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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第5幕 青銀の魔女、世界を巡る!
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第39話「金髪碧眼お姉さま、登場!?」

挿絵(By みてみん)

新キャラクター、6英雄の伝説の語り部

吟遊詩人のルシャナ姐さんです。


「……あらあら」


 その声を聞いた瞬間、アルディス・レヴィンは嫌な予感がした。


 王都アストリア。


 王国が用意した療養用の屋敷で、アルディスは窓際の椅子に座っていた。


 右肩にはまだ包帯が巻かれ、左脇腹と左脚にも治療の跡が残っている。

 八時間に及ぶスタンピードとの戦闘。

 その傷は、いくら剣聖といえど、簡単に消えるものではなかった。


 だが、今、彼が最も警戒しているのは、傷の痛みではない。


「……おい」


「久しぶりね、アルディス」


 開いた扉の向こう、長い金髪を揺らし、白と若草色の衣装をまとったエルフの女性が立っていた。


 花飾りのついた髪。

 エメラルドグリーンの瞳。

 腕には、美しい金細工の竪琴。


 そして傍らには、青く透き通った水の精霊が浮かんでいる。


「……ルシャナ」


 アルディスは、深々とため息をついた。


「何しに来た」


「お見舞いよ。八時間も戦ったって聞いたもの」


「……それだけか?」


「もちろん、もう一つあるわ」


 ルシャナは、にっこり微笑んだ。


「可愛い女の子に助けてもらったんですって?」


「帰れ!!」


 屋敷に、剣聖の怒鳴り声が響いた。


     ◇


「そんなに怒らなくてもいいじゃない」


「お前が余計なこと言うからだろ!」


「だって、気になるでしょう?」


「……何がだよ」


「あなたが誰かに助けてもらうなんて、珍しいもの」


「……っ!」


 アルディスが言葉に詰まる。

 ルシャナは、楽しそうに笑った。


「それで? どんな子なの?」


「……変なやつだ」


「変な子?」


「魔術のことになると、周りが見えなくなる」


「そうなのね」


「人の話を聞いてると思ったら、突然意味の分からねえことを言い出す」


「ふふっ」


「それで、気づいたら、とんでもないことをやってやがる」


 ルシャナは、少し考えるように首を傾げた。


「……それだけ聞くと、あなたとよく似ている気がするわ」


「どこがだよ!?」


「好きなことになると、周りが見えなくなるところ」


「俺は違うだろ!」


「そうかしら?」


 ルシャナは、アルディスの包帯を見た。


「八時間も一人で戦っていた人が、言うことじゃないと思うけれど」


「……状況が状況だったんだよ」


「分かってるわ」


 ルシャナは、静かに頷いた。


「あなたが戦わなければ、もっと多くの人が傷ついていた。そういう状況だったんでしょう?」


「……ああ」


「だったら、その判断を責めるつもりはないわ」


 彼女は、少しだけ声を落とした。


「でも、無事だったからいい、とは思わないの」


「…………」


「あなたが倒れたら、悲しむ人がいるでしょう?」


 アルディスは、黙って窓の外を見た。

 ルシャナは、彼の返事を急がなかった。

 しばらくして、アルディスが口を開いた。


「……最後は、もう動けなかった」


「……そう」


「剣もまともに振れねえし、魔力も尽きかけてた」


 彼は、苦々しそうに笑った。


「そこに、あいつが飛んできやがった」


「青銀の魔女さん?」


「ああ」


「……何て言ったの?」


「『あとは任せてください』だとよ」


 ルシャナは、少しだけ目を細めた。


「……そう」


 それから、静かに笑った。


「よかったわね」


「……あ?」


「あなたが、誰かを頼れる状況になって」


「……別に、頼ったわけじゃ」


「そうね。助けられたのよね」


「お前なあ……!」


 ルシャナは、肩をすくめた。


「私は、誰かに助けられるのは悪いことじゃないと思っているわ」


「…………」


「私だって、みんなが戦ってくれなければ、安心して歌えないもの」


 彼女は、竪琴にそっと手を添えた。


「歌だけで奇跡が起きるわけじゃない。誰かが頑張って、誰かが支えて、そうして初めて届くものがあるのよ」


 アルディスは、少しだけ視線を落とした。


「……分かってる」


「ええ。あなたなら、分かっていると思っていたわ」


 ルシャナは、立ち上がった。

 そして、いつもの柔らかな笑顔に戻った。


「だから、次は私の歌が届くところで戦ってね?」


「……ああ」


「約束よ」


「分かったって」


「よろしい」


 ルシャナは、満足そうに頷いた。

 それから、少しだけ悪戯っぽく笑った。


「ところで、その女の子とは、どこまで仲良くなったの?」


「だから帰れって言ってんだろ!!」


     ◇


「……ルシャナ」


「なあに?」


「お前、何日いるつもりだ?」


「そうね。しばらく王都に滞在しようと思っているわ」


「……何か用があるのか?」


「あるわよ」


 ルシャナは、当然のように答えた。


「青銀の魔女さんに会いたいの」


「……やっぱりそれか」


「あなたを助けてくれた子でしょう? お礼も言いたいし、どんな子なのか知りたいわ」


「……変なやつだぞ」


「それは、もう聞いたわ」


 ルシャナは、小さく笑った。


「でも、あなたがそう言う相手なら、きっと面白い子なんでしょうね」


「……どういう意味だよ」


「あなた、人を見る目は悪くないもの」


「…………」


「剣のこと以外は、少し不器用だけれど」


「余計な一言が多いんだよ!」


 ルシャナは、気にした様子もなく竪琴を抱え直した。


「それにね。私、少し考えていることがあるの」


「……何だ?」


「その子が、これからどこへ行くのか知りたいの」


「……旅か?」


「ええ」


 彼女は、窓の外へ目を向けた。


「私は長い間、英雄たちの物語を歌ってきたわ。誰かが成し遂げたことを聞いて、訪ねて、歌にしてきた」


「……ああ」


「でもね。時々思うの」


 ルシャナは、少しだけ微笑んだ。


「物語が始まるとき、その人は何を考えていたんだろうって」


 アルディスが、彼女を見た。


「……お前」


「まだ決めたわけじゃないわ」


 ルシャナは、彼の言葉を先回りするように答えた。


「まずは、本人に会ってみる。自分の目で見て、自分で考えたいの」


「……そうかよ」


「ええ」


 彼女は、扉へ向かった。


「じゃあ、行ってくるわね」


「……おい」


「なあに?」


「……あいつを困らせるなよ」


 ルシャナは、振り返った。


「それは、あなたの方が得意でしょう?」


「……っ!」


「ふふっ。冗談よ」


 そう言って、彼女は部屋を出ていった。

 残されたアルディスは、しばらく扉を睨んでいた。


「……ったく」


 それから、ぼそりと呟く。


「……絶対、面倒なことになるぞ」


     ◇


 その頃。


「ネスラさん! 見てください!」


「……何?」


「小さくなりました!」


 王立研究院の一室で、私は両手に収まるほどの薄い板を掲げていた。

 昨日まで研究室の真ん中に立っていた、大きな石の壁、あれを、魔道具班の皆さんと一緒に小さくしてみたのだ。


 まだ魔石だけでは動かないけれど、私が魔力を流せば、ちゃんと光る。


「……すごいですねえ」


 私は、板を眺めながら呟いた。


「昨日はあんなに大きかったのに!」


「……君が昨日のうちに、小型化の案を出したから」


「でも、形にしてくれたのは魔道具班の皆さんです!」


 私は、嬉しくなって笑った。


「やっぱり、みんなで作ると早いですね!」


「……うん」


 ネスラさんが、少しだけ微笑んだ。


「……魔石で動かす方も、試してくれてる」


「本当ですか!?」


「……まだ時間はかかると思うけど」


「楽しみですねえ!」


 私は、板に魔力を流した。

 表面に、淡い青い光が広がる。


「……ああ、綺麗」


 そのとき。

 コンコン。

 研究室の扉が叩かれた。


「失礼します!」


 研究員さんが、顔を覗かせた。


「セリス殿。お客様がお見えです」


「……お客様?」


「はい。剣聖アルディス様のお知り合いだそうで……」


 ……あっ!

 そういえば、昨日そんな話を聞いた気がする。


「エルフの吟遊詩人、ルシャナ様です」


「……っ!」


 ネスラさんが、顔を上げた。


「……ルシャナ?」


「はい」


「……六英雄の?」


「えっ!?」


 私は、思わず振り返った。


「六英雄!?」


 ……え?

 ちょっと待って。

 アルディスさんと同じ!?


「……知らなかったの?」


「聞いてませんよ!?」


「……有名だよ」


「えええっ!?」


 私は、慌てて板を机に置いた。


「ど、どうしましょう!?」


「……落ち着いて」


「だって、六英雄ですよ!?」


「……君、アルディスとは普通に話してるでしょ」


「……あっ」


 ……そうでした。

 でも、初めて会う人だし。

 それに、エルフの魔法を使う方かもしれないし!


「……ネスラさん!」


「……何?」


「精霊魔法のこと、聞いてもいいでしょうか!?」


「……まず、挨拶してから」


「はーい!」


     ◇


 研究院の応接室。

 扉を開けると、柔らかな竪琴の音が聞こえてきた。


 ……綺麗。


 澄んだ音色が、部屋の空気を優しく揺らしている。

 窓際の椅子に、一人のエルフの女性が座っていた。


 長い金髪。

 エメラルドグリーンの瞳。

 白と若草色の衣装。

 髪には、小さな花飾り。

 そして、腕には美しい竪琴。


 ……わあ。

 すごく綺麗な人だ。


 見た目は、私より少し年上くらいだろうか。

 でも、雰囲気が全然違う。

 落ち着いていて、優しそうで。

 それでいて、どこか楽しそうな人だった。


「あなたが、セリスちゃん?」


「は、はい!」


 私は、慌てて頭を下げた。


「セリス・アルフィーネです! よろしくお願いします!」


「ルシャナよ。よろしくね、セリスちゃん」


 女性は、柔らかく微笑んだ。

 ……あ。

 何かいる。


 ルシャナさんの傍ら。

 青く透き通った、小さな人影が浮かんでいた。


 水でできたような、綺麗な姿。

 その周囲には、淡い魔力の光が揺れている。


「……っ!」


 私は、思わず目を見開いた。


「……せ、精霊さん!?」


 ルシャナさんが、少し驚いたように目を細めた。


「見えるのね」


「はいっ!」


 私は、思わず身を乗り出した。


「すごいです! 本当にいるんですね!?」


 青い人影が、くるりと回った。

 その動きに合わせて、小さな水の粒がきらきらと輝く。


「……わあああっ!」


 私は、思わず両手を握った。


「綺麗です!!」


 ルシャナさんは、嬉しそうに微笑んだ。


「この子は、ルアール。私の大切なお友達よ」


「ルアールさん!」


 私は、そっと手を差し出した。


「初めまして! セリスです!」


 ルアールが、私の指先へ近づいてきた。

 小さな水の粒が、手のひらに触れる。

 ひんやりとして、気持ちいい。


「……っ!」


 私は、思わず笑った。


「すごい! 冷たいです!」


 ルシャナさんが、静かに笑った。


「本当に、魔法が好きなのね」


「はいっ!」


 私は、元気よく頷いた。


「大好きです!」


「そう。なら、きっとルアールとも仲良くなれるわ」


 青い精霊が、私の周りをゆっくり回った。


「ぷいっ!」

「ぷるん!」


 エルとレイも、興味津々で身体を揺らしている。


「……あっ! この子たちは、エルとレイです!」


「まあ、可愛い子たちね」


 ルシャナさんは、二人に目線を合わせた。


「初めまして。私はルシャナよ」


 エルが元気よく跳ねた。

「ぷいっ!」


 レイは、ゆっくり揺れた。

「ぷるん」


「ふふっ。よろしくね」


 ルシャナさんは、二人の反応を楽しそうに眺めていた。


     ◇


「それで、セリスちゃん」


「はい!」


 ルシャナさんは、竪琴を膝に置いた。


「少し、お話を聞かせてもらってもいいかしら?」


「もちろんです!」


「ありがとう」


 ルシャナさんは、優しく微笑んだ。


「あなた、スタンピードのときにアルディスを助けてくれたんですってね」


「……あっ」


 私は、少しだけ頬を掻いた。


「はい。でも、アルディスさんが八時間も頑張ってくれていたから、間に合ったんです」


「そうね」


「それに、王国軍の皆さんも、ネスラさんたちも、すごく頑張ってくれましたし!」


 私は、慌てて付け加えた。


「私一人じゃ、どうにもならなかったと思います!」


 ルシャナさんは、静かに頷いた。


「……そうね。私も、そう思うわ」


「……え?」


「あなたが助けてくれたことは、本当。でも、あなた一人で全部を成し遂げたわけじゃない」


 ルシャナさんは、少しだけ微笑んだ。


「アルディスも、王国軍も、魔法師団も。それぞれができることをしたから、守れたものがあるんでしょう?」


「……はい!」


 私は、嬉しくなって頷いた。


「そうなんです!」


「なら、そのことも、ちゃんと歌にしなくちゃね」


「……歌?」


「ええ。英雄譚って、どうしても一人の英雄が目立ってしまうものだから」


 ルシャナさんは、竪琴を軽く撫でた。


「でも私は、その人を支えた人たちのことも、忘れたくないの」


 ……あ。

 なんだろう。

 その言葉が、すごく嬉しかった。


「……ルシャナさん」


「なあに?」


「……ありがとうございます!」


 ルシャナさんは、少しだけ驚いた顔をした。

 それから、柔らかく笑った。


「こちらこそ。アルディスを助けてくれて、ありがとう」


 私は、少し照れてしまった。


「……えへへ」


     ◇


「ところで、セリスちゃん」


「はい?」


「あなたは、これから何をしたいの?」


「……これから?」


「ええ。王国から称号もいただいたのでしょう?」


「あっ! はい!」


 私は、思わず頷いた。


「青銀の魔女、です!」


「そうね。素敵な名前だと思うわ」


「えへへ!」


「でも、称号をもらったからといって、何か変わった?」


「……うーん」


 私は、少し考えた。


「研究院の資料が見られるようになりました!」


「……それは、よかったわね」


「はい! すごく嬉しいです!」


 ルシャナさんが、小さく笑った。


「ほかには?」


「……ほか?」


「例えば、英雄として有名になりたいとか」


「……英雄?」


 私は、首を傾げた。


「……うーん。あんまり考えたことないです」


「そう」


「でも、魔法の研究は、もっとしたいです!」


 私は、思わず身を乗り出した。


「だって、まだ知らない魔法がいっぱいあるんですよ!?」


 ルシャナさんは、楽しそうに頷いた。


「そうね」


「エルフの精霊魔法もそうですし! 魔族の魔術も! ドワーフの魔道具も!」


 私は、指を折りながら数えた。


「それに、魔法をもっとたくさんの人に使ってもらいたいんです!」


「……たくさんの人に?」


「はい!」


 私は、にっこり笑った。


「せっかく面白い魔法があるのに、使える人が限られてるなんて、もったいないじゃないですか!」


 ルシャナさんは、少し考えるように目を細めた。


「……なるほど」


 そして、ゆっくりと口を開いた。


「ねえ、セリスちゃん。一つ聞いてもいいかしら」


「はい!」


「みんなが魔法を使えるようになったら、あなたは何をしたいの?」


「……え?」


「魔法を広めることが目的なのか、それとも、その先に見たいものがあるのか。少し気になったの」


 私は、少し考えた。

 ……その先。

 みんなが魔法を使えるようになったら。

 ……うーん。


「……もっと、面白いことが増えると思うんです!」


 私は、顔を上げた。


「例えば、今までできなかったことができるようになったり!」


「ええ」


「魔法が苦手な人も、道具を使って魔法を楽しめたり!」


「そうね」


「それに、私が思いつかなかった使い方を、誰かが考えてくれるかもしれません!」


 ルシャナさんが、静かに笑った。


「……それ、分かる気がするわ」


「……え?」


「歌も、同じだと思うの」


 ルシャナさんは、竪琴を抱え直した。


「私一人が歌える歌なんて、限られているでしょう?」


「……はい」


「でも、誰かが歌を覚えて、また別の人に伝えていけば、違う歌が生まれるかもしれない」


 彼女は、優しく微笑んだ。


「私は、そういうのが好きなの。歌が、私の手を離れて、誰かのものになっていくことが」


「……っ!」


 私は、思わず目を輝かせた。


「それです!!」


「……え?」


「私も、そういうのが好きです!」


 私は、勢いよく頷いた。


「私が作った魔法を、誰かがもっと便利にしてくれたら、すごく嬉しいです!」


 ルシャナさんは、しばらく私を見つめていた。

 そして、にっこり笑った。


「……そう。なら、きっと話が合うわね」


「はいっ!」


     ◇


「それで、セリスちゃん」


「はい?」


「王都には、いつまでいるつもり?」


「……あっ!」


 私は、思い出した。


「そうでした! そろそろ旅に出たいんです!」


「旅?」


「はい!」


 私は、勢いよく頷いた。


「魔族領にも行ってみたいですし、エルフの森も見てみたいですし!」


「まあ、ずいぶん広いわね」


「それから、ドワーフの街とか、竜人の国とか……!」


 私は、指を折りながら数えた。


「まだまだ、行きたいところがいっぱいあるんです!」


 ルシャナさんは、少し考えるように竪琴を撫でた。


「……そう」


「……はい?」


「ねえ、セリスちゃん」


 ルシャナさんが、私を見た。


「私も、一緒に行ってみたいわ」


「…………」


 私は、瞬きをした。

 ……え?

 今、何て?


「……い、一緒に?」


「ええ」


 ルシャナさんは、落ち着いた声で答えた。


「あなたの旅に、同行したいの」


「……っ!?」


 私は、思わず立ち上がった。


「ほ、本当ですか!?」


「本当よ」


「で、でも、ルシャナさんは六英雄ですよね!?」


「そうね」


「そんなすごい方が、私なんかと一緒に……!?」


 ルシャナさんは、少しだけ首を傾げた。


「……セリスちゃん」


「は、はい!」


「あなたが、私と一緒に旅をしたいかどうか。それを聞かせてほしいの」


「……え?」


「六英雄だからとか、そういうことじゃなくてね」


 ルシャナさんは、静かに微笑んだ。


「私は、あなたと一緒に旅をしてみたい。だから、あなたの気持ちも聞きたいのよ」


 私は、少しだけ考えた。


 ……ルシャナさんと、旅。

 エルフの魔法。

 精霊さん。

 色々な国のお話。

 それに、歌。

 ……ああ。

 考えるだけで、楽しそう!


「……はいっ!」


 私は、勢いよく頷いた。


「ぜひ、一緒に行きたいです!!」


 ルシャナさんは、嬉しそうに笑った。


「ありがとう、セリスちゃん」


「やったあああっ!!」


 私は、思わず両手を上げた。


「ルシャナさんと一緒なら、精霊魔法のことも色々教えてもらえますね!?」


「ええ。私の知っていることなら、喜んで」


「それに、色々な国のこともご存じなんですよね!?」


「そうね。旅をしてきたから、少しは案内できると思うわ」


「すごいです! 楽しみです!!」


 ルシャナさんは、柔らかく笑った。


「私も楽しみよ」


 その傍らで、ルアールがくるりと回った。

 エルとレイも、私の肩で元気よく跳ねる。


「ぷいっ!」

「ぷるん!」


 ……ああ!

 旅が、もっと面白くなりそう!


「……あっ!」


 私は、ふと思い出した。


「ルシャナさん!」


「なあに?」


「精霊魔法って、どうやって使うんですか!?」


 ルシャナさんが、少しだけ目を丸くした。


「……今から?」


「はい!」


「ふふっ。あなた、本当に待ちきれないのね」


「えへへ!」


 ルシャナさんは、竪琴を抱え直した。


「いいわ。少しだけ、見せてあげましょうか」


「……っ!」


 私は、思わず身を乗り出した。


「本当ですか!?」


「ええ。でも、ここでは小さな魔法だけね」


「はいっ!」


 ルシャナさんは、ルアールへ目を向けた。


「ルアール。少し、お願いできる?」


 青い精霊が、静かに頷いた。

 ルシャナさんが、竪琴の弦を軽く鳴らす。

 澄んだ音色が、部屋に広がった。


 すると。


 ルアールの周囲に、小さな水の粒が浮かび上がった。

 それらが、ゆっくりと集まり、一輪の花の形になる。


「……わあああっ!!」


 私は、思わず声を上げた。


「すごいです!!」


 水の花は、光を受けてきらきらと輝いていた。


 ……綺麗。

 でも、それだけじゃない。

 魔力の流れが、私の知っている魔術とは少し違う。

 ……これ、どうなってるんだろう!?


「ルシャナさん!」


「なあに?」


「もう一回、お願いします!!」


 ルシャナさんは、楽しそうに笑った。


「いいわよ。でも、今度は何を見たいの?」


「魔力の流れです!」


「なるほど」


 彼女は、少し考えた。


「じゃあ、今度はゆっくりやってみましょうか」


「はいっ!」


 私は、慌てて研究ノートを取り出した。


 ……ああ!

 やっぱり、この世界は面白い!

 そのとき。


「……セリス」


 応接室の扉が、静かに開いた。

 ネスラさんが、顔を覗かせた。


「……そろそろ、研究室に戻ってきてほしい」


「……あっ!」


 私は、思い出した。


「……魔力観測板!」


「……うん」


 ネスラさんは、小さく頷いた。


「……魔道具班が、魔石を取り付ける準備を始めてる」


「えええっ!? もうですか!?」


「……試すだけだけどね」


「行きます!!」


 私は、勢いよく立ち上がった。

 そして、ルシャナさんを振り返った。


「ルシャナさん! よかったら、一緒に見に来ませんか!?」


「……私も?」


「はい!」


 私は、にっこり笑った。


「今、すっごく面白い魔法を作ってるんです!」


 ルシャナさんは、少しだけ考えた。

 そして、立ち上がった。


「そうね。せっかくだから、見せてもらおうかしら」


「やったあ!」


 私は、応接室の扉へ向かった。

 ……あっ。

 そういえば。


「ルシャナさん!」


「なあに?」


「アルディスさんにも、旅のことを伝えなきゃですね!」


「そうね」


 ルシャナさんは、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。


「そのときは、私も一緒に行くわ」


「はい!」


「……あの子、どんな顔をするかしら」


「……え?」


「何でもないわ」


 ……?

 私は、首を傾げた。

 でも、まあいいか!


「ネスラさん! 急ぎましょう!」


「……走らないで」


「はーい!」


 私は、研究ノートを抱えて廊下へ飛び出した。

 その後ろから、ルシャナさんとルアールがついてくる。


「……元気な子ね」


「……うん」


「でも、楽しそう」


「……いつも、あんな感じ」


 ネスラさんの声が、少しだけ聞こえた。

 ……えへへ。

 さて!

 魔石を取り付けたら、どんな反応が出るんだろう!?

 それに、ルシャナさんの精霊魔法も、もっと見てみたい!

 ……ああ、忙しくなりそう!

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