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『目指すは最強! ~魔法オタクの異世界無双~』  作者: 穂乃果
第一幕 異世界さんこんにちは!
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第1話「異世界転生キタコレ!?」

はじめまして! 異世界を前にすると好奇心が止まらないセリスの物語、開幕です。どうぞ気楽にお楽しみください!

挿絵(By みてみん)


「……異世界って、本当にあるのかな?」


 そんな疑問を抱いて、三年。


 私はとうとう、世界の壁を越える方法を見つけてしまった。


 ……理論上は。


「いや、計算は合ってるんだよ? シミュレーションだって一万回以上成功してるし!」


 誰にともなく言い訳しながら、机に広げた計算式をもう一度確認する。


 量子力学。エンタングルメント。可能性収束。


 世界が一つしか存在しないという証拠は、どこにもない。むしろ、可能性が重なり合う場所には、異なる世界を接続する経路が生まれるはずだった。


 問題は、その経路を実際に通った人間が一人もいないことだ。


「まあ、最初の一人がいなきゃ、科学は進歩しないもんね!」


 研究室の時計は、午前三時を回っていた。


 徹夜は三日目。冷めきったコーヒーを飲み干し、椅子から立ち上がる。


 肩は凝っているし、頭も痛い。目の下には、きっと立派なクマができているだろう。


 でも、そんなことはどうでもよかった。


 あと少し。


 あと少しで、ずっと追いかけてきた答えに手が届く。


「世界の境界は完全に閉じているわけじゃない。可能性が重なる場所には、必ず接続点が生まれる……」


 端末に最後の数値を入力すると、実験装置の中央に青白い光が灯った。


「共鳴位相、固定。収束率、許容範囲。接続先の座標は……よし、問題なし!」


 指先が、わずかに震えていた。


 怖くないと言えば、嘘になる。


 失敗したらどうなるのか。別の場所に飛ばされるだけなのか、それとも身体ごと消えてしまうのか。


 誰にも分からない。


 もちろん、私にも。


「…………」


 青白い光を見つめる。


 その向こうに、本当に別の世界があるのだろうか。


 私の知らない法則があって、見たこともない生き物がいて、想像すらできない現象が起きているのだろうか。


 そう考えた途端、口元が緩んだ。


「……楽しみだなあ」


 駄目だ。


 やっぱり、怖さよりワクワクの方がずっと大きい。


 だって、もし本当に異世界があるなら。


 それを確かめずに終わるなんて、絶対に嫌じゃない?


「よしっ!」


 私は大きく息を吸い、起動装置に手を伸ばした。


「《越界励起》、起動!」


 光が弾けた。


 床が消え、天井が消え、身体の輪郭がほどけていく。


「わっ……!」


 痛みはない。


 ただ、どこまでも落ちていくような、不思議な感覚だけがあった。


 無数の光が絡み合い、ほどけ、また結びつく。


 それはまるで、世界そのものが織り直されているような光景だった。


「……すごい」


 思わず、手を伸ばす。


 届くはずのない光の一つが、指先に触れた気がした。


 そして、意識が途切れる直前。


 私は確かに理解した。


 ――ああ。


 やっぱり。


 世界は、一つじゃなかった。


     ◇


「……ん」


 鳥の声がする。


 木の葉が揺れる音。窓から差し込む、柔らかな日差し。


「……あれ?」


 目を開けると、見知らぬ天井があった。


 木造だ。しかも、ずいぶん古い。


 ゆっくり身体を起こして、部屋を見回す。


 小さなベッド。木製の机。壁際には棚が一つ。窓の向こうには、見渡す限りの森が広がっていた。


「…………」


 私はしばらく、その景色を眺めていた。


 研究室じゃない。


 病院でもない。


 少なくとも、私の知っている建物ではなさそうだ。


「……成功?」


 思わず声が漏れた。


 そして、気づく。


「……え?」


 声が高い。


 いや、高いなんてもんじゃない。


「あー、あー……えっ、何これ!?」


 自分の声なのに、まるで別人だった。


 しかも、身体が妙に軽い。


 三日徹夜したはずなのに、眠気もなければ頭痛もない。長年の研究生活で凝り固まっていた肩まで、すっかり楽になっている。


 それどころか。


「……胸、なんか大きい?」


 恐る恐る、自分の身体を確認する。


 いや、元からあったけど。


 なんというか、全体的に若返っている。


「ちょ、ちょっと待って! 鏡! 鏡はどこ!?」


 部屋を見回すと、棚の上に小さな鏡が置かれていた。


 駆け寄って覗き込む。


 そこに映っていたのは――。


「…………誰?」


 銀色の長い髪。


 大きな青紫色の瞳。


 透き通るような白い肌に、ふっくらとした頬。


 目の下のクマなんて、どこにもない。


 というか。


「……あらヤダ」


 思わず頬に手を当てる。


「めちゃくちゃ可愛いじゃないの!!♡」


 くるりと回ってみる。


 銀色の髪が、ふわりと広がった。


 もう一回。


 今度はちょっとポーズを決めてみる。


「うっわ、すごっ! これが私!? モデルさんでもこんなに可愛くないんじゃない!?」


 右を向く。


 左を向く。


 にっこり笑ってみる。


「……えへへ♡」


 ……いかん。


 これは、いくらでも眺めていられる。


「……って、違う違う!」


 私は慌てて鏡から離れた。


「大事なのはそこじゃないでしょ、私!」


 そう。


 私は研究者だ。


 未知の現象に遭遇したら、まずは観察と仮説の構築。感情に流されている場合ではない。


 実験前と実験後で、身体の構造が明らかに変化している。


 単なる空間移動では説明できない。


「身体の再構築……? それとも、存在情報そのものが転写された?」


 ふむ。


 興味深い。


 非常に興味深い。


「……あとで調べよ♡」


 だって今は、それより気になることがある。


 窓の外に広がる森。


 見知らぬ建築様式。


 そして、まるで別人になった自分の身体。


 ここまで条件が揃えば、思い当たる可能性は一つ。


「……異世界転生」


 口にした瞬間、胸が高鳴った。


「異世界転生……!」


 もちろん知っている。


 そういう書物は、山ほど読んできた。


 剣と魔法!


 冒険者ギルド!


 魔物とダンジョン!


 そして、転生者だけが持つ特別な能力!


「……まさか」


 私は恐る恐る、右手を前に突き出した。


 いやいや。


 さすがに、そんな都合のいいことがあるわけ――。


「ステータス!」


 …………。


 何も起こらない。


「…………」


 うん。


 まあ、そうだよね。


 ちょっと恥ずかしい。


 でも。


「……ステータス、オープン!」


 ――ピコン。


「……え?」


 目の前に、半透明の青い板が現れた。


「出たあああああ!!」


 思わず叫んでから、慌てて口を押さえる。


 いや、待って。


 本当に出た。


 しかも、そこには見慣れない文字が整然と並んでいる。


 なのに、不思議と意味が分かった。


STATUS         NETZACH


名前:未設定


種族:人間


LEVEL 99 / 9999


魔力量:測定範囲外


魔術適性:属性・治癒・干渉・付与・無属性


精霊契約:なし


《属性魔術》 初級10(火・風・土・水)


《無属性魔術》 初級10


《付与魔術》 初級10


《剣術》 初級1


《魔力操作》 超級10


《???》 解析不能


「…………」


 私は、しばらく黙って眺めていた。


 そして、もう一度見た。


「……レベル、九十九?」


 高い。


 どう考えても高い。


 いや、世界の基準が分からないから断言はできないけど、九十九という数字には、なんだか特別な響きがある。


 しかも。


「……九千九百九十九?」


 上限の数字を、指でなぞる。


「えっ、待って。そんなに上がるの!?」


 さらに画面を眺める。


 魔力量は測定範囲外。


 魔術の適性も、ずらりと並んでいる。


 そして。


「《魔力操作》……超級10?」


 初級の上に何段階あるのかは分からない。


 でも、超級って。


 名前からして、なんだかすごそうじゃない?


「…………」


 これは困った。


 非常に困った。


 だって。


「めちゃくちゃ楽しそうなんですけど!!」


 魔法がある。


 レベルがある。


 スキルがある。


 しかも、まだまだ強くなれる!


「ふふ……ふふふふ……!」


 笑いが止まらない。


 どうしよう。


 研究したいことが、いきなり山ほどできちゃった。


 魔術って、どんな原理で発動するんだろう?


 魔力と物理法則の関係は?


 スキルの習得条件は?


 レベルが上がると、身体はどう変化するの?


「……ああ、もう!」


 私は両手を握りしめた。


「最高じゃない、この世界!!」


 そして、鏡の前に立つ。


 銀髪の美少女が、こちらを見つめていた。


「名前は……そうね。セリス!」


 なんとなく、口に馴染む響きだった。


「今日から私はセリス! そして、目指すは――」


 勢いよく右手を突き上げる。


「世界最強の魔法使い!!」


 ……と言ったところで。


 ぐうううう。


「…………」


 お腹が鳴った。


「……そういえば、お腹すいたなあ」


 実験前から、ろくに食べていない。


 新しい身体になっても、空腹は空腹らしい。


「……よし!」


 私は拳を握り直した。


「世界最強になる前に、とりあえずご飯を探そう!」


 そう決めて、小屋の扉を開けた。


 爽やかな風が、頬を撫でる。


 目の前には、どこまでも続く緑の森。


 見たこともない植物。


 遠くで響く、獣の鳴き声。


「……わあ」


 私は思わず、足を止めた。


 本当に、知らない世界だ。


 研究室の端末越しに眺めていた、どんなシミュレーションとも違う。


 風の匂いも、地面の感触も、木々のざわめきも。


 全部、本物だった。


「……来ちゃったんだ」


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


 ずっと夢見ていた場所。


 誰も見たことのない、未知の世界。


 その第一歩を踏み出そうとしたときだった。


 がさっ。


「……ん?」


 足元の草むらが、もぞりと動いた。


 青くて丸い、ぷるぷるした何かが顔を出す。


 いや、顔なのかどうかは分からないけど。


 ともかく、目らしきものが二つある。


「…………」


 向こうも、こちらを見ている。


 しばし沈黙。


 そして私は、震える指でそれを指さした。


「……スライム?」


 青い塊が、ぽよんと跳ねた。


「スライムだ……!」


 胸の奥から、熱いものが込み上げてくる。


 本で読んだ。


 ゲームでも見た。


 でも、本物は初めてだ。


 しかも、動いてる。


 ぷるぷるしてる。


 ……可愛い。


「本物のスライムだああああ!!♡」


 思わず駆け寄った。


 スライムが驚いたように跳ねる。


「待って待って! 逃げないで! ちょっとだけ! ちょっとだけ観察させてぇぇぇ!」


 青いスライムが、ぽよんぽよんと草むらを跳ねていく。


 その後ろを、銀髪の少女が夢中になって追いかける。


 森の中に、楽しそうな歓声が響き渡った。


 こうして私は、新しい世界での第一歩を踏み出した。


 ……ちなみに。


 このときの私は、まだ知らない。


 この世界のスライムが、意外と危険な生き物だということを。


 そして。


 自分が、その常識を初日から壊してしまうことも。


 何しろ、このときの私の頭の中は、たった一つの疑問でいっぱいだったのだから。


 ――スライムって、どうやって動いてるんだろう?

初めて出会ったスライムに、研究者の目がきらきら。彼女の「知りたい!」が、この世界でどんな騒ぎを起こすのか。次話はさっそく実験です!

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