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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第3幕 王都は魔法の宝箱!?
27/76

第27話「魔道具+魔道具=報告書!?」

 翌朝。


「……セリス」


「はい!」


「……今日は、見学だからね」


「もちろんです!」


「……見学」


「はい!」


「……勝手に実験しないで」


「分かってますってば!」


 ……もう。

 ネスラさん、ちょっと心配しすぎじゃありません?

 昨日、国王陛下から研究院や魔道具工房を見学する許可をいただいた。

 しかも、研究への褒賞として金貨二十枚!

 串焼きに換算すると、六万六千六百六十六本分!!


 ……ふふふ。

 しばらく生活費の心配をしなくていいなんて、素晴らしすぎる。

 お風呂にも入れるし、珍しい魔石も買える。

 研究って、最高だなあ!


「……何か、嬉しそう」


「はい! とっても!」


「……そう」


 ネスラさんは小さく息を吐き、工房の扉を開けた。


     ◇


 そこは、王都の魔道具工房街でも古くから続く工房だった。

 天井には、大小さまざまな魔法灯。

 壁には温度を保つ魔道具や、荷物を持ち上げる補助器具。

 奥の作業台では、職人さんたちが魔石を削り、細かな魔力回路を刻んでいる。


「わあああ……!」


 私は思わず声を上げた。

 ……すごい。

 どこを見ても、魔道具だらけ!


 しかも、ただ魔法を込めてあるだけじゃない。

 魔力の供給量を抑え、効果を安定させるための工夫が、あちこちに施されている。


「……ネスラ様」


 奥から、大柄な男性が姿を現した。

 日に焼けた肌。

 太い腕。

 指先には、長年の仕事でできた細かな傷がいくつも残っている。


「今日は見学だと聞いておりますが……」


「……うん。王宮からの許可も出てる」


「そちらのお嬢さんが?」


「……セリス・アルフィーネ」


「はじめまして! セリスです!」


 私はぺこりと頭を下げた。


「今日はよろしくお願いします!」


「おう。俺はこの工房の親方だ。まあ、好きに見ていきな」


「ありがとうございます!!」


 ……ふふっ。

 何から見ようかな!


     ◇


「……これ」


 私は作業台の上に置かれた、小さな魔法灯を覗き込んだ。


「この術式、見てもいいですか?」


「おう。壊さねえならな」


「はい!」


 私はそっと魔力の流れを観察した。

 魔石から供給された魔力が、細い回路を通り、光へと変換されている。


 ……あれ?


 私は、もう少し顔を近づけた。

 入力された魔力が、ほとんど揺らがない。

 変換の途中で生じるはずの損失も、驚くほど小さい。

 しかも、回路の形が……。


「……綺麗」


「……ん?」


 親方が振り向いた。


「この術式、すっごく綺麗です!!」


「……綺麗?」


「はい! 魔力の流れがほとんど乱れてないんです! 共鳴の位相も揃ってるし、回路の配置にも無駄がない!」


 私は思わず作業台に身を乗り出した。


「これ以上削ったら、かえって安定性が崩れちゃいそう……!」


「…………」


 親方が黙った。

 ……あれ?

 何か変なこと言ったかな?


「……お嬢ちゃん」


「はい?」


「それが分かるのか?」


「はい! とっても丁寧に作られてますよね!」


 私はもう一度、魔法灯を見つめた。


「これ、何年くらいかけて改良したんですか?」


 親方が、ゆっくりと口を開いた。


「……俺の代だけじゃねえ」


「……?」


「親父も、そのまた親父も、ずっと改良してきた。魔石の質が変わっても安定して光るように、何度も何度もな」


「……すごい」


 私は思わず呟いた。

 何世代にもわたって、一つの技術を磨き続けてきたんだ。

 きっと、失敗もたくさんあったはず。

 それでも諦めずに、少しずつ改良を重ねて。

 今、こうして、誰でも使える魔法灯になっている。


「……素敵ですね」


「……何?」


「こんなに綺麗な魔法、初めて見ました!」


 親方は、しばらく私を見つめていた。

 そして。


「……ははっ」


 少しだけ、照れくさそうに笑った。


「変わったお嬢ちゃんだな」


「えへへ!」


     ◇


 それから私は、工房にある魔道具を一つずつ見せてもらった。

 温度を一定に保つ保温器。

 魔力の供給量を調整する装置。

 周囲の明るさを測る光量感知器。

 どれも、それぞれの目的に合わせて、丁寧に作られている。


 ……うん。

 本当に、すごい。


「……あれ?」


 私は、ふと首を傾げた。


「親方さん」


「おう?」


「この光量感知器って、何に使うんですか?」


「倉庫の採光管理だな。暗くなったら警報が鳴る」


「なるほど……」


 私は感知器と魔法灯を交互に見た。


 ……ん?

 待って。

 これって。


「……あのう」


「何だ?」


「この二つ、つなげたりしないんですか?」


「……つなげる?」


「はい! 暗くなったら、魔法灯が明るくなるように!」


 親方が眉をひそめた。


「……別々の術式だぞ?」


「はい!」


「そりゃ、同じ器具に刻むことはできる。だが、動く仕組みが違うんだ」


「……ああ!」


 私は頷いた。

 なるほど。

 この世界では、付与術式がそれぞれ独立した機能として完成されている。

 一つの術式で、一つの働き。

 だから、同じ器具に複数の術式を刻んでも、それぞれが別々に動く。


 ……でも。


「それなら、術式そのものを変えなくても……」


 私は紙を一枚もらい、三つの図形を描いた。


「これが照明の術式。こっちが光量感知。それから、魔力調整!」


「……おう」


「それぞれを、一つの項として考えるんです!」


「……項?」


「はい! 今までの術式が単項式なら……」


 私は三つの図形を線で結んだ。


「多項式にすればいいんですよ!♡」


「…………」


 親方が、紙を見つめる。

 ネスラさんも、隣から覗き込んだ。


「……セリス」


「はい?」


「……それ、どういう意味?」


「えっとですね!」


 私は三つの術式を指さした。


「照明の術式は、今のままで完成してるんです。だから、変えなくていいんです!」


「……うん」


「でも、光量感知器が測った明るさを、魔力調整器に伝えられたら?」


「……出力が変わる」


「そうです! それで、調整された魔力を照明に送れば……!」


「……周囲の明るさに合わせて、光が変わる?」


「はいっ!!」


 親方が、ゆっくりと腕を組んだ。


「……理屈は分かる」


「ですよね!」


「だが、魔力の供給路をつなげば干渉が起きる。別々の術式を無理に動かせば、どっちも不安定になるぞ」


「……あっ!」


 私は、はっとした。

 そうか。

 魔力の流れそのものを共有すると、位相がずれるんだ。

 ……じゃあ。


「供給路は分けたままで、制御情報だけ渡せば……!」


「…………」


 親方の目が変わった。


「……お嬢ちゃん」


「はい?」


「その図、もう一度描いてみろ」


「はい!♡」


     ◇


 それからの時間は、あっという間だった。

 親方が回路を組み、私が魔力の流れを確認する。

 ネスラさんは、二つの術式が干渉しないよう、遮断機構を考えてくれた。


 照明。

 光量感知。

 魔力調整。

 三つの術式を、独立させたまま連動させる。


 ……よし。


「できました!」


 作業台の上に、小さな魔法灯が置かれた。


「じゃあ、試すぞ」


 親方が、窓の遮光板を閉じる。

 室内が暗くなった。

 すると。

 ぽわっ。

 魔法灯が明るくなる。


「おおっ!」


「やりましたね!!」


 ……と、思った瞬間。

 ぴかっ!


「……え?」


 ぽわっ。

 ぴかっ!

 ぽわっ!


「まぶしっ!?」


 魔法灯が、猛烈な勢いで明滅し始めた。


「わああっ! 制御が振動してます!!」


「喜んでる場合か!!」


 親方が叫ぶ。


「……遮断」


 ネスラさんが魔力供給を止めた。

 ぴたり。

 魔法灯が消える。


「……危なかった」


「す、すみません!」


 私は慌てて頭を下げた。

 ……うう。

 そうか。

 照明が明るくなると、光量感知器もそれを検知する。

 すると、明るすぎると判断して出力を下げる。

 今度は暗くなって、また出力を上げる。

 ……なるほど。

 完全に、制御が振動してる。


「……感知位置を変える必要があるな」


 親方が呟いた。


「それと、出力を急に変えすぎない方がいいです!」


「……うん」


 ネスラさんが頷いた。


「……一定の幅では、反応しないようにする」


「それです!!」


 私は思わず手を叩いた。

 ……ふふっ。

 面白い!

 失敗した理由が分かると、次に試したいことが増えるんだよね!


     ◇


 二度目の実験。


 親方が遮光板を閉じた。

 室内が、ゆっくりと暗くなる。

 すると。

 ぽう……。

 魔法灯が、静かに明るさを増した。


「…………」


 誰も、何も言わなかった。

 親方が遮光板を開ける。

 差し込んだ陽光に合わせて、魔法灯の光がゆっくり弱まった。


「……できた」


 親方が、ぽつりと呟いた。


「できましたね……!」


 私は、隣に立つ親方を見上げた。


「すごいです! 親方さんの術式、本当にすごいです!!」


「……いや」


 親方は、完成した魔法灯を見つめていた。


「俺たちは、ずっと一つの術式を磨いてきた」


 ごつごつした指が、灯具の縁に触れる。


「だが……まだ、こんな使い方があったんだな」


「はい!」


 私は大きく頷いた。


「完成した魔法にも、まだ先があるんです!」


 親方は、しばらく黙っていた。

 そして、ゆっくりと笑った。


「……お嬢ちゃん。面白えこと考えるな」


「えへへ!」


 ……嬉しい。

 でも。

 私は、もう一度魔法灯を見た。

 ……あれ?

 ちょっと待って。


     ◇


「……親方さん」


「おう?」


「これって、三つじゃなくてもいいですよね?」


「……何がだ?」


「術式の数です!」


 私は紙を引き寄せた。


「四つでも、五つでも、十個でも!」


「……おい、待て」


「それに、条件も一つじゃなくていいですよね!?」


 私は夢中で図を描き始めた。


「温度、湿度、魔力量、時間、距離……!」


 ペンが止まらない。


「それぞれの術式を項として扱えば、条件によって組み合わせを変えられる!」


「……お嬢ちゃん?」


「しかも、同じ術式を別の組み合わせにも使えるんです!」


 ……あ。

 これって。


「魔道具の機能そのものを、設計できるってことじゃないですか!?」


 工房が、しんと静まり返った。


「……ちょっと待て」


 親方が、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。


「……俺たちは今まで、何を作ってたんだ?」


「魔道具ですよね?」


「……じゃあ、お嬢ちゃんは何を作ろうとしてる?」


「え?」


 私は首を傾げた。


「魔道具を作るための仕組み、ですけど?」


「…………」


 ネスラさんが、静かに目を閉じた。


「……セリス」


「はい?」


「……それ、たぶん大発見」


「えっ!? そうなんですか!?」


     ◇


「……ちょっと、こっち来てみろ」


 親方が案内してくれたのは、工房の奥にある加工室だった。

 そこには、魔石を削るための作業台が並んでいる。

 職人さんが一人、魔石を固定し、慎重に魔力を流し込んでいた。


「……これ、何をしてるんですか?」


「魔石の研磨だ。素材によって硬さも魔力の通りも違うから、出力を細かく調整しなきゃならねえ」


「なるほど……」


 私は作業台をじっと見た。

 魔石の表面。

 そこを流れる魔力。

 削る力を調整するための術式。


 ……ん?

 待って。


「……親方さん」


「おう?」


「素材の状態を測る術式と、魔力を調整する術式と、加工する術式をつないだら……」


「……おい」


「素材に合わせて、自動で加工できませんか?」


「…………は?」


 親方が固まった。

 ……あれ?

 そんなに変なこと言ったかな?


「いや……理屈は分かるが……」


「じゃあ、試してみませんか!?」


「……お嬢ちゃん」


「はい!」


「……お前さん、本当に見学に来たんだよな?」


「もちろんです!♡」


「…………」


 ネスラさんが、深くため息をついた。


     ◇


 それから、さらに時間が過ぎた。

 親方と職人さんたちが、加工台の回路を組み替える。

 私は魔力の流れを観察しながら、制御条件を考える。

 ネスラさんは、安全装置の確認を担当してくれた。


 ……よし。


 今回の目的は、決まった規格の魔石を、一定の形に研磨すること。

 素材の状態を読み取り、必要な魔力を調整し、加工する。

 そして、異常があれば自動停止する。


 ……うん。

 これなら、いけるかもしれない。


「……準備、できたぞ」


 親方が声をかけた。


「はい!」


 私は作業台の前に立った。

 加工する魔石を固定する。

 魔力を供給する。

 そして。


「……起動します!」


 淡い青い光が、回路を走った。

 魔石の表面を、細かな光がなぞっていく。

 きゅううう……。

 研磨器が、静かに動き始めた。


「…………」


 誰も、声を出さない。

 魔石の状態に合わせて、出力が少しずつ変わる。

 硬い部分では力を強め、脆い部分では弱める。


 ……うん。

 安定してる。

 そして。

 こつん。

 加工を終えた魔石が、受け皿に転がり落ちた。


「…………」


「……できました?」


 私は親方を見上げた。

 親方は、完成した魔石を手に取った。

 光に透かし、表面を確かめる。

 そして。


「……できた」


「……!」


「……本当に、できやがった」


「やったあああ!!」


 私は思わず飛び跳ねた。


「これなら、魔石の加工も楽になりますね!」


 親方は、しばらく黙っていた。

 やがて、震える声で言った。


「……お嬢ちゃん」


「はい?」


「これ……熟練工が付きっきりじゃなくても、同じ規格の加工ができるってことか?」


「はい! ただし、対応できる素材の範囲は限られますけど!」


「…………」


「それに、術式を変えれば、ほかの作業にも応用できそうです!」


「……ほかの、作業?」


「はい!」


 私は指を折り始めた。


「温度に合わせて火力を調整する調理器具!」


「……おう」


「水の汚れを検知して浄化する装置!」


「……おう?」


「荷物の重さに合わせて補助力を変える運搬具!」


「…………」


「それから、建物の損傷を検知して警報を出す仕組みとか!」


「…………」


 私は、はっとした。

 ……あれ?

 これって。

 ……もしかして。


「街じゅうの魔道具を、もっと便利にできちゃうんじゃ……!?」


 親方が、ゆっくりと天井を見上げた。


「……ネスラ様」


「……何?」


「俺、今日、何を見せられてるんでしょうか」


「……たぶん」


 ネスラさんが、静かに答えた。


「……魔道具の歴史が変わるところ」


     ◇


 夕方。


 工房の作業台には、二つの試作品が並んでいた。


 周囲の明るさに合わせて光量を変える魔法灯。

 そして、決まった規格の魔石を自動で研磨する加工装置。


 どちらも、まだ試作品だ。

 長時間の安定性も、耐久性も、これから調べなければならない。


 ……でも。

 私は、二つの魔道具を見つめた。


 ……ふふっ。

 すごいなあ。

 この世界の魔法って、本当に面白い。


「……お嬢ちゃん」


 親方が、ぽつりと声をかけた。


「はい?」


「俺たちは、魔道具の完成形を作ってたつもりだった」


「……?」


「だが、あれは……部品だったのかもしれねえな」


 私は、思わず首を振った。


「違いますよ!」


「……ん?」


「完成してるから、組み合わせられるんです!」


「…………」


「親方さんたちが、ずっと磨いてきてくれたからです! 一つ一つの術式が、こんなに安定してるから……新しいことができるんです!」


 私は、魔法灯にそっと触れた。


「皆さんが積み上げてきた時間がなかったら、今日の実験はできませんでした!」


 親方は、しばらく何も言わなかった。

 そして。


「……ははっ」


 小さく笑った。


「……参ったな」


 ごつごつした手で、目元をこする。


「こんなこと、お嬢ちゃんに言われるとは思わなかったぜ」


「えへへ!♡」


 ……だって、本当のことだもん。


     ◇


「……セリス」


 工房を出たところで、ネスラさんが声をかけてきた。


「はい?」


「……今日、何をしに来たんだっけ」


「魔道具の見学です!」


「……そうだよね」


「はい!」


「……見学で、魔道具の設計体系を変えないで」


「えええっ!? 変えたつもりはないですよ!?」


「…………」


 ネスラさんが、深くため息をついた。


「……陛下に報告しなきゃ」


「えっ!? もうですか!?」


「……うん」


「でも、まだ調べたいことがいっぱいあるんですけど!」


「……知ってる」


 ……うう。

 せっかく面白くなってきたのに!

 私は名残惜しく工房を振り返った。

 窓の向こうでは、親方と職人さんたちが、さっそく試作品を囲んで何やら話し込んでいる。


 ……ふふっ。

 明日も、来たいなあ。


 すると。


《既存魔法体系への理解が深まりました。》

《複合付与術式の新たな構造を発見しました。》

《経験値を獲得しました。》


 ……あ。

 まただ。

 私は、思わず笑みを浮かべた。

 ……ふふふ。

 やっぱり、この世界は面白い!

 知らなかったことを知るたびに、新しい可能性が見えてくる。

 そして、その先には、まだ誰も見たことのない魔法が待っている。


「……よし!」


 私は小さく拳を握った。


「明日も、頑張りましょう!」


「……セリス」


「はい?」


「……明日は、研究院で報告書」


「ええええっ!?」


「……今日の分」


「……ううっ」


 ……研究って、報告書までついてくるんだった。

 ネスラさんが、ほんの少しだけ笑った。


「……逃がさないから」


「ネスラさあああん!!」


 王都の夕暮れに、私の声が響いた。


 ……でも。

 報告書を書いたら、また研究できる。

 そう考えたら、ちょっとだけ楽しみになった。


 ……うん。

 明日も、きっと面白い一日になる。

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