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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第3幕 王都は魔法の宝箱!?
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第21話「剣聖と魔法オタク、初めての共闘!?」

「助けてくれえええっ!」


 悲鳴の聞こえた方へ走ると、街道の先で一台の馬車が立ち往生していた。


 荷台には木箱がいくつも積まれ、馬は興奮して前脚を踏み鳴らしている。御者台では商人らしい男性が必死に手綱を握っていた。


 その周囲を取り囲んでいるのは、灰色の獣たち。


「……狼?」


 普通の狼より一回り大きく、背中には黒い棘のようなものが並んでいる。


 一匹、二匹……六匹。


「グレイファングだな」


 隣に並んだアルディスさんが、腰の剣に手をかけた。


「群れで狩りをする魔物だ。足が速くて、なかなか厄介だぞ」


「へええ……!」


 なるほど。


 先頭の二匹が馬車の正面を塞ぎ、残りが左右へ広がっている。しかも、一匹だけ少し離れた場所から全体を見ているようだった。


 ……あれが群れの指揮役かな?


「セリス!」


「はい!」


「馬車の連中を頼めるか!」


「分かりました!」


 返事をした瞬間、アルディスさんが地面を蹴った。


 ――速い!


 さっきまで隣にいたはずなのに、もう魔物の目の前にいる。


 一匹が牙を剥いて飛びかかった。


 アルディスさんは半歩だけ身体をずらし、抜き放った剣を横薙ぎに振るう。


 魔物が地面へ倒れた。


「おおっ!」


 相変わらず、無駄のない動き!


 ……っと、感心している場合じゃない。


 右側の魔物が馬車へ回り込もうとしている。御者台の男性はアルディスさんに気を取られていて、まだ気づいていない。


「《水球》!」


 放った水球を魔物の足元で弾けさせる。


 突然の水しぶきに驚いた魔物が飛び退いた。


「今のうちに、馬を落ち着かせてください!」


「は、はいっ!」


 男性が慌てて手綱を引く。


 よし。これで馬車の正面に逃げ道ができた。

……と思ったら。


「セリス! 左だ!」


「はいっ!」


 アルディスさんの声に振り向くと、左側の茂みから別の一匹が飛び出してきた。


 あれ?

さっき数えた六匹とは別?


「《土壁》!」


 地面が盛り上がり、魔物の進路を塞ぐ。


 突然現れた壁を避けきれず、魔物が勢いを失った。


 そこへ。


「おらよっ!」


 アルディスさんが駆け抜ける。


 剣が閃き、魔物が倒れた。


「ナイスだ、セリス!」


「アルディスさんも!」


 ……おお。


 これ、すごい!


 私が相手の動きを止める。

 アルディスさんが倒す。


 たったそれだけなのに、びっくりするくらい噛み合っている。


 でも、まだ終わっていない。


     ◇


 残った四匹のグレイファングが、じりじりと距離を取り始めた。


 そのうち一匹が森の方へ顔を向け、短く吠える。


「……仲間を呼んでる?」


「かもしれねえな」


 アルディスさんが剣を構え直した。


「これ以上増える前に片づけるぞ」


「はい!」


 私は魔物たちの位置を確認した。


 右に二匹。


 左に一匹。


 正面に一匹。


 それぞれが距離を取りながら、こちらの様子をうかがっている。


 ……なるほど。


 まとまって襲ってくるならともかく、この配置だと一匹ずつ追いかけることになる。


 アルディスさんなら追いつけるだろうけど、馬車の近くで長引かせたくない。


 だったら、逃げる方向を限定すればいい。


「アルディスさん!」


「おう!」


「魔物の足元を変えます! 乾いた場所だけ踏んでください!」


「分かった!」


 ……即答!


 まだ何をするか、ちゃんと説明してないのに!


 でも、ありがたい。


「《水球》!」


 四つの水球を、それぞれの魔物の手前へ放つ。


 ただし、直接ぶつけるわけじゃない。


 地面に着弾した瞬間、魔力の流れを変える。


 水球が弾け、薄い水の膜となって周囲に広がった。


 そこへ、もう一つ。


「《土操作》!」


 水を含んだ土をわずかに持ち上げ、細い溝を作る。


 魔物たちが動き出した。


 正面の一匹が踏み込んだ瞬間、足を滑らせる。


 右側の二匹も、ぬかるみを避けようとして進路を変えた。


 狙いどおり!


 魔物が踏める場所は、乾いた地面の細い帯に限られる。


 そして、その先には――


「ははっ! そう来たか!」


 アルディスさんが笑った。


 次の瞬間、剣聖が駆け出す。


 まず、正面の一匹。


 足を滑らせた魔物へ一気に距離を詰め、剣を振り下ろす。


 その勢いを殺さず、右へ。


 二匹目が牙を剥くより早く、横から斬り抜けた。


 さらに、三匹目。


 逃げようとした魔物を追って、アルディスさんが地面を蹴る。


 その着地点は、私が残した乾いた足場だった。


 ……えっ。

 そこ、見えてたの!?


 魔物を誘導するために作った、ほんのわずかな足場。


 アルディスさんは迷うことなくそこへ着地し、身体の向きを変えた。


 剣が閃く。

 三匹目が倒れた。


「セリス! 最後の一匹!」


「はいっ!」


 残った魔物が馬車の反対側へ走り出す。

 私は手を伸ばした。


「《風弾》!」


 放った風の塊を、魔物の進行方向にある地面へぶつける。


 土埃が舞い上がり、魔物の視界を塞いだ。

 驚いた魔物が足を止める。

 その一瞬に、アルディスさんが追いついた。


「よっと!」


 最後の一匹が倒れた。


 ……静かになった。


「……終わり、ですか?」


「ああ。今のところはな」


 アルディスさんが周囲を見回し、剣についた血を払う。

 それから、こちらを向いて笑った。


「お前、やっぱ面白えな!」


「アルディスさんこそ!」


 私は思わず駆け寄った。


「最後の足場! あそこ、すっごく狭かったのに!」


「おう。踏める場所があったからな」


「でも、あんな速さで!」


「踏めるなら踏めるだろ?」


「いやいやいや!」


 何その理屈!


 私が作った地形を、ほとんど見た瞬間に使いこなしていた。


 しかも、魔物の動きに合わせて進路を変えながら、最短距離で次の相手へ向かっている。


「……すごい」


「お前もな」


「え?」


「俺が斬りやすいように、敵の動きを揃えただろ?」


「はい!」


「おかげで楽だったぜ」


 ……あ。

 伝わってたんだ。


 細かい説明なんて、ほとんどしていないのに。


「へへ……!」


 なんだか、嬉しい。


     ◇


「あ、ありがとうございました!」


 馬車から降りてきた商人さんが、深々と頭を下げた。


 顔色はまだ青いけれど、怪我はなさそうだ。


「本当に助かりました! もう駄目かと……!」


「気にすんな。通りがかっただけだ」


 アルディスさんは、いつもの調子で笑った。


「それより、怪我はねえか?」


「はい! おかげさまで!」


「馬は?」


「少し怯えていますが、大丈夫です」


 よかった。


 私も馬車の周囲を見回す。

 木箱がいくつか傾いているけれど、荷物もほとんど無事みたい。


「ところで、この魔物ってよく出るんですか?」


「いえ……それが、最近になって急に増えまして」


「増えた?」


「はい。街道の近くまで群れが出てくるなんて、以前はほとんどなかったんです」


 ふむ。

 魔物の行動範囲が変わっているのかな。


 食料不足?

 縄張り争い?

 それとも、森の奥で何かあった?


「……面白いですね」


「えっ?」


 商人さんが、ぎょっとした顔をした。


「あっ、違います! 襲われたことじゃなくて、魔物の生態が!」


「そ、そうですか……」


 ……あれ?

 また変なこと言っちゃった?


「はははっ!」


 アルディスさんが笑い出した。


「こいつ、こういうやつなんだよ!」


「……なるほど?」


 商人さんは、まだ少し困った顔をしていた。


     ◇


 馬車が無事に走り出すのを見届けてから、私たちも再び歩き始めた。


「アルディスさん!」


「ん?」


「さっきの連携、すっごく楽しかったです!」


「おう! 俺もだ!」


「模擬戦のときとは、全然違いますね!」


「そりゃそうだろ。今度は味方なんだからな!」


 そう。

 味方。


 昨日までは、どうやってアルディスさんの剣を避けるか、どうやって動きを止めるか、そればかり考えていた。


 でも今日は違う。


 アルディスさんが動きやすい場所を作る。


 アルディスさんが斬りやすいように、魔物を誘導する。


 そしてアルディスさんは、私の魔法を見て、その意図を理解してくれる。


 ……なんだろう。


 これ、すっごく気持ちいい!


 そんなことを考えていると、不意に目の前へ半透明の文字が浮かび上がった。


 ――あれ?


【STATUS NETZACH】


《連携攻撃を理解しました。》


《魔物の生態を理解しました。》


《経験値を獲得しました。》


「……おおっ!」


「どうした、セリス?」


「経験値が増えました!」


「は?」


「さっきの戦いで、いろいろ勉強になったからかな?」


「……勉強?」


「はい! アルディスさんと一緒に戦うの、初めてでしたし! 魔物の群れの動きも面白かったです!」


「ははっ! 戦って強くなるのは当たり前だろ!」


「そうですよね!」


 ……うん。

 でも、ちょっと不思議。


 魔物を倒したのは、ほとんどアルディスさんだ。


 私は足場を作ったり、動きを誘導したりしただけ。


 それでも、ちゃんと経験値が増えている。


 この世界の経験値って、何をしたかだけじゃなくて、何を理解したかも関係しているのかな?


 ……ふふ。


 調べたいことが、また増えちゃった!


「ねえ、アルディスさん!」


「おう!」


「次は、もっと複雑な連携も試してみません!?」


「いいぜ!」


「例えば、私が空中に足場を作って、アルディスさんがそこを蹴って――」


「おっ、面白そうだな!」


「それから、風で加速させたり!」


「いいな!」


「剣の軌道に合わせて魔法を重ねたり!」


「おう!」


 ……あれ?

 何だか、どんどんアイデアが出てくる。


 アルディスさんも、全部楽しそうに聞いてくれる。


「よーし! 王都に着いたら試しましょう!」


「待て待て!」


 アルディスさんが笑いながら手を振った。


「王都の訓練場まで壊したら、またバルドに怒られるぞ!」


「……あ」


 それは困る。


 でも。


「壊さないようにすればいいんですよね?」


「ははっ! そりゃそうだ!」


 二人で笑いながら、街道を歩く。


 王都への道は、まだまだ続いている。


 知らない魔物。


 知らない土地。


 そして、まだ試したことのない連携。


 ……ああ。


 やっぱり。


 この世界には、面白いことがいっぱいだ!


     ◇

 その日の夕方。


 街道から少し離れた森の奥で、一匹のグレイファングが低く唸っていた。


 その足元には、倒れた仲間の姿がある。


 だが、獣が見つめていたのは、仲間ではなかった。


 森のさらに奥。


 木々の向こうから、何かが近づいてくる。


 重い足音。


 枝の折れる音。


 そして、獣たちが本能的に恐れる、異様な気配。


 グレイファングは尻尾を巻き、逃げ出した。


 その背後で、低い咆哮が響いた。


 森の鳥たちが、一斉に飛び立った。

ご覧いただきありがとうございますm(_ _)mもし楽しんで頂けるようでしたら、評価やブックマークで応援していただけますととても嬉しいです!いよいよセリスの魔法オタクぶりが発揮され始めますので、どうぞよろしくお願いいたします(>人<;)

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