第48話「電磁加速砲を、刀で斬るんですかぁぁ!?」
「……あの、カナメさん?」
「何でござるかな?」
「今、何て言いました?」
「ふむ。先ほどの金属片を、拙者の刀で斬ってみたいと申したのでござる」
「ええええええっ!?」
いやいやいや、ちょっと待ってください!
さっきの《電磁加速砲》ですよ!? 標的が吹き飛んで、頑丈な物理障壁まで震えた、あの魔術ですよ!?
「危ないですよぉぉぉ!!」
「はは。心配してくれるとは、ありがたいでござるな」
「心配しますよ! 普通に!」
「無論、先ほどの威力をいきなり受けるつもりはないでござる。まずは低出力から試すとしよう」
カナメさんは腰に差した刀を軽く叩き、穏やかに微笑んだ。
「拙者も剣士の端くれでござるからな」
「……端くれ?」
レベル812の六英雄ですよね!? それで端くれって、普通の剣士さんはどうなっちゃうんですか!?
「ふふっ。カナメちゃん、ずいぶん控えめねえ」
隣でルシャナさんが楽しそうに笑った。
「昔は、もっと剣にこだわっていたじゃない?」
「……ルシャナ殿。その話は、またの機会にお願いしたいでござる」
「あら、どうして?」
「若気の至りというものでござるよ」
……ん? 何だろう。カナメさん、ちょっと困ってる?
「ふふーん♪ では、カナメ!」
シルキーさんが杖を掲げ、びしっとカナメさんを指した。
「わたくしたちの《電磁加速砲》を、存分に味わうといいのです!」
「はは。楽しみでござるな」
「シルキーさん! 安全対策はしっかりお願いしますね!」
「分かっているのです! わたくしにお任せなのです!」
シルキーさんが杖を振ると、訓練場の奥に紫金色の魔法陣が広がった。幾重にも重なった光の線が空間を囲み、透明な結界を形作っていく。
「《雷光の結界》!」
おおっ、綺麗! しかも、さっきまでの結界よりずっと厚い!
「ふむ。見事な結界でござるな」
「ふふーん♪ 当然なのです!」
「シルキー殿ほど精密な結界を張れる魔術師は、そうそうおらぬでござるよ」
「…………!」
シルキーさんの表情が、ぱあっと明るくなった。
「えっへん! もっと褒めてもいいのです!」
「はは。頼りにしているでござる」
「お任せなのです!」
……あれ? さっきまでカナメさんを倒すって言ってたのに、もうすっごく張り切ってる。
「……セリスちゃん」
隣でルシャナさんが、そっと耳打ちしてきた。
「今の、よく覚えておくといいわよ」
「……今の?」
「ふふ。あとで分かるわ」
……? 何だろう?
◇
訓練場の奥で、カナメさんが刀を抜いた。
細身の刃が灯りを受けて淡く輝いている。飾り気の少ない刀だけれど、磨き上げられた刀身には不思議な迫力があった。
「カナメさん、本当に大丈夫ですか?」
「無理はせぬでござるよ。まずは拙者の腕を見てもらおう」
カナメさんは足元に落ちていた小さな木片を拾い、宙へ放り投げた。
くるくると回りながら、木片が落ちてくる。
その途中で、何かが一瞬だけ光った。
「……え?」
気づいたときには、カナメさんはもう刀を鞘に収めていた。
ぱさっ、と乾いた音を立てて、二つに分かれた木片が地面へ落ちる。
……え? 今、斬った? いつ!?
「……ルシャナさん。見えました?」
「ええ。綺麗な一太刀だったわね」
「……私、全然見えませんでした」
「あら。珍しいわね」
いや、本当に速かったんですけど!?
「ふふーん♪ その程度、わたくしの雷魔術なら簡単なのです!」
シルキーさんが胸を張ると、カナメさんは面白そうに目を細めた。
「ほう。では、シルキー殿にも見せてもらいたいでござるな」
「もちろんです!」
シルキーさんは別の木片を宙へ放り投げ、杖を振った。
「《連鎖の雷華》!」
――バヂィッ!!
紫色の雷光が走り、木片が一瞬で細かく砕け散る。
「えっへん!」
「見事でござる」
「ふふーん♪ 当然なのです!」
二人ともすっごい! ……でも、何で張り合ってるんだろう?
「では、始めるでござるか」
「は、はいっ!」
私は金属片を配置し、魔法陣を展開した。
カナメさんとの距離は十分に取ってある。射線の奥には頑丈な物理障壁があり、シルキーさんの結界も、外れた金属片を受け止められるように配置されていた。
ルシャナさんも万が一に備えてくれているし、これなら安心して試せそうだ。
「では、まずは昨日と同じくらいの威力でいきますね!」
「うむ。お願いするでござる」
私は魔法陣へ意識を集中させた。
「《電磁加速砲》!」
――バシュッ!!
金属片が飛び出した、その瞬間。
――キィン!!
「……っ!?」
甲高い金属音が響き、弾かれた金属片が背後の物理障壁へ突き刺さった。
カナメさんは、いつの間にか刀を振り抜いていた。
「ええええっ!? 今の、斬ったんですか!?」
「正確には、刃を合わせて弾いたのでござるよ」
カナメさんは刀身を眺めながら、軽く頷いた。
「なかなか速いでござるな。ただ、発射前に魔力が集まる場所は分かるでござる」
「……え?」
「どこから飛んでくるかが分かれば、あとはそこへ刃を合わせればよいでござる」
いやいやいや! そんな簡単な話じゃないですよね!?
「カナメ! 今のは、まだ低出力なのです!」
シルキーさんが、ぷんすかと声を上げた。
「うむ。承知しているでござる」
「では、次はもっと強くするのです!」
「シルキーさん!?」
「少しずつなのです! ちゃんと分かっているのです!」
……ほっ。よかった、ちゃんと分かってくれてる。
それから私たちは出力を段階的に上げ、二射、三射と試していった。
――キィン!
――ギィン!!
――ガキィィン!!
「……うそぉぉぉ!?」
全部、弾かれた。
しかもカナメさんは、ほとんどその場から動いていない。刀の角度をわずかに変え、金属片を正面から受け止めずに、衝撃を逃がしている。
すごい。力任せに防いでいるんじゃなくて、弾の軌道そのものを変えているんだ!
「カナメさん、どうしてそんなに簡単に弾けるんですか!?」
「簡単ではないでござるよ」
「……えっ?」
カナメさんが刀を持ち上げた。よく見ると、刃の一部に小さな欠けができている。
「あっ! 刀が!」
「うむ。さすがに無傷とはいかぬでござるな。それに、次の威力を正面から受ければ、拙者もただでは済まぬでござろう」
「……そうなんですか?」
「実に恐ろしい魔術でござるよ」
……おおっ! ちゃんと威力を認めてくれてる!
えへへ、ちょっと嬉しい!
「ふふーん♪ 当然なのです!」
シルキーさんが得意げに笑い、杖を掲げた。
「では、いよいよ超伝導強化版なのです!」
「……待つでござる」
「む?」
カナメさんは刀を鞘に収めると、私たちが使っていた魔法陣をじっと見つめた。
「その前に、一つ確認したいことがあるでござる。この魔術、発射するまでに少々時間がかかるようでござるな」
「……あっ!」
確かにそうだ。冷却して、磁場を作って、雷を集めて、金属片を加速する。今の術式だと、どうしても発射までに少し時間が必要になる。
「そうですね! 今はまだ準備が必要なんです!」
「ならば、拙者が敵であったなら、その時間を待たぬでござるよ」
「……え?」
「発射する前に術者へ近づく。あるいは、狙いを逸らす。撃たせぬ方法はいくらでもあるでござる」
……あっ! そうか!
いくら威力があっても、撃つ前に邪魔されたら意味がない!
「ふふーん♪ 甘いのです!」
シルキーさんが、びしっと杖を突きつけた。
「そのために、わたくしの結界があるのです!」
「無論でござる。シルキー殿の結界は、そう簡単には破れぬ」
「えっへん!」
「ゆえに、拙者なら結界を破ろうとはせぬでござる」
「……む?」
カナメさんは指を鳴らした。
――ポンッ!
足元に小さな魔法陣が現れ、そこから丸い盾を持った鎧姿の兵士が飛び出した。
「わああっ!? 召喚魔法!?」
「うむ。《盾兵召喚》でござる」
小さな兵士は、ちょこんと立つと、びしっと敬礼した。
……かわいい!!
カナメさんがもう一度指を鳴らすと、さらに二体の盾兵が現れ、それぞれ別の場所へ移動していった。
「こうして複数の盾兵を配置すれば、射線を塞ぎ、攻撃の狙いを散らすことができるでござる」
「……おおっ!」
「さらに、こうするでござる」
カナメさんが手をかざすと、兵士たちの盾が淡く輝いた。
「……付与魔術!?」
「うむ。盾の防御力を高め、動きも速くしたのでござるよ」
……すごい! 召喚した兵士を、さらに強くできるんだ!
「そして、相手の動きを遅くすることもできる。セリス殿、少々試してみてもよいでござるか?」
「はいっ! お願いします!」
「では、《鈍足》」
「……ひゃっ!?」
急に足が重くなった。歩こうとしても、まるで水の中を進んでいるみたいに動きが鈍い。
「《解除》」
カナメさんが指を鳴らすと、足はすぐに元へ戻った。
「わああっ! すごいです!」
「敵の動きを遅くする。眠らせる。召喚兵で注意を散らす。そうして隙を作れば、強力な魔術も撃たせずに済むでござる」
私は思わず、カナメさんを見つめた。
この人、魔術をどう防ぐかだけ考えてるんじゃない。相手の行動も、周りの状況も、全部まとめて考えてるんだ。
「……カナメさん! すっごく勉強になりますっ!!」
「はは。それは何よりでござる」
「セリスさぁぁぁん!?」
シルキーさんが悲鳴を上げた。
「感心している場合ではないのです! 今はカナメをぎゃふんと言わせるところなのです!」
「……あっ!」
そうだった! ……いや、そもそも私、参加するって言ったっけ?
「でも、シルキーさん!」
「何なのです!?」
「カナメさんのお話で、改良するところが見えてきました!」
「……む?」
「発射までの時間を短くすればいいんです! 魔法陣を先に準備しておいて、雷を流すだけで撃てるようにするとか!」
「…………!」
シルキーさんの目が、ぱあっと輝いた。
「ふふーん♪ それは素晴らしいのです!」
「さらに、狙う方向を変えやすくして、連続で撃てるようにしたら……!」
「セリスさん! それなのです!」
私たちは顔を見合わせ、思わず両手を握り合った。
「やりましょう!!」
「了解なのですっ!!」
「……あらあら」
ルシャナさんが、呆れたように笑った。
「カナメちゃん。あなた、また余計なことを教えたわね?」
「はは。拙者は弱点を指摘しただけでござるよ」
「そういうところ、昔から変わらないわねえ」
……ん?
昔から?
◇
「ルシャナさん、カナメさんと一緒に冒険してたんですか?」
「ええ。昔ね」
ルシャナさんは懐かしそうに微笑み、カナメさんへ視線を向けた。
「《そよ風組》っていうパーティーだったのよ」
「……そよ風組?」
「ふふ。可愛い名前でしょう?」
「はいっ! ほかには、誰がいたんですか!?」
「アルディスよ」
「…………え?」
アルディス?
……アルディスさん!?
「えええええっ!? アルディスさんも!?」
「うむ。あやつも仲間でござった」
「すっごい!!」
六英雄が三人もいたパーティー!? それって、ものすごく強かったんじゃないですか!?
「アルディスさんって、すっごく強いですよね!」
「ふふ。そうねえ。一対一なら、負け知らずだったわ」
ルシャナさんは目を細め、何かを思い出すように笑った。
「でもね、セリスちゃん。あの子が本当に恐ろしかったのは、敵がたくさんいるときなのよ」
「……えっ?」
たくさん? 普通、敵が多い方が大変じゃないの?
「アルディスはね、どれだけ囲まれても、ほとんど攻撃を受けないの。右から剣が来れば避けて、左から槍が来れば身をひねって、そのまま別の敵を斬る。敵が次の攻撃を繰り出す頃には、もう別の場所にいるのよ」
「……うわああっ!」
「剣を振るうたびに敵が倒れていくから、まるで踊っているみたいだったわ。私たちが守っていたつもりでも、気づけばあの子が敵の攻撃を全部引きつけてくれていたの」
何それ!? めちゃくちゃ格好いい!!
「しかも、カナメちゃんが敵の動きを読んで、アルディスに有利な状況を作るのよ」
「……有利な状況?」
「うむ」
カナメさんが頷いた。
「敵の速さを落とし、眠らせ、召喚した盾兵で攻撃を散らす。必要ならアルディス殿の剣や身体能力を付与魔術で強化する。拙者の役目は、あやつが存分に剣を振るえる戦場を作ることでござった」
「……おおおっ!」
「私はアルディスを強化して、傷を治して、長く戦えるようにするの。たまには精霊魔法で攻撃もしたけれど、基本的には二人の支援が中心だったわね」
ルシャナさんは指を折りながら、楽しそうに続けた。
「アルディスが前で敵を引きつけて、カナメちゃんが敵の動きを封じる。私はみんなを強化して、回復する。そうするとね、三人だけなのに、びっくりするくらい長く戦えたのよ」
「すごい! それって、三人の力が全部つながってるんですね!」
「ふふ。そういうことよ」
無数の敵の中を、剣を振るいながら駆け抜けるアルディスさん。その周囲にはカナメさんの召喚兵が配置され、敵の動きを邪魔している。後方ではルシャナさんが歌い、二人を支えている。
……わああっ!
想像するだけで、すっごく格好いい! 絶対に見てみたい!!
「……ねえ、カナメちゃん。覚えてる? アルディスが敵の真ん中に飛び込んでいったときのこと」
「はは。忘れるはずがないでござる」
「私、あの子が囲まれたと思ったのよね」
「拙者は、敵の方が囲まれたと思ったでござるよ」
「ふふっ! そうだったわねえ!」
二人が顔を見合わせて笑った。
何だか不思議だ。ほんの少し話を聞いただけなのに、三人が一緒に戦っていた光景が目に浮かんでくる。
「……でも、セリスちゃん」
「はいっ!」
ルシャナさんが、いたずらっぽく微笑んだ。
「実はね、カナメちゃんも昔は、アルディスみたいに剣一本で勝とうとしてたのよ」
「……えっ!?」
「……ルシャナ殿」
カナメさんの眉が、ぴくりと動いた。
「その話は……」
「ふふ。いいじゃない、昔のことなんだから」
……おおっ!? 何だろう、すっごく気になる!
「アルディスがね、レベル1のときに、とっても強い魔物を倒したことがあったの」
「……レベル1で!?」
「ええ。《十文字斬りのボブ》っていう、ホブゴブリンよ。剣闘場で戦ったの」
「……おおおっ!」
名前からして強そう! しかも、レベル1でそんな相手に勝ったんですか!?
「それでね、その戦いを見ていたカナメちゃんも、同じ相手に挑んだの」
「……えっ!? 同じ相手に!?」
「そう。結果は……負けちゃったのよ」
「ええええっ!?」
「……ルシャナ殿」
カナメさんが、少しだけ遠い目をした。
「ふふっ! でも、それだけじゃないの。何度か冒険したあとも一騎打ちに挑んで、三度目の敗北でとうとう……」
「ルシャナ殿!?」
「自分探しの旅に出ちゃったの!」
「…………」
……。
…………。
「ええええええっ!?」
自分探し!? 旅!?
「カナメさん、本当に行っちゃったんですか!?」
「……うむ。少々、己の戦い方を見つめ直そうと思ったのでござるよ」
……おおっ!
なんか、格好いい!
「それで、どうなったんですか!?」
「ふふ。聞いて驚きなさい?」
ルシャナさんが、にっこり笑った。
「帰ってきたら、魔法剣士になってたのよ」
「……えっ?」
「しかも召喚魔法まで覚えていて、レベルもアルディスに追いつくくらい上がってたの!」
「…………」
……え?
魔法剣士?
召喚魔法?
レベルまで!?
「えええええええっ!?」
何それぇぇぇ!? 自分探しの旅って、そんなにすごいんですか!?
「……ルシャナ殿。そろそろ勘弁してほしいでござる」
「ふふっ。だって、面白かったんだもの」
「カナメさん! 何をしたら、そんなに強くなれるんですか!?」
「はは。いろいろと修行をしたのでござるよ」
「いろいろって!?」
「……まあ、いろいろでござる」
……うわあ、すっごく気になる!
「ふふーん♪」
そのとき、シルキーさんが、にやりと笑った。
「カナメにも、そんな情けない時代があったのです!」
「無論でござる。拙者とて、負けるときは負けるでござるよ」
「ふふーん♪ それなら、わたくしにも勝てる日が来るのです!」
「はは。楽しみにしているでござる」
「むきぃぃぃっ!!」
……あれ? 何でまた怒ってるんだろう?
「でもね、セリスちゃん」
ルシャナさんが、少しだけ優しい声になった。
「カナメちゃんが帰ってきてから、私たちの戦い方は本当に変わったのよ」
「……変わった?」
「ええ。アルディスは相変わらず前に出て戦っていたけれど、カナメちゃんが敵の動きを読んで、召喚兵で攻撃を散らして、魔術で支援するようになったの」
ルシャナさんは懐かしそうに笑い、カナメさんへ視線を向けた。
「私は二人を強化して、回復して。気づけば、ずいぶん無茶な戦い方ができるようになっていたわ」
「はは。まったくでござるな」
カナメさんも、穏やかに笑った。
……いいなあ。
アルディスさんは、剣で誰にも負けないくらい強くなった。カナメさんは剣だけじゃなく、魔術も召喚も覚えて、自分の戦い方を見つけた。そしてルシャナさんは、そんな二人をずっと支えてきた。
三人とも得意なことが違うのに、一緒に戦うともっと強くなる。
……これが、パーティーなんだ。
◇
「……ところで、セリス殿」
「はいっ!」
カナメさんが、ふいに私へ向き直った。
「先ほどの《電磁加速砲》、実に興味深いものでござった。シルキー殿の雷制御も見事でござるが、セリス殿の発想も素晴らしい」
「……えっ!? ありがとうございます!」
「ただ、面白い魔術と、実戦で使いやすい魔術は、必ずしも同じではないでござる」
「……あっ!」
それ、分かる!
「そうなんです! 昨日ベルガントでも、魔道具の職人さんが、使いやすくするためにいっぱい工夫してて!」
「ほう?」
「だから、この《電磁加速砲》も、もっと使いやすくできると思うんです!」
「ふむ。どのように?」
「例えば、さっき考えた発射時間の短縮とか、連射とか! あとは、魔力を使えない人でも使えるようにできたら、もっと面白いですよね!」
「……なるほど」
カナメさんが、興味深そうに目を細めた。
「魔術師のための魔術を、誰もが使える道具にする……か。それは確かに、大きな可能性があるでござるな」
「はいっ!」
やった! 分かってもらえた!
「……むむむ」
隣でシルキーさんが腕を組んでいた。
「……カナメ」
「何でござるかな?」
「わたくしの研究仲間を、勝手に引き抜かないでほしいのです!」
「引き抜いてなどおらぬでござるよ」
「では、どうしてそんなに楽しそうに話しているのです!?」
「面白い話でござるからな」
「むきぃぃぃっ!!」
……あれ? シルキーさん、また怒ってる。
「ふふっ……!」
ルシャナさんが、とうとう吹き出した。
「シルキー、あなた、本当に変わらないわねえ!」
「ルシャナ様までぇぇぇ!!」
その様子を見て、カナメさんも楽しそうに笑っていた。
……あっ。
そういえば、最初にルシャナさんが言ってたっけ。
カナメさんがシルキーさんを褒めて、結界をお願いしたときのことを、よく覚えておくといいって。
今なら、ちょっと分かる気がする。
カナメさんは、相手の得意なことを見つけるのが上手なんだ。シルキーさんには結界を任せて、私には魔術の実験を続けさせてくれる。そうやって、みんなが一番力を出せるようにしている。
きっと《そよ風組》でも、同じだったんだろうな。
「……カナメさん!」
「何でござるかな?」
「私、カナメさんみたいな戦い方も、すっごく面白いと思います!」
「はは。それは光栄でござるな」
「セリスさぁぁぁん!? だから、感心している場合じゃないのですぅぅぅ!」
……あっ!
また忘れてた!
◇
「ところで、セリス殿。アルディス殿とは、どこで会ったのでござるかな?」
「あっ! 王都アストリアです!」
「ほう」
「すっごく強くて、すっごく格好よかったんです! 剣術も少し教えてもらって!」
「……ふむ」
カナメさんが、懐かしそうに目を細めた。
「そうでござるか。あの少年が、人に剣を教えるようになったのでござるな」
「ふふ。あの子、全然変わってないわよ」
「はは。そうでござるか」
二人が顔を見合わせて笑う。その様子を見ていると、私まで何だか嬉しくなってきた。
「……あの! そよ風組の冒険、もっと聞きたいです!」
「ふふ。セリスちゃん、興味津々ね」
「はいっ!!」
だって、六英雄が三人もいたパーティーですよ!? 絶対、すっごい冒険をしてたはずだもの!
「……そうねえ。それなら、今度ちゃんと歌ってあげるわ」
「……歌!?」
「ええ。《六英雄列伝》の中にも、そよ風組のお話があるのよ」
「……おおおっ!!」
それは絶対に聞きたい!!
「ふむ。拙者の失敗談は控えめにお願いしたいでござるな」
「あら。どうしようかしら?」
「……ルシャナ殿?」
「ふふっ!」
……あれ? カナメさん、ちょっと困ってる?
おおっ! ルシャナさん、強い!
「……むむむ」
その隣で、シルキーさんが手帳に何かを書き込んでいた。
「……ふふーん♪」
……ん?
「シルキーさん、何してるんですか?」
「改訂しているのです!」
「……何を?」
シルキーさんは、得意げに手帳を掲げた。
――《カナメ抹殺計画・改訂第十九版》。
「…………」
……え?
「もう十九版書いてるんですかぁぁぁ!?」
「ふふーん♪ 次こそ完全勝利なのです!」
「はは。楽しみにしているでござるよ」
「むきぃぃぃっ!!」
……ああ。
魔族国での毎日。
しばらく退屈することは、なさそうです!




