↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第3幕 王都は魔法の宝箱!?
24/75

第24話「魔法理論? それ、実験してみませんか!?」

王立魔法研究院。


 その名前を聞いただけで、胸が高鳴る。


 目の前には、白い石造りの巨大な建物。整然と並んだ窓の向こうには、魔力の光がちらちらと揺れていた。

 そして、その門の前で。


「……君の魔力、もう少し詳しく見せて」


 青い瞳の少年が、私をじっと見つめている。


「はい!!」


 即答だった。


 だって、魔力を見せてほしいだなんて!

 この人、絶対に魔法が好きな人だ!


「……そんなに嬉しい?」


「もちろんです! 魔法の話ができるんですよ!?」


「……そう」


 ネスラさんは少しだけ視線を逸らした。


 ……あれ?

 照れてる?


「おい、ネスラ!」


 アルディスさんが笑いながら近づいてきた。


「こいつ、魔法のことになると止まらねえぞ!」


「……見れば分かる」


「ははっ! じゃあ任せた!」


「……何を?」


「魔法の話だよ!」


「…………」


 ネスラさんが私を見る。


 私もネスラさんを見る。


「……とりあえず、中に入ろうか」


「はいっ!♡」


     ◇


 案内されたのは、研究院の一角にある小さな実験室だった。


 壁には魔法陣の図面が並び、棚には大小さまざまな魔石や測定器が置かれている。中央には広い作業台があり、その上には複雑な術式が描かれた紙が何枚も広げられていた。


「わあああ……!」


 私は思わず駆け寄った。


「これ、魔力伝導率の測定装置ですか!? こっちは術式の安定性を調べるもの!?」


「……よく分かるね」


「だって、構造が似てますから!」


「……似てる?」


「あっ、いえ! こういう装置、大好きなんです!」


 危ない危ない。


 つい夢中になってしまった。


 ネスラさんは私の顔を見てから、作業台の上に小さな魔石を置いた。


「……まず、普通の魔法を見せる」


「はい!」


 彼が片手をかざす。

 魔石が淡く輝き、その周囲に冷気が集まった。

 次の瞬間、透き通った氷の結晶が空中に現れる。


「おおおっ!」


 六角形の美しい結晶。

 しかも、表面の厚みがほとんど均一だ。


「すごい! 綺麗な魔力制御ですね!」


「……ありがとう」


 ネスラさんは少しだけ目を細めた。


「今のは《アイスシールド》の基本術式を応用したもの。防御範囲を狭めて、密度を上げている」


「なるほど! 防御魔法を結晶生成に応用したんですね!」


「……そう」


「すっごく合理的です!」


 私は結晶を横から覗き込んだ。


 ……へえ。

 術式の内部で、魔力の供給量と結晶化の速度を調整している。

 この世界の術式、思っていたよりずっと洗練されている。


「……君なら、どうする?」


「え?」


「同じものを作るなら」


「……やってみてもいいんですか!?」


「……そのために呼んだ」


「やったあ!♡」


 私は空中に手を伸ばした。


 氷の結晶。

 必要なのは、温度を下げることだけじゃない。

 水分子の配置。結晶化の方向。成長速度。そして、それらを安定させる魔力の共鳴。


 ……うん。

 こんな感じかな?


 指先に、小さな光が集まる。

 やがて、空中に氷の結晶が現れた。


 ネスラさんのものと、ほとんど同じ大きさ。

 ただし、形は少し違う。


「……え?」


 ネスラさんが眉を寄せた。


「……今、術式は?」


「使ってませんよ?」


「…………」


「現象を直接作りました!」


「……直接?」


「はい!」


 ネスラさんは私の結晶に顔を近づけた。


「……魔力の供給が、途切れてない」


「はい!」


「……それなのに、術式の起点が見えない」


「そうですね!」


「…………」


 しばらく沈黙が続いた。


 ……あれ?

 何か変だったかな?


「……セリス」


「はい?」


「魔法は、術式によって現象を定義するものだ」


「……はい?」


「魔力だけでは、火にも氷にもならない。術式が現象の形を決めて、魔力がそれを実現する」


「なるほど!」


 私は頷いた。


 この世界では、そう説明するのか。


 ……面白い。

 すっごく面白い!


「でも、それだと一つ疑問があるんです!」


「……何?」


「その術式は、どうして現象を起こせるんですか?」


「…………」


 ネスラさんが、ぴたりと動きを止めた。


「……どういう意味?」


「術式が魔法を作るのは分かります。でも、その術式が魔力に働きかける仕組みは、どう説明されているんですか?」


「……術式の構造と魔力の適合性で決まる」


「じゃあ、その適合性は?」


「……属性と魔力波長の関係だ」


「おお! 波長があるんですね!」


 私は思わず身を乗り出した。


「じゃあ、位相の研究もありますか!?」


「……位相?」


「はい! 魔力の波が、どのタイミングで重なり合うかです!」


「……干渉のこと?」


「そうですそうです!!」


 ……あるんだ!

 この世界にも、魔力干渉の概念が!


 私は嬉しくなって、作業台の紙を一枚借りた。


「じゃあ、こういう考え方はどうですか?」


 紙に二本の波を描く。

 山と山が重なる波。

 山と谷が打ち消し合う波。


「魔力って、ただ流せばいいわけじゃないですよね? 共鳴する条件が揃えば現象が強くなって、逆にずれれば弱くなる」


「……それは分かる」


「ですよね!」


「……でも、それと術式を使わないことに、何の関係が?」


「術式がやっていることを、自分でやればいいんです!」


「…………は?」


 ……あれ?

 また説明が飛んじゃったかな?


「えっとですね!」


 私は氷の結晶に指を向けた。


「術式は、現象を安定して再現するための手順なんです。だから、術式そのものが現象の原因というより、現象を起こすための条件を整えているんじゃないかって!」


「……待って」


 ネスラさんが紙を引き寄せた。


「……つまり君は、術式を使わずに、その条件を直接制御している?」


「はい!」


「……そんなこと、できるわけが……」


 言いかけて、彼は口を閉じた。

 目の前には、私が作った氷の結晶が浮いている。


「…………」


 ネスラさんは、しばらくそれを見つめていた。

 そして。


「……もう一回」


「はい?」


「……もう一回、見せて」


「もちろんです!」


     ◇


 それから、実験が始まった。


「……次は、結晶の厚みを変えて」


「はい!」


 氷の結晶を薄く広げる。


「……途中で形を変えられる?」


「できますよ!」


 六角形から、細長い針へ。


「……魔力供給量は?」


「ほとんど変えてません!」


「…………」


 ネスラさんが測定器を確認する。


「……本当だ」


 そして、もう一度私を見る。


「……今度は、僕がやる」


「おおっ!」


 彼が片手をかざした。

 氷の結晶が現れる。

 先ほどと同じように、美しく整った形。

 そこから、少しずつ細長く伸びていく。


「すごい! できるじゃないですか!」


「……術式を組み直してる」


「あ、なるほど!」


「……君は、それをしていない」


「はい!」


「……どうして?」


「魔力の共鳴を直接調整しているからです!」


「…………」


 ネスラさんは、しばらく考え込んだ。

 そして、ぽつりと呟いた。


「……面倒くさい」


「ええっ!?」


「……いや、君じゃなくて」


 彼は作業台に置いた術式図を指さした。


「……この術式、無駄が多いのかもしれない」


「……!」


 私は思わず目を見開いた。


 ……この人。

 すごい。


 自分の知っている理論と違うものを見せられて、すぐに否定するんじゃない。

 ちゃんと観察して、考えている。

 それどころか、自分が使っている術式の方を疑い始めた。


「……でも」


 ネスラさんが続けた。


「術式を使わずに全部制御するなら、魔力操作の負担が大きすぎる。普通の魔法使いには無理だと思う」


「……あ!」


 確かに。

 その通りだ。

 私にとっては当たり前でも、誰もが同じようにできるとは限らない。


「じゃあ、全部を直接制御するんじゃなくて……」


「……?」


「術式で安定させる部分と、自分で調整する部分を分けたらどうでしょう!?」


「…………」


 ネスラさんが顔を上げた。


「……分ける?」


「はい! 例えば、氷を作るところまでは術式に任せて、形を変える部分だけ自分で制御するとか!」


「…………」


 彼は黙って術式図を見下ろした。

 指先が、紙の上をゆっくり動く。


「……できるかもしれない」


「ですよね!?」


「……でも、術式の途中に外部から魔力を干渉させると、普通は不安定になる」


「じゃあ、干渉する位置を変えれば!」


「……いや、それだと供給が乱れる」


「なら、供給経路を分けるとか!」


「……それなら、制御点を一つ増やせば……」


「おおおっ!!」


 ……楽しい!

 すっごく楽しい!!

 ネスラさんは、私が思いついたことをただ聞いているだけじゃない。

 ちゃんと問題点を見つけて、別の方法を考えてくれる。


 私も考える。

 ネスラさんも考える。


 そして、また新しい疑問が生まれる。


 ……これ!

 これがやりたかったんだ!!


「ネスラさん!!」


「……何?」


「私、今、すっごく楽しいです!!♡」


「…………」


 彼は一瞬だけ目を丸くした。

 それから、小さく息をつく。


「……僕も、少し」


「えへへ!♡」


そのときだった。


 ピコン♪


 ……ん?

 目の前に、見慣れた半透明のウィンドウが現れた。


STATUS NETZACH


《異なる魔法体系への理解が深まりました。》


《新たな魔力制御方式の可能性を発見しました。》


《経験値を獲得しました。》


《LEVEL UP!》


129 >130


「……あっ!」


「……どうしたの?」


「レベルアップしました!!♡」


「…………は?」


「やったあああ!!」


 思わず両手を上げる。


 やっぱり!

 魔法の研究でも、経験値がもらえるんだ!

 しかも、今回はレベルアップまで!


「……セリス」


「はい?」


「……今、何か倒した?」


「いいえ!」


「……じゃあ、どうして?」


「新しいことが分かったからです!♡」


「…………」


 ネスラさんは、私と作業台の術式図を交互に見た。


「……研究で、レベルが上がるの?」


「上がりました!!」


「…………」


 ……あれ?

 ネスラさんが、また難しい顔になってる。


「……それも、調べたい」


「ですよねえええ!!」


 ……ふふふ!

 魔法の研究をしていたら、経験値の研究まで始まっちゃった!


「……おーい」


 実験室の扉が開いた。


「お前ら、いつまでやってんだ?」


 アルディスさんだった。


 ……あ。

 そういえば。

 私たち、王都に着いたばっかりだった!


「アルディスさん!」


「おう! 楽しそうだな!」


「はい! すっごく!!」


「ははっ! そりゃよかった!」


 アルディスさんは作業台に広がった紙を見て、眉を上げた。


「……何だ、この山」


「研究成果です!」


「……ずいぶん増えたな」


 ネスラさんも、いつの間にか大量の紙が積み上がっていることに気づいたらしい。


「……まだ、検証が必要」


「もちろんです!」


 私は元気よく頷いた。


「理論は、実験して確かめないと意味がありませんから!」


「……そうだね」


 ネスラさんが、静かに頷く。


 ……ふふっ。

 やっぱり、この人とは気が合いそう。


「ところで、セリス」


「はい?」


「お前、忘れてることがあるだろ」


「……え?」


 アルディスさんが、私の肩を指さした。


「その二匹だよ」


「ぷい?」


「ぷるん?」


 エルとレイが、揃って首をかしげるように揺れた。


 ……あ。


「ああああっ!! 従魔登録!!」


「ははっ! やっぱり忘れてたか!」


「す、すみません! すぐ行きます!」


 私は慌てて荷物をまとめた。

 ネスラさんが、二匹を見つめる。


「……従魔?」


「いえ! お友達です!」


「……そう」


「でも、王都では登録が必要みたいで!」


「……なるほど」


 彼は少し考えてから、机の引き出しを開いた。


「……登録窓口なら、研究院の近くにある」


「本当ですか!?」


「……うん。案内する」


「ありがとうございます!!」


 ……やった!

 魔法の研究もできたし、親切な人にも出会えた!


 王都、最高!!


     ◇


 研究院を出ると、夕方の風が頬を撫でた。


 空は少しずつ茜色に染まり、街灯の魔法陣が淡い光を灯し始めている。


 ……ああ。

 あの街灯も調べたい。


 でも、その前に従魔登録だ。

 エルとレイは私の肩と頭の上で、楽しそうに揺れていた。


「ぷいぷいっ!」


「ぷるん!」


「ふふっ。二人とも、もう少しだけ付き合ってくださいね!」


 すると、隣を歩いていたネスラさんが口を開いた。


「……セリス」


「はい?」


「……君の魔法理論、名前はあるの?」


「……え?」


「……さっきの。術式を使わずに現象を作る理論」


「ああ!」


 私は笑った。


「ありますよ!」


「……何ていうの?」


「情報共鳴・現象顕現理論です!」


「…………」


 ネスラさんが、足を止めた。


「……聞いたことがない」


「そうでしょうね!」


「……誰が考えたの?」


「私です!」


「…………」


 沈黙。

 ネスラさんが、ゆっくりと私を見る。


「……君が?」


「はい!」


「……いつ?」


「えっと……ずいぶん前ですね!」


「…………」


 ネスラさんの眉間に、深い皺が寄った。


 ……あれ?

 何か変だったかな?


「……セリス」


「はい?」


「……君、何歳?」


「十六歳です!」


「…………」


 ネスラさんが、静かに空を見上げた。


「……面倒くさい」


「えええっ!? またですか!?」


 アルディスさんが、隣で大笑いした。


「ははははっ! ネスラ! そいつはまだ序の口だぞ!」


「……でしょうね」


「ええっ!? 二人ともひどいですっ!!」


 私は頬を膨らませた。

 ……もう!

 せっかく仲良くなれそうなのに!


 でも。

 ネスラさんは、少しだけ笑っていた。

 ほんの少し。

 見逃してしまいそうなほど、小さな笑み。


「……続き、明日もやろう」


「……!」


 私は思わず顔を輝かせた。


「はいっ!!♡」


 まだ知らないことがある。

 まだ解けていない問題がある。

 そして、その答えを一緒に探してくれる人がいる。


 ……ふふふ。

 王都に来て、本当によかった!


 明日は、どんな発見が待っているんだろう。


 楽しみだなあ!♡



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。