当者が宛先を読み上げ、通信の準備に走る。その間にも、別の側近が地図へ駒を置いていった。


 北部の砦から、南へ。

 その先には村があり、町があり、王都がある。


「避難先への連絡も忘れるな。送り出すだけでは、民を守れぬ」


 アルゼイン王は地図の前へ進み、次の報告を待った。

ついに六英雄が本格的に動き始めました!


豪快な神官戦士ドーンに、自由気ままな猫盗賊ルカ。そして、竜人国の賢王アルゼインも登場です。


戦うだけではなく、調べる、守る、助ける、情報をつなぐ。それぞれの得意分野を活かして、少しずつ対策が形になってきました。


……もっとも、魔法オタクのセリスは会議用の通信魔術にも興味津々でしたが(笑)


さて、各国が協力して備えを進める中、竜人国の国境ではついに影が確認されました。


次回、竜人国では何が起こるのか。


引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです!


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