第50話「青銀の魔女、衣装を選ぶ!」
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
おかげさまで、第50話を迎えました!
今回は、セリスのお買い物。
機能性担当のシルキーと、可愛さ担当のルシャナが一緒です。
この二人が選ぶなら、素敵な装いになりそうですが……?
どうぞお楽しみください!
――カラン、カラン。
扉の鈴が鳴り、私たちは杖工房へ足を踏み入れた。
「……わああっ!」
すごい!
壁一面に杖が並んでる!
細い木製の杖から、先端に大きな魔石がついたものまで。天井から吊るされた短い杖もあれば、私の背丈より長い杖もある。
しかも、よく見ると一本一本に刻まれている魔術回路が違う。
「……おおおっ!」
私は思わず、一番近くにあった杖へ顔を近づけた。
「これ、魔力の流れを途中で分岐させてるんですね!」
「ふふーん♪ よく気づいたのです!」
シルキーさんが隣に立ち、杖の柄を指さした。
「これは複数の術式を扱うための杖なのです。魔力の供給先を切り替えられるので、属性の異なる魔術を連続で発動するときに便利なのです!」
「……へええっ!」
なるほど!
じゃあ、こっちの杖はどうなんだろう?
隣には、銀色の細い杖が並んでいた。先端には小さな青い魔石が三つ、三角形になるように配置されている。
「シルキーさん! こっちは!?」
「それは魔力制御に特化した杖なのです。三つの魔石で魔力の揺らぎを抑え、細かな調整を可能にするのです!」
「……すごい!」
三つの魔石で、魔力を安定させるんだ!
……ということは、魔石の配置を変えたら、制御の仕方も変わるのかな?
「……えへへ」
「……セリスさん?」
「これ、魔石を四つにしたらどうなるんでしょう?」
「…………」
「それとも、魔導銀でつないで、魔力を循環させたら……」
「セリスさん!」
「はいっ!?」
シルキーさんが、びしっと杖を掲げた。
「今日は杖を選びに来たのです! 研究を始める日ではないのです!」
「……あっ!」
そうだった!
「ふふっ。セリスちゃん、もう夢中ねえ」
ルシャナさんが楽しそうに笑っている。
「でも、シルキー。セリスちゃんが杖を欲しがる理由も、少し変わってきたみたいよ?」
「……む?」
「普通の魔術師なら、自分に合う杖を探すでしょう? でも、この子は杖を見ながら、新しい仕組みを考えているんだもの」
「…………」
シルキーさんが、私をじっと見つめた。
「……確かに、その通りなのです」
「えへへ……」
「ならば、なおさらなのです!」
「……えっ?」
「まずは既存の杖を徹底的に調べるのです! 新しい杖を作るにしても、優れた構造を知らなければ始まらないのです!」
「……構造...」
なるほど!
さすがシルキーさん!
「はいっ! 勉強します!」
「ふふーん♪ よろしいのです!」
……というわけで。
それからしばらく、私たちは店内の杖を見て回った。
魔力を増幅する杖。
術式の発動を補助する杖。
魔石に魔力を蓄えておける杖。
中には、魔術を一つだけ記録して、誰でも簡単に発動できる杖まであった。
「……わああっ!」
面白い!
杖って、こんなに種類があるんだ!
……でも。
「……うーん」
私は腕を組んだ。
「どうしたのです?」
「どれもすっごく便利なんですけど……」
「けど?」
「全部使ってみたくなっちゃいます!」
「…………」
シルキーさんが額に手を当てた。
「……やはり、そうなるのです」
「ふふっ。予想通りねえ」
……あれ?
何で二人とも笑ってるんだろう?
◇
「さて、セリスちゃん」
杖工房を出たところで、ルシャナさんが私の肩に手を置いた。
「次は、私の番ね♪」
「……ルシャナさんの番?」
「ええ。お洋服を見に行きましょう!」
「……お洋服!」
そうだった!
今日は服も見に行くんだった!
「ふふーん♪ わたくしも選ぶのです!」
シルキーさんが胸を張った。
「もちろんよ。シルキーは機能性を見てちょうだいね」
「お任せなのです!」
「私は、セリスちゃんに似合う可愛い服を探すわ」
「……はいっ!」
わあっ!
何だか、すっごく楽しみになってきた!
魔導具街から少し歩くと、通りの雰囲気が変わった。
魔石や杖を並べた店の代わりに、色とりどりの布や服が飾られた店が増えていく。
窓には綺麗なドレスが並び、店先では小さな魔法陣が布を浮かせていた。
「……わああっ!」
あの布、勝手に動いてる!
「シルキーさん! あれも魔術ですか!?」
「《浮遊》と《形状保持》の魔導具なのです!」
「……なるほど!」
服屋さんでも魔術を使ってるんだ。
「ふふっ。セリスちゃん、どこへ行っても魔術ばっかりねえ」
「えへへ……」
だって、面白いんですもん!
そんな話をしているうちに、ルシャナさんが一軒のお店の前で立ち止まった。
「ここがよさそうね」
「……わあっ!」
大きな窓の向こうには、綺麗な服がいっぱい!
黒いドレスに、白いマント。青い刺繍の入った上着や、金色の飾りがついた帽子まである。
「いらっしゃいませ」
店へ入ると、上品な服装の女性が迎えてくれた。
「本日は、どのようなお召し物をお探しでしょうか?」
「この子に似合う服を探しているの」
ルシャナさんが私の肩を軽く押した。
「……あっ! よろしくお願いします!」
「まあ、可愛らしいお嬢様ですね」
「えへへ……ありがとうございます!」
店員さんは私の服を眺め、感心したように頷いた。
「現在のお召し物も、大変素敵ですね。銀髪によく映える紺色ですし、金の刺繍も上品です」
「はいっ! 私も気に入ってるんです!」
「でしたら、今の雰囲気を生かした装いがよろしいかもしれませんね」
「……おおっ!」
それ、いいかも!
「ふふ。そうね。セリスちゃんらしさは残したいもの」
ルシャナさんが頷いた。
「ただ、もう少し魔女らしい雰囲気も欲しいわねえ」
「魔女らしい雰囲気、ですか?」
「ええ。例えば、マントとか」
「……マント!」
おおっ!
魔女っぽい!
「ふふーん♪ それなら、防御術式を刻める生地がいいのです!」
シルキーさんがすかさず口を挟んだ。
「軽量で、魔力の流れを妨げず、動きやすいものが理想なのです!」
「まあ。ずいぶん本格的ですね」
店員さんが目を丸くした。
「もちろんです! この方は、ただの魔術師ではないのです!」
「……シルキーさん?」
「《青銀の魔女》と呼ばれる、セリス・アルフィーネさんなのです!」
「…………!」
店員さんが、ぱちぱちと瞬きをした。
「……青銀の魔女?」
「はいっ!」
「……あの、スタンピードで人々を守ったという……?」
「……えっ?」
知ってるんですか!?
「まあ! まさか、ご本人にお会いできるなんて!」
「えええっ!?」
ちょ、ちょっと待ってください!
何で魔族国にまで知られてるんですか!?
「ふふっ。有名人ねえ、セリスちゃん」
「ルシャナさん!?」
「ふふーん♪ 当然なのです!」
……いや、シルキーさん!
何でそんなに得意げなんですか!?
◇
「それでは、こちらはいかがでしょう?」
店員さんが最初に持ってきたのは、白と青を基調にした、ふんわりしたドレスだった。
袖には細かなレースが重なり、胸元には青い宝石が飾られている。
「……わあっ!」
綺麗!
「セリスちゃん、着てみる?」
「はいっ!」
試着室へ入り、服を着替える。
……うん!
すっごく可愛い!
私は鏡の前で、くるりと回った。
「……どうですか!?」
「あらあら!」
ルシャナさんが目を輝かせた。
「とっても可愛いわ!」
「えへへ……」
「……むむむ」
シルキーさんは、じっと私の袖を見つめていた。
「……シルキーさん?」
「腕の可動域が狭いのです」
「……えっ?」
「それに、この袖では魔法陣を展開するとき、布が引っかかる可能性があるのです!」
「……おおっ!」
そうなんだ!
「ふふっ。確かに、実戦向きではないわねえ」
ルシャナさんが笑った。
「じゃあ、次を試してみましょうか」
「はいっ!」
次に持ってきたのは、黒い短めの上着と、紺色のスカートを組み合わせた服だった。
金色の留め具がついていて、肩からは小さなマントが伸びている。
「……わあっ!」
格好いい!
着替えてみると、さっきよりずっと動きやすい。
「……おおっ!」
腕も上げやすいし、歩いても裾が邪魔にならない!
「ふふーん♪ これは悪くないのです!」
シルキーさんが満足そうに頷いた。
「ただし、魔術回路を刻む余地が少ないのです。もう少し裏地に工夫が欲しいのです!」
「……裏地?」
「はい! 魔導銀の糸を縫い込めば、魔力を安定させる補助術式を組み込めるのです!」
「……おおおっ!」
服に魔術回路!?
それ、すっごく面白そう!
「シルキーさん! それって、自分で設計できますか!?」
「もちろんです!」
「……わあっ!」
だったら、服にもいろんな術式を入れられるのかな?
例えば、防御魔術を補助したり、温度を調整したり。
……あっ!
汚れを落とす魔術とかも便利そう!
「……えへへ」
「……セリスさん?」
「ちょっと、面白いこと思いついちゃいました!」
「…………」
シルキーさんが、じっと私を見つめた。
「……セリスさん」
「はい?」
「今は服を選んでいるのです!」
「……あっ!」
また研究のこと考えちゃった!
「ふふっ。本当に飽きないわねえ」
ルシャナさんが楽しそうに笑った。
◇
それからも、いろんな服を試してみた。
長いマント。
魔術師用のローブ。
軽くて動きやすい旅装。
大きな帽子まで被ってみたけれど、これはちょっと視界が狭くなっちゃった。
「……うーん」
私は鏡の前で首を傾げた。
どれも素敵なんだけど、何かが違う気がする。
「……どうしたの、セリスちゃん?」
ルシャナさんが隣へ来た。
「……あの、どれもすっごく可愛いんですけど」
「うん?」
「今の服も、やっぱり好きなんです」
私は今着ている服を見つめた。
黒と紺の生地に、金色の刺繍。白いフリルと、青い飾り。
これを着て、いろんな場所へ行った。
魔物と戦って、アルディスさんに会って、エルとレイと冒険して。
……だから、何だか愛着がある。
「……だったら」
ルシャナさんが、にっこり笑った。
「今の服を生かせばいいじゃない?」
「……えっ?」
「全部変える必要なんてないわ。気に入っているものは残して、足りないものを加えればいいのよ」
「……おおっ!」
「ふふーん♪ それなら、わたくしに考えがあるのです!」
シルキーさんが、びしっと指を立てた。
「今の服に、魔導銀の糸で補助術式を縫い込むのです! さらに、動きやすい短いマントを追加するのです!」
「……マント!」
「はい! 必要に応じて取り外せるようにすれば、研究室でも邪魔にならないのです!」
「……おおおっ!」
それ、いい!
「じゃあ、マントは紺色にしましょうか」
ルシャナさんが微笑んだ。
「内側は青銀色にして、動いたときにちらっと見えるようにするの。金色の刺繍も、今の服と合わせれば綺麗でしょう?」
「……わああっ!」
想像しただけで、すっごく素敵!
「ふふーん♪ さらに、肩の留め具には魔石を組み込むのです!」
「……魔石!?」
「はい! 防御術式の補助にも使えるのです!」
「……おおっ!」
可愛くて、便利で、魔術まで使える!
「それがいいですっ!!」
「ふふ。決まりね♪」
店員さんも嬉しそうに頷いた。
「それでしたら、当店で仕立てを承れます。お召し物の調整とマントの製作ですね」
「はいっ! お願いします!」
「ただ、魔導銀の糸を使った特殊な加工は、専門の職人と相談する必要がございます」
「ふふーん♪ その点は問題ないのです!」
シルキーさんが胸を張った。
「わたくしが術式を設計するのです!」
「……おおっ!」
シルキーさん、頼もしい!
「セリスさんも一緒に考えるのです!」
「はいっ!!」
……やった!
新しい服に、魔術回路!
しかもシルキーさんと一緒に設計できる!
……えへへ。
すっごく楽しみ!
◇
採寸と打ち合わせを終えて店を出ると、空は少しずつ夕暮れの色に染まり始めていた。
「……今日は楽しかったです!」
私は思わず、両手を広げた。
「ふふ。よかったわ」
ルシャナさんが微笑む。
「ふふーん♪ 完成したら、きっと素晴らしい装備になるのです!」
「はいっ!」
新しいマント。
魔導銀の糸で刻む補助術式。
肩の魔石。
……ああっ!
考えるだけで、わくわくしてくる!
「……ところで、セリスちゃん」
「はい?」
ルシャナさんが、いたずらっぽく笑った。
「杖は、どうするの?」
「…………」
……杖。
そうだった!
今日は杖を買いに来たんだった!
「……えへへ」
「……セリスさん?」
「まだ、決めてません!」
「何のために杖工房へ行ったのですかぁぁぁ!?」
「だ、だって! どれも面白くて!」
「面白いのは分かるのです! でも、一本くらい選ぶのです!」
「……ううっ」
確かに、その通りかも。
でも、杖を見れば見るほど、いろんな仕組みを試したくなっちゃうんだよね。
……あっ。
「……シルキーさん!」
「何なのです!?」
「やっぱり、私……」
「……む?」
「自分で杖を作ってみたいです!」
「…………」
シルキーさんが、ぴたりと動きを止めた。
「……セリスさん」
「はいっ!」
「それは……」
シルキーさんは少しだけ考え込み、それから、にやりと笑った。
「……ふふーん♪ 面白そうなのです!」
「……おおっ!」
「ただし!」
「……はいっ!?」
「杖作りは、そんなに簡単ではないのです! 素材選びから術式設計、魔力制御まで、全部考えなければならないのです!」
「……はいっ!」
「それでも、やるのです?」
「もちろんですっ!!」
だって、自分だけの杖ですよ!?
どんな形にしよう?
魔石は何個つけよう?
魔術回路は、どんなふうに組み込もう?
……ああっ!
考えるだけで、すっごく楽しい!
「ふふっ。二人とも、本当に似た者同士ねえ」
ルシャナさんが、くすくすと笑った。
「では、明日は杖の素材を探しに行くのです!」
「はいっ!!」
……やった!
魔族国での毎日、どんどん面白くなってきた!
新しい服も楽しみだけど、まずは杖!
私だけの、特別な杖を作るんです!
……えへへ。
どんな杖になるんでしょうか!
お読みいただき、ありがとうございます!
新しい服も素敵だけれど、一緒に旅をしてきた服もお気に入り。
セリスの衣装選びは、今の「好き」に新しい楽しみを加える形になりました。
完成したマントを羽織る日が楽しみです!
そして――
「研究を始める日ではないのです!」と言っていたシルキーさん。
最後には、自分も杖作りに乗り気です(笑)
止める側だったはずが、すっかり一緒に楽しむ側に。
ここまで50話、セリスの冒険にお付き合いいただき、本当にありがとうございます!
これからも、魔法が大好きな彼女を見守っていただけたら嬉しいです。
続きが楽しみ!と思っていただけましたら、ブックマークや下の☆で応援をお願いします♪




