第44話「ドラゴン売ったら串焼き何本!?」
地竜の谷を突破したセリスとルシャナ。
アースドラゴン25体との激闘を終え、二人が抱えた新たな問題は――巨大すぎる戦利品!?
ドラゴン素材を売って、いよいよ魔族国へ!
研究者セリスの好奇心は、今日も止まりません!
……重い。
いや、違う。
重くはない。
全然、重くはないんだけど。
「……ルシャナさん」
「なあに、セリスちゃん?」
「これ、ものすごく邪魔ですね」
「そうねえ」
私たちは、顔を見合わせた。
私の肩には、巨大な麻袋。
ルシャナさんの肩にも、巨大な麻袋。
どちらも、私たちの身体より大きい。
しかも、中身がごつごつしているせいで、形がものすごくいびつだった。
歩くたびに、がしゃん、がしゃんと音がする。
……うん。
完全に、詰め込みすぎた。
「でも、せっかくのドラゴン素材ですし……」
「ええ。置いていくのは、もったいないものね」
「ですよね!」
私は、うんうんと頷いた。
アースドラゴン二十五体。
あんなにたくさんのドラゴンを倒したんだ。
素材を持って帰らないなんて、もったいなさすぎる!
とはいえ、全部を持って帰るのはさすがに無理だった。
だから、状態のいい魔石や鱗、牙、爪を選んで回収した。
……したんだけど。
「……もうちょっと、量を減らしてもよかったですかね?」
「ふふ。今さらね」
「ですよねえ」
私は、肩の袋を担ぎ直した。
ごりっ。
「いたっ」
「あら、大丈夫?」
「はい! 牙が背中に当たっただけです!」
「……次は、詰め方も工夫しましょうね」
「はいっ!」
そんなことを話しながら、私たちは国境の交易都市へ向かっていた。
渓谷を抜けてから、半日ほど。
ようやく、街の城壁が見えてきたところだ。
「……おおっ!」
私は思わず声を上げた。
大きな城門。
その前には、荷馬車が何台も並んでいる。
人間だけじゃない。
角の生えた人、耳の尖った人、尻尾のある人までいる。
「ルシャナさん! あの人たち、魔族ですか!?」
「ええ。ここは国境の交易都市だから、いろいろな種族が行き来するのよ」
「へえええっ!」
すごい!
魔族国に入る前から、もうこんなにたくさん!
……あ。
あの人、角が三本ある!
こっちの人は、肌が青い!
……えっ!?
あの人、腕が四本!?
私は思わず足を止めた。
「……ルシャナさん」
「なあに?」
「魔族国、楽しみすぎます!」
「ふふ。そうでしょうね」
ルシャナさんは、楽しそうに笑った。
「でも、まずは荷物を何とかしましょうか」
「……あっ」
そうだった。
ドラゴン素材。
……売らなきゃ!
◇
交易都市の商業ギルドは、思っていたよりずっと大きかった。
石造りの立派な建物。
広い入口。
中からは、人々の話し声が聞こえてくる。
扉の上には、天秤と硬貨を組み合わせた紋章が掲げられていた。
「ここですね!」
「ええ。素材の買い取りも扱っているわ」
「よーし!」
私は、勢いよく扉を開けた。
からん、からん。
「こんにちはー!」
……。
…………。
あれ?
ギルドの中が、静かになった。
受付の人。
商人さん。
荷物を運んでいた職員さん。
みんな、こっちを見ている。
……ん?
何だろう?
私は、自分の服を見下ろした。
……変なところ、ないよね?
「セリスちゃん」
「はい?」
「見られてるのはね、荷物よ」
「……あっ」
そうだった。
私たち、ものすごく大きな袋を担いでるんだった。
……でも。
そんなに珍しいかな?
商業ギルドなんだから、大きな荷物くらいあると思うんだけど。
私は首を傾げながら、受付へ向かった。
「すみませーん!」
「……は、はい!」
受付のお姉さんが、慌てて背筋を伸ばした。
「い、いらっしゃいませ。ご用件をお伺いします」
「素材を買い取ってほしいんです!」
「か、かしこまりました」
お姉さんは、にっこり笑おうとした。
でも、その目は私の肩の袋から離れない。
「……あの、お荷物をお持ちしましょうか?」
「大丈夫です! 軽いので!」
「……軽い?」
「はいっ!」
私は、袋を肩から下ろした。
どさっ!!
――ミシッ。
……。
…………。
「……あっ」
床が鳴った。
すっごく嫌な音がした。
「ご、ごめんなさい!」
私は慌てて袋を持ち上げた。
「床、大丈夫ですか!?」
「…………」
受付のお姉さんは、床を見つめている。
……。
…………。
「……お、お客様」
「はい!」
「そちらの袋には、いったい何が……?」
「ドラゴンです!」
「…………」
「アースドラゴンの素材です!」
「…………」
「買い取ってもらえますか?」
お姉さんが、ゆっくりと顔を上げた。
……あれ?
顔色が悪い。
「……少々、お待ちください」
「はい!」
お姉さんは、奥の扉を開けた。
そして。
「ギルド長ぉぉぉぉぉぉ!!!!」
……。
…………。
「……ルシャナさん」
「なあに?」
「何か、まずかったですか?」
「ふふ。床かしらね?」
「やっぱり!?」
◇
しばらくして、奥から立派な服を着た男性が現れた。
四十代くらいだろうか。
整えられた髭に、鋭い目。
いかにも仕事ができそうな人だ。
「お待たせいたしました。私が当ギルドの責任者です」
「こんにちは! セリス・アルフィーネです!」
「ルシャナよ。よろしくね」
「……ルシャナ?」
男性が、一瞬だけ眉を動かした。
でも、すぐに仕事の顔へ戻る。
「……まずは、素材を確認させていただいても?」
「はいっ!」
私は袋を開けた。
がらがらがらっ!
大きな鱗が、カウンターの上に広がる。
その隙間から、鋭い牙。
ごつごつした爪。
そして、鈍い光を放つ魔石。
……うん。
我ながら、すっごい量だ。
「…………」
ギルド長さんが、動かなくなった。
受付のお姉さんも、動かない。
近くにいた商人さんまで、口を開けている。
……あれ?
「……あの」
ギルド長さんが、ようやく口を開いた。
「これは……本当に、アースドラゴンの素材ですか?」
「はい!」
「……どちらで入手を?」
「この近くの渓谷です!さっき通ったんです!」
「……さっき?」
「はい! 魔族国との国境にある、岩だらけの谷です!」
ギルド長さんの表情が変わった。
「……まさか、地竜の谷ですか?」
「地竜の谷?」
「この先の渓谷です。アースドラゴンの群れが棲みついており、危険すぎて通常の交易路から外されている場所ですが……」
「あっ! そこです!」
「…………」
ギルド長さんが、ゆっくりと息を吐いた。
「……よく、ご無事で」
「はいっ!」
「……何体ほど、遭遇されたのですか?」
「二十五体です!」
「…………」
「すっごくたくさんいました!」
「…………」
ギルド長さんは、目を閉じた。
そして、もう一度開いた。
「……申し訳ありません。今、何体と?」
「二十五体です!」
「……にじゅうご」
「はい!」
「…………」
ギルド長さんが、ルシャナさんを見た。
「……失礼ですが、そちらの方は」
「ルシャナよ」
「……まさか」
「ええ。多分そのルシャナよ」
……。
…………。
「六英雄ぅぅぅぅ!?」
ギルド長さんが叫んだ。
「ええ。セリスちゃんと一緒に倒したの」
「……お二人で?」
「そうよ」
「…………」
ギルド長さんは、椅子に座った。
ゆっくりと。
ものすごく、ゆっくりと。
「……少々、お時間をいただけますか」
「はいっ!」
「……査定担当を、全員呼びます」
「……全員?」
「はい」
……。
…………。
そんなに大変なのかな?
◇
それから、商業ギルドは大騒ぎになった。
「この魔石、間違いなく地竜のものです!」
「鱗の状態も良好だ!」
「待て、この牙……損傷が少ないぞ!」
「爪もあるのか!?」
「……何だ、この量は!?」
査定担当の人たちが、次々と素材を確認していく。
魔石を光にかざしたり、鱗の厚さを測ったり、牙を一本ずつ並べたり。
……おおおっ!
なんか、すっごく楽しそう!
「ルシャナさん! 見てください!」
「ええ。皆さん、忙しそうね」
「あの人、魔石を光にかざしてます!」
「品質を確かめているのね」
「へええっ!」
私は、思わず身を乗り出した。
……あ。
魔石って、どういう構造なんだろう?
魔力を蓄える仕組み、普通の魔石と違うのかな?
……調べたい。
すっごく調べたい!
「……セリスちゃん」
「はい?」
「全部、売ってしまわないようにね」
「……あっ!」
私は慌てて袋の中を確認した。
そうだった!
研究用!
「大丈夫です! 魔石は五個、残してあります!」
「それなら安心ね」
「はいっ!」
……危ない危ない。
全部売っちゃったら、あとで絶対後悔するところだった。
そんなことをしているうちに、ギルド長さんが戻ってきた。
「お待たせいたしました」
「はい!」
「査定が完了いたしました」
ギルド長さんは、一枚の紙を差し出した。
「今回、お売りいただく素材は、こちらでよろしいでしょうか」
私は、紙を覗き込んだ。
魔石、二十個。
鱗、百枚。
牙、十本。
爪、二十本。
……うん!
「はいっ!」
「では、買取金額をご説明いたします」
ギルド長さんが、指で項目を追った。
「まず、魔石二十個。こちらは一個につき金貨三枚、合計金貨六十枚です」
「おおっ!」
「鱗百枚。一枚銀貨十五枚で、金貨十五枚」
「へええっ!」
「牙十本。大きさと状態に差がございますので、合計金貨十五枚」
「なるほど!」
「爪二十本。こちらは一本銀貨五十枚、合計金貨十枚」
「……はい!」
ギルド長さんが、顔を上げた。
「以上、合計で――」
……。
…………。
「金貨百枚でございます」
「…………」
……。
…………。
「……ひゃく?」
「はい」
「……金貨が?」
「はい」
「……百枚?」
「はい」
……。
…………。
「やったあああああああっ!!」
私は、思いっきり飛び跳ねた。
「ルシャナさん!! 金貨百枚です!!」
「ええ。よかったわね」
「すっごいです!!」
金貨百枚!
百枚!!
……えーっと。
串焼き一本が、銅貨三枚だから……。
金貨一枚で、串焼き三千三百三十三本。
それが、百枚。
……。
…………。
「さ、三十三万本以上の串焼きが買えますぅぅぅぅっ!!」
「……セリスちゃん?」
「ルシャナさん!! 串焼きが三十三万本ですよ!? 三十三万本!!」
「え、ええ。そうね」
「一日三本食べても、三百年分です!!」
「……セリスちゃん。そんなに食べるつもりなの?」
「食べませんけど!!」
私は、ぎゅっと拳を握った。
「でも、すっごいお金持ちになった気がします!!」
「ふふ。実際、かなりの大金よ」
……よーし!
魔道具も、実験器具も、珍しい魔術書も買えちゃう!
もちろん、美味しい串焼きだって!
……ああ。
夢が広がるぅぅぅ!!
金貨百枚!
「……あの」
ギルド長さんが、遠慮がちに声をかけてきた。
「はい?」
「差し支えなければ、一つお伺いしても?」
「もちろんです!」
「……これだけのアースドラゴンを、どのように討伐されたのでしょうか?」
「あっ!」
私は、にっこり笑った。
「《インパクト》です!」
「……インパクト?初級魔法!?」
「はい! ちょっと共鳴させてみました!」
「…………」
「衝撃を何度も重ねると、すっごいことになるんですよ!」
「……ちょっと?」
「はいっ!」
ギルド長さんが、ルシャナさんを見た。
ルシャナさんは、にっこり微笑んだ。
「本当よ。私も一緒にいたもの」
「…………」
ギルド長さんは、しばらく黙っていた。
そして。
「……世の中には、まだまだ知らないことがございますな」
……。
…………。
うん!
それは、本当にそう思う!
◇
素材の売却を終えた私たちは、ギルドを出た。
……軽い!
すっごく軽い!
あんなに大きかった袋が、今は小さくなっている。
研究用の魔石五個と、いくつかの鱗や牙。
それだけなら、普通の荷物と一緒に持ち歩ける。
「……ルシャナさん」
「なあに?」
「お金って、便利ですね」
「ふふ。そうね」
「荷物が、こんなに軽くなりました!」
「……そういう意味?」
「はい!」
ルシャナさんが、楽しそうに笑った。
……だって、本当なんだもん。
さっきまで、あんなに邪魔だったのに!
しかも、お金まで増えた!
……最高だ!
「それじゃあ、国境へ向かいましょうか」
「はいっ!」
私たちは、交易都市の西側へ向かった。
そこには、国境を越えるための大きな門があった。
王国側と魔族国側。
それぞれの兵士が、通行人を確認している。
……おおっ。
いよいよだ。
魔族国!
ついに、魔族国!
「……わあ」
私は、門を見上げた。
大きな石造りの門。
その向こうには、見慣れない建物が並んでいる。
人々の服装も、少し違う。
……すごい。
なんか、もう空気が違う気がする!
「次の方、どうぞ!」
「あっ、はい!」
私は慌てて前へ進んだ。
検問所の兵士さんが、こちらを見た。
「身分証明書をお願いします」
「はいっ!」
私は、王国で発行してもらった身分証明書を差し出した。
兵士さんが、内容を確認する。
「……王国特別研究協力者?」
「はい!」
「……セリス・アルフィーネ」
「はいっ!」
兵士さんが、顔を上げた。
「……青銀の魔女?」
「……あっ」
私は、ちょっと照れくさくなった。
「そ、そう呼ばれてます」
「…………」
兵士さんは、もう一度書類を見た。
それから、ルシャナさんを見た。
「……そちらの方は?」
「ルシャナよ」
「…………」
「吟遊詩人のルシャナ」
「…………」
兵士さんが、ゆっくりと背筋を伸ばした。
「……少々、お待ちください」
……。
…………。
あれ?
また?
さっきも聞いた気がする。
兵士さんは奥の詰所へ向かい、上官らしい人と何かを話し始めた。
しばらくして、二人で戻ってきた。
「お待たせいたしました。入国の目的をお伺いします」
「魔術研究と、いろいろな国を見て回る旅です!」
「……魔術研究?」
「はい! 魔族国の魔法、すっごく楽しみにしてるんです!」
上官さんが、少しだけ笑った。
「そうですか。魔族国には、王国とは異なる魔術の伝統がございます」
「本当ですか!?」
「ええ。どうぞ、良い旅を」
「ありがとうございます!!」
身分証明書が返され、通行の許可が下りた。
……よし!
いよいよ!
「ルシャナさん!」
「ええ」
「行きましょう!!」
「ふふ。行きましょうか」
私たちは、並んで門をくぐった。
◇
――魔族国。
そこには、私がまだ知らない世界が広がっていた。
石造りの建物。
色とりどりの布が飾られた通り。
店先には、見たことのない果物や香辛料が並んでいる。
角の生えた人たちが笑いながら話し、尻尾のある子どもたちが走り回っていた。
そして。
「……あれ?」
私は、ある店の前で足を止めた。
店先に、小さな魔道具が並んでいる。
丸い石。
細い金属の輪。
不思議な模様が刻まれた板。
その一つが、ふわりと宙に浮かんだ。
「…………」
……え?
浮いた?
今、浮いたよね!?
「……ルシャナさん」
「なあに?」
「あれ、何ですか!?」
「魔族国の魔道具ね」
「……魔道具?」
「ええ。こちらでは、ああいうものがよく使われているのよ」
「…………」
私は、もう一度、店先を見た。
小さな石が、ふわふわと浮かんでいる。
……。
…………。
「……見たい」
「ふふ」
「触りたい……!」
「ええ」
「調べたいですぅぅぅ!!」
ルシャナさんが、楽しそうに笑った。
「じゃあ、まずはお店に入ってみましょうか」
「はいっ!!」
私は、勢いよく頷いた。
……ああ。
やっぱり。
やっぱり、そうだ。
世界は、まだまだ知らないことだらけだ。
そして。
その全部が、面白そう!
「ルシャナさん! 魔族国、最高です!!」
「ふふ。まだ入ったばかりよ?」
「だからです!!」
私は、にっこり笑った。
「これから、もっと面白いことがあるってことですよね!!」
ルシャナさんは、少し驚いたように目を瞬いた。
それから、嬉しそうに微笑んだ。
「……ええ。きっと、そうね」
私は、店先の魔道具へ駆け寄った。
エルとレイが、肩の上で跳ねる。
「ぷいっ!」
「ぷるん!」
ルアールちゃんも、青い光を散らして舞い上がった。
金貨100枚!
セリスにとっては、魔道具や実験器具より先に、串焼き33万本が思い浮かぶようです(笑)
そして、ついに魔族国へ入国!
王国とは異なる魔術文化、未知の魔道具、さまざまな種族たち。
セリスの研究者魂が、ますます暴走しそうですね!
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次回からの魔族国編も、お楽しみに!




