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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第5幕 青銀の魔女、世界を巡る!
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第55話「魔力ゼロでも、魔術師になれますか!?」


 翌朝。


「それでは本日、ミライさんの使用者適応試験を行うのです!」


 研究室に入ると、シルキーさんが得意げに宣言した。

 机には測定器と数種類の魔石。その向こうには、魔術師団の研究員が二人待っている。


「昨日まではセリスさん専用だったのです。今日は魔力特性の異なる人にも使ってもらい、演算機構の適応性を確認するのです!」


「なるほど! 面白そうですね!」


 私はミライを持ち上げた。


「ミライ、今日はほかの人にも使ってもらうよ!」


『別使用者による試験予定を記録しました』


「よろしくね!」


 まずは風属性を得意とする研究員さんに、《発光》を試してもらう。

 ミライが魔力特性を測定し、それに合わせて術式を調整すると、杖の先に小さな光が灯った。


「……あら。いつもよりずっと簡単です」


「おおっ、成功ですね!」


 続いて火属性が得意な研究員さんにも試してもらったけれど、こちらも問題なし。

 ミライは使用者ごとの違いを記録し、術式の組み立て方を少しずつ調整していった。


「ふふーん♪ 予想以上の適応性なのです!」


 シルキーさんが測定結果を見ながら、満足そうに頷く。


「これなら、使用者ごとに専用の杖を設計する手間も減らせるのです」


「よかった!」


 私はミライを受け取り、持ち手を撫でた。


「ありがとう、ミライ!」


『試験結果を記録しました』


 ……えへへ。

 ちゃんと、ほかの人の役にも立てたね。

 でも、ふと思った。


「……シルキーさん」


「何なのです?」


「魔力がない人にも、使えるようにできませんか?」


 シルキーさんが顔を上げた。


「魔力がない人、なのです?」


「はい! 魔術を使ってみたい人、きっといると思うんです」


「それなら、魔石式の魔導具があるのです」


 シルキーさんは机の魔石を指さした。


「魔石から魔力を供給して、あらかじめ組み込んだ術式を起動するのです。街の照明も、保温器具も、基本的には同じ仕組みなのです」


「はい。それは知ってます!」


「……む?」


「でも、それって、魔術を使っているのは道具ですよね?」


 シルキーさんが首を傾げた。


「……どういうことなのです?」


「例えば、明かりの魔導具なら、スイッチを入れたら光ります。でも、どこを照らすかとか、どのくらい明るくするかって、最初から決まってますよね?」


「もちろん、調整機能をつけることはできるのです」


「そうじゃなくて……」


 私は少し考えてから、机の魔石を一つ手に取った。


「魔力がなくても、明るくしたいって思うことはできますよね?」


「……それは、そうなのです」


「だったら、その人が思い描いた明かりを、そのまま魔術にできないかなって!」


 シルキーさんが、ぴたりと動きを止めた。


「……セリスさん」


「はい?」


「それは、魔導具の操作方法を変える話ではないのです?」


「違います!」


 私は頷いた。


「その人自身が、魔術を使えるようにしたいんです!」


「…………」


 シルキーさんは、しばらく黙っていた。

 やがて、ゆっくりと口を開く。


「……魔力の供給と、魔術を顕現させる主体を、分けるのです?」


「はい!」


「魔力は魔石から供給する。けれど、何を顕現させるかは、使用者の内的世界から決める……」


「そうです!」


「……そんなことが、できるのです?」


「分かりません!」


「分からないのです!?」


「だから、試してみたいんです!」


 シルキーさんは一瞬ぽかんとしたあと、額に手を当てた。


「……まったく、セリスさんは……」


 そう言いながら、口元が緩んでいる。


「ふふーん♪ ですが、面白いのです!」


     ◇


 問題は、魔力を持たない人のイメージを、どうやって術式へつなげるかだった。

 普通の魔術なら、術者の魔力が内的世界と外部の現象を結びつける。

 でも、魔力がなければ、その経路がない。


「……じゃあ、こっちからつなげばいいのかな?」


 私は魔石を見つめた。


「ミライ、ちょっと相談していい?」


『YES、セリス』


「魔石から、すごく弱い魔力場を作るんだよ。その魔力場が、使う人のイメージに触れたときの変化を拾えないかな?」


『条件を確認。外部魔力場と使用者の内的情報との共鳴を測定する方式ですね』


「そう! 本人から魔力を出してもらわなくても、共鳴が起きるなら……」


『共鳴変化を入力情報として利用できる可能性があります』


「だよね!」


 私は机に紙を広げた。


「じゃあ、《発光》に必要な部分だけ取り出して、この入力につなげられる?」


『共鳴顕現方程式から、指定現象に対応する構成を抽出します』


 ミライの先端に、小さな魔法陣が浮かび上がった。

 その内側を、細かな式が次々と流れていく。


「……あっ、そこは違うかな」


 私は表示された構成を指さした。


「このままだと、使用者のイメージが曖昧なとき、出力が不安定になるよね?」


『指摘を確認。共鳴強度の閾値を設定します』


「うん。それと、光の大きさと熱量には上限をつけよう!」


『制限条件を追加します』


 式が組み直され、魔法陣の形が変わる。

 私は何度か確認しながら、必要な部分を抜き出していった。


 今回は新しい魔術を自由に作る必要はない。

 《発光》だけ。

 ただし、光を生み出す場所や明るさは、使う人のイメージによって変わる。


「……これなら、いけるかも!」


「……ちょっと待つのです」


 横から覗き込んでいたシルキーさんが、図面を引き寄せた。


「数式はさっぱりなのですが……この魔力の流れは、読めるのです」


 シルキーさんは、魔石から伸びる線を指でなぞった。


「こちらから微弱な魔力場を作って、戻ってくる変化を拾うのです?」


「はい!」


「そして、その変化を術式の入力にする……」


 シルキーさんが、ゆっくり顔を上げた。


「……待つのです」


「はい?」


「それでは、魔術の発動を決めているのは……」


「使う人です!」


「…………」


 シルキーさんの目が、大きく見開かれた。


「……セリスさん」


「はい!」


「それは、魔導具を動かしているのではないのです。使用者が、魔術を発動しているのです……!」


「そうです!」


「……な、なんということを考えるのです!?」


 シルキーさんが机に両手をついた。


「魔力を持たない人が、魔術師になれるかもしれないのです!!」


「えへへ。そうなったら、嬉しいですよね!」


「嬉しいどころの話ではないのです!!」


 シルキーさんは興奮した様子で図面を見直し、それから突然、引き出しを開けた。


「……ですが、この構成なら!」


 取り出したのは、小さな銀色の指輪だった。


「それだけの回路なら、この台座に収まるのです!」


「……指輪!?」


「ふふーん♪ 魔導銀の細線加工は、わたくしの得意分野なのです!」


「すごい! 持ち歩けますね!」


「もちろん、魔石の出力制限と安全機構も必要なのです。共鳴が不安定になったら、供給を遮断するのです!」


「お願いします!」


「任せるのです! えっへん!」


 ……うん。

 やっぱりシルキーさん、頼りになるなあ。


     ◇


 午後。

 試作品の指輪が完成した。

 銀色の細い輪に、小さな青い魔石。その周囲には、肉眼ではほとんど見えないほど細かな魔導回路が刻まれている。


「……可愛い!」


「ふふーん♪ 機能だけでなく、装着感も考えたのです!」


 私は指輪を手に取った。


「じゃあ、試してみましょう!」


「その前に、協力者を呼ぶのです!」


 シルキーさんが扉を開けると、一人の女性が入ってきた。

 落ち着いた雰囲気の、魔術師団の道具管理を担当している人だった。


「アリアと申します。よろしくお願いします」


「セリスです! よろしくお願いします!」


 アリアさんは机の指輪を見て、少し困ったように笑った。


「あの……本当に、私でいいんでしょうか?」


「もちろんです!」


「私、魔力がまったくないんです。子どもの頃から、一度も魔術を使えたことがなくて……」


「はい。だから、お願いしたいんです!」


「……え?」


 私は指輪を差し出した。


「これ、魔力がなくても、自分で魔術を使えるようにするための道具なんです!」


 アリアさんは、しばらく指輪を見つめていた。


「……そんなことが、できるんでしょうか?」


「まだ分かりません!」


「……えっ?」


「だから、一緒に確かめてほしいんです!」


 アリアさんは目を丸くしたあと、ふっと笑った。


「……分かりました。私でよければ」


「ありがとうございます!」


 指輪をはめてもらい、シルキーさんが測定器を確認する。


「魔力保有量、ゼロ。魔石の供給は正常なのです」


「ミライ、共鳴の変化を見ていてね!」


『YES、セリス。測定を開始します』


 準備は整った。


「それじゃあ、アリアさん。明かりを灯してみてください!」


「……はい」


 アリアさんが指輪を見つめる。

 けれど、何も起こらなかった。


「……あの」


「はい?」


「どうすれば、いいんでしょう?」


 私は首を傾げた。

 ……そうだよね。

 魔術を使ったことがない人に、いきなり明かりを灯してって言っても、困っちゃうよね。


「ミライ、共鳴はどう?」


『微弱な反応を検出。ただし、顕現条件に達していません』


「……そっか」


 私は表示された式を見直した。

 共鳴は起きている。

 でも、何を照らしたいのか、どこに光が必要なのかが、うまくつながっていない。


「……アリアさん」


「はい」


「普段、明かりがあったら便利だなって思うこと、ありますか?」


「……明かり、ですか?」


「はい! どんなときに、どこを明るくしたいですか?」


 アリアさんは少し考えてから、研究室の隅にある棚を指さした。


「あそこの奥に、道具の管理札があるんです。でも、いつも影になっていて、文字が読みにくくて……」


「……なるほど!」


 私は棚を見た。

 確かに、奥の札には窓からの光が届いていない。


「じゃあ、あそこを照らしてみましょう!」


 私はミライへ小声で相談した。


「ミライ、今の共鳴反応、対象の位置がうまく拾えてないよね?」


『YES、セリス。位置情報の一致率が不足しています』


「じゃあ、手を伸ばした方向と共鳴の変化を合わせてみよう。光を出す場所は、指輪じゃなくて、照らしたいところに!」


『条件を更新。位置推定方式を変更します』


 私は新しい構成を確認した。


「……うん。これなら!」


 シルキーさんも回路の反応を確かめる。


「魔力場は安定しているのです。出力制限も正常なのです!」


「ありがとうございます!」


 私はアリアさんに向き直った。


「アリアさん。あの札を、読めるようにしてみませんか?」


「……私が、ですか?」


「はい!」


 アリアさんは、少し戸惑いながら棚へ手を伸ばした。

 その指先が、暗い棚の奥を向く。


「……あそこが、明るくなったら……」


 小さな呟き。

 指輪の魔石が、淡く輝いた。


『共鳴反応を検出』


 ミライの声が響く。


『顕現条件に到達』


 次の瞬間。


 棚の奥に、小さな光が生まれた。


 ぽうっと、柔らかな青白い光。

 管理札の文字が、はっきりと浮かび上がる。


「…………」


 アリアさんが、動きを止めた。

 伸ばした手を見つめ、それから棚の奥へ目を向ける。


「……見える」


 小さな声だった。


「……札が、読めます」


 私は思わず、アリアさんの顔を見た。

 驚いたように目を見開いていた彼女の口元が、少しずつ緩んでいく。


「……私が、光らせたんですか?」


 その声は、わずかに震えていた。


 私は、すぐには答えられなかった。


 光は、本当に小さかった。

 私なら、もっと大きな光を、いくつでも作れる。


 でも。


 アリアさんは、まるで初めて星を見つけたみたいに、その光を見つめていた。


「……セリスさん?」


 呼ばれて、私は顔を上げた。

 そして、笑った。


「はい」


 私は、はっきりと頷いた。


「あなたの、魔術です」


「…………」


 アリアさんの目に、涙が浮かんだ。


「……私にも」


 もう一度、棚の光を見つめる。


「……私にも、魔術が使えたんですね」


「はい!」


 今度は、すぐに答えられた。


「アリアさんが、使ったんです!」


 シルキーさんが、隣で大きく頷いた。


「魔力は魔石から供給しているのです。ですが、術式を起動するスイッチは押していないのです。光を顕現させたのは、アリアさんの意志なのです!」


 アリアさんは、指輪を見つめた。

 そっと手を下ろすと、棚の光が消える。

 もう一度、棚へ手を伸ばす。

 小さな光が、また灯った。


「……あ」


 アリアさんが笑った。


「……もう一度、できました」


「えへへ。できましたね!」


 そのときだった。


 ――リン。


 澄んだ音が、研究室に響いた。

 目の前に、淡い光の文字が浮かび上がる。


《世界初の顕現事象を確認》


《魔力非保有者による自発的魔術顕現を認定》


「……え?」


 私は目を瞬かせた。

 文字は、まだ続いている。


《功績評価を開始》


《アリア:称号《始まりの魔術師》を獲得》


《経験値を付与》


《レベルアップ:Lv8 → Lv25》


「…………えっ?」


 アリアさんが、固まった。


「……に、二十五?」


 シルキーさんも測定器を覗き込む。


「……ま、間違いないのです! レベルが十七も上がっているのです!?」


「すごい! アリアさん、おめでとうございます!」


「えっ、あ、ありがとうございます! でも、私、何が何だか……!」


 アリアさんが慌てていると、今度は私の前にも文字が浮かんだ。


《セリス・アルフィーネ:称号《可能性の開拓者》を獲得》


《経験値を付与》


《レベルアップ:Lv384 → Lv405》


「……あれ?」


 ……四百五?


「……えええっ!?」


 さらに、シルキーさんの前にも光が現れる。


《シルキー・リーン:称号《共鳴の架け橋》を獲得》


《経験値を付与》


《レベルアップ:Lv800 → Lv804》


「…………」


 シルキーさんが、静かに測定器を置いた。


「……四つ」


「……シルキーさん?」


「八百を超えてから、レベルが四つも……」


 シルキーさんが、ゆっくり顔を上げる。


「何なのですか、この研究はぁぁぁ!?」


「わ、私に聞かれても!?」


 アリアさんは指輪を見つめたまま、呆然としている。

 でも、しばらくして。


「……あの、セリスさん」


「はい?」


「もう一度、光らせてもいいですか?」


 私は笑った。


「もちろんです!」


 アリアさんが、棚へ手を伸ばす。

 小さな光が、また灯った。


 レベルが上がったことよりも、称号をもらったことよりも。


 アリアさんは、その光が嬉しいみたいだった。


 ……うん。

 私も、そっちの方が嬉しいな。


『魔力保有量ゼロ。外部魔力供給による自発的魔術顕現を確認』


 ミライが、静かに告げた。


『結果を記録しました』


 私は杖を見下ろした。


「ありがとう、ミライ!」


『YES、セリス』


 ……えへへ。

 今日は、本当にいい日だ。

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