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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第3幕 王都は魔法の宝箱!?
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第20話「王都への旅は、出発前から大騒ぎ!?」

ーーー王都への出発当日。


 私は朝から、人生最大級の難問に直面していた。


「……入らない」


 ベッドの上に広げた荷物を見下ろす。


 着替え。保存食。水筒。予備の靴。旅先で使う日用品。


 ここまではいい。


 問題は、その隣に積み上がったものだ。


 魔法の実験に使う金属片。石ころ。小瓶。用途の違う糸が三種類。それから、これまでに書きためた魔法の研究メモ。


「……どれも必要なんだけどなあ」


 荷物袋の口を引っ張ってみる。


 閉まらない。


 もう少し押し込む。


 やっぱり閉まらない。


「むむむ……」


 仕方がない。


 優先順位を考えよう。


 まず、研究メモは絶対に必要。


 実験道具も必要。


 小瓶は現地で買えるかもしれないけど、今持っているものは形がちょうどいい。


 金属片は……。


「……これも必要!」


 うん。


 全部必要だった。


     ◇


「セリスー! まだかー!」


 窓の外から、聞き覚えのある声がした。


「はーい! もうちょっとです!」


「さっきも聞いたぞー!」


 アルディスさんだ。


 慌てて窓を開けると、宿の前に立っている姿が見えた。


 肩には小さな旅袋が一つ。


 腰には、いつもの剣。


 ……以上。


「えっ、アルディスさん、荷物それだけですか!?」


「おう!」


「着替えは!?」


「入ってる!」


「食料は!?」


「途中で買う!」


「実験道具は!?」


「いらねえだろ!」


「えええっ!?」


 なんて身軽な人なんだろう。


「お前、何持ってくつもりなんだ?」


「えっと、着替えと食料と研究メモと小瓶と金属片と――」


「研究室でも引っ越すのか?」


「違います! 旅先で何があるか分からないじゃないですか!」


「だから旅なんだろ?」


「……あ」


 なるほど。


 そういう考え方もあるのか。


 知らない土地で、必要なものを探す。


 現地の道具を使って、新しい方法を試す。


「……それも面白そう!」


「だろ?」


「じゃあ、半分置いていきます!」


「最初からそうしろ!」


 そう言われても。


 何を置いていくかが、また難しいんだけど。


     ◇


 結局、出発できたのは予定より少し遅れてからだった。


「すみません……」


「気にすんな。まだ朝だ」


 アルディスさんは笑いながら、街道の先を指さした。


「ほら、行くぞ。王都まで、ちょっとした旅だ!」


「はいっ!」


 振り返ると、見慣れ始めた街並みが朝日に照らされていた。


 冒険者ギルド。


 何度も歩いた通り。


 お世話になった宿。


 異世界に来てから、初めて落ち着いて過ごせた場所。


 まだ短い間だったけれど、いろんなことがあったなあ。


「……また来たいな」


「来りゃいいだろ」


 アルディスさんが、当たり前のように答えた。


「王都に行ったら、戻っちゃいけねえわけでもねえし」


「……そうですよね!」


 なんだ。


 簡単なことだった。


 行きたいところへ行く。


 会いたい人に会う。


 知りたいことを調べる。


 それでいいんだ。


「よーし! 出発!」


「おう!」


 こうして私たちは、王都アストリアへ向けて歩き始めた。


     ◇


「……ところで、アルディスさん」


「ん?」


「王都って、どんなところなんですか?」


「でけえ街だぞ」


「それは知ってます!」


「人が多い」


「それも想像できます!」


「飯がうまい」


「それは重要ですね!」


 思わず頷いてしまった。


 旅先の食事は大事だ。


 知らない料理には、知らない文化が詰まっている。


「それから、魔法使いも多いぞ」


「!」


 来た!


 その話を待っていた!


「どんな魔法使いがいるんですか!?」


「そうだなあ。王都には魔法師団の本部があるし、研究院もある。変わったやつも結構いるぜ」


「変わった人!」


「お前が言うと、なんか嬉しそうだな」


「嬉しいです!」


 変わった人ということは、変わった発想を持っているということ。


 変わった発想があれば、変わった魔法があるかもしれない。


「そういや、氷魔法が得意な若い魔法使いがいたな」


「氷魔法!」


「たしか、ネスラって名前だったか」


「ネスラさん!」


「おう。あいつ、魔法の腕はかなりのもんだぞ」


「どんな魔法を使うんですか!?」


「氷を出したり、凍らせたり」


「……それは氷魔法ですもんね?」


「だよな!」


 ……説明が雑!


「もっとこう、魔力の制御方法とか、術式の特徴とか!」


「知らねえよ、そんな細けえこと!」


「ええええ!」


「気になるなら本人に聞け!」


 ……それだ!


 本人に聞けばいいんだ!


「会ってみたいです!」


「ははっ! 気が合うかもしれねえな!」


 氷魔法の達人。


 どんな人なんだろう。


 楽しみが一つ増えた。


     ◇


 昼過ぎ。


 街道沿いの小さな林で休憩することになった。


「ここで飯にするか」


「はい!」


 道端の倒木に腰を下ろし、持ってきたパンを取り出す。


 アルディスさんは、さっそく大きな口でかぶりついていた。


「うまい!」


「……まだ一口ですよ?」


「一口で分かるだろ!」


 そういうものなのかな。


 私もパンをかじる。


 うん。


 おいしい。


 でも、せっかくだから何か温かいものが欲しいなあ。


「……あ、そうだ」


 手のひらを上に向ける。


 水の魔法で、小さな球を作った。


 空中に浮かぶ透明な水球。


 そこへ、火の魔力を少しずつ重ねていく。


 水球の表面が、ゆらりと揺れた。


「……よし」


 温度を上げすぎないように調整する。


 湯気が立ち始めたところで、持ってきたカップに注いだ。


「できた!」


「……お前、何してんだ?」


「お湯を作りました!」


「見りゃ分かる」


「温かい飲み物が欲しくなって!」


「普通、火を起こさねえか?」


「その方が早いですか?」


「……いや、お前の場合は違うか」


 アルディスさんが、何とも言えない顔をした。


「それ、火と水を同時に使ってんのか?」


「はい!」


「昨日も思ったけどよ。お前、魔法をいくつ同時に動かせるんだ?」


「え?」


 いくつ?


 そういえば、数えたことあったかな。


「状況によりますけど……」


「おう」


「魔力の流れを安定させれば、もう少し増やせると思います!」


「……そうか」


 アルディスさんは、それ以上聞かなかった。


 代わりに、私のカップを指さす。


「なあ、それ俺の分も作れるか?」


「もちろん!」


「頼む!」


 私はもう一つ水球を作った。


 今度は少し大きめに。


 ……あ。


「そうだ、アルディスさん!」


「ん?」


「水球を二つに分けて、片方だけ温度を変えたら、魔力の消費ってどうなると思います!?」


「知らねえ!」


「試していいですか!?」


「俺の飲み物ができてからにしろ!」


「はーい!」


 残念。


 でも、あとで絶対に試そう。


     ◇


 休憩を終えて、再び街道を歩く。


 道は緩やかな丘を越え、遠くの山並みへと続いていた。


 見たことのない草花。


 木々の間を飛び交う、小さな鳥。


 ときどき街道を通り過ぎる商人の馬車。


 その全部が、新鮮だった。


「……いいですねえ、旅って!」


「まだ初日だぞ?」


「初日から楽しいんだから、明日も楽しみです!」


「ははっ! そりゃいい!」


 アルディスさんが、豪快に笑った。


 そのときだった。


「……ん?」


 街道の先から、何かが聞こえた。


 金属がぶつかるような音。


 それから、短い悲鳴。


「……アルディスさん?」


「ああ」


 さっきまで笑っていたアルディスさんの表情が、少しだけ変わった。


 腰の剣に、自然と手が伸びる。


「どうやら、退屈しねえ旅になりそうだな」


 私も耳を澄ませた。


 遠くから、誰かの声が聞こえる。


「助けてくれえええっ!」


 ……助けを呼んでる!


「行きましょう!」


「おう!」


 アルディスさんが駆け出す。


 私も、その背中を追った。


 王都への旅は、まだ始まったばかり。


 なのに、早くも何かが起きている。


 ……うん。


 やっぱり、知らない世界を旅するのって――


 すっごく面白い!

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