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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第一幕 異世界さんこんにちは!
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第4話「犯人は私です! ……信じてください!?」

「……私が、やりました」


 ギルドの受付でそう告げた瞬間、周囲が静まり返った。


 受付のお姉さんが、私をじっと見つめている。


「……セリスさん?」


「は、はい」


「北の山を?」


「はい……」


「あなたが?」


「……はい」


「…………」


 お姉さんは少し考えてから、にっこり笑った。


「大丈夫ですよ。怖いですよね、こんな騒ぎになったら」


「……え?」


「でも、そんな嘘をついてまで皆さんの注意を引かなくても大丈夫ですからね」


「嘘じゃないんですけどぉ!?」


 近くにいた冒険者が吹き出した。


「ははは! 嬢ちゃん、山を壊したって?」


「はい……」


「どうやって?」


「初級無属性魔術で……」


「ぶっはははは!!」


 周囲から笑い声が上がった。


「初級魔術で山が壊れるかよ!」


「お嬢ちゃん、夢でも見たんじゃねえか?」


「いや、本当に……!」


 私は必死に説明した。


 巨大な猪が突進してきたこと。


 空気を圧縮して撃ったこと。


 その向こうにあった山が、なくなってしまったこと。


 でも、誰も信じてくれない。


「はいはい。分かった分かった」


 受付のお姉さんが優しく頷いた。


「それよりセリスさん、先ほど薬草採集に興味があるとおっしゃっていましたよね?」


「……え?」


「初めての依頼でしたら、こちらがおすすめですよ」


 差し出された依頼書。


 薬草採集。


 報酬、銅貨十五枚。


「…………」


 私は依頼書を見た。


 お姉さんを見た。


 もう一度、依頼書を見た。


「……串焼き、五本分」


「はい?」


「やりますっ!!♡」


 ……こうして私は。


 北方山岳消失事件の犯人として名乗り出たにもかかわらず、誰にも信じてもらえないまま、初めての冒険者依頼へ向かうことになった。


     ◇


 薬草採集。


 それは、冒険者にとって最も基本的な仕事の一つらしい。


 受付のお姉さんから渡された説明書によると、今回の対象は《リーフ草》という植物だった。


 特徴は、細長い葉が三枚。


 葉脈が淡く青く光る。


 主に森の入口付近に生えていて、回復薬の材料になるという。


「ふむふむ……なるほど」


 私は説明書を読みながら、街の外へ向かっていた。


 手には、ギルドから借りた小さな採集籠。


 腰には、貸し出し用の短いナイフ。


 そして、胸元には真新しいFランクの冒険者証。


「……えへへ」


 つい、にやけてしまう。


 冒険者だ。


 本当に冒険者になったんだ。


 しかも、これから初めての依頼。


「よーし! 頑張るぞぉ!」


 ちなみに、北の山についてはギルドの人たちが調査するらしい。


 私はもう一度説明しようとしたのだけれど、


『はいはい。気をつけて行ってらっしゃい』


 と送り出されてしまった。


「……ちゃんと言ったもんね」


 うん。


 私は報告した。


 少なくとも、黙って逃げたわけじゃない。


 ……でも、やっぱり少し気になる。


 帰ってきたら、もう一度話してみようかな。


 そんなことを考えているうちに、森の入口へ到着した。


     ◇


「……あった!」


 最初のリーフ草を見つけたのは、森に入って十分ほど経った頃だった。


 木の根元に、細長い葉が三枚。


 葉脈が、ほんのり青く光っている。


「これだよね!」


 私はしゃがみ込み、説明書と見比べた。


 間違いない。


 リーフ草だ。


「……よし。まずは観察!」


 採集する前に、魔力をそっと流してみる。


 すると、植物の内部に細い魔力の流れが見えた。


「……おおっ」


 根から吸い上げられた魔力が、茎を通って葉へ向かっている。


 でも、それだけじゃない。


 葉の表面からも、周囲の魔力を取り込んでいるようだった。


「へえ……根と葉の両方から魔力を吸収するんだ」


 私は興味津々で観察を続けた。


 根から吸い上げる魔力。


 葉から取り込む魔力。


 そして、茎の中央で合流する二つの流れ。


「……あれ?」


 よく見ると、合流部分で魔力が少し滞っていた。


 まるで、二つの川がぶつかって渦を巻いているようだ。


「これ、効率悪くない?」


 試しに、魔力の流れをほんの少しだけ整えてみる。


 根からの流れを右側へ。


 葉からの流れを左側へ。


 互いにぶつからないよう、滑らかにつなぐ。


 すると。


 ぽわっ。


「……え?」


 リーフ草の葉が、淡い緑色に輝いた。


 青かった葉脈が、鮮やかな金色へ変わっていく。


「……おおおっ!」


 葉が少し大きくなった。


 しかも、内部の魔力濃度が明らかに上昇している。


「すごい! 魔力の循環効率が上がった!」


 私は夢中になって、葉の一枚を観察した。


 細胞の隙間を流れる魔力。


 根から取り込まれる栄養。


 光と魔力の相互作用。


「……なるほどねえ」


 この植物、普通の光合成だけじゃなくて、魔力も成長に利用しているのかもしれない。


 だとすれば、魔力循環を改善すれば成長速度も上がる?


「……面白い!」


 試しに、隣に生えていた別のリーフ草にも同じ操作をしてみた。


 ぽわっ。


 こちらも葉脈が金色に変わった。


「やっぱり!」


 再現できた。


 偶然じゃない。


 私は嬉しくなって、思わず両手を握りしめた。


「やったぁ! 新発見!」


 そのときだった。


 ピコン。


 目の前に、青い文字が浮かんだ。


《植物の魔力循環構造を解析しました》


《魔力循環の改善に成功しました》


《新たな魔術運用を確認しました》


《経験値を獲得しました》


「…………」


 私は表示を見つめた。


 そして。


「やっぱり研究で経験値入るぅぅぅ!!♡」


 最高だ。


 この世界、本当に最高だ。


 私は嬉しくなって、その場でくるりと回った。


「よーし! もっと調べちゃおう!」


     ◇


 それから私は、夢中になってリーフ草を探した。


 日当たりのいい場所。


 湿った土の上。


 大きな木の根元。


 それぞれの場所で、魔力の流れ方が少しずつ違う。


「ふむふむ……環境によって魔力吸収量が変わるんだ」


 私は一本ずつ観察しながら、採集を進めた。


 ただし、全部を取るわけではない。


 次も育つように、根を残して葉だけを切り取る。


 ……つもりだったのだけれど。


「……あれ?」


 先ほど魔力循環を整えたリーフ草を見ると、切り取ったはずの葉が少し伸びていた。


「……えっ?」


 私は目をこすった。


 もう一度見る。


 やっぱり伸びている。


「……再生してる?」


 試しに、魔力を少し流してみた。


 すると。


 にょきっ。


「…………」


 葉が伸びた。


「……え?」


 もう一度。


 にょきっ。


「…………」


 さらにもう一度。


 にょきにょきっ。


「……ええええっ!?」


 私は思わず立ち上がった。


「これ、採集し放題じゃない!?」


 いや、待って。


 落ち着こう。


 無限に増えるわけではないはずだ。


 植物の成長には、栄養も水分も必要になる。


 魔力だけで全部を補えるとは思えない。


「……でも、成長速度を上げることはできるんだ」


 それなら。


 畑で栽培したら?


 水と栄養を十分に与えて、魔力循環を最適化したら?


「……うわあ」


 想像するだけで楽しくなってきた。


 薬草の生産量が増える。


 回復薬をたくさん作れる。


 怪我をした人たちが、もっと簡単に治療を受けられるかもしれない。


「……いいじゃん!」


 私は思わず笑った。


「これ、ちゃんと研究したいなあ!」


 そのとき、再び青い文字が現れた。


《植物の成長促進に成功しました》


《魔力による栽培効率改善の可能性を発見しました》


《経験値を獲得しました》


「……えへへ」


 また経験値が増えた。


 しかも、研究が進むほど新しい発見がある。


 私は満足して、採集籠を覗き込んだ。


「……あ」


 籠がいっぱいになっていた。


「……やりすぎちゃった」


 まあ、いいか。


 たくさん採れたんだから、きっと喜んでもらえるだろう。


     ◇


 その頃。


 北方山岳地帯では、冒険者ギルドの調査隊が現場に到着していた。


「……これは」


 先頭に立つAランク冒険者が、言葉を失った。


 山がない。


 正確には、山の上部が巨大な刃物で削り取られたように消失している。


 地面には、一直線に伸びる破壊の痕跡。


 木々は同じ方向へ倒れ、岩盤はえぐられていた。


「……爆発じゃないな」


 隣にいた魔術師が呟いた。


「どういうことだ?」


「破壊の方向が揃っている。中心から広がったんじゃない。一方向から、何かが通過したんだ」


「……魔術か?」


「おそらくな」


 魔術師は地面に膝をつき、残留魔力を調べた。


 しかし、すぐに眉をひそめる。


「……妙だ」


「何がだ?」


「術式の痕跡がほとんど残っていない」


「そんなことがあるのか?」


「普通はない。これだけの規模なら、膨大な魔力の残滓が残るはずだ」


 魔術師は立ち上がり、山の断面を見上げた。


「……分かるのは、一方向から放たれた魔術によって破壊されたということだけだ」


「術者は?」


「不明」


「魔術の種類は?」


「不明だ」


「……レッドドラゴンの可能性は?」


「否定はできない。だが、竜種特有の魔力反応も確認できない」


「…………」


 調査隊に、重い沈黙が落ちた。


「……王都へ報告しろ」


 Aランク冒険者が低く告げた。


「少なくとも、自然災害じゃない。何者かが意図的に魔術を放った可能性が高い」


 魔術師が頷いた。


「……それも、我々の常識では測れないほどの威力でな」


     ◇


「ただいまでーす!」


 夕方。


 私は元気よく冒険者ギルドへ戻ってきた。


 受付のお姉さんが顔を上げる。


「あら、セリスさん。お帰りなさい。初めての依頼はどうでしたか?」


「すっごく楽しかったです!」


「それはよかったです。薬草は採れましたか?」


「はいっ!」


 私は採集籠を机の上に置いた。


 どさっ。


「…………」


 お姉さんが固まった。


「……セリスさん?」


「はい?」


「……これは?」


「リーフ草です!」


「……それは分かるんですが」


 お姉さんが籠の中を覗き込む。


 そこには、普通のリーフ草よりも大きく、葉脈が金色に輝く薬草がぎっしり詰まっていた。


「……この色は?」


「あっ! 魔力循環をちょっと整えたら、こうなりました!」


「…………」


「それで、成長速度も上がったみたいで!」


「…………」


「あと、切ってもまた伸びるんですよ! すごくないですか!?」


「…………」


 お姉さんは、しばらく無言だった。


 そして、ゆっくりと口を開いた。


「……セリスさん」


「はい!」


「……少々、お待ちいただけますか?」


「はいっ!」


 お姉さんは奥の部屋へ消えていった。


 私は椅子に座り、足をぷらぷらさせながら待つ。


「……えへへ」


 初めての依頼。


 大成功だ。


 研究もできたし、経験値も入った。


 あとは報酬をもらうだけ。


「……串焼き、何本買おうかなあ♡」


 そんなことを考えていると。


 奥の部屋から、何やら大きな声が聞こえてきた。


「……はあ!?」


「ですから、薬草が……!」


「金色だと!?」


「はい! しかも、通常品より魔力濃度が……!」


「そんな馬鹿な!」


 ……あれ?


 何か騒がしい。


 しばらくして、奥から大柄な男性が現れた。


 鋭い目つき。


 がっしりした体格。


 いかにも歴戦の冒険者といった雰囲気だ。


 その男性が、私の前で立ち止まった。


「……お前がセリスか?」


「はいっ!」


「この薬草を採ってきたのは?」


「私です!」


「……どうやった?」


「えっと、魔力循環を整えただけですけど……」


「…………」


 男性は頭を抱えた。


「……おい」


「はい?」


「ちょっと、奥へ来い」


「……え?」


 私は首を傾げた。


 もしかして、何か問題があったのだろうか。


「あ、あの……」


「なんだ?」


「……報酬って、もらえますか?」


「…………」


「串焼き、買いたくて……」


 男性は、深いため息をついた。


「……まず話を聞かせろ」


 ……こうして私は。


 冒険者になって初めての依頼を終えたその日に。


 ギルド長室へ呼び出されることになった。


 なお。


 北方山岳消失事件の調査報告が、そのギルド長の机に届くのは、もう少し後のことだった。

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