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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第一幕 異世界さんこんにちは!
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第2話「スライムを調べてたら、山が消えた!?」

「待って待って! 逃げないで! ちょっとだけ! ちょっとだけ観察させてぇぇぇ!」


 青いスライムを追いかけて、私は草むらに飛び込んだ。


 ぽよん。

 スライムが跳ねる。


 私も跳ねる。

 ぽよん、ぽよん。


「……あれ?」


 スライムが止まった。


 私も止まった。


 どうやら、逃げているわけではないらしい。


「もしかして、遊んでくれてる?」


 試しに右手を振ってみる。


 ぷるん。


「可愛いぃぃぃ!!♡」


 駄目だ。


 異世界、最高すぎる。


 私はその場にしゃがみ込み、改めてスライムを観察した。


 大きさは直径三十センチほど。半透明の青い身体の中には、丸い核のようなものが浮かんでいる。


 表面はぷるぷるしているのに、地面に接する部分はしっかり形を保っていた。


「ふむふむ。表面張力……いや、違うな。内部から何か力が働いてる?」


 そっと指を伸ばす。


 ぷに。


「……おおっ!」


 冷たい。


 しかも、思ったより弾力がある。


「ゼリーみたい! でも、どうやって動いてるんだろ?」


 普通の生物なら筋肉が必要だ。


 けれど、この子には骨も筋肉も見当たらない。


 となれば、考えられるのは――。


「魔力、かな?」


 私は、ふと今朝のステータス画面を思い出した。


「そういえば、魔術の説明って読めるのかな?」


 右手を前に出す。


「ステータス、オープン!」


 ピコン。


 半透明の青い板が現れた。

 相変わらず、そこには不思議な文字が並んでいる。


 名前はセリス。

 種族は人間。

 レベルは九十九。

 そして、魔術スキル。


「……初級10、かあ」


 私は《無属性魔術》の文字をじっと見つめた。


 すると。


 ピコン。


「……ん?」


 文字の周囲が、ほんのり光った。


「もしかして……」


 恐る恐る、指を伸ばす。


 ちょん。


 ピコン!


「うわっ!」


 新しい小さなウィンドウが開いた。


SKILL DETAIL

《無属性魔術》初級10

魔力を用いて、属性変換を伴わない物理現象を再現する魔術。

主な対象:運動・圧力・熱・光・音など。

習熟度:10 / 10


「…………」


 私は、しばらく表示を見つめた。


「……すごい」


 もう一度、文字を押す。


 ウィンドウが閉じた。


 もう一回押す。


 開いた。


「……すっごい!」


 開く。閉じる。

 開く。閉じる。


「タッチパネルじゃん!!♡」


 異世界のステータス、便利すぎる!


 私は夢中になって、ほかの項目も押してみた。


 《属性魔術》初級10。

 火・風・土・水の四属性に魔力を変換し、それぞれの現象を発生させる魔術。


 《付与魔術》初級10。

 物体や対象に魔術的な性質を定着させる魔術。


 《魔力操作》超級10。

 魔力の流量、密度、形状、循環構造を極めて高精度に制御する技能。


「……なるほど、なるほど」


 私は顎に手を当てた。

 つまり、魔術そのものの習熟度と、魔力を扱う技術は別物らしい。

 無属性魔術が初級でも、魔力操作が超級なら、その精度を利用できる。


「ふむ……自動車で例えるなら、エンジンと運転技術が別って感じかな?」


 なら、初級魔術でも使い方次第で相当なことができるはずだ。

 ……面白い。

 非常に面白い。


「そういえば、レベルって身体能力にも関係するのかな?」


 ステータス画面を眺める。

 すると、端の方に小さな矢印があった。


「……あれ? これも押せる?」


 ちょん。

 ピコン。

 画面が切り替わった。


BASIC STATUS

HP1,280 / 1,280

MP測定範囲外筋力 STR92

耐久 VIT88

敏捷 AGI104

器用 DEX130

知力 INT999

魔力 MAG測定範囲外

制御 CTRL測定範囲外


「おおおおっ!」


 思わず声が出た。


「筋力! 敏捷! 耐久! ちゃんとあるじゃん!」


 しかも、HPとMPまである。

 完全にゲームのステータスだ。


「……ん?」


 私は知力の数字に目を止めた。

 九百九十九。


「……これって高いのかな?」


 ほかの人の数値が分からないから、比較できない。

 それに、魔力や制御は測定範囲外になっている。


「うーん……基準値が欲しいなあ」


 私は画面をあちこち触ってみた。


 筋力を押すと、身体が発揮できる力の目安。

 敏捷を押すと、移動速度や反応速度に関係する能力。

 耐久を押すと、身体の頑丈さ。

 器用を押すと、細かな動作の精度。

 知力を押すと、情報処理や魔術構築の能力。


「……なるほどねえ」


 これは便利だ。

 今後の成長を記録していけば、レベルアップによる能力値の変化も分析できる。


「よし! これから毎回チェックしよう!」


 私は満足してステータスを閉じた。

 そして、目の前のスライムを見る。


「……さて」


 いよいよ実験開始だ。


     ◇

 私は目を閉じ、自分の内側に意識を向けた。

 すると、身体の奥にある温かな流れが、驚くほど自然に感じ取れた。


 魔力だ。


 実験装置を通して何度も観測してきたものが、今は自分の身体の中を巡っている。


「……すごい」


 計測器も、増幅装置も、外部端末も必要ない。

 ただ意識を向けるだけで、魔力の流れが分かる。


「これが《魔力操作》超級10……!」


 なるほど。


 確かに、これはすごい。


 でも、せっかくならもっと詳しく調べたい。

 私は魔力を細く伸ばしてみることにした。

 糸よりも細く。

 空気の振動すら起こさないくらい、そっと。


「……よし」


 指先から、目に見えない魔力が伸びた。

 スライムの表面に触れる。

 ぷるん。


「お邪魔しまーす」


 魔力を内部へ通した瞬間、私は目を見開いた。


「……えっ?」


 流れている。

 スライムの身体の中を、魔力が循環していた。

 しかも、ただ巡っているだけじゃない。

 中心の核から外側へ広がり、表面を伝って再び核へ戻っている。


「うわあ……!」


 思わず顔が近づく。


「循環構造になってる! これ、すっごく合理的じゃない!?」


 魔力を循環させることで身体の形を維持し、必要な場所へ力を集中させて移動する。


 なるほど。

 筋肉がなくても動けるわけだ。


「ねえねえ、ちょっとだけ実験していい?」


 スライムは答えない。

 ただ、ぷるぷる揺れている。


「じゃあ、嫌がったらすぐやめるからね」


 私は魔力の流れをほんの少しだけ整えてみた。

 核から外側へ向かう流れと、戻ってくる流れ。


 その接続部分に生じていた小さな乱れを、滑らかにつなぐ。


 すると――。


 ぽよんっ!


「わっ!」


 スライムが勢いよく跳ねた。


 そして、着地すると同時に。


 ぷるるるるっ。


「…………え?」


 身体が横に伸びた。


 真ん中がくびれていく。


 まさか。


「……分裂?」


 ぽこんっ。


 スライムが二匹になった。


「…………」


 二匹のスライムが、仲良く並んでいる。

 どちらも元気そうだ。

 そして、こちらを見上げている。


「…………」


「増えたああああ!!♡」


 すごい!


 可愛い!


 しかも二匹!


「えっ、待って! 今のって生殖? それとも増殖? 核も二つに分かれたよね!? 魔力循環を整えただけなのに!?」


 私は夢中になって二匹を観察した。

 片方は少し大きく、もう片方は小さい。

 魔力の循環速度にも微妙な違いがある。

 つまり、完全な複製ではないらしい。


「面白いなあ……!」


 そのときだった。


 ピコン。


「……ん?」


 目の前に青い文字が現れた。


SYSTEM

《未知の生命構造を観察しました》

《魔力循環への理解が深まりました》

経験値を獲得しました


「…………」


 私は文字を見つめた。


 もう一度、見つめた。


「……経験値?」


 えっ。

 待って。

 今、私がしたことって。

 スライムを観察して、ちょっと魔力を整えただけだよね?


「……研究でも、経験値が入るの?」


 試しにステータスを開いてみる。


 レベルは九十九のままだったけれど、経験値の表示が少し増えている。


「…………」


 これは。


 もしかして。


「研究してるだけで強くなれるってことぉぉぉ!?♡」


 最高だ。


 なんて素晴らしい世界なんだろう。


 私は思わず立ち上がった。


「よーし! じゃあ、今日は徹底的に――」


 ぐうううう。


「…………」


 お腹が鳴った。

 そうだった。

 私は今、空腹だった。


「……まずは、ご飯かな」


     ◇


 スライムたちに別れを告げて、私は森を歩き始めた。


 ちなみに二匹とも、しばらく後ろをついてきた。


 可愛い。

 連れて帰りたい。

 でも、今の私には帰る場所も食料もない。


「ごめんね。また会おうね!」


 手を振ると、二匹は揃ってぽよんと跳ねた。

 ……ああ、可愛い。


 さて。

 食料を探そう。

 森には見慣れない植物がたくさん生えていた。


 赤い実。

 青いキノコ。

 紫色の葉っぱ。


「……どれも食べられそうに見えるんだけどなあ」


 もちろん、見た目だけで判断するのは危険だ。

 毒性のある植物だって存在するだろう。


 ここは慎重にいこう。


 私は赤い実を一つ摘み、魔力を流して内部構造を調べてみた。


「ふむふむ……糖分は多そう。でも、知らない成分があるなあ」


 食べるのはやめておこう。

 次は青いキノコ。


「……うわっ、これ絶対駄目なやつ!」


 魔力を通した途端、キノコが紫色に光り始めた。

 慌てて元の場所に戻す。


「異世界の食材、難易度高いなあ……」


 それでも、調べるたびに新しい発見があった。


 魔力を蓄える植物。

 周囲の温度によって色が変わる花。

 地面の下に微弱な魔力を伸ばしている根。


 どれも面白い。


 面白すぎる。


 気づけば、空腹を忘れて一時間以上も歩いていた。


「……はっ!」


 いけない。

 また研究に夢中になってしまった。


「ご飯! ご飯を探すんだった!」


 そのとき。

 がさがさっ。

 少し離れた茂みが、大きく揺れた。


「……ん?」


 何かいる。

 しかも、結構大きい。


 私は足を止め、そっと様子をうかがった。

 茂みの向こうから現れたのは、巨大な猪だった。


 ただし、普通の猪ではない。

 額から鋭い角が一本伸びている。

 身体は牛ほども大きく、全身を覆う毛は金属のように硬そうだった。


「……おおっ!」


 思わず声が出る。


「魔物だ! スライム以外の魔物!」


 巨大な猪が、こちらを向いた。

 鼻息が荒い。

 地面を前脚で蹴っている。

 どうやら、あまり友好的ではないらしい。


「……あ、怒ってる?」


 猪が低く唸った。


 そして。


 ドドドドドッ!


「うわっ!」


 突進してきた。


 私は慌てて横へ跳んだ。

 巨大な身体が、すぐそばを通り過ぎる。


 そのまま木に激突した。


 バキィッ!


「……ええっ!?」


 大木が折れた。

 しかも、猪は平然としている。


「うわあ……すごい筋力」


 いや、感心している場合ではない。

 あれが直撃したら、さすがに痛そうだ。


 私は少し距離を取り、右手を構えた。


「よし。せっかくだし、魔術を試してみよう」


 火魔術。

 ……森が燃えそう。


 風魔術。

 ……威力の調整が難しいかも。


 土魔術。

 ……地面を大きく変形させるのは避けたい。


「うーん……」


 そこで思いついた。


「あ、そうだ!」


 無属性魔術。


 魔力を使って、物理現象を再現する魔術。

 それなら、空気を圧縮して射出すればいい。

 いわゆる空気弾だ。


「これなら属性変換も必要ないし、効率も良さそう!」


 私は指先に魔力を集めた。

 空気を圧縮する。

 密度を高める。

 そして、前方へ向けて加速させる。


「……ふむ」


 思ったより簡単だ。

 魔力操作が超級だからだろうか。


 圧縮率も、加速方向も、驚くほど正確に制御できる。


「じゃあ、まずは控えめに……」


 猪が再び突進してきた。


「えいっ!」


 指先から、透明な弾丸が放たれた。


 ――パァンッ!


 乾いた音が響く。


 次の瞬間。

 猪の身体が、後方へ吹き飛んだ。


「……おっ?」


 そのまま木々をなぎ倒し、森の奥へ消えていく。


 そして。


 遥か向こうから、耳をつんざくような轟音が響いた。


 ドゴォォォォォォォン!!


「…………」


 地面が揺れた。


 鳥たちが一斉に飛び立つ。


 木の葉が、雨のように降ってきた。


「…………え?」


 私は指先を見つめた。


 今の。

 初級魔術だよね?


 そんなに魔力を込めたつもりはなかったんだけど。


「……ちょっと、強かった?」


 恐る恐る、森の向こうを見た。


 木々の隙間から、遠くの山が見える。


 ……はずだった。


「…………あれ?」


 おかしい。


 さっきまで、あそこに山があった。


 結構大きな山だった。


 頂上には白い雲がかかっていて、綺麗だなあと思っていたのに。


 今は。


「…………」


 山頂が、ない。

 正確には、山の上半分がごっそり削り取られていた。

 その向こうには、青い空が広がっている。


「…………」


 私はゆっくり、右手を下ろした。


「……えっと」もう一度、山を見る。


 やっぱり、ない。


「…………」


 背中を、冷たい汗が流れた。


「……やっちゃった?」


 いやいや。

 落ち着こう。

 まずは状況確認だ。


 猪はどうなった?

 周囲に人はいない?

 山の向こうに村とかないよね!?


「うわあああ! ど、どうしよう!?」


 私は慌てて魔力を広げ、周囲の生命反応を探した。


 幸い、山の周辺に人らしい反応はなかった。

 少なくとも、今の探知範囲では。


「……よ、よかったぁ……」


 膝から力が抜けた。


 いや、よくない。

 全然よくない。

 山を壊してしまった。

 山を。

 初級魔術で。


「……どうしよう」


 私は頭を抱えた。


「異世界初日から、山を壊しちゃったよぉぉぉ!!」


 そのときだった。


 ピコン。


「……え?」


 目の前に、青い文字が現れた。


SYSTEM

《魔物の討伐を確認しました》

《複数の魔物の討伐を確認しました》

《新たな魔術運用を実践しました》

《未知の現象を発生させました》

大量の経験値を獲得しました

LEVEL UP! 99 → 113

《成長限界を突破しました》


「…………」


 私は、しばらく表示を見つめた。

 レベルが上がった。

 ついに百を超えた。

 本来なら、飛び上がって喜ぶところだ。


 でも。


「……今、それどころじゃないんですけどぉぉぉ!!」


 森に、私の悲鳴が響き渡った。


 ……なお。


 このとき、遠く離れた街では。


 山の向こうから立ち上る巨大な土煙を見て、見張りの兵士が警鐘を鳴らしていた。


 その原因が、空腹の美少女による食料調達だったなどと。


 誰が想像できただろうか。

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