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 ここで一度、あの事故が起こった日、彼女が本当に娼館で働く事になったかどうかに付いて触れておく。



 あの日、オリヴィアに手を差し伸べたのは娼館スカウトのゴドー……ではなく、いつも黒尽くめの服装に、毎日、詐欺詐欺しい提案を彼女にしていたウォーレンだった。


 彼はあの時、ゴドーに声をかけられているオリヴィアを見つけ、様子がおかしいことに気付いた。いつもは軽くあしらうのに、その日は何故かずっと話していたからだ。即座に会話に割って入ったウォーレンは、オリヴィアの口から何が起こったのを聞いた。



 ウォーレンはシンフィールド伯爵家の三男で、実業家として身を立てるため数年間大きな商社に勤めていた。

 そして独立した数年前、ようやく事業が軌道にのりかけていたところ、天才少女の話題を聞いたのだった。


 何でもその少女は発明家だという。

 そこでオリヴィアのことを書いた雑誌記事を読んでみると「人の役に立つ発明をしたい。人の助けになることが私の願いです」というインタビュー記事が載っていた。


 彼女のメンタリティーが気に入ったウォーレンは、本格的に彼女をスカウトしようと試みる。

 しかし学園に足を運んだが追い出さてしまった。そう、彼もドミニクに蹴散らされた中の一人だったのだ。



 ウォーレンは諦めなかった。自分と組めば彼女をもっと稼がせてやれる。もっと良い待遇で働かせられると信じていたからだ。


 彼女が仕事から帰る時の顔を毎日見ていれば、ろくな環境で働かされていないのは明らかだった。

 だから時間のある時は毎日声をかけ、スカウトを続けた。しかし彼は完全に方法を間違っていた。


 若いが故に商売で下に見られることが多かった彼は、舐められまいとキツめの格好をして、無理をしていたのだ。結果、敬遠され続けることになったのだが。


 ただ、彼はその見た目を活かして、オリヴィアに悪さをしようとする連中を排除した。それにより彼女は、治安の良くない道でも、安全に通れるようになっていたのだ。


 ウォーレンは彼女がその気になってくれるまで、いつまでも待とうと思っていた。




 しかし事情を聞いたウォーレンは、我慢できなくなった。

 彼にはある信条を持っていた。

 それは「正直者がバカを見る世の中はおかしい」というものだ。彼が商売をやろうと思ったのも、もしこの世が本当に正直者がバカを見る世界ならば、自分の力で変えてやろうと思ったからだ。


 そういった意地によって、元が取れるか全く分からない状態でも、彼女を助けることにした。


 オリヴィアが抱えさせられていた借金や、当面の生活費、研究費などは全て彼が肩代わりし、別の場所から金を借りてきてまで、彼女の代わりにすべてを背負った。

「金の心配はいらない。研究に集中してくれ」

 ウォーレンは借金など何でもないことのように常々言った。そのことがオリヴィアの発見、そしてその後の研究成果に繋がり、ここまで会社を大きくすることが出来たのだった。



 共にやって来て、ウォーレンはオリヴィアに特別な感情を抱いていた。しかしそれはまだ、秘密にしてある。

 オリヴィアは信頼していたドミニクに裏切られ、しかも莫大な借金を負わされ、かなり傷心していた。しばらく、そういう話題は出してはならないと思ったのだ。




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