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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第3幕 王都は魔法の宝箱!?
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第22話「魔法って、唱えないと駄目なんですか!?」

王都へ向かう街道を歩きながら、私は昨日の戦いを思い返していた。


 グレイファングの群れ。アルディスさんとの初めての共闘。そして、戦いの後に表示された経験値獲得の通知。


 《連携攻撃を理解しました。》


 《魔物の生態を理解しました。》


 やっぱり、気になる。


 この世界の経験値は、敵を倒した数だけで決まるものじゃないらしい。昨日だって、私はほとんど魔物を倒していない。それでも、ちゃんと経験値を獲得していた。


 何を経験し、何を理解したのか。


 それが成長に関係しているのだとしたら、戦闘以外でも経験値を得られる可能性がある。


 例えば、新しい魔法を覚えたときとか。

 新しい理論を発見したときとか!


「……ふふふ♡」


「おい、セリス」


「はい?」


「また何か企んでるだろ」


「企んでません! 考えてるんです!」


「似たようなもんじゃねえか!」


 アルディスさんが豪快に笑った。


「昨日の戦いか?」


「はい! アルディスさんとの連携も面白かったですし、経験値の仕組みも気になって!」


「経験値?」


「敵を倒さなくても、何かを理解すると増えるみたいなんです!」


「へえ。そりゃ面白えな」


「ですよね!」


 アルディスさんは少し考えるように顎をさすった。


「まあ、俺も剣の稽古だけでレベルが上がったことはあるぜ」


「ええっ! 本当ですか!?」


「おう。強い奴と何度も打ち合って、今まで見えなかった動きが見えるようになったときとかな」


「なるほど……!」


 やっぱり!

 理解と成長には、何か関係がありそうだ。


「ちなみに、どんな稽古だったんですか!?」


「そりゃもう、死ぬほど斬り合った!」


「……え?」


「何百回と打ち込んで、何百回と吹っ飛ばされてよ!」


「……それ、稽古なんですか?」


「ははっ! 生きてりゃ稽古だ!」


 ……剣聖の世界、怖い。


 でも、何度も挑戦して、少しずつ理解していくという考え方には共感できる。


 研究だって同じだ。


 失敗して、観測して、仮説を立てて、また試す。


 その繰り返しの先に、今まで見えなかったものが見えてくる。


「……あ、そうだ!」


「ん?」


「アルディスさんって、魔法も使いますよね?」


「おう。使うぜ」


「どんなふうに使ってるんですか?」


「どんなふうって……普通にだな」


「普通?」


「魔力を通して、身体能力を引き上げる。足を速くしたり、踏み込みを強くしたりな」


「ほうほう!」


 私は思わず身を乗り出した。


「じゃあ、身体強化中に、足だけ強化を強めたりできます?」


「できなくはねえが、術式を調整し直す必要があるな」


「術式を?」


「おう。最初から足を重点的に強化する術式を使う方が早え」


「なるほど……!」


 アルディスさんは剣を使うとき、身体強化を組み合わせているらしい。


 面白い!だったら...


「ほかの系統の魔法も使うんですか?」


「使うぜ。相手が寝てくれりゃ、斬らずに済むからな」


「おお! 合理的!」


「効かねえ奴もいるけどよ。あとは弱体化だな。動きを鈍らせたり、力を落としたり」


「すごい! 剣と魔法を組み合わせて戦うんですね!」


「そりゃ使えるもんは使うだろ?」


 ……うん。


 この人、やっぱり強い。


 剣の腕だけじゃない。相手の動きを読み、状況に応じて魔法を使い分けている。


 あれだけの剣技に、身体強化と妨害魔法まで組み合わせるんだから、普通の相手では勝負にもならないだろう。


「そういや、お前に聞きたかったことがあるんだが」


「はい?」


「セリス、お前って魔法を使うとき、詠唱しねえよな?」


「詠唱、ですか?」


「おう。昨日も水だの土だの、次から次へと使ってただろ」


「ああ、はい!」


「俺も身体強化くらいなら黙示で使うけどよ。お前の場合、発動してからの動きがおかしいんだ」


「……おかしい?」


「褒めてんだよ!」


 アルディスさんが笑う。


「普通、魔法は術式を組んで発動するだろ? 黙示だって、頭ん中で詠唱するだけで、そこは変わらねえ」


「……頭の中で詠唱?」


「おう。声に出すか出さねえかの違いだな」


 ……へえ。

 なるほど、なるほど。


 つまり、この世界の無詠唱は、詠唱そのものを必要としないわけじゃない。


 決められた術式を、頭の中で呼び出しているんだ。


 それなら、発動が安定するのも分かる。


 毎回、一から現象を組み立てる必要がない。複雑な魔力制御を、あらかじめ決められた手順に任せられる。


 ……うん。

 なかなか合理的な仕組みだ。


「でも、お前は違うだろ?」


「はい?」


「昨日の水だってそうだ。地面を濡らしたと思ったら、今度は足場を作ってただろ。あれ、別々の術式じゃねえのか?」


「えっと……水と土は別の魔法ですよ?」


「そりゃ分かる。俺が聞きてえのは、出した後だ」


 アルディスさんは、足元の地面を指さした。


「水を広げたり、流れを変えたり。ああいうのを、いちいち術式を組み直さずにやってるだろ?」


「ああ! はい!」


「……やっぱりか」


「魔力の共鳴状態を調整すれば、現象も変えられますから!」


「……共鳴?」


「はい!」


 私は嬉しくなって、説明を続けた。


「魔法って、現象を顕現させるために魔力を共鳴させるでしょう? だから、その共鳴を変えれば、発動した後でも――」


「待て待て待て!」


「はい?」


「最初のところから分からねえ!」


「……え?」


「魔力を共鳴させるって、何だ?」


 ……あれ?

 私は思わず立ち止まった。


「……魔法の基本ですよね?」


「少なくとも、俺が習った魔法の基本じゃねえな」


「…………」


 えええっ!?


 じゃあ、この世界では魔法をどう説明してるんだろう!?


「……アルディスさん!」


「お、おう?」


「王都の魔法研究院、すっごく楽しみになってきました!!」


「……ははっ! そりゃよかったな!」


     ◇


 昼過ぎ。

 私たちは街道沿いの休憩所に立ち寄った。


 木造の屋根の下には長椅子と水桶があり、旅人が一息つけるようになっている。


 先客は三人。

 剣を腰に下げた青年と、弓を背負った女性。それから、杖を持った少年だった。


「こんにちはー!」


「お、おう」


 三人がこちらを振り向いた。


 その瞬間、杖を持った少年が目を見開く。


「……え?」


「ん?」


「も、もしかして……北の剣聖、アルディス様!?」


「おう! よく知ってんな!」


「ほ、本物!?」


 少年が飛び上がった。

 剣士の青年も慌てて立ち上がる。


「ろ、六英雄のアルディス様ですか!?」


「そうだぜ!」


 ……すごい。


 やっぱりアルディスさん、有名人なんだなあ。


 まあ、六英雄なんだから当然か。


「ところで、そっちの子は?」


 弓を背負った女性が私を見た。


「セリスです! よろしくお願いします!」


「へえ、かわいい子ね。アルディス様のお弟子さん?」


「違います!」


「まあ、似たようなもんか?」


「違いますって!」


 ……もう!

 アルディスさん、適当なんだから!


 そんなやり取りをしていると、杖を持った少年がおずおずと話しかけてきた。


「あ、あの……セリスさんも魔法使いなんですか?」


「はい!」


「ぼ、僕もなんです!」


「本当ですか!?」


 思わず身を乗り出した。


「どんな魔法を使うんですか!?」


「えっ!? えっと、火属性の初級魔術を少し……」


「見せてもらってもいいですか!?」


「ええっ!?」


 少年が困ったように仲間を見る。

 剣士の青年が笑った。


「いいじゃないか。せっかくだし、見せてやれよ」


「う、うん……!」


 少年は杖を構え、休憩所から少し離れた空き地へ向かった。

 私たちも、その後を追う。


「い、いきます!」


 少年が深呼吸した。


「火よ、我が手に集いて――」


 杖の先に、赤い光が集まり始める。


「――燃え盛る球となれ!」


 ぽんっ!


 小さな火球が現れた。


「おおおっ!」


 私は思わず拍手した。


「すごい! 綺麗に魔力が集まってます!」


「えっ……あ、ありがとうございます!」


 少年が照れくさそうに笑った。


「でも、まだ初級魔術しか使えなくて……」


「初級魔術、いいじゃないですか!」


「え?」


「だって、これだけでもいろんなことができますよ!」


 私は隣に並び、手のひらを上に向けた。


「例えば、こう!」


 小さな火球が現れる。


 少年のものと、ほとんど同じ大きさだ。


「……え?」


 少年が私の手元を見つめた。


「い、今、詠唱……」


「してませんよ?」


「黙示ですか?」


「えっと、頭の中で詠唱するやつですよね?」


「は、はい!」


「それもしてません!」


「…………え?」


 少年が固まった。


 ……あれ?


「それでですね、この火球なんですけど」


 私は火球に意識を向けた。


 魔力の共鳴を、少しだけ変える。

 球状だった炎が、ゆっくりと細長く伸びていく。


「……え?」


 炎の帯を曲げる。

 端と端をつなげる。

 赤く輝く輪が、空中でくるくると回り始めた。


「……えええっ!?」


 少年だけじゃない。


 剣士の青年も、弓使いの女性も、口を開けていた。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「はい?」


「い、今、何の魔術を使ったんですか!?」


「《火球》ですよ?」


「いや、途中の!」


「途中?」


「炎が伸びたり、輪になったりしたやつです!」


「え? 同じ魔法ですけど?」


「…………」


 少年が、ゆっくりと杖を下ろした。


「……術式の切り替えは?」


「してませんよ?」


「じゃ、じゃあ、どうやって形を変えたんですか!?」


「魔力の共鳴を調整したんです!」


「……共鳴?」


 ……あ。


 まただ。


 アルディスさんも、そういえば同じところで首をかしげていた。


「えっと……魔法って、最初に現象をイメージしますよね?」


「は、はい」


「火の球を作りたいなら、火の球をイメージする」


「はい」


「それから、その現象に合うように魔力を動かすんです」


「……魔力を?」


「そうです!」


 私は地面にしゃがみ、小枝を拾った。


 土の上に小さな円を描き、その周囲にいくつかの線を引く。


「例えば、魔力の流れが綺麗に揃えば、現象が安定します。でも、流れを変えれば形も変わる。だから――」


「……待ってください」


 少年が真剣な顔で私を見た。


「それって……術式を使わずに、魔法を作っているってことですか?」


「……え?」


 私は少し考えた。


 術式。


 この世界では、決められた手順で魔法を発動する仕組み。


 なるほど。

 そういう見方になるのか。


「……そうですね!」


「…………」


「私は、現象を直接作っている感じです!」


 少年が黙り込んだ。

 しばらくして、小さく呟く。


「……そんな魔法、聞いたことない」


 ……えっ。

 そうなの?


「おい、セリス」


 後ろからアルディスさんが声をかけてきた。


「はい?」


「そいつ、誰でもできるのか?」


「え?」


「今の魔法だよ。練習すりゃ、誰でも同じことができるのか?」


「うーん……」


 私は少し考えた。


 魔力の流れを感じ取って、共鳴状態を調整する。

 理屈としては、それだけだ。


 でも、どの程度の魔力制御が必要なのかは、人によって違うかもしれない。


「練習すれば、できるようになると思います!」


「ほう。どのくらい練習すりゃいい?

「えっと……」


 ……どのくらい?


 私は、これを覚えるまでに何をしたんだっけ。


 魔力の観測装置を作って、共鳴状態を測定して、何度も実験して……。


 失敗した記録も、ずいぶん溜まっていたような。


「……いっぱい?」


「はははっ!」


 アルディスさんが豪快に笑った。


「ほらな! お前の言う『練習すりゃできる』は、あんまり当てにならねえんだよ!」


「むう……!」


「まあ、剣だって同じだけどな。できる奴には当たり前でも、できねえ奴には難しいもんだ」


 ……なるほど。


 確かに、その通りだ。


 私は炎の輪を消し、少年に向き直った。


「ごめんなさい。ちょっと説明が難しかったですね」


「い、いえ!」


 少年は慌てて首を振った。


「でも……すごく面白かったです!」


「……本当ですか?」


「はい! 僕、魔法って決まった術式を覚えて使うものだと思ってました。でも、そんな方法もあるんですね!」


「……!」


 思わず、顔がほころんだ。


「はい! 魔法って、すっごく面白いんですよ!」


 少年も嬉しそうに笑った。


「僕も、もっと勉強してみます!」


「ぜひぜひ!」


 ……ふふふ。

 こういうの、いいなあ。


 自分が面白いと思ったことを、誰かも面白いと思ってくれる。

 それだけで、なんだか嬉しくなる。


     ◇


 休憩所を出て、再び街道を歩き始めた。


 さっきの少年は、最後まで何度も頭を下げていた。


「……なあ、セリス」


「はい?」


「お前、あいつに魔法を教えるつもりだったのか?」


「え? そんな大げさなことじゃないですよ?」


「そうか?」


「はい! ただ、面白いなって思ってもらえたら嬉しいなって!」


「……ははっ!」


 アルディスさんが笑った。


「お前らしいな!」


「そうですか?」


「おう。強くなりたいって言うくせに、他の奴が強くなるのも嬉しそうだ」


「え?」


 私は首をかしげた。


「だって、みんなが強くなったら、もっと面白いことができるじゃないですか!」


「……ほう?」


「アルディスさんだって、強い相手と戦うのが好きでしょう?」


「そりゃもう!」


「私も同じです! いろんな魔法を見たいし、知らない使い方を知りたいし、一緒に新しい魔法を考えてみたいんです!」


「……ははっ! なるほどな!」


 アルディスさんは楽しそうに笑った。


「じゃあ、王都に着いたら大忙しだな!」


「はい!」


 王立魔法研究院。


 王立大図書館。


 魔道具工房街。


 それに、アルディスさんが話してくれた若い魔法使い、ネスラさん。


 どんな魔法を使うんだろう。


 どんな研究をしているんだろう。


 この世界の魔法理論は、どうなっているんだろう。


 ……ああ、もう!

 考えただけで、わくわくしてくる!


「王都、早く着かないかなあ!」


「まだまだ歩くぞ!」


「ええーっ!」


「はははっ! そんなに急ぎたきゃ、身体強化でも使って走るか?」


「……あ!」


「ん?」


「アルディスさん! 身体強化魔法って、他人にもかけられます?」


「術式によるな。何だ、試してえのか?」


「はい! それで、魔力の共鳴を調整すれば、もっと効率よく走れるかも――」


「おいおい! 今から実験する気か!?」


「だって、面白そうじゃないですか!♡」


「ははっ! しょうがねえ奴だな!」


 アルディスさんの笑い声が、街道に響いた。


 そのときだった。


「……ん?」


 アルディスさんが、ふと足を止めた。


「どうしました?」


「……静かだな」


「え?」


 言われて、私も耳を澄ませる。


 風が木々を揺らしている。


 葉の擦れる音が、かすかに聞こえた。


 でも……。


「……鳥の声がしませんね」


「おう」


 アルディスさんは街道の先を見つめた。


「昨日の狼どもといい、何か妙だな」


 私は森の方へ目を向ける。


 木々の奥は暗く、何があるのか分からない。


 昨日、グレイファングが街道まで出てきたことを、商人さんは不思議がっていた。


 あれも、何か関係しているんだろうか。


「……魔物がいるんですか?」


「さあな」


 アルディスさんは、いつもの調子で笑った。


「ま、何か出てきたら俺が斬る!」


「頼もしいですね!」


「おう! その代わり、面白え魔法を思いついたら見せてくれよ!」


「もちろんです!♡」


 私たちは再び歩き始めた。


 森の奥から吹いてきた風が、街道を横切る。


 その風に混じって、ほんの一瞬。


 何か大きなものが、遠くで地面を揺らしたような気がした。


 ……気のせい、かな?


 私はもう一度だけ森を振り返った。


 けれど、そこには静かな木々が並んでいるだけだった。


 王都への旅は、まだ始まったばかり。


 知らない魔法も、知らない生き物も、きっとたくさん待っている。


 ……ふふっ。


 やっぱり、異世界って最高だ!♡

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