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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第5幕 青銀の魔女、世界を巡る!
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第40話「旅の仲間が増えました! 」

旅の仲間が増えた。

 しかも、六英雄の一人だ。

 ……いや、ちょっと待ってほしい。


 六英雄って、アルディスさんみたいな人たちのことだよね?


 魔物の大群を相手に何時間も戦い続けたり、国中の人たちに名前を知られていたりする、あの六英雄。


 そんな人が、私と一緒に旅をする。

 それも、本人から誘ってくれた。


 ……。

 …………。


「すごくないですか!?」


「……何が?」


 ネスラが顔を上げた。

 ここは王立魔術研究院の一室。机の上には設計図と実験記録が広がり、研究員さんたちが最後の確認を進めている。


「六英雄ですよ!? ルシャナさんですよ!? あの人が一緒に旅をしてくれるんですよ!?」


「……昨日から五回は聞いた」


「まだ五回です!」


「……六回目だね」


 ネスラは淡々と言って、書類に目を戻した。

 むう。

 もう少し驚いてくれてもいいと思うんだけど。


「セリス殿、こちらの確認をお願いできるか!」


「あっ、はい!」


 研究員さんに呼ばれて、私は机へ向かった。

 広げられているのは、魔力観測板の改良案だ。

 魔術を使ったとき、普段は見えない魔力の流れを色のついた波として映し出す装置。


 最初は《アースウォール》を使った大きな壁だったけれど、研究院のみんなと協力して、今では両手で持てる板にまで小型化できている。

 問題は、魔力の供給方法だった。


「魔石を使った試験は、どうでした?」


「供給自体には成功した。ただ、一定以上の魔力が流れると、表示が飽和してしまう」


「なるほど……」


 私は記録を覗き込んだ。

 魔石からの供給量を増やすと、観測板の表面が一色に光ってしまう。

 これじゃあ、魔力の動きが見えない。


「魔石と表示部分の間に、調整用の回路を入れたらどうでしょう?」


「その案も試している。魔力を細かく分けるところまではできたんだが、今度は反応が遅くなってな」


「じゃあ、反応速度を優先する回路と、供給量を抑える回路を分けて……」


 私は設計図の端に、二本の線を書き加えた。


「この辺りで合流させたら、どうですか?」


「……ほう」


 研究員さんが身を乗り出した。


「なるほど。役割を分けるわけか」


「はい! あとは実際に作ってみないと分かりませんけど」


「いや、試す価値はある!」


 研究員さんは嬉しそうに頷き、別の研究員さんを呼んだ。

 すぐに三人ほどが集まって、図面を囲み始める。


 ……こういうの、いいなあ。


 私が思いついたことを、みんなが形にしてくれる。

 そして、私一人では思いつかなかった方法で、もっと使いやすいものになっていく。


「セリス」


 ネスラが書類を差し出した。


「……引き継ぎの一覧。確認して」


「はい!」


 私は一枚ずつ目を通した。


 観測板の小型化。

 魔石による魔力供給。

 表示の安定化。

 王国軍での試験運用。

 それから、北西大森林に関する記録の整理と照合。

 どれも担当者と次の作業が決まっている。


「うん。これで大丈夫だと思います!」


「……追加したいことは?」


「そうですね……観測板は、魔術師さん以外の人にも使ってもらいたいです。実際に使って、分かりにくいところを教えてもらえたら」


「……それはもう入れてある」


「さすがネスラさん!」


「……昨日、セリスが言ったから」


「あはは!」


 私は書類を机に置いた。


「それじゃあ、あとはお願いします!」


「……うん」


「旅先で何か見つけたら、ちゃんと報告しますね」


「……面白いものだけじゃなくて、必要な情報も」


「もちろんです!」


 ネスラは少しだけ笑った。


「……期待してる」


 研究員さんたちにも、順番に挨拶した。


「短い間でしたけど、ありがとうございました!」


「こちらこそだ、セリス殿!」


「観測板は必ず完成させるぞ!」


「楽しみにしてます! 完成したら、ぜひ見せてください!」


 握手を交わす。

 何人かは、旅先で見つけた魔道具の情報を送ってほしいと言っていた。


 もちろん、喜んで!

 ……ただし、面白い魔道具を見つけたら、まず自分で触ってみたいけどね。


「セリスちゃん」


 振り返ると、ルシャナさんが入口に立っていた。


 金色の長い髪に、花の飾り。白と若草色の衣装には、繊細な金糸の刺繍が施されている。

 背中には美しい竪琴。

 肩の近くには、水の精霊ルアールが浮かんでいた。


「お仕事は終わった?」


「はい! 引き継ぎも全部済みました!」


「それなら、そろそろ旅の準備をしましょうか」


「はいっ!」


 私は鞄を持ち上げた。


 ……重い。

 いや、分かってる。

 研究道具を詰め込みすぎた。

 でも、どれも必要なんだよね。


 ルシャナさんが鞄を見つめた。


「……ずいぶん大きな荷物ね」


「研究道具です!」


「着替えは?」


「別の鞄に入ってます!」


「食料は?」


「それも別です!」


「……全部持って歩くつもり?」


「はい!」


 ルシャナさんは少し考えた。


「まず、荷物を半分に減らしましょうか」


「えええっ!?」


「旅は長いもの。必要になったら、途中の街で手に入れる方法もあるわ」


「でも、この測定器は……!」


「それは持っていきましょう」


「じゃあ、この記録用の――」


「それも必要そうね」


「こっちの工具は――」


「……セリスちゃん」


「はい?」


「一つずつ聞いていたら、全部残りそうね」


 ……。

 確かに。

 ルシャナさんが笑った。


「まずは、どうしても代わりが利かないものから選びましょう」


「……なるほど!」


 こうして私たちは、旅の荷物を整理することになった。


 研究道具を半分にするのは、魔術の実験より難しかった。


     ◇


 その日の午後。


 ルシャナは、アルディスが療養している屋敷を訪れていた。

 窓の外では、秋の風が庭木を揺らしている。


「……明日、出発するのか」


 椅子に腰掛けたアルディスが尋ねた。

 右肩には、まだ包帯が巻かれていた。


「ええ。まずは魔族領を目指すつもりよ」


「そうか」


 アルディスは頷き、少し考えてから口を開いた。


「ルシャナ。一つ頼みがある」


 ルシャナは彼の向かいに腰掛けた。


「聞かせて」


「セリスを頼む」


「……護衛、ということ?」


「ああ。それと、旅の引率だ」


 ルシャナは少しだけ微笑んだ。


「確かに、あの子は知らない魔法を見つけたら、周りが見えなくなりそうね」


「なるぞ。間違いなく」


「ずいぶん自信があるのね」


「実際に見てきたからな」


 アルディスは苦笑した。


「魔術に関しちゃ、あいつは規格外だ。俺にも理解できねえことを平気でやる」


「ええ。研究院でも驚かされたわ」


「だが、強い魔術が使えるからって、何でもできるわけじゃねえ」


 アルディスは、包帯の巻かれた肩に目を落とした。


「戦いには経験がいる。相手の狙いを読むことも、退くべきときを見極めることもな」


「そうね」


「それに、旅先で起きる問題は戦いだけじゃねえ。知らねえ土地の常識もあるし、相手が人間なら、力で片づけりゃいいってもんでもない」


 ルシャナは頷いた。


「だから、私に同行してほしいのね」


「ああ。今の俺は王都を離れられねえし、ネスラにもこっちでやることがある」


「分かったわ」


 ルシャナは迷わず答えた。


「私も、あの子と旅をしてみたいと思っているもの」


「助かる」


「ただし、アルディス」


「何だ?」


「私は、あの子を危険から遠ざけるためだけについていくつもりはないわ」


 アルディスが顔を上げた。


「知らない世界に出会うなら、失敗することもあるでしょう。危ないことだって、きっとある」


「……ああ」


「でも、それを全部取り上げてしまったら、旅をする意味がなくなってしまうもの」


 ルシャナは穏やかに続けた。


「必要なときは守るわ。止めるべきときは止める。でも、あの子自身が見て、考えて、選ぶことは大切にしたいの」


 アルディスは、しばらく彼女を見つめていた。

 やがて、口元を緩めた。


「……お前に頼んで正解だったな」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」


「ただ、無茶はさせすぎるなよ」


「それは私も同感よ」


 二人は顔を見合わせて笑った。

 やがて、アルディスの表情が変わった。


「……もう一つある」


 ルシャナも笑みを収めた。


「北西大森林のことね?」


「……ああ」


 アルディスは頷いた。


「魔物の大群が、何かから逃げてきた。俺たちはそう考えてる」


「聞いているわ」


「だが、何から逃げてきたのか分からねえ。軍の調査でも、はっきりした手掛かりは見つかってねえ」


 彼は窓の外に目を向けた。


「セリスは、森の奥に何かを感じたらしい」


「……何か?」


「ああ。本人にも、それが何なのか分からなかったそうだ」


 ルシャナは静かに聞いていた。


「ただ……あいつは怖がってた」


「……そう」


「あんな顔、初めて見た」


 アルディスの声が少し低くなった。


「俺たちが相手にした魔物は、数こそ多かったが、戦える相手だった。斬れば傷つくし、倒せば死ぬ。だが、あいつが感じた何かは……」


 そこで言葉を切った。


「……いや。分からねえもんを、勝手に決めつけるのはよくねえな」


 ルシャナが頷く。


「ええ。まずは、何が起きたのかを知る必要があるわね」


「そういうことだ」


 アルディスは彼女を見た。


「俺はここを離れられねえ。ネスラたちも王国の記録を調べてるが、他の国のことまでは手が届かねえ」


「だから、私に各地の情報を集めてほしいのね」


「ああ。魔族にも、エルフにも、ドワーフにも、俺たちの知らねえ記録や伝承があるかもしれねえ」


 ルシャナは、膝の上に置いた竪琴に指を添えた。


「……面白いわね」


「面白い?」


「ええ。私は長い間、いろいろな土地で歌を聞いてきたわ。古い出来事が、まったく違う形で語り継がれていることもあるの」


 彼女は少し考えた。


「もし似たような出来事が過去にあったなら、何か残っているかもしれない。もちろん、何も見つからない可能性もあるけれど」


「それでも構わねえ」


「ええ。私も調べてみたいわ」


 ルシャナはアルディスを見つめた。


「ただし、一つだけ約束して」


「何だ?」


「何かが見つかっても、すぐに敵だと決めつけないこと」


 アルディスは眉を寄せた。


「……どういう意味だ?」


「魔物たちが逃げてきたからといって、その原因が私たちを襲うものとは限らないでしょう?」


「……確かにな」


「まずは知ること。そのうえで、どうするべきか考えたいの」


 アルディスは頷いた。


「分かった」


「なら、引き受けるわ」


 ルシャナは穏やかに笑った。


「それに、私自身も気になるの。まだ誰も語っていない出来事が、この世界で起きているのなら」


「……お前も大概、好奇心が強えな」


「そうかしら?」


「セリスと気が合うわけだ」


「でも、あの子ほどではないと思うわ」


「……どうだかな」


 アルディスが苦笑した。


「ところで、アルディス」


「何だ?」


「セリスちゃんのこと、ずいぶん心配しているのね」


「……当たり前だろ。王都を救った恩人だぞ」


「ええ。それは分かっているわ」


 ルシャナは少しだけ微笑んだ。


「でも、あなたが誰かに護衛を頼むなんて、珍しいから」


「……あいつは、これからもっと強くなる」


 アルディスは静かに言った。


「魔術の才能も、発想も、とんでもねえ。これから何をやらかすか、俺にも想像がつかねえ」


「楽しみね」


「ああ。だからこそ、今はちゃんと見てやってほしい」


 ルシャナは頷いた。


「任せて」


 アルディスはようやく、安心したように息を吐いた。


「……頼んだぞ、ルシャナ」


「ええ。行ってくるわね」


     ◇


 翌朝。

 王都アストリアの西門前。

 私は、旅支度を整えて立っていた。


 昨日の荷物整理のおかげで、鞄はずいぶん軽くなった。

 ……研究道具は、かなり減っちゃったけど。

 まあ、いいか。


 必要になったら作ればいいし、旅先の道具を使ってみるのも楽しそうだ。

 足元では、エルとレイが並んで跳ねている。


「ぷいっ!」

「ぷるん」


 ルシャナさんの肩では、ルアールが朝日を浴びてきらきら光っていた。


「セリスちゃん、準備はいい?」


「はい!」


「忘れ物はない?」


「昨日、全部確認しました!」


「それなら安心ね」


 ルシャナさんが微笑んだ。

 そのとき。


「おーい!」


 聞き慣れた声がした。

 振り返ると、アルディスさんとネスラさんがこちらへ歩いてきていた。


「アルディスさん! ネスラさん!」


 私は手を振った。


「見送りに来てくれたんですか!?」


「ああ。出発するって聞いてたからな」


「……最後に渡したいものもあったし」


 ネスラが小さな包みを差し出した。


「これは?」


「……観測板の試作品」


 包みを開くと、見慣れた小さな板が入っていた。


「えっ、いいんですか!?」


「……研究院には、別の試作品がある」


「でも、まだ完成してないですよね?」


「……だから持っていってほしい。旅先で試せることもあると思う」


 私は板を手に取った。

 表面には、小さな魔石が埋め込まれている。

 まだ魔力供給は不安定だけれど、私が直接魔力を流せば使える。


「ありがとうございます!」


「……使ったら、結果を教えて」


「はい! ちゃんと記録して送ります!」


 ネスラは小さく頷いた。


「……こっちの研究も進めておく」


「お願いします!」


 私は、少しだけ言葉を探した。

 ネスラさんとは、ずいぶんいろいろなことを一緒にやってきた。

 魔法の研究も、王都での出来事も、あの大きな戦いも。

 最初は、こんなふうに仲良くなれるなんて思っていなかった。


「……ネスラさん」


「……何?」


「一緒に研究できて、すごく楽しかったです」


 ネスラさんが目を瞬いた。


「また、絶対に一緒にやりましょうね!」


 少しの間があった。

 それから、ネスラさんはいつもの静かな声で答えた。


「……うん。待ってる」


 私は笑顔で頷いた。

 次に、アルディスさんが一歩前へ出た。


「セリス」


「はい!」


「……気をつけて行けよ」


「はい!」


「お前は強い。だが、世界にはまだ知らねえことが山ほどある」


「そうですね」


「困ったら、ルシャナを頼れ。あいつは頼りになる」


 私はルシャナさんを見た。

 彼女は穏やかに頷いた。


「もちろんよ」


「……それと」


 アルディスさんが笑った。


「帰ってきたら、また勝負しようぜ」


 ……!

 私は思わず拳を握った。


「はい! 今度こそ勝ちますからね!」


「ははっ! そう簡単に勝たせるかよ!」


「私だって、もっと強くなります!」


「望むところだ!」


 アルディスが拳を差し出した。

 私は、その拳に自分の拳を軽く合わせた。

 包帯はまだ残っていたけれど、その手は力強かった。


「……あ、そうだ」


 私は思い出した。


「次は新しい魔法も用意してきますね!」


「お前の魔法だと俺が切っても街が壊れる」


「あ。じゃ、新しい魔法試しちゃダメですか?」


「当たり前だろ!!」


「ええええっ!?」


 思わず叫ぶと、アルディスが大笑いした。

 ネスラも、口元を押さえている。


「……セリスなら言うと思った」


「ネスラさんまで!」


 ルシャナさんが、楽しそうに笑った。


「次の勝負も、賑やかになりそうね」


「むうう……!」


 でも。

 次に会うときまでに、剣術も練習しておこう。

 アルディスを驚かせてやるんだから!

 ルシャナさんが二人に向き直った。


「それじゃあ、行ってくるわね」


「ああ。頼んだぞ、ルシャナ」


「……気をつけて」


 私も、二人に向かって大きく手を振った。


「行ってきます!!」


 そして私たちは、王都の西門をくぐった。


     ◇


 街道を歩き始めて、しばらく。

 私は何度も振り返っていた。

 王都アストリアの城壁が、少しずつ遠ざかっていく。


 この世界に来てから、たくさんの人に出会った。

 たくさんの魔法を見た。

 そして、まだまだ知らないことがある。


 ……いや。

 知らないことだらけだ!


「セリスちゃん」


「はい!」


「最初の目的地だけれど、国境まではいくつか街を通ることになるわ」


「はい!」


「途中で寄ってみたい場所はある?」


「あります!!」


「もう決まっているの?」


「全部です!」


「……全部?」


「街も! 村も! 森も! 川も! 山も! 全部見たいです!!」


 ルシャナさんが目を丸くした。

 それから、声を立てて笑った。


「それは、忙しい旅になりそうね」


「はい!」


 私は大きく頷いた。

 だって、せっかく異世界に来たんだよ?

 知らない場所があるなら、行ってみたい。

 知らない食べ物があるなら、食べてみたい。

 知らない魔法があるなら、触ってみたい!


「そうだ! ルシャナさん!」


「何かしら?」


「昨日の水の花、もう一回見せてもらえませんか!?」


「いいわよ。でも、歩きながらだと少し難しいかしら」


「じゃあ、休憩のときに!」


「ええ。約束ね」


「やったあ!」


 私は思わず跳ねた。


 足元でエルも跳ねる。

「ぷいっ!」


 レイも一拍遅れて跳ねた。

「ぷるん」


 ルアールが二匹の周りをくるくる回る。


 ……ああ、もう!

 楽しい!

 まだ王都を出たばかりなのに!


「そういえば、セリスちゃん」


「はい?」


「魔族領には、どうして行きたいの?」


 私は首を傾げた。

 どうして?

 そんなの、決まってるじゃん。


「魔族の魔法を見たいからです!」


「……それだけ?」


「あと、ご飯も食べたいです!」


「ご飯?」


「はい! 人族と魔族で、食べ物も違うんですよね? どんな味がするんだろうって!」


 ルシャナさんは、しばらく私を見つめていた。

 そして、笑った。


「……そうね。きっと、面白いものがたくさんあるわ」


「ですよね!」


「ええ。私も、久しぶりに魔族領へ行くのが楽しみになってきたわ」


「ルシャナさんは、行ったことがあるんですか!?」


「もちろん。何度かね」


「えええっ! じゃあ、おすすめの場所とかあります!?」


「そうね……」


 ルシャナさんは少し考えた。


「まずは、国境近くの街にある食堂かしら。魔族の香辛料を使った煮込み料理が、とても美味しいの」


「煮込み料理!!」


「ええ。少し辛いけれど」


「大好きです!!」


「まだ食べていないでしょう?」


「絶対好きになる気がします!」


 ルシャナさんが、また笑った。

 私も笑った。

 そのときだった。


 遠くの街道から、荷馬車が一台やってきた。

 大きな荷物を積んだ、商人らしい馬車だ。

 御者台のおじさんが、私たちを見つけて手を振った。


「おーい! そこの旅人さんたち!」


「はーい!」


 私は元気よく手を振り返した。


「この先に行くのかい?」


「はい! 魔族領まで!」


「そりゃまた遠いな! 気をつけなよ!」


「ありがとうございます!」


 おじさんは笑っていたけれど、少しだけ困ったような顔をした。


「このところ、街道の先で妙な連中が出るって噂があるからな」


「妙な連中?」


「ああ。旅人を狙う盗賊だとか何だとか。まあ、俺はまだ会ったことねえけどな!」


 盗賊。

 ……盗賊?

 私は、思わずルシャナさんを見た。


「ルシャナさん!」


「ええ。聞こえたわ」


「盗賊って、本当にいるんですね!?」


「……いるわよ?」


「おおおおお……!」


 すごい。

 異世界だ。

 本当に異世界だ!

 ルシャナさんが、私の顔をじっと見つめた。


「……セリスちゃん」


「はい!」


「今、ちょっと楽しそうな顔をしていなかった?」


「えっ!? そ、そんなことないですよ!?」


「そう?」


「はい! 盗賊なんて危ないですもんね!」


「ええ。そうね」


 ルシャナさんは穏やかに頷いた。

 けれど、その目は少しだけ真剣になっていた。


「……もし出会っても、まずは私に任せてちょうだい」


「えっ?」


「旅の最初から、怪我をする必要はないもの」


 そう言って、ルシャナさんは背中の竪琴を軽く押さえた。

 私は、その横顔を見上げた。


 ……そういえば。

 ルシャナさんって、六英雄なんだよね。

 アルディスと同じ、伝説の英雄。

 でも、まだ戦っているところを見たことがない。


 ……。

 …………。

 見たい。

 めちゃくちゃ見たい!!


「ルシャナさん!」


「何かしら?」


「もし盗賊が出てきたら、私、後ろで見ててもいいですか!?」


「……安全な場所からならね」


「やったあ!!」


「……喜ぶところではないと思うのだけれど」


 ルシャナさんが苦笑した。

 その肩で、ルアールが小さく光った。


 街道は、まだまだ先へ続いている。

 さて。

 今日はどこまで行けるかな!

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