第43話「必殺!超ぉ!インパクトぉぉおお!」
英雄にも、始まりがある。
ルシャナが語ったアルディスの物語を胸に、セリスたちは魔族国へ向かいます。
ところが、近道に選んだ渓谷で待ち受けていたのは、なんとアースドラゴン25体!
六英雄の歌と、規格外研究者の魔術。
二人の初共闘で、いったい何が起こるのでしょうか?
――英雄にも、始まりがある。
昨夜、ルシャナさんが歌ってくれたアルディスさんの物語は、今も私の胸に残っていた。
レベル1の少年が、レベル15のホブゴブリンに挑む。
勝てると信じていたのは、たった二人。
99倍。
そんなとんでもない倍率をつけられた少年が、相手の動きを読み、剣を振り、最後には魔法まで使って勝ってしまった。
……すごい。
すごいなあ、アルディスさん。
今のあの人が強いのは知っていたけれど、最初から強かったわけじゃなかったんだ。
怖い相手にも挑んで、考えて、工夫して。
それでも、まだ追いかけている人がいる。
「……会ってみたいなあ」
「誰にかしら?」
隣を歩いていたルシャナさんが、こちらを向いた。
「《剣鬼》さんです!」
「まあ」
「アルディスさんがずっと憧れてる人なんですよね? どんな剣を使うんでしょう! やっぱり、すっごく速いんですか!?」
「それは、会えたときのお楽しみね」
「えええっ! ルシャナさん、知ってるんですか!?」
「どうかしら?」
「ずるいです!」
ルシャナさんは楽しそうに笑った。
……むう。
絶対、何か知ってる顔だ。
でも、教えてくれないなら仕方ない。
いつか本人に会って、直接聞いてみよう!
それにしても、旅っていいなあ。
知らない土地に行けば、知らない人がいて、知らない魔法があって。
知らない物語まである。
……楽しみが多すぎる!
◇
それから、数日が過ぎた。
驚くほど、何事もなかった。
本当に、何事も。
朝起きて、ご飯を食べて、街道を歩いて。
途中の町で美味しい焼き菓子を見つけたり、ルシャナさんに珍しい草花の名前を教えてもらったり。
夜には宿を取って、時々、ルシャナさんの歌を聴いた。
エルとレイは相変わらず元気いっぱいで、ルアールちゃんともすっかり仲良しだ。
「ぷいっ!」
「ぷるん!」
今日も二人は、私の肩と鞄を行ったり来たりしている。
ルアールちゃんが水の輪を作ると、エルが勢いよく飛び込んだ。
ぽちゃん。
「ぷいっ!」
「ふふ。上手ね」
……かわいい。
すっごくかわいい。
こんな平和な旅も、悪くないなあ。
そう思っていたら。
「セリスちゃん。そろそろ街道を離れるわよ」
「はい?」
ルシャナさんが指さした先には、山々の間へ続く細い道があった。
その向こうには、巨大な岩壁が見える。
「魔族国との国境へ向かうなら、あの渓谷を抜けるのが近道なの」
「おおっ! 渓谷!」
「ただし、あまり人は通らないわ」
「どうしてですか?」
「魔物が棲んでいるからよ」
「……なるほど!」
私は遠くの岩壁を見上げた。
切り立った崖。
ごつごつした岩山。
その間を縫うように、細い道が続いている。
……いい。
すっごく冒険っぽい!
「行きましょう、ルシャナさん!」
「ふふ。元気ねえ」
「だって、こんな場所、初めてです!」
「そうね。でも、油断はしないでちょうだい」
「はいっ!」
私は大きく頷いた。
……よし。
どんな魔物がいるんだろう?
◇
渓谷に入って、しばらく。
景色は、すっかり変わっていた。
左右には、空を切り取るような高い岩壁。
足元には、大小さまざまな石が転がっている。
風が吹くたび、岩の隙間から低い音が響いた。
「……わあ」
私は思わず立ち止まった。
「すっごい景色……!」
見上げても、崖の上が遠い。
岩肌には、何層もの縞模様が走っていた。
赤茶色の層。
灰色の層。
ところどころに、きらきら光る鉱石まで見える。
「ルシャナさん! あの岩、見てください!」
「ええ。綺麗ね」
「あれ、地層ですよね!? この世界でも、こういうふうに積み重なるんだ……!」
私は岩壁に駆け寄りかけた。
「セリスちゃん」
「はい?」
「足元」
「……あっ」
目の前に、大きな足跡があった。
人間のものじゃない。
丸くて、深い。
しかも、爪の跡が四つ。
……大きい。
私の身体が、すっぽり入りそうなくらい。
「……これ、何の足跡ですか?」
ルシャナさんは、しゃがんで地面を確かめた。
「まだ新しいわね」
「へええっ!」
「セリスちゃん。少し下がって」
その声は、さっきまでと違っていた。
穏やかだけれど、はっきりしている。
私は素直に一歩下がった。
そのとき。
――ゴゴゴ……。
地面が、揺れた。
「……ん?」
もう一度。
――ゴゴゴゴ……!
小石が跳ねた。
岩壁の上から、砂がぱらぱらと落ちてくる。
ルシャナさんが顔を上げた。
「……来るわね」
「何がですか?」
答えが返ってくるより早く。
――グルルルルル……!!
谷の奥から、低い唸り声が響いた。
私は目を見開いた。
岩陰から、巨大な頭が現れる。
ごつごつした、岩石のような鱗。
太い首。
地面を踏みしめる、四本の脚。
長い尾が岩を擦り、ばきばきと音を立てた。
……。
…………。
「……ドラゴン?」
「アースドラゴンね」
「…………」
私は、その姿をじっと見つめた。
大きい。
すっごく大きい。
角もある。
牙もある。
背中の鱗なんて、ほとんど岩だ。
……。
「ドラゴンだああああああっ!!」
「セリスちゃん!?」
「ルシャナさん! ドラゴンです!! 本物のドラゴンです!!」
「ええ。そうね」
「うわあああっ! すごい! かっこいい!!」
私は思わず飛び跳ねた。
アースドラゴンが、こちらを見た。
黄色い目。
大きな口。
その隙間から、粘り気のある唾液が垂れている。
……ん?
なんか、ものすごくこっちを見てる。
「……ルシャナさん?」
「なあに?」
「あのドラゴン、何だかお腹が空いてそうですね?」
「ええ。そうみたいね」
ルシャナさんが、少し困ったように微笑んだ。
「この谷には、あまり獲物が来ないのよ」
「へえ……」
「だから、久しぶりに見つけた私たちを、逃がすつもりはなさそうね」
……。
…………。
「……私たち、食べられちゃうんですか?」
「そういうつもりみたいよ」
「なるほど!」
私はもう一度、ドラゴンを見た。
……確かに。
すっごくお腹が空いてそうだ。
でも。
「……あれ?」
岩陰から、もう一つ頭が現れた。
その後ろにも。
さらに、その後ろにも。
――グルルルル!!
――ガアアアアッ!!
――ゴオオオオッ!!
谷底が、揺れ始めた。
一体。
二体。
三体。
……十体?
えっ。
まだいるの!?
左右の岩棚からも、次々と巨体が姿を現した。
大きな爪が岩を砕き、尾が地面を叩く。
あっという間に、前の渓谷はドラゴンだらけになってしまった。
「……ルシャナさん」
「ええ」
「……いっぱいいますね?」
「そうね」
「何体くらいですか?」
ルシャナさんが、ゆっくりと周囲を見回した。
「……ざっと、二十五体ね」
「にじゅうご!?」
私は思わず叫んだ。
「ドラゴンが二十五体!?」
「ええ。これだけの群れは、私も久しぶりに見るわ」
「……すっごいですね!」
「ええ。普通の冒険者なら、まず逃げる相手ね」
私は、周囲を見回した。
前も、横も。
岩棚の上にも、巨大なドラゴン。
……確かに。
普通だったら、逃げる。
絶対、逃げる。
というか、逃げられるのかな?
こんなに囲まれたら。
……。
…………。
私は、ルシャナさんを見た。
「……ルシャナさん!」
「はい?」
「歌、お願いしてもいいですか!?」
ルシャナさんが、一瞬だけ目を丸くした。
それから。
嬉しそうに笑った。
「もちろんよ」
◇
ルシャナさんが竪琴を構えた。
ルアールちゃんが、その肩からふわりと舞い上がる。
青い水の粒が、空中に浮かんだ。
「セリスちゃん」
「はい!」
「歌を重ねるから、少しだけ待っていてね」
「はいっ!」
ルシャナさんの指が、弦に触れた。
――ぽろん。
澄んだ音が、渓谷に響いた。
次の瞬間。
旋律が、変わった。
力強い。
宿で聴いていた、優しい旅人の歌とは違う。
胸の奥から、何かが湧き上がってくるような音。
――《勇壮の戦歌》。
「……わあっ!」
身体が、軽い。
足元の石を踏みしめただけなのに、いつもよりずっと力が入る。
腕を動かすと、風を切る音がした。
……すごい!
これが、六英雄の強化魔法!
しかも。
ルシャナさんの歌は、まだ続いていた。
旋律の下に、もう一つの音が重なる。
ルアールちゃんが舞い、青い光が私の周囲を巡った。
――《精霊の輪唱》。
「……あれ?」
魔力が。
……いつもと、違う?
私は自分の手を見た。
普段から、魔力の流れは感じ取れる。
でも今は、その流れが音楽に合わせて揺れている。
細かい。
すっごく細かい。
まるで、魔力の一つひとつが、歌に耳を澄ませているみたいだ。
「……すごい!」
私は思わず笑った。
「ルシャナさん! これ、すっごく面白いです!!」
「ふふ。よかった」
「魔力が、歌に合わせて動いてます!」
「ええ。私とルアールが、流れを整えているの」
「なるほど……!」
私は、そっと魔力を動かしてみた。
……おおっ。
いつもより、ずっと細かく動かせる!
いや、違う。
私が細かく動かそうとしたとき、歌がその動きを支えてくれている。
……これ。
すっごい!
――グオオオオオッ!!
アースドラゴンが吠えた。
……あ。
そうだった。
ドラゴンがいたんだった。
「セリスちゃん」
「はい!」
「そろそろ、来るわよ」
ルシャナさんの声に、私は顔を上げた。
前方のドラゴンたちが、一斉に身を低くする。
太い脚が地面を蹴った。
――ドドドドドドドッ!!
巨体が、走り始めた。
地響き。
砂煙。
岩壁から小石が落ちる。
……おおおおっ!
迫力、すっごい!!
でも、感動している場合じゃない。
二十五体。
前からも、後ろからも。
このままじゃ、挟み撃ちだ。
「ルシャナさん!」
「ええ。大丈夫よ」
彼女は歌いながら、私の横へ並んだ。
ルアールちゃんが両手を広げる。
水の壁が、私たちの周囲に浮かび上がった。
――《英雄たちの交響曲》。
その瞬間。
重なっていた旋律が、一つになった。
「……っ!」
私は息を呑んだ。
すごい。
さっきまで別々に感じていた歌が、今は一つの大きな流れになっている。
身体を動かす力。
魔力を整える力。
それが、互いに邪魔をせず、ぴったり重なっている。
……これなら。
私は両手を前に突き出した。
「ルシャナさん!」
「なあに?」
「ちょっと、思いついちゃいました!」
「どんなことかしら?」
「《インパクト》です!」
「……ええ?」
「いつもの《インパクト》を、ちょっとだけ変えてみます!」
私は魔力を集めた。
《インパクト》。
初歩的な無属性魔法。
衝撃を生み出し、相手を吹き飛ばす。
それだけの魔法。
でも。
……もし、その衝撃を。
一点に集中させるんじゃなくて。
広げて。
重ねて。
歌に合わせて、何度も何度も響かせたら?
……。
…………。
おおおおっ!
できるかも!!
私は魔力を集めながら、衝撃の形を思い描いた。
一つ目の波。
二つ目の波。
三つ目の波。
それぞれを、ほんの少しずつずらして重ねる。
……あ。
違う。
ただ重ねるだけじゃ、衝撃が散っちゃう。
だったら、波の山を揃えたら?
同じ場所に、同じタイミングで。
……共鳴!
私は思わず笑った。
これだ!
波と波を、共鳴させる!
衝撃を何度も響かせれば、一度の《インパクト》とは比べものにならない力になるはず!
「……っ!」
その瞬間、両腕がびりっと震えた。
「……あれ?」
まだ発動していないのに、魔力の圧力が身体へ伝わってくる。
足元の小石が、かたかたと跳ねた。
……あ。
これ。
放った瞬間、私まで吹き飛ばされない?
「セリスちゃん」
ルシャナさんの声が、歌の合間に届いた。
「はいっ!」
「今、ずいぶん大きな力を集めているわね」
「はい! ちょっと面白いことを思いついちゃって!」
「そう」
ルシャナさんは、私の両腕を見た。
「でも、そのままだと身体に負担がかかるわ」
「……ですよね?」
「ええ。だから――」
ルシャナさんの指が、竪琴の弦を強く弾いた。
――《勇壮の戦歌》。
旋律が、一段と力強く響く。
身体の奥から、ぐっと力が湧いてきた。
足が地面を掴む。
腕の震えが、少しずつ収まっていく。
……すごい。
これなら。
「反動は、私の歌で支えるわ」
「……!」
「セリスちゃんは、魔力の制御に集中して」
私は、思わず笑った。
「はいっ!!」
……すごい。
一人だったら、魔力を抑えていたかもしれない。
でも、今は違う。
ルシャナさんが支えてくれている。
だったら――!
私は魔力を、さらに細かく分けた。
一つ。
二つ。
三つ。
……もっと。
もっと、重ねられる。
歌に合わせて、魔力の波が揃っていく。
ルアールちゃんの青い光が、私の周囲を巡った。
……よし。
いける!
目の前には、二十五体のアースドラゴン。
岩のような鱗。
巨大な牙。
地面を揺らす、圧倒的な巨体。
その全部が、私たちへ向かって突進してくる。
……すごい。
すごいなあ。
こんなに大きなドラゴンが、こんなにたくさん!
しかも、今。
私の魔法が、どこまで届くのか、試せる!
「……ルシャナさん!」
「ええ!」
「いっきますよおおおお!!」
私は、思いっきり息を吸った。
そして。
「必殺っ!!」
両手を突き出す。
「超ぉぉぉぉ!!」
魔力が、歌に応えた。
「インパクトぉぉぉぉおおおおっ!!!」
――ドッッッッゴォォォォォォォン!!!!
衝撃が、爆発した。
いや。
爆発じゃない。
見えない巨大な手が、谷底を一気に薙ぎ払った。
最前列のアースドラゴンが、宙へ浮く。
二体目。
三体目。
四体目。
その後ろにいたドラゴンたちまで、次々と吹き飛んだ。
――グオオオオオッ!?
――ガアアアアアッ!!
巨体が空を舞う。
岩のような鱗が砕け散り、太い脚が宙を掻く。
衝撃は、そこで終わらなかった。
歌に合わせて、次の波が走る。
さらに、その次。
まるで、見えない大きな波が、谷底を何度も駆け抜けているみたいだった。
前方の群れが、まとめて吹き飛ぶ。
後方から迫っていたドラゴンたちも、反対方向へ弾き飛ばされた。
左右の岩棚にいた個体は、足元をすくわれるように宙へ舞う。
……。
…………。
うわああああああっ!!
すっごおおおおおい!!
ドラゴンが!
ドラゴンが飛んでる!!
……いや、飛ばしてるの私だけど!!
最後の衝撃が、谷底を駆け抜けた。
――ドゴオオオオオオオン!!
土煙が、空高く舞い上がった。
そして。
静寂。
……。
…………。
私は、ゆっくりと両手を下ろした。
「…………」
ルシャナさんも、竪琴を抱えたまま、谷を見つめている。
……。
…………。
「……ルシャナさん」
「……なあに?」
「……すっごかったですね?」
「……ええ」
ルシャナさんが、ゆっくりと頷いた。
「……私も、驚いたわ」
私は谷底を見回した。
さっきまで、あんなにたくさんいたアースドラゴン。
今は、一体も動いていない。
岩壁は、ちゃんと残っている。
谷の出口も、塞がっていない。
……よし!
大成功!
「やったあああああっ!!」
私は思わず飛び跳ねた。
「ルシャナさん! できました!!」
「ええ。すごかったわね」
「すっごく楽しかったです!!」
「ふふ。そうね」
ルシャナさんは、少しだけ困ったように笑った。
「でも……」
「はい?」
「次は、もう少し小さくてもいいかもしれないわね?」
「えええっ!?」
私は目を丸くした。
「だって、まだまだできそうだったのに!」
「……まだ?」
「はい!」
私は大きく頷いた。
「今の、全力じゃないです!」
……。
…………。
ルシャナさんが、静かに私を見つめた。
「…………そうなの?」
「はいっ!」
しばらくして。
「……ふふっ」
ルシャナさんが笑った。
「本当に、アルディスが心配するわけね」
「えっ!? 何でですか!?」
「さあ。どうしてかしら?」
「ええええっ!?」
……むう。
また、教えてくれない!
◇
そのときだった。
――ピコン。
「……ん?」
目の前に、見慣れた表示が浮かんだ。
《アースドラゴンを討伐しました》
《大量の経験値を獲得しました》
《レベルが上昇しました》
「……えっ」
私は、目を瞬いた。
……大量?
大量って、どのくらい!?
「……ルシャナさん!!」
「なあに?」
「経験値が! 経験値がすっごいです!!」
「まあ」
私は慌ててステータスを開いた。
――ピコン。
《セリス・アルフィーネ》
《レベル:395》
「…………」
……。
…………。
「……さんびゃく、きゅうじゅうご?」
私は、もう一度見た。
……間違いない。
395。
……。
「やったああああああああっ!!」
私は思いっきり飛び跳ねた。
「ルシャナさん!! 十一もレベルが上がりました!!」
「まあ! それはすごいわね」
「はいっ!!」
私は嬉しくて、くるくる回った。
十一!
一気に十一レベル!
しかも、ドラゴン二十五体!
……すっごい!
これぞ冒険!
これぞ異世界!!
「ルシャナさんは!?」
「私?」
「はい! ルシャナさんも一緒に戦いましたよね!?」
「ええ。そうね」
ルシャナさんが、自分のステータスを確認した。
……。
…………。
「……まあ」
「どうしました!?」
「……六つ、上がっているわ」
「……えっ」
私は目を丸くした。
「六つ!?」
「ええ。レベル696になっているわね」
「おおおおおおっ!!」
私は、思わずルシャナさんの手を取った。
「おめでとうございます!!」
「ふふ。ありがとう、セリスちゃん」
「やりましたね!!」
「ええ。二人でね」
……。
…………。
私は、ルシャナさんを見た。
ルシャナさんも、私を見ていた。
そして。
「「やったあ!!」」
二人で、笑った。
エルとレイも、嬉しそうに跳ねる。
「ぷいっ!」
「ぷるん!」
ルアールちゃんが、私たちの周りに小さな水の花を咲かせた。
……ああ。
楽しいなあ。
本当に、楽しい。
魔法を使って。
新しいことを試して。
ルシャナさんと一緒に戦って。
しかも、二人で強くなれた。
……最高だ!
◇
「それにしても……」
私は、もう一度ステータスを眺めた。
「ルシャナさんの歌、すっごいですね!」
「ありがとう。でも、あれはセリスちゃんの魔法よ」
「ええっ!? ルシャナさんが歌ってくれたからですよ!」
「ふふ。そうね。じゃあ、二人の魔法ね」
「……!」
私は、思わず笑った。
「はいっ!」
二人の魔法。
……いいなあ。
その言葉。
私は、もう一度、さっきの感覚を思い出した。
歌が響いて。
魔力が動いて。
衝撃が、何度も重なって。
……あれ。
もしかして。
あの仕組み、もっと細かく調べたら……?
「……ルシャナさん」
「なあに?」
「あとで、歌の魔力の流れ、調べてもいいですか!?」
「もちろんよ」
「やったあ!」
「でも、まずはここを出ましょうね」
「……あっ」
私は周囲を見回した。
巨大なアースドラゴンが、あちこちに転がっている。
……。
…………。
「……そうですね」
「ええ。ここに長居するのは、あまりよくないわ」
「でも、ドラゴンの素材って、すっごく貴重ですよね?」
「そうね」
「……持って帰りたいです!」
ルシャナさんが、少し考えた。
「全部は難しいけれど、使えそうなものを選びましょうか」
「はいっ!」
……よし!
ドラゴンの鱗!
牙!
爪!
もしかしたら、魔石も!
……うわああっ!
楽しみが、また増えちゃった!!
私は、思わず笑った。
……旅って、本当に最高だなあ!
ルシャナさんも、そんな私を見て微笑んでいた。
「ねえ、セリスちゃん」
「はい?」
「私ね、今までたくさんの英雄と一緒に戦ってきたわ」
「はい!」
「でも……」
ルシャナさんは、少しだけ悪戯っぽく笑った。
「歌っている私まで、こんなにわくわくしたのは久しぶりよ」
「……!」
「次は、どんな魔法を見せてくれるのかしら?」
私は、にっこり笑った。
「いっぱいありますよ!!」
「ふふ。楽しみにしているわ」
……。
…………。
よし!
次は、もっと面白い魔法を考えよう!
ルシャナさんの歌と、私の魔法。
まだまだ、できることがありそうだ。
……ふふ。
どんなことができるかな?
私は、目の前に広がる渓谷を見上げた。
その向こうには、魔族国がある。
まだ見たことのない魔法。
まだ出会っていない人たち。
そして、まだ知らない世界。
……待っててね!
今、行くから!
私は、ルシャナさんと一緒に歩き出した。
背後には、二十五体のアースドラゴンが転がっていた。
……。
…………。
あ。
そうだ。
「ルシャナさん!」
「なあに?」
「さっきの魔法、名前をつけてもいいですか!?」
「もちろんよ」
「じゃあ……!」
私は、思いっきり胸を張った。
「《超・インパクト》です!!」
ルシャナさんが、くすっと笑った。
「ふふ。分かりやすくて、いい名前ね」
「ですよね!!」
……よし!
新しい魔法、完成!
しかも、ルシャナさんとの合体技!
……ああ。
早く、誰かに見せたいなあ!
……。
…………。
アルディスさん、見てくれるかな?
……きっと、また嫌な顔するんだろうなあ。
私は思わず、くすくす笑った。
《超・インパクト》、誕生です!
初級魔法も、セリスの手にかかればドラゴン25体をまとめて吹き飛ばす大技に(笑)
でも、今回の主役はセリス一人ではありません。
ルシャナの歌が魔力を整え、反動を支え、二人だからこそ実現できた魔法。
「じゃあ、二人の魔法ね」
この一言が、今回いちばん大切にしたかったところです。
それにしても、レベル395のセリスに、696のルシャナ。
アルディスがこの話を聞いたら、いったいどんな顔をするのでしょうね(笑)
次回は、ドラゴン25体分の戦利品を抱えて、いよいよ魔族国へ!
お楽しみに!




