第39話「金髪碧眼お姉さま、登場!?」
「……あらあら」
その声を聞いた瞬間、アルディス・レヴィンは嫌な予感がした。
王都アストリア。
王国が用意した療養用の屋敷で、アルディスは窓際の椅子に座っていた。
右肩にはまだ包帯が巻かれ、左脇腹と左脚にも治療の跡が残っている。
八時間に及ぶスタンピードとの戦闘。
その傷は、いくら剣聖といえど、簡単に消えるものではなかった。
だが、今、彼が最も警戒しているのは、傷の痛みではない。
「……おい」
「久しぶりね、アルディス」
開いた扉の向こう、長い金髪を揺らし、白と若草色の衣装をまとったエルフの女性が立っていた。
花飾りのついた髪。
エメラルドグリーンの瞳。
腕には、美しい金細工の竪琴。
そして傍らには、青く透き通った水の精霊が浮かんでいる。
「……ルシャナ」
アルディスは、深々とため息をついた。
「何しに来た」
「お見舞いよ。八時間も戦ったって聞いたもの」
「……それだけか?」
「もちろん、もう一つあるわ」
ルシャナは、にっこり微笑んだ。
「可愛い女の子に助けてもらったんですって?」
「帰れ!!」
屋敷に、剣聖の怒鳴り声が響いた。
◇
「そんなに怒らなくてもいいじゃない」
「お前が余計なこと言うからだろ!」
「だって、気になるでしょう?」
「……何がだよ」
「あなたが誰かに助けてもらうなんて、珍しいもの」
「……っ!」
アルディスが言葉に詰まる。
ルシャナは、楽しそうに笑った。
「それで? どんな子なの?」
「……変なやつだ」
「変な子?」
「魔術のことになると、周りが見えなくなる」
「そうなのね」
「人の話を聞いてると思ったら、突然意味の分からねえことを言い出す」
「ふふっ」
「それで、気づいたら、とんでもないことをやってやがる」
ルシャナは、少し考えるように首を傾げた。
「……それだけ聞くと、あなたとよく似ている気がするわ」
「どこがだよ!?」
「好きなことになると、周りが見えなくなるところ」
「俺は違うだろ!」
「そうかしら?」
ルシャナは、アルディスの包帯を見た。
「八時間も一人で戦っていた人が、言うことじゃないと思うけれど」
「……状況が状況だったんだよ」
「分かってるわ」
ルシャナは、静かに頷いた。
「あなたが戦わなければ、もっと多くの人が傷ついていた。そういう状況だったんでしょう?」
「……ああ」
「だったら、その判断を責めるつもりはないわ」
彼女は、少しだけ声を落とした。
「でも、無事だったからいい、とは思わないの」
「…………」
「あなたが倒れたら、悲しむ人がいるでしょう?」
アルディスは、黙って窓の外を見た。
ルシャナは、彼の返事を急がなかった。
しばらくして、アルディスが口を開いた。
「……最後は、もう動けなかった」
「……そう」
「剣もまともに振れねえし、魔力も尽きかけてた」
彼は、苦々しそうに笑った。
「そこに、あいつが飛んできやがった」
「青銀の魔女さん?」
「ああ」
「……何て言ったの?」
「『あとは任せてください』だとよ」
ルシャナは、少しだけ目を細めた。
「……そう」
それから、静かに笑った。
「よかったわね」
「……あ?」
「あなたが、誰かを頼れる状況になって」
「……別に、頼ったわけじゃ」
「そうね。助けられたのよね」
「お前なあ……!」
ルシャナは、肩をすくめた。
「私は、誰かに助けられるのは悪いことじゃないと思っているわ」
「…………」
「私だって、みんなが戦ってくれなければ、安心して歌えないもの」
彼女は、竪琴にそっと手を添えた。
「歌だけで奇跡が起きるわけじゃない。誰かが頑張って、誰かが支えて、そうして初めて届くものがあるのよ」
アルディスは、少しだけ視線を落とした。
「……分かってる」
「ええ。あなたなら、分かっていると思っていたわ」
ルシャナは、立ち上がった。
そして、いつもの柔らかな笑顔に戻った。
「だから、次は私の歌が届くところで戦ってね?」
「……ああ」
「約束よ」
「分かったって」
「よろしい」
ルシャナは、満足そうに頷いた。
それから、少しだけ悪戯っぽく笑った。
「ところで、その女の子とは、どこまで仲良くなったの?」
「だから帰れって言ってんだろ!!」
◇
「……ルシャナ」
「なあに?」
「お前、何日いるつもりだ?」
「そうね。しばらく王都に滞在しようと思っているわ」
「……何か用があるのか?」
「あるわよ」
ルシャナは、当然のように答えた。
「青銀の魔女さんに会いたいの」
「……やっぱりそれか」
「あなたを助けてくれた子でしょう? お礼も言いたいし、どんな子なのか知りたいわ」
「……変なやつだぞ」
「それは、もう聞いたわ」
ルシャナは、小さく笑った。
「でも、あなたがそう言う相手なら、きっと面白い子なんでしょうね」
「……どういう意味だよ」
「あなた、人を見る目は悪くないもの」
「…………」
「剣のこと以外は、少し不器用だけれど」
「余計な一言が多いんだよ!」
ルシャナは、気にした様子もなく竪琴を抱え直した。
「それにね。私、少し考えていることがあるの」
「……何だ?」
「その子が、これからどこへ行くのか知りたいの」
「……旅か?」
「ええ」
彼女は、窓の外へ目を向けた。
「私は長い間、英雄たちの物語を歌ってきたわ。誰かが成し遂げたことを聞いて、訪ねて、歌にしてきた」
「……ああ」
「でもね。時々思うの」
ルシャナは、少しだけ微笑んだ。
「物語が始まるとき、その人は何を考えていたんだろうって」
アルディスが、彼女を見た。
「……お前」
「まだ決めたわけじゃないわ」
ルシャナは、彼の言葉を先回りするように答えた。
「まずは、本人に会ってみる。自分の目で見て、自分で考えたいの」
「……そうかよ」
「ええ」
彼女は、扉へ向かった。
「じゃあ、行ってくるわね」
「……おい」
「なあに?」
「……あいつを困らせるなよ」
ルシャナは、振り返った。
「それは、あなたの方が得意でしょう?」
「……っ!」
「ふふっ。冗談よ」
そう言って、彼女は部屋を出ていった。
残されたアルディスは、しばらく扉を睨んでいた。
「……ったく」
それから、ぼそりと呟く。
「……絶対、面倒なことになるぞ」
◇
その頃。
「ネスラさん! 見てください!」
「……何?」
「小さくなりました!」
王立研究院の一室で、私は両手に収まるほどの薄い板を掲げていた。
昨日まで研究室の真ん中に立っていた、大きな石の壁、あれを、魔道具班の皆さんと一緒に小さくしてみたのだ。
まだ魔石だけでは動かないけれど、私が魔力を流せば、ちゃんと光る。
「……すごいですねえ」
私は、板を眺めながら呟いた。
「昨日はあんなに大きかったのに!」
「……君が昨日のうちに、小型化の案を出したから」
「でも、形にしてくれたのは魔道具班の皆さんです!」
私は、嬉しくなって笑った。
「やっぱり、みんなで作ると早いですね!」
「……うん」
ネスラさんが、少しだけ微笑んだ。
「……魔石で動かす方も、試してくれてる」
「本当ですか!?」
「……まだ時間はかかると思うけど」
「楽しみですねえ!」
私は、板に魔力を流した。
表面に、淡い青い光が広がる。
「……ああ、綺麗」
そのとき。
コンコン。
研究室の扉が叩かれた。
「失礼します!」
研究員さんが、顔を覗かせた。
「セリス殿。お客様がお見えです」
「……お客様?」
「はい。剣聖アルディス様のお知り合いだそうで……」
……あっ!
そういえば、昨日そんな話を聞いた気がする。
「エルフの吟遊詩人、ルシャナ様です」
「……っ!」
ネスラさんが、顔を上げた。
「……ルシャナ?」
「はい」
「……六英雄の?」
「えっ!?」
私は、思わず振り返った。
「六英雄!?」
……え?
ちょっと待って。
アルディスさんと同じ!?
「……知らなかったの?」
「聞いてませんよ!?」
「……有名だよ」
「えええっ!?」
私は、慌てて板を机に置いた。
「ど、どうしましょう!?」
「……落ち着いて」
「だって、六英雄ですよ!?」
「……君、アルディスとは普通に話してるでしょ」
「……あっ」
……そうでした。
でも、初めて会う人だし。
それに、エルフの魔法を使う方かもしれないし!
「……ネスラさん!」
「……何?」
「精霊魔法のこと、聞いてもいいでしょうか!?」
「……まず、挨拶してから」
「はーい!」
◇
研究院の応接室。
扉を開けると、柔らかな竪琴の音が聞こえてきた。
……綺麗。
澄んだ音色が、部屋の空気を優しく揺らしている。
窓際の椅子に、一人のエルフの女性が座っていた。
長い金髪。
エメラルドグリーンの瞳。
白と若草色の衣装。
髪には、小さな花飾り。
そして、腕には美しい竪琴。
……わあ。
すごく綺麗な人だ。
見た目は、私より少し年上くらいだろうか。
でも、雰囲気が全然違う。
落ち着いていて、優しそうで。
それでいて、どこか楽しそうな人だった。
「あなたが、セリスちゃん?」
「は、はい!」
私は、慌てて頭を下げた。
「セリス・アルフィーネです! よろしくお願いします!」
「ルシャナよ。よろしくね、セリスちゃん」
女性は、柔らかく微笑んだ。
……あ。
何かいる。
ルシャナさんの傍ら。
青く透き通った、小さな人影が浮かんでいた。
水でできたような、綺麗な姿。
その周囲には、淡い魔力の光が揺れている。
「……っ!」
私は、思わず目を見開いた。
「……せ、精霊さん!?」
ルシャナさんが、少し驚いたように目を細めた。
「見えるのね」
「はいっ!」
私は、思わず身を乗り出した。
「すごいです! 本当にいるんですね!?」
青い人影が、くるりと回った。
その動きに合わせて、小さな水の粒がきらきらと輝く。
「……わあああっ!」
私は、思わず両手を握った。
「綺麗です!!」
ルシャナさんは、嬉しそうに微笑んだ。
「この子は、ルアール。私の大切なお友達よ」
「ルアールさん!」
私は、そっと手を差し出した。
「初めまして! セリスです!」
ルアールが、私の指先へ近づいてきた。
小さな水の粒が、手のひらに触れる。
ひんやりとして、気持ちいい。
「……っ!」
私は、思わず笑った。
「すごい! 冷たいです!」
ルシャナさんが、静かに笑った。
「本当に、魔法が好きなのね」
「はいっ!」
私は、元気よく頷いた。
「大好きです!」
「そう。なら、きっとルアールとも仲良くなれるわ」
青い精霊が、私の周りをゆっくり回った。
「ぷいっ!」
「ぷるん!」
エルとレイも、興味津々で身体を揺らしている。
「……あっ! この子たちは、エルとレイです!」
「まあ、可愛い子たちね」
ルシャナさんは、二人に目線を合わせた。
「初めまして。私はルシャナよ」
エルが元気よく跳ねた。
「ぷいっ!」
レイは、ゆっくり揺れた。
「ぷるん」
「ふふっ。よろしくね」
ルシャナさんは、二人の反応を楽しそうに眺めていた。
◇
「それで、セリスちゃん」
「はい!」
ルシャナさんは、竪琴を膝に置いた。
「少し、お話を聞かせてもらってもいいかしら?」
「もちろんです!」
「ありがとう」
ルシャナさんは、優しく微笑んだ。
「あなた、スタンピードのときにアルディスを助けてくれたんですってね」
「……あっ」
私は、少しだけ頬を掻いた。
「はい。でも、アルディスさんが八時間も頑張ってくれていたから、間に合ったんです」
「そうね」
「それに、王国軍の皆さんも、ネスラさんたちも、すごく頑張ってくれましたし!」
私は、慌てて付け加えた。
「私一人じゃ、どうにもならなかったと思います!」
ルシャナさんは、静かに頷いた。
「……そうね。私も、そう思うわ」
「……え?」
「あなたが助けてくれたことは、本当。でも、あなた一人で全部を成し遂げたわけじゃない」
ルシャナさんは、少しだけ微笑んだ。
「アルディスも、王国軍も、魔法師団も。それぞれができることをしたから、守れたものがあるんでしょう?」
「……はい!」
私は、嬉しくなって頷いた。
「そうなんです!」
「なら、そのことも、ちゃんと歌にしなくちゃね」
「……歌?」
「ええ。英雄譚って、どうしても一人の英雄が目立ってしまうものだから」
ルシャナさんは、竪琴を軽く撫でた。
「でも私は、その人を支えた人たちのことも、忘れたくないの」
……あ。
なんだろう。
その言葉が、すごく嬉しかった。
「……ルシャナさん」
「なあに?」
「……ありがとうございます!」
ルシャナさんは、少しだけ驚いた顔をした。
それから、柔らかく笑った。
「こちらこそ。アルディスを助けてくれて、ありがとう」
私は、少し照れてしまった。
「……えへへ」
◇
「ところで、セリスちゃん」
「はい?」
「あなたは、これから何をしたいの?」
「……これから?」
「ええ。王国から称号もいただいたのでしょう?」
「あっ! はい!」
私は、思わず頷いた。
「青銀の魔女、です!」
「そうね。素敵な名前だと思うわ」
「えへへ!」
「でも、称号をもらったからといって、何か変わった?」
「……うーん」
私は、少し考えた。
「研究院の資料が見られるようになりました!」
「……それは、よかったわね」
「はい! すごく嬉しいです!」
ルシャナさんが、小さく笑った。
「ほかには?」
「……ほか?」
「例えば、英雄として有名になりたいとか」
「……英雄?」
私は、首を傾げた。
「……うーん。あんまり考えたことないです」
「そう」
「でも、魔法の研究は、もっとしたいです!」
私は、思わず身を乗り出した。
「だって、まだ知らない魔法がいっぱいあるんですよ!?」
ルシャナさんは、楽しそうに頷いた。
「そうね」
「エルフの精霊魔法もそうですし! 魔族の魔術も! ドワーフの魔道具も!」
私は、指を折りながら数えた。
「それに、魔法をもっとたくさんの人に使ってもらいたいんです!」
「……たくさんの人に?」
「はい!」
私は、にっこり笑った。
「せっかく面白い魔法があるのに、使える人が限られてるなんて、もったいないじゃないですか!」
ルシャナさんは、少し考えるように目を細めた。
「……なるほど」
そして、ゆっくりと口を開いた。
「ねえ、セリスちゃん。一つ聞いてもいいかしら」
「はい!」
「みんなが魔法を使えるようになったら、あなたは何をしたいの?」
「……え?」
「魔法を広めることが目的なのか、それとも、その先に見たいものがあるのか。少し気になったの」
私は、少し考えた。
……その先。
みんなが魔法を使えるようになったら。
……うーん。
「……もっと、面白いことが増えると思うんです!」
私は、顔を上げた。
「例えば、今までできなかったことができるようになったり!」
「ええ」
「魔法が苦手な人も、道具を使って魔法を楽しめたり!」
「そうね」
「それに、私が思いつかなかった使い方を、誰かが考えてくれるかもしれません!」
ルシャナさんが、静かに笑った。
「……それ、分かる気がするわ」
「……え?」
「歌も、同じだと思うの」
ルシャナさんは、竪琴を抱え直した。
「私一人が歌える歌なんて、限られているでしょう?」
「……はい」
「でも、誰かが歌を覚えて、また別の人に伝えていけば、違う歌が生まれるかもしれない」
彼女は、優しく微笑んだ。
「私は、そういうのが好きなの。歌が、私の手を離れて、誰かのものになっていくことが」
「……っ!」
私は、思わず目を輝かせた。
「それです!!」
「……え?」
「私も、そういうのが好きです!」
私は、勢いよく頷いた。
「私が作った魔法を、誰かがもっと便利にしてくれたら、すごく嬉しいです!」
ルシャナさんは、しばらく私を見つめていた。
そして、にっこり笑った。
「……そう。なら、きっと話が合うわね」
「はいっ!」
◇
「それで、セリスちゃん」
「はい?」
「王都には、いつまでいるつもり?」
「……あっ!」
私は、思い出した。
「そうでした! そろそろ旅に出たいんです!」
「旅?」
「はい!」
私は、勢いよく頷いた。
「魔族領にも行ってみたいですし、エルフの森も見てみたいですし!」
「まあ、ずいぶん広いわね」
「それから、ドワーフの街とか、竜人の国とか……!」
私は、指を折りながら数えた。
「まだまだ、行きたいところがいっぱいあるんです!」
ルシャナさんは、少し考えるように竪琴を撫でた。
「……そう」
「……はい?」
「ねえ、セリスちゃん」
ルシャナさんが、私を見た。
「私も、一緒に行ってみたいわ」
「…………」
私は、瞬きをした。
……え?
今、何て?
「……い、一緒に?」
「ええ」
ルシャナさんは、落ち着いた声で答えた。
「あなたの旅に、同行したいの」
「……っ!?」
私は、思わず立ち上がった。
「ほ、本当ですか!?」
「本当よ」
「で、でも、ルシャナさんは六英雄ですよね!?」
「そうね」
「そんなすごい方が、私なんかと一緒に……!?」
ルシャナさんは、少しだけ首を傾げた。
「……セリスちゃん」
「は、はい!」
「あなたが、私と一緒に旅をしたいかどうか。それを聞かせてほしいの」
「……え?」
「六英雄だからとか、そういうことじゃなくてね」
ルシャナさんは、静かに微笑んだ。
「私は、あなたと一緒に旅をしてみたい。だから、あなたの気持ちも聞きたいのよ」
私は、少しだけ考えた。
……ルシャナさんと、旅。
エルフの魔法。
精霊さん。
色々な国のお話。
それに、歌。
……ああ。
考えるだけで、楽しそう!
「……はいっ!」
私は、勢いよく頷いた。
「ぜひ、一緒に行きたいです!!」
ルシャナさんは、嬉しそうに笑った。
「ありがとう、セリスちゃん」
「やったあああっ!!」
私は、思わず両手を上げた。
「ルシャナさんと一緒なら、精霊魔法のことも色々教えてもらえますね!?」
「ええ。私の知っていることなら、喜んで」
「それに、色々な国のこともご存じなんですよね!?」
「そうね。旅をしてきたから、少しは案内できると思うわ」
「すごいです! 楽しみです!!」
ルシャナさんは、柔らかく笑った。
「私も楽しみよ」
その傍らで、ルアールがくるりと回った。
エルとレイも、私の肩で元気よく跳ねる。
「ぷいっ!」
「ぷるん!」
……ああ!
旅が、もっと面白くなりそう!
「……あっ!」
私は、ふと思い出した。
「ルシャナさん!」
「なあに?」
「精霊魔法って、どうやって使うんですか!?」
ルシャナさんが、少しだけ目を丸くした。
「……今から?」
「はい!」
「ふふっ。あなた、本当に待ちきれないのね」
「えへへ!」
ルシャナさんは、竪琴を抱え直した。
「いいわ。少しだけ、見せてあげましょうか」
「……っ!」
私は、思わず身を乗り出した。
「本当ですか!?」
「ええ。でも、ここでは小さな魔法だけね」
「はいっ!」
ルシャナさんは、ルアールへ目を向けた。
「ルアール。少し、お願いできる?」
青い精霊が、静かに頷いた。
ルシャナさんが、竪琴の弦を軽く鳴らす。
澄んだ音色が、部屋に広がった。
すると。
ルアールの周囲に、小さな水の粒が浮かび上がった。
それらが、ゆっくりと集まり、一輪の花の形になる。
「……わあああっ!!」
私は、思わず声を上げた。
「すごいです!!」
水の花は、光を受けてきらきらと輝いていた。
……綺麗。
でも、それだけじゃない。
魔力の流れが、私の知っている魔術とは少し違う。
……これ、どうなってるんだろう!?
「ルシャナさん!」
「なあに?」
「もう一回、お願いします!!」
ルシャナさんは、楽しそうに笑った。
「いいわよ。でも、今度は何を見たいの?」
「魔力の流れです!」
「なるほど」
彼女は、少し考えた。
「じゃあ、今度はゆっくりやってみましょうか」
「はいっ!」
私は、慌てて研究ノートを取り出した。
……ああ!
やっぱり、この世界は面白い!
そのとき。
「……セリス」
応接室の扉が、静かに開いた。
ネスラさんが、顔を覗かせた。
「……そろそろ、研究室に戻ってきてほしい」
「……あっ!」
私は、思い出した。
「……魔力観測板!」
「……うん」
ネスラさんは、小さく頷いた。
「……魔道具班が、魔石を取り付ける準備を始めてる」
「えええっ!? もうですか!?」
「……試すだけだけどね」
「行きます!!」
私は、勢いよく立ち上がった。
そして、ルシャナさんを振り返った。
「ルシャナさん! よかったら、一緒に見に来ませんか!?」
「……私も?」
「はい!」
私は、にっこり笑った。
「今、すっごく面白い魔法を作ってるんです!」
ルシャナさんは、少しだけ考えた。
そして、立ち上がった。
「そうね。せっかくだから、見せてもらおうかしら」
「やったあ!」
私は、応接室の扉へ向かった。
……あっ。
そういえば。
「ルシャナさん!」
「なあに?」
「アルディスさんにも、旅のことを伝えなきゃですね!」
「そうね」
ルシャナさんは、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。
「そのときは、私も一緒に行くわ」
「はい!」
「……あの子、どんな顔をするかしら」
「……え?」
「何でもないわ」
……?
私は、首を傾げた。
でも、まあいいか!
「ネスラさん! 急ぎましょう!」
「……走らないで」
「はーい!」
私は、研究ノートを抱えて廊下へ飛び出した。
その後ろから、ルシャナさんとルアールがついてくる。
「……元気な子ね」
「……うん」
「でも、楽しそう」
「……いつも、あんな感じ」
ネスラさんの声が、少しだけ聞こえた。
……えへへ。
さて!
魔石を取り付けたら、どんな反応が出るんだろう!?
それに、ルシャナさんの精霊魔法も、もっと見てみたい!
……ああ、忙しくなりそう!




