第19話「王都からの招待状!?」
朝から、ギルドが妙に騒がしかった。
「だから、俺は何も壊してねえって!」
「訓練場の地面を見てから言ってください!」
「ありゃセリスの魔法だろ!」
「アルディス様が斬り飛ばした魔法も原因です!」
受付の向こうで、ミーナさんが怒っている。
その正面には、腕を組んで堂々と立つアルディスさん。昨日の模擬戦で散々暴れた張本人の一人だ。
ちなみに、もう一人の張本人は私である。
「おはようございまーす!」
「セリスさん!」
ミーナさんが、ものすごい勢いで振り向いた。
「ちょうどよかったです! 昨日の訓練場の件なんですけど!」
「はい! すっごく楽しかったです!」
「感想を聞いてるんじゃありません!」
あれ?
違った?
「おう、セリス! 昨日は面白かったな!」
「はい! あの最後の一撃、もう一回見たいです!」
「いいぜ! 今度は本物の剣で――」
「駄目です!!」
ミーナさんの声が、ギルド中に響き渡った。
周囲の冒険者たちが、一斉にこちらを見る。
……うん。
朝から元気だなあ。
「二人とも、ギルドマスターがお呼びです!」
「バルドさんが?」
「そうです! 今度こそ、ちゃんとお話を聞いてくださいね!」
今度こそって。
私、そんなに話を聞かない人だと思われてるのかな?
◇
「……お前らなあ」
ギルドマスター室に入った途端、バルドさんが深いため息をついた。
机の上には書類が山積みになっている。
その一番上に置かれていたのは、見慣れない封筒だった。
白い厚手の紙に、赤い封蝋。
中央には、剣と翼を組み合わせたような紋章が刻まれている。
「おっ、王家の紋章じゃねえか」
アルディスさんが、ひょいと封筒を覗き込んだ。
「珍しいな。何かあったのか?」
「お前が珍しいと言うな。王都からの使者が、お前を探してここまで来たんだぞ」
「俺を?」
「正確には、お前とセリスだ」
「……私も?」
思わず首をかしげる。
王都。
つまり、この国の首都だよね?
「先日の能力測定の報告を、王都に送ったのは覚えているな?」
「あ、はい!」
そういえば、バルドさんがそんなことを言っていた。
測定器が私の魔力量を測れなかったとか、いろいろあったんだっけ。
「その報告に対して、王都から正式な返答が来た」
バルドさんが封筒を持ち上げる。
「アルセリア王国、王都アストリア。王宮からの招待状だ」
「……王宮?」
「そうだ」
「王様がいるところですか?」
「ほかに何がある」
おおお。
王様!
本物の王様!
「すごい! お城に入れるんですか!?」
「……話は最後まで聞け」
「あっ、はい!」
バルドさんが封筒から一枚の書状を取り出した。
「今回の招待は、セリスの能力について直接話を聞きたいというものだ。王都の魔法関係者も同席する可能性がある」
「魔法関係者!」
思わず身を乗り出した。
「それって、魔法の研究者さんですか!?」
「……そういう者もいるだろうな」
「魔法を研究する施設もあります!?」
「王立魔法研究院がある」
「研究院!!」
なんて素敵な響き!
「図書館は!?」
「王立大図書館がある」
「魔道具は!?」
「工房街がある」
「魔法の実験は!?」
「……おい、アルディス」
バルドさんが私ではなく、アルディスさんを見た。
「何とかしろ」
「無理だろ。俺も行きたくなってきた」
「お前は最初から招待されている!」
そうだった。
アルディスさんも一緒なんだ。
「王都かあ……!」
胸の奥が、むずむずしてきた。
知らない街。
知らない魔法。
知らない人たち。
しかも、この国で一番大きな都市!
……行きたい。
すっごく行きたい!
「行きます!」
「まだ詳しい日程も説明していないんだが」
「行きます!!」
「……だろうな」
バルドさんは、なぜか諦めたような顔をした。
◇
「ただし、一つ確認しておく」
バルドさんが書状を机に置いた。
「これは命令じゃない。正式な招待だ。断ることもできる」
「そうなんですか?」
「ああ。王宮側も、お前の意思を尊重するとはっきり書いている」
へえ。
王様って、もっとこう……。
『王の命令じゃ! 逆らうでない!』
みたいな感じかと思ってた。
「いい王様なんですね!」
「……まだ会ってもいないだろうが」
「でも、会ってみたくなりました!」
バルドさんが小さく笑った。
「レオニス陛下は、少なくとも理由もなく人を縛りつけるような方ではない」
「なら安心ですね!」
「安心するのは早い。王都にはいろんな人間がいる。お前の力を利用したいと考える者だっているかもしれん」
「……なるほど」
それは、ちょっと考えないといけない。
魔法の研究は好きだけど、勝手に実験材料にされるのは困る。
私が実験する側なら大歓迎なんだけど。
「セリス」
アルディスさんが、ぽんと私の肩を叩いた。
「面倒なことになったら俺に言え」
「はい!」
「俺が斬ってやる!」
「斬るな!!」
バルドさんの怒鳴り声が飛んだ。
「冗談だって!」
「お前の冗談は冗談に聞こえん!」
……この二人、仲いいなあ。
◇
「ところで、セリス」
話が一段落したところで、アルディスさんがこちらを向いた。
「昨日の続きなんだけどよ」
「はい!」
「お前、あの魔法をどうやって動かしてたんだ?」
「あの魔法?」
「ほら、途中で弾を割ったり、曲げたりしてただろ」
「ああ!」
昨日の模擬戦で使った魔法だ。
「魔力の流れを変えただけですよ?」
「……流れ?」
「はい! 魔法って、発動した後も魔力の状態を変えられるじゃないですか」
「……そうなのか?」
「え?」
あれ?
アルディスさんが不思議そうな顔をしている。
「普通は、発動した魔法を途中でそんなに変えねえだろ」
「そうなんですか?」
「少なくとも、俺が見てきた魔法使いはそうだったぜ」
「へええ……!」
それは知らなかった。
この世界の魔法って、まだまだ分からないことだらけだ。
「でも、面白いな。剣だって振り始めた後に軌道を変えるのは難しい。お前の魔法も似たようなもんなのか?」
「そうですね! 魔力の流れと、形を維持するための制御を同時に調整するので、ちょっと大変です!」
「……同時に?」
「はい!」
「二つのことを、同時にやってんのか?」
「え? もっとですよ?」
「…………」
アルディスさんが黙った。
珍しい。
「……ははっ!」
と思ったら、突然笑い出した。
「やっぱお前、おもしれえな!」
「そうですか?」
「おう! 王都の魔法使いどもが、どんな顔するか楽しみだぜ!」
……それは私も楽しみだなあ。
王都の魔法使い。
どんな魔法を使うんだろう。
どんな研究をしているんだろう。
考えるだけで、わくわくしてくる。
◇
ギルドを出ると、空はすっかり晴れ渡っていた。
王都への出発は数日後。
準備するものは、着替えと旅の道具。それから、王宮に入るための服装についても、ミーナさんから注意された。
「王宮って、普段着じゃ駄目なんですねえ」
「まあ、さすがにな」
「じゃあ、何を着ればいいんでしょう?」
「俺に聞くなよ。いつもこの格好だし」
アルディスさんは、自分の服を見下ろした。
……うん。
確かに、この人に服装を相談するのは間違っていた気がする。
「まあ、王都に行きゃ詳しいやつもいるだろ」
「そうですね!」
王都には、魔法研究院がある。
大図書館がある。
魔道具工房街がある。
それから、まだ会ったことのない魔法使いたちもいる。
「楽しみだなあ……!」
「おう!」
アルディスさんが、にっと笑った。
「俺も楽しみだぜ!」
「アルディスさんは、何が楽しみなんですか?」
「お前がどんな騒ぎを起こすか」
「ええっ!?」
「はははは!」
失礼な!
私は別に、騒ぎを起こしたいわけじゃない。
ただ、面白そうなことがあったら試してみたいだけで。
知らない魔法があったら、仕組みを調べてみたいだけで。
できることなら、自分でも使ってみたいだけで。
「……あれ?」
それって、騒ぎになるのかな?
まあ、いいか。
王都アストリア。
この世界で、私が次に出会う未知の場所。
どんな発見が待っているのか、今から楽しみで仕方がない。
――こうして、私の王都行きが決まった。
まさかそこで出会う魔法使いたちに、あんなに驚かれることになるなんて。
このときの私は、まだ想像もしていなかった。




