↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第5幕 青銀の魔女、世界を巡る!
56/77

第54話「ミライ、よろしくね!」

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


計算して、返事をして、使うほど学んでいく杖。

でも、まだ決まっていない大切なことが一つありました。


今回は、名前をつけるところから始まる一日。

セリスと新しい杖の練習に、どうぞお付き合いください!

挿絵(By みてみん)

 翌朝、研究室の机に置かれた杖を見て、私は小さく拳を握った。


 昨日作った演算の仕組みは、ちゃんと動いた。

 水を冷やしたり、温めたり。訓練場では《インパクト》の衝撃を内側へ集めることまでできた。


 まだ試したいことはいっぱいあるけれど、これから一緒に冒険できる杖になったと思う。


 ……ただ、一つだけ。


「シルキーさん。この子、まだ名前がないんですよね」

「む? そういえば、記録はまだ『セリス用試作杖』なのです」


 図面を整理していたシルキーさんが、紙の上を指で叩いた。


「正式名称は、完成してから決める予定だったのです」

「でも、完成を待ってたら、ずっと決まらない気がします」

「……それは、否定できないのです」


 昨日だけでも、作っている途中で何度も機能が増えた。

 これから使っていったら、もっといろんなことを思いつくと思う。


 私は杖を持ち上げた。

 銀色の細い筒に、青い魔石。持ち手の内側には、私とシルキーさんが何度も直した回路が収まっている。


 まだ知らない魔術も、見たことのない景色も、いっぱいある。

 この杖と一緒なら、今はできないことにも手が届くかもしれない。


「……ミライ」


 口に出してみると、何だか、すとんと収まった。


「この子の名前、ミライにします!」

「ミライ、なのです?」

「はい! これから、まだできないことも、一緒にできるようになりたいので!」


 持ち手の魔石が淡く光った。


『名称を登録。ミライ』


「……おおっ!」


『YES、マイマスター。私はミライです』


 私は思わず、杖へ顔を近づけた。


「覚えてくれました!」

「昨日は温度を覚えていたのです。今日は名前まで覚えたのですか……」


 シルキーさんも、図面を置いて覗き込んでいる。

 私は嬉しくなって、持ち手を両手で包んだ。


「よろしくね、ミライ! それから、私のことはセリスって呼んでくれる?」

『使用者の呼称を、セリスに変更します』

「うん!」


『YES、セリス』


 ……えへへ。


 昨日までと同じ杖なのに、少し違って見えた。

 呼んだら返事をしてくれるだけでも嬉しかったけれど、自分の名前まで呼んでもらえるとは思わなかった。


「ふふっ。素敵な名前が決まったのね」


 振り向くと、ルシャナさんが入口に立っていた。


「おはよう、セリスちゃん。ミライちゃんも」

「おはようございます!」


『呼びかけを確認。ミライです』


 ルシャナさんが、楽しそうに目を細めた。


「ええ。よろしくね」


 私がもう一度ミライを見下ろしたところで、机へ大きな箱が置かれた。

 計測用の魔石と、記録用紙がぎっしり入っている。


「では、そのミライさんの性能を調べに行くのです!」


 シルキーさんが箱を抱えた。


「今日は、名前以外の欄も埋めるのです!」

「はいっ!」


     ◇


 訓練場には、朝から厚い標的が並んでいた。


 その後ろには防護結界が何重にも張られている。昨日より増えている気がするのは、たぶん気のせいじゃない。


「今日は、発射までの時間と、続けて使ったときの安定性を調べるのです」


 シルキーさんが記録用紙を広げた。


「威力は、最初に決めたところから変えないのです」

「分かりました!」


 私も、今日はそこを確かめたい。


 以前、カナメさんと試した《電磁加速砲》は、発射までに準備が必要だった。冷却して、磁場を作り、加速の経路を整える。その調整をしている間に、カナメさんには隙を見抜かれてしまった。


 ミライに準備を手伝ってもらえたら、どのくらい変わるんだろう。


「ミライ、まずは一発だけ試そう!」


『YES、セリス。対象と発射条件を指定してください』


 杖を伸ばし、中央の標的へ向ける。

 弾体を用意し、質量と目標の速度、狙う位置を魔力に重ねて渡した。


 内側へ青銀色の光が走り、先端に魔法陣が重なる。


『演算完了。発射可能』


「……もう?」


 私は術式を確かめた。

 冷却は安定している。磁場も揃っているし、加速する経路も問題なさそうだ。


「シルキーさん、撃ちます!」

「こちらもよいのです!」


 発射の意図を送る。


『《電磁加速砲》。発射』


 ――バシュンッ!


 青白い閃光が走り、標的の中央に穴が開いた。

 後方の結界が光を帯び、抜けた衝撃を受け止める。


「……命中!」


 振り返ると、シルキーさんは計測用の魔石と記録を見比べていた。


「準備は、明らかに短くなっているのです」

「やった!」

「次は三発なのです。冷却を保ったまま、続けて使えるか確かめるのです!」


     ◇


 標的が三つ、少しずつ離れた位置に置かれた。


 私は左から順に狙うことをミライへ伝え、出力はさっきと同じに設定する。

 今回は撃ったあとも維持用の経路を止めず、次の発射に必要な部分を準備してもらう。


「一発目、いきます!」


 閃光が左の標的を貫いた。

 私は杖を中央へ動かしながら、冷却の状態を確かめようとした。


『二射目、発射可能』


「えっ?」


 もう、次の魔法陣が整っている。


 慌てて目を通したけれど、冷却も磁場も崩れていなかった。狙いを定め、発射の意図を送ると、中央の標的にも穴が開く。


 よし。

 次は、先に確かめておけば――。


『三射目、発射可能』


「……速い!」


 まだ、右へ向けている途中なんですけど!


 私は標的へ狙いを合わせ、最後の一発を撃った。

 三つとも中央を貫いている。杖を下ろしても、先端に余分な熱が残る感じはなかった。


「……できた!」


 嬉しくてシルキーさんを見ると、何だか不思議な顔をしていた。


「二射目と三射目の前に、間があるのです」

「あっ、それは私です」

「む?」

「確認して、狙いを合わせていたので。準備は、もっと前に終わってました」


 シルキーさんが記録へ目を戻す。

 それから、私とミライを順番に見た。


「……今日は、セリスさん待ちなのです」

「ううっ。そうなりますね」


 昨日は、自分で使った方が速かったのに。


 私はミライを見下ろした。


「……追い越されちゃいました」

「ご自分で速くしたのです」

「そうなんですけど!」


 嬉しい。

 嬉しいんだけど、ちょっと悔しい!


「でも、確かめずに撃つわけにはいかないですよね?」

「もちろんです。今は試験中なのです」


 シルキーさんは頷き、記録の一部を指さした。


「問題は、毎回、全部の魔法陣を最初から見直していることなのです。先ほどと同じ条件か、維持状態はどうか。そこを見やすくするのです」

「……あっ。確かめたいところを、まとめてもらえばいいんですね!」


 私はミライへ魔力を通した。


「発射前に、対象と出力、冷却の状態、それから射線を見せてくれる? 変更したところがあったら、そこも分かるようにしてほしいです」


『確認表示を設定します』


 杖の先に、小さな魔法陣が浮かんだ。

 指定した標的へ細い光の印が重なり、その横へ出力と冷却の状態が短く表示される。射線は、私が意識を向けたときだけ、淡い線として見えた。


「……おおっ!」


 全部を目で追わなくても、今どんな状態なのかが分かる。

 詳しく見たいところへ意識を向ければ、そこにつながる術式も確かめられた。


「それから、冷却が崩れたり、射線に何か入ったりしたら、発射を止めて教えてね」


『異常検出時は発射を保留。最終発射指示は、セリスから受信します』


「うん。それでお願いします!」


 シルキーさんが横から覗き込み、対象を示す印と標的を見比べた。


「では、表示が正しいかも含めて、もう一度なのです」

「はいっ!」


 次の三発は、さっきよりずっと撃ちやすかった。

 ミライが準備を終え、私は状態と狙いを確かめて発射する。


 それでも、三射目の前には少し待たせてしまった。


「……ミライ、ちょっと速すぎません?」

『発射待機中です』


「分かってます!」


     ◇


「次は、動く標的なのです」


 シルキーさんが訓練場の端にある操作盤へ向かうと、遠くに置かれた標的が横へ動き始めた。


「わあっ! そんなこともできるんですか!」

「魔術師団の訓練用なのです。速さも、移動の仕方も変えられるのです!」


 ルシャナさんが、防護結界の内側から標的を眺めた。


「これなら、追いかけて直す手間も少なくて済むわね」

「壊さなければ、なのです」


 ……あっ。

 今日は、もう何個か穴を開けちゃった。


 今回は遠くの標的へ、小さな弾体を使う。

 まずはゆっくり、一定の速さで動かしてもらった。


「ミライ、動きに合わせて狙う位置を教えてください!」


『対象を測定。予測位置を表示します』


 標的へ重なるように、小さな光の印が浮かんだ。

 少しだけ、進む方向へ寄っている。


 私はその印に合わせて杖を動かし、状態を確認して発射した。


 閃光が標的の中央を貫く。


「……当たった!」

「ふふーん♪ 測定は安定しているのです! わたくしが調整した回路なのです!」


 シルキーさんが胸を張った。

 でも、すぐに記録へ顔を戻す。


「そこから、どうやってこの狙いを出しているのかは、まだ説明してもらう必要があるのです」

「計算のところですか?」

「数式以外の説明を希望するのです!」


 ……頑張ります。


 速度を少しずつ上げてもらい、同じように試す。

 最初は中央。その次も、ほぼ同じ場所へ当たった。


 けれど、さらに速くしたところで、弾体は標的の後ろ側の端をかすめた。


「あっ!」


『予測位置と着弾位置の差を検出』


 ミライの表示へ、狙った位置と実際に当たった位置が重なった。

 見比べると、進む方向に対して少し遅れている。


「測定が遅れたんでしょうか?」

「記録を見るのです」


 シルキーさんが計測用の魔石を操作した。

 標的の動きと、私が杖を向けて発射するまでの順番が、簡単な光の軌跡で浮かぶ。


 私は表示された場所を見て、そこへ杖を向ける。

 状態を確かめて、それから撃つ。


 その間にも、標的は動き続けていた。


「……また、私ですか?」

「少なくとも、その時間は含める必要があるのです」


 シルキーさんは、標的と私の動きを交互に示した。


「標的がどこへ行くかだけでは足りないのです。セリスさんが、いつ撃てるかも関係するのです」

「……なるほど」


 ミライの演算が終わっても、私はすぐには撃っていない。

 表示を見て、杖を動かして、確かめる。その分を含めて、狙う位置を出してもらう必要があるんだ。


「ミライ。私が狙いを合わせて撃つまでの時間も、計算に入れられる?」


『操作記録を参照。補正を開始します』


「じゃあ、同じ条件でもう一度お願いします!」


 標的が動き始める。

 私は印へ狙いを合わせ、確認して撃った。


 今度は内側へ寄ったけれど、まだ中央ではなかった。


 もう一度。

 少し近づく。


 三度目で、弾体が中央を貫いた。


「……やった!」


『着弾位置を確認。補正結果を記録しました』


 私は嬉しくなって、持ち手を撫でた。


「ありがとう、ミライ!」


 ミライだけが速く動けばいいわけじゃない。

 私がどう使うかも含めて、少しずつ合ってきている。


 ……えへへ。

 本当に、一緒に練習しているみたいだ。


「では、次は反対向きなのです」

「はい!」


 今度は、右から左へ。

 向きが変わると、杖を動かす感覚も少し変わった。私はさっきより肩を開き、狙いを合わせ直す。


 何度か試すうちに、印を追う動きにも慣れてきた。


「セリスさんの動きも、速くなっているのです」

「本当ですか?」

「はい。ミライさんだけでなく、こちらも記録し直しなのです」


 私は杖を見下ろした。


「じゃあ、二人とも練習ですね!」

『操作時間の変化を記録しました』


     ◇


 夕方には、記録用紙が何枚も埋まっていた。


 最後に同じ条件で試した三連射は、朝よりずっと滑らかに撃てた。

 ミライの表示を確かめて、狙いを合わせる。発射後も冷却が保たれ、次の術式が準備されている。


 最初ほど、慌てなくなった。


「……よしっ!」


 最後の標的へ命中したところで、私は杖を下ろした。


「今日はここまでなのです!」


 シルキーさんが記録をまとめ、満足そうに頷く。

 片づけを終えると、ルシャナさんが冷たい飲み物を持ってきてくれた。


「お疲れさま。二人とも、よく働いたわね」

「ありがとうございます!」


 受け取ったカップを飲みながら、私はミライを見つめた。


 朝、名前をつけたばかりなのに。

 今日は一緒に何度も魔術を使って、うまくいかなかったところを直して、また試した。


 私の操作を待たせたり、狙いがずれたりもしたけれど、最後は少しだけ、お互いの動きが分かるようになった気がする。


「……ミライ」

『YES、セリス』

「今日は、ありがとう!」


『実行結果を記録しました』


 私は小さく笑い、持ち手をそっと撫でた。


 ……うん。

 また一緒に、試そうね。


「さて、セリスさん!」


 シルキーさんが、分厚くなった記録を抱えて戻ってきた。


「明日は、魔術師団の皆さんにも立ち会ってもらいたいのです」

「お披露目ですか?」

「それもあるのです。ですが、まず確かめたいことがあるのです」


 シルキーさんがミライを指さした。


「セリスさん以外でも、同じように使えるのです?」


「……あっ」


 そういえば。

 作ってから、ちゃんと使っているのは私だけだ。


 言葉で指示はできる。

 でも、流す魔力が違ったらどうなるんだろう。細かな条件を魔力で伝えずに、どこまでお願いできるのかな。


「……試してみたいです!」

「ふふーん♪ そう言うと思ったのです!」


 シルキーさんが新しい紙を取り出した。


「最初は《発光》からなのです。入力する魔力を変えて、それから言葉だけで指示した場合と……」

「目標の伝え方も、人によって違いますよね!」

「それも確かめるのです!」


「続きは、夕食のあとにしましょうね」


 私たちは揃って顔を上げた。

 ルシャナさんが、にっこり笑っている。


「二人とも、帰り道まで実験を始めないでちょうだい?」

「……はいっ」

「分かったのです」


 シルキーさんが紙をしまう。

 私もミライを縮め、腕へ抱えた。


「じゃあ、帰ろうか。ミライ!」


『YES、セリス』


 名前を呼ぶと、返事がある。

 私はそれだけで、また少し嬉しくなった。


 明日は、私以外の人もミライを使う。

 どんなことができて、何を覚えるんだろう。


 ルシャナさんとシルキーさんの後を追いながら、私は腕の中の杖へ目を落とした。


 ……これから、よろしくね。

 ミライ!

お読みいただき、ありがとうございます!


杖の名前は「ミライ」になりました。

まだできないことも、これから一緒にできるように。

そんなセリスの願いを込めた名前です。


そして、以前は「自分で使った方が速い」と言っていたセリス。

今回は、見事に杖から待たされる側……ではなく、杖を待たせる側になりました(笑)


ミライがセリスの使い方を学び、セリスもミライに慣れていく。

これからの二人が、どんな魔術を見せてくれるのか楽しみです。


「ありがとう」に、まだ「実行結果を記録しました」と返すミライ。

その返事も含めて、見守っていただけたら嬉しいです。


続きが気になりましたら、ブックマークや下の☆で応援をお願いします♪

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。