第46話「魔術師団長は、魔術が大好きでした!?」
ついに魔族国の王都ヴァルディアへ!
今回登場するのは、魔族国第一魔術師団長、シルキー・リーン!
魔族国随一の魔術師にして、魔術が大好きな天才少女です。
そんな彼女と、魔術研究に目がないセリスが出会ったら……?
果たして、どんな化学反応が起こるのでしょうか?
魔術オタク二人の初対面、お楽しみください!
魔族国に来て、三日目。
……もう、最高ですっ!!
昨日は魔道具を見て、街の仕組みを調べて、美味しいものをいっぱい食べた。
そして今日は、いよいよ魔族国の王都ヴァルディアへ向かう。
しかも、そこには魔族国随一の魔術師がいるらしい。
……ふふふ。
楽しみすぎて、昨日はなかなか眠れなかった。
「セリス、顔がにやけてるわよ」
「えっ!? そんなことないですよ!」
「そう? さっきからずっと笑ってるけど」
ルシャナさんが呆れたように笑う。
私の肩では、エルとレイがぷるぷる揺れていた。
……二人とも、楽しみなのかな?
だったら嬉しいな!
ベルガントで朝食の月包みを買い、私たちは王都へ向かう馬車に乗り込んだ。
道中にも、面白いものがいっぱいあった。
街道沿いに並ぶ魔道灯は、一本ずつ独立しているわけではなく、地中の魔力回路でつながっているらしい。
しかも、一つが故障しても周囲の魔道灯が魔力の流れを調整して、明かりを維持する仕組みになっていた。
……すごい。
王国の魔道具は、決められた働きを安定して再現することに優れている。
一方、魔族国の魔道具は、状況に応じて魔力の流れを変化させることに長けている。
どちらも素晴らしい技術だ。
でも、魔族国の魔術は、私の研究にとって特に興味深かった。
だって、魔力の流れを変えるってことは、現象の成立条件そのものを調整している可能性があるんだもの!
「……セリス?」
「はいっ!」
「また何か考えてたでしょう?」
「はいっ! 魔道灯の魔力回路についてです!」
「……やっぱりね」
ルシャナさんは苦笑して、窓の外へ目を向けた。
「ほら。そろそろ見えてくるわよ」
「えっ!?」
私は身を乗り出した。
そして。
「……わあああああっ!!」
見えた。
巨大な城壁に囲まれた、魔族国の王都。
ヴァルディア。
空中には幾重もの魔法陣が浮かび、建物と建物の間には魔力で支えられた橋が架かっている。
街の中心には巨大な塔がそびえ、そこから何本もの光の筋が街全体へ伸びていた。
……魔力供給網?
いや、それだけじゃない。
光の流れが、時間とともに変化している。
各区画の魔力需要を見ながら、供給量を調整しているのかもしれない。
……うわあ。
これ、全部調べたい!
「ルシャナさん! あの塔って何ですか!?」
「王都の魔力供給を管理する施設だったと思うわ」
「じゃあ、あの空中の魔法陣は!?」
「交通制御用じゃなかったかしら」
「その下の橋は!?」
「……セリス」
「はいっ!」
「まずは街に入りましょうね?」
「……はいっ!」
……しまった。
まだ入城手続きも済んでなかった。
◇
王都の門では、冒険者ギルドの登録証を提示して入城手続きを行った。
ルシャナさんの登録証を見た門番さんが、ぎょっと目を見開く。
「ろ、六英雄のルシャナ様!?」
「あら。そんなに驚かなくてもいいのに」
「し、失礼しました! どうぞお通りください!」
……六英雄って、やっぱりすごいんだなあ。
私も登録証を見せ、問題なく入城できた。
王都の中は、ベルガント以上に賑やかだった。
空を飛ぶ魔族の人たち。
魔力で荷物を運ぶ商人さん。
自動で動く清掃用の魔道具。
建物の壁には複雑な魔法陣が刻まれ、その一部が絶えず形を変えている。
……あああ。
見たい。
触りたい。
分解して調べたい!
「分解は駄目よ?」
「……まだ何も言ってません!」
「顔に書いてあるわ」
……そんなに分かりやすいのかな、私。
ルシャナさんに連れられて向かったのは、王都の中心部にある大きな建物だった。
魔族国第一魔術師団、本部。
入口には立派な紋章が掲げられ、建物全体を覆うように何層もの魔法陣が展開されている。
……すごい。
防御結界だ。
でも、魔法障壁と物理障壁が別々に組まれている。
魔術の顕現を阻害する層と、実体の侵入を防ぐ層。
それぞれの働きを独立させているから、片方に負荷がかかっても、もう片方を維持できるんだ。
……合理的!
「……セリス?」
「はいっ!」
「今度は何を見てるの?」
「結界です! あの魔法陣、すっごく綺麗に組まれてます!」
「……そう」
ルシャナさんが、なぜか少し嬉しそうに笑った。
「きっと、あの子とも気が合うわね」
◇
「ルシャナさまあああああっ!!」
魔術師団の訓練場へ案内された瞬間、元気いっぱいの声が響いた。
ぱたぱたと駆け寄ってきたのは、小柄な女の子だった。
金色の髪。
頭には小さな漆黒の角が二本。
白と赤を基調とした華やかな衣装をまとい、宝石のついた杖を握っている。
その足元には、艶やかな黒猫が一匹。
「お久しぶりなのですっ!!」
「あら、シルキー。元気そうね」
「もちろん元気なのです! ルシャナ様こそ、お変わりなくて何よりなのです!」
女の子は胸を張った。
「ふふーん♪ わたくし、今日も絶好調なのです!」
……可愛い。
見た目は十四歳くらいかな?
でも、この人が……?
「紹介するわね。魔族国第一魔術師団長、シルキー・リーン。私の古い友人よ」
「えっ!?」
私は思わず声を上げた。
「この人が、魔術師団長さん!?」
「えっへん! そうなのです!」
シルキーさんは得意げに杖を掲げた。
「魔族国第一魔術師団長、シルキー・リーンなのです! よろしくお願いするのです!」
「あっ! セリスです! よろしくお願いします!」
「セリスさんですね! ルシャナ様からお話は聞いているのです!」
「えっ!? どんなお話ですか!?」
「魔術が大好きで、とっても面白い方だと!」
……あっ。
それなら嬉しい!
足元の黒猫が、にゃあと鳴いた。
「あ、この子はノルなのです! わたくしの大切な使い魔なのですよ!」
「ノルちゃん! 可愛いですね!」
「にゃあ」
ノルちゃんは私をじっと見つめ、それからシルキーさんの足元へ戻った。
……賢そうな子だなあ。
「さて!」
シルキーさんが杖をくるりと回した。
「せっかく来ていただいたのです! わたくしの魔術をお見せするのです!」
「本当ですかっ!?」
「ふふーん♪ もちろんです!」
……やったあああ!!
◇
訓練場の奥には、無数の標的が並んでいた。
シルキーさんが杖を掲げる。
すると、空中に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「《雷帝の顕現》!」
――ゴロロロロロ……!!
頭上に黒雲が生まれた。
紫金色の雷光が雲の中を走り、次の瞬間、無数の稲妻が標的へ降り注ぐ。
――ズガガガガガガン!!
「わあああああっ!!」
すごい!
雷の出力もすごいけど、それ以上に制御が綺麗だ!
標的の位置に合わせて放電経路を調整している。
しかも、周囲の魔力場への影響が最小限になるよう、位相まで揃えている。
……なんて精密なんだろう!
「まだまだいくのです!」
シルキーさんが杖を振る。
「《連鎖の雷華》!」
一本の雷光が標的を貫いた。
そこから枝分かれした雷が、別の標的へ。
さらに次の標的へ。
――バヂヂヂヂッ!!
雷光が花のように広がり、訓練場を駆け巡る。
……あれ?
今、雷の流れ方が変わった。
標的ごとに電位差を調整している?
いや、魔力で放電経路そのものを指定しているのかな?
……どっちだろう。
気になる!
最後にシルキーさんが杖を軽く掲げると、残っていた雷光が透明な結界へ吸い込まれるように消えた。
「《雷光の結界》なのです!」
……すごい。
攻撃と防御の切り替えまで、ほとんど隙がない。
「ふふーん♪ いかがでしたか?」
「すっっっごいです!!」
私は思わず駆け寄った。
「さっきの《連鎖の雷華》! 標的ごとに放電経路を変えてましたよね!? あれって、魔力位相の調整ですか!? それとも電位差そのものを操作してるんですか!?」
「……!」
シルキーさんの瞳が輝いた。
「そこに気づくとは、お目が高いのです!」
「教えてくださいっ!」
「もちろんです! まず、魔力位相を標的ごとに調整して、放電の方向を制御しているのです! ただし、電位差の形成も補助的に利用しているのですよ!」
「やっぱり!!」
……面白い!
魔力による現象制御と、物理的な放電条件の操作。
その両方を使っているんだ!
「シルキーさん!」
「はいっ!」
「私も、一つ試してみていいですか!?」
「もちろんです! どんな魔術なのです?」
「えっと……雷を、別の方法で作れないかなって!」
「……別の方法?」
シルキーさんが首を傾げた。
私は頷いた。
「はいっ! 雷そのものを顕現させるんじゃなくて、雷が生まれる条件を作るんです!」
◇
雷は、電荷が移動することで生じる現象だ。
電位差があれば、電荷は移動しようとする。
そして、磁場が時間とともに変化すると、電場が生まれる。
……つまり。
磁場を操作すれば、電気の流れを作ることもできる。
もちろん、それだけで大きな放電が起こるわけじゃない。
十分な電位差と、放電が成立する条件が必要だ。
でも、それなら。
その条件を、魔術で整えればいい!
「……磁場?」
シルキーさんが首を傾げた。
「それは何なのです?」
「磁石の周りにある、目には見えない力の場です!」
「ああ、磁石なのですね!」
「はいっ! それを変化させると、電気に影響を与えられるんです!」
「……なるほど?」
私は両手を広げた。
まず、空間に磁場を形成する。
その磁場を変化させ、電場を誘導する。
さらに電荷の分布を調整し、放電が起こる条件を整える。
……よし。
これなら。
「《マグネティック・フィールド》!」
――キィィィィン……!
私の両手の間に、青白い光が瞬いた。
次の瞬間。
――バヂィッ!!
小さな稲妻が走った。
「……っ!?」
シルキーさんが目を見開いた。
「……雷魔術?」
「はいっ! でも、雷そのものを顕現させたわけじゃないんです!」
「……どういうことなのです?」
「磁場を変化させて、電気が流れる条件を作りました!」
「…………!」
シルキーさんは、青白い稲妻をじっと見つめた。
そして。
「……魔術で、雷を作るのではなく」
「はいっ!」
「雷が生まれる仕組みを、魔術で再現したのですか!?」
「そうですっ!!」
「……!」
シルキーさんの表情が変わった。
「……面白い」
「えっ?」
「面白いのですっ!!」
彼女が勢いよく私の手を握った。
「では、その磁場というものを、わたくしの雷魔術でさらに変化させたらどうなるのです!?」
「……あっ!」
私は思わず声を上げた。
「それ、すっごく面白そうです!!」
「ふふーん♪ でしょう!?」
……すごい。
シルキーさん、もう次の応用を考えてる!
だったら。
だったら、もっと面白いことができるかもしれない!
「……あっ!」
私は訓練場の隅に置かれた金属製の試験片を見つめた。
電流。
磁場。
そして、力。
……そうだ。
電流が流れる導体には、磁場によって力が働く。
だったら。
それを使って、物を加速したら?
「シルキーさん!」
「はいっ!」
「今度は、雷で物を飛ばしてみませんか!?」
「……はい?」
◇
「雷で、物を飛ばす……?」
シルキーさんが首を傾げる。
「雷撃で吹き飛ばすのですか?」
「いえ! 雷を直接ぶつけるんじゃないんです!」
私は金属製の試験片を手に取った。
「電流と磁場を利用して、物体そのものを加速するんです!」
「……物体を?」
「はいっ!」
……ふふふ。
これ、できたら面白いぞ!
ただし、普通に金属を飛ばすだけなら、魔術で押し出すのと変わらない。
大切なのは、電磁力によって加速する仕組みを再現すること。
私は魔力で二本の導体を形成し、その間に試験片を配置した。試験片を通して二本の導体の間に電流が流れるよう、魔力で接触状態を維持する。
実際の金属レールではない。
導電性を持つ状態を、魔術で維持している。
そして、その仕組みに電流を流す。
「……なるほど!」
シルキーさんが声を上げた。
「その二本の間に電流を流し、磁場との相互作用で物体を押し出すのですね!?」
「そうですっ!」
「ですが、そのままでは電流が不安定になるのです!」
「……あっ!」
確かに。
試験片の接触状態が変化すれば、電流も乱れる。
魔力で形成した導体も、発射時の負荷に耐えなければならない。
「でしたら、わたくしが電流を制御するのです!」
「お願いしますっ!」
「えっへん! お任せなのです!」
シルキーさんが杖を掲げた。
紫金色の雷光が、私の術式へ流れ込む。
……うわあ。
すごい精度!
電流の変化に合わせて、魔力位相を瞬時に調整している。
私が形成した磁場と、シルキーさんの雷魔術。
二つの術式が、綺麗につながった。
「……いけます!」
「はいなのです!」
私は訓練場の奥を見た。
標的までの距離を確認する。
射線上に人はいない。
周囲には防御結界も展開されている。
……でも。
念のため、威力は小さくしておこう。
「シルキーさん! まずは低出力で試します!」
「了解なのです!」
私は術式を起動した。
「《電磁加速砲》!」
――バシュッ!!
金属片が飛び出した。
そして。
――ドンッ!!
標的の中央に、小さな穴が開いた。
「…………」
「…………」
……あ。
できた。
「……飛びましたね?」
「……飛んだのです」
「……やりましたね?」
「……やったのです」
私たちは顔を見合わせた。
「「やったああああああっ!!」」
……すごい!
本当に飛んだ!
魔術で物体を押し出したんじゃない。
電流と磁場によって、物理的に加速したんだ!
「セリスさん! これは素晴らしいのです!」
「シルキーさんの雷制御のおかげです!」
「いえいえ! そもそも電流を物体の加速に使うという発想が素晴らしいのです!」
……ああ。
楽しい!
魔術って、本当に面白い!
「……ところで、セリスさん」
「はいっ!」
シルキーさんが、穴の開いた標的を見つめた。
「今の攻撃、最後まで魔術だったのですか?」
「えっ?」
「金属片が飛び出した後、魔力の反応が急に消えたのです」
「……ああ!」
私は頷いた。
「発射した後は、普通の金属片ですよ!」
「……普通の?」
「はいっ! 魔術で加速しただけなので!」
シルキーさんが黙り込んだ。
そして、ゆっくりと訓練場の結界へ目を向ける。
「……ということは」
「はい?」
「魔法障壁で顕現を阻害しても、発射後の金属片は消えないのですか?」
「……あっ!」
そうだ。
魔法障壁は、魔術による現象の顕現を阻害する。
でも、すでに存在している金属片が飛んでくるなら、話は別だ。
それは魔術ではなく、物理的な運動。
防ぐなら、物理障壁が必要になる。
「……そうですね!」
「…………!」
シルキーさんの瞳が、再び大きく見開かれた。
「……セリスさん」
「はいっ!」
「これは、魔術師にとって非常に厄介な攻撃なのです」
「……そうなんですか?」
「そうなのです! 魔力反応を見て魔法障壁を張った相手に、物理攻撃が飛んでくるのですから!」
「……ああ!」
なるほど。
確かに、防御の種類を間違えたら危ない。
「だったら、物理障壁も一緒に張ればいいですね!」
「……それが簡単にできれば苦労しないのです!」
……あれ?
シルキーさん、なんだか嬉しそうだ。
「ふふふ……!」
「……シルキーさん?」
「ふふーん♪ 面白いのです!」
彼女は杖を掲げた。
「では、次はわたくしが、この攻撃を防ぐ術式を考えるのです!」
「えっ!? いいんですか!?」
「もちろんです! 新しい魔術が生まれたなら、新しい防御も研究するべきなのです!」
「……!!」
……すごい。
この人、本当に魔術が大好きなんだ!
◇
「……ところで、セリスさん」
しばらく術式について話し合ったあと、シルキーさんが不思議そうに首を傾げた。
「先ほどから気になっていたのですが……」
「はいっ!」
「セリスさんの魔術は、どうしてそんなに自由なのです?」
「……自由?」
「はい。普通、魔術には術式の構造と適性があるのです。雷魔術なら雷を、氷魔術なら氷を顕現させるのです」
「はい!」
「ですが、セリスさんは磁場を作り、電場を生み、さらに物体の加速まで再現してしまったのです」
シルキーさんが私の術式を指さした。
「いったい、どんな理論を使っているのです?」
……ああ!
なるほど!
「万物方程式です!」
「……ばんぶつ、ほうていしき?」
「はいっ!」
私は嬉しくなって頷いた。
「世界のいろんな現象を、一つの仕組みで説明できないかなって考えたんです!」
「……世界の、いろんな現象?」
「はい! 物が動くことも、雷が走ることも、魔術が発動することも!」
「…………」
「それぞれ別々に見えても、もっと根っこのところでは、つながっているんじゃないかなって!」
シルキーさんは黙って聞いている。
……あれ?
説明、難しかったかな?
「えっと、たとえば《インパクト》ってありますよね?」
「もちろんあるのです。初級の衝撃魔法なのです!」
「はいっ! でも、どうして衝撃が生まれるんでしょう?」
「……え?」
「物がぶつかったとき、何が起こっているのか。力って何なのか。どうして動いていた物が止まると、衝撃が生まれるのか」
私は手のひらを見つめた。
「そういうことを一つずつ考えていくと、魔術で何を再現しているのか、もっと詳しく分かるんです!」
「……なるほど」
「そして、現象の仕組みが分かれば、その現象が成立する条件を魔術で再現できるんです!」
「…………!」
シルキーさんの表情が変わった。
「……それは」
「はい?」
「魔術の術式を研究しているのではなく……」
彼女が、ゆっくりと言葉を続けた。
「魔術が現象を生み出す、その前の仕組みを研究しているのですか?」
「……!」
私は思わず笑顔になった。
「そうですっ!!」
……すごい!
伝わった!
こんなにすぐ理解してもらえるなんて!
「万物方程式の中には、魔術の顕現を説明する式もあるんです。私は《共鳴顕現方程式》って呼んでます!」
「……共鳴、顕現……」
「はいっ! 世界には、いろんな現象が起こり得る可能性があるんです。その中から、望む現象が成立する条件を見つけて、共鳴させるんですよ!」
「…………」
シルキーさんは、じっと私を見つめた。
……あれ?
今度こそ、難しかったかな?
「……セリスさん」
「はいっ!」
「その理論は、どなたに教わったのです?」
「え? 自分で考えましたよ?」
「…………はい?」
「ずっと前から、こういうことを考えるのが好きだったんです!」
「……ずっと、前から?」
「はいっ!」
私は笑った。
「だって、世界の仕組みって、面白いじゃないですか!」
シルキーさんはしばらく黙っていた。
それから、ふっと笑った。
「……ふふ」
「……?」
「ふふーん♪」
そして。
「わたくし、その方程式をもっと知りたいのです!!」
「……!!」
……やったああああ!!
「もちろんですっ!!」
「では、まず先ほどの電磁加速の術式から、詳しく教えてほしいのです!」
「はいっ! その前に、電磁気学の基本から説明しますね!」
「でんじきがく……!」
シルキーさんの瞳が、きらきらと輝いている。
「面白そうなのですっ!!」
……ああ。
本当に、最高だ。
この世界には、まだ知らない魔術がいっぱいある。
試してみたい現象も、調べたい仕組みも、数えきれないほどある。
そして今、こうして一緒に考えてくれる人までいる。
……来てよかったなあ。
「……二人とも?」
背後から、ルシャナさんの声が聞こえた。
「はいっ!」
「はいなのですっ!」
「……そろそろ休憩しない?」
私はシルキーさんを見た。
シルキーさんも、私を見た。
「……あと少しだけ!」
「あと少しなのです!」
「……その『あと少し』、信用できないのよねえ」
ルシャナさんが深いため息をついた。
足元ではノルちゃんが尻尾を揺らし、私の肩ではエルとレイがぷるぷる震えている。
……あっ。
そうだ。
次は、もっと強い磁場を作ってみようかな。
それから、氷魔術で温度を下げたら、電流の流れ方も変わるかもしれない。
材料によっては、超伝導だって再現できるかも……!
「……シルキーさん!」
「はいっ!」
「次は、氷魔術も組み合わせてみませんか!?」
「……氷魔術を、雷魔術に?」
「はいっ!」
「…………!」
シルキーさんの口元が、ゆっくりと上がった。
「……ふふーん♪」
……あ。
この顔。
きっと、同じこと考えてる。
「「面白そうですっ!!」」
「……もう駄目ね、この二人」
ルシャナさんの呟きが聞こえたけれど。
ごめんなさい。
今は、それどころじゃないんです!
だって。
魔術って、こんなに面白いんですから!!
魔術オタク、二人になりました!(笑)
雷魔術を極めたシルキーと、世界の仕組みから魔術を考えるセリス。
同じ現象を見ても、二人の着眼点は少し違います。
そして今回、二人の共同研究から誕生したのが《電磁加速砲》!
魔術で物体を加速し、最後は純粋な物理攻撃として命中させる。
魔法障壁と物理障壁が存在するこの世界では、実はかなり厄介な発想だったりします。
さらに、セリスの口から初めて語られた《万物方程式》。
彼女はいったい、世界の何を理解しているのでしょうか?
そして次回は、雷魔術に氷魔術まで組み合わせる……!?
ルシャナの苦労がますます増えそうですが(笑)、二人の魔術研究はまだまだ止まりません!
次回もお楽しみに!




