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オリヴィアがいるレヴァイン帝国は、現在産業革命の黎明期にあった。
スイッチを入れると火起こしが出来る装置や、魔石が埋め込まれていて、蛇口を捻ると水が出るシステムなど、魔法の使えない人でも簡単に魔法を使える「魔導具」と呼ばれる製品が、次々に社会を豊かにし始めていた。
そんな帝国において、貧しい男爵家の次女として生まれたオリヴィア。
彼女は知能が高く、いつも成績は優秀だった。
その彼女が特に興味を持っていたのは魔導具だった。幼いころからいじったり、分解してまた組み立て直したりと器用に行っていた。
物心付いた頃には「私も将来はみんなの役に立つ魔導具を発明したい」と意気込んでいたオリヴィアは、王立学園の魔導具科に特待生として入学し、学園始まって以来の天才だと称されることになった。
天才だと言われる所以は成績以外にも、在学中から発明を行っていたことにあった。
中でも彼女が集中して取り組んだのは「写真機」だった。つまり、レンズに映った映像を、そのままの姿として映し出す製品だ。
それまでも学者たちや企業によって研究は進んでいたものの、誰も芳しい成果は出せないままだった。
写真機に主に使われるのは「鏡精石」と呼ばれる魔石だ。鏡精石は加工すると鏡のようにツヤツヤしていて、ものを写す。
これに片側から魔力を流し込むと少し性質が変わる。
魔力誘導体として利用し、逆の側面から、流れ込んできた側の光景を、静止画として転写するのだ。
昔はこの鏡精石が宗教的儀式によく用いられたという。
しかし鏡精石が転写できるのは魔力のあるものだけだった。つまり、魔力を持った人間と魔石のみ。それも、輪郭をぼんやりと映すだけ。
これでは見たままを写す写真機として使うには足りない。
それを解決したのが当時18歳のオリヴィアだった。
彼女は転写処理技術を各段に高め、クリアな現実の映像をそのまま写し取る、世界で初めての白黒の写真機を作ることに成功したのだった。
当時は試作段階で、量産には程遠かったし、一枚の写真を撮るまでに数時間を要した。
とはいえこれは大ニュースになった。
が、彼女が表舞台に立つ事はなかった。彼女の研究を代わりに発表したのがドミニクだったからだ。彼がまるで自分の研究成果のように発表したため、世間の注目は彼に集まったのだ。
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オリヴィアとドミニクが出会ったのは王立学園の中だった。ドミニクは毎日のように彼女の研究室に現れ、コミュニケーションを取ろうとした。彼女が疲れていると気遣い、差し入れもくれたし、語り掛ける口調も優しかった。
また、大量にやってくる野次馬たちを捌いてくれたのも彼だった。
オリヴィアはいつしか彼のことを好きになり、自分の悩みを打ち明けるようになった。
当時、彼女の主な悩みは研究費のことだった。継続的に研究を続けていくためには研究費が足りなかったのだ。
彼女は特待生で授業料は免除されているし、学園側から研究費はある程度保証されているが、当時まだ成果をあげていないオリヴィアは、まとまった資金を受け取ることが出来ていなかった。
「簡単な話だ。スポンサーを募れば良い」
ドミニクはオリヴィアの話を聞き終わるや否や、指を鳴らして言った。
研究費を引っ張って来るには「いかに自分の研究が有用であるか」をスポンサーに説得力を込めて説明する必要がある。そうすればお金を出してくれる企業があるというのだ。
しかしオリヴィアは難色を示した。
彼女は根っからの研究者気質であり、人前で発表することは全くと言って良いほど出来なかった。そのため、彼の提案は難しいと思ったのだ。
「ふむ、なら俺が代わりにスポンサーを集めて来ようじゃないか」
ドミニクは自信満々に言った。彼は校内の演説コンテストで優勝する程喋りに優れた男だった。それは彼女にとっても有難い提案に思えた。
「ただ」
とドミニクは前置きする。
「勿論無料というわけにはいかない。やはりスポンサーを募る活動にもお金はかかる。だから俺の分け前も欲しいんだ」
オリヴィアはぶんぶん首を縦に振った。こうして二人の協力関係が始まったのだ。
ドミニクの営業力は確かだったようだ。発表においては堂々としていて、自信満々に、まだ何も発明していない頃の、オリヴィアの研究内容を売り込んだ。
太い骨格に甘いマスクというカリスマ性のある外見と、伯爵家嫡男という地位も手伝い、彼の発言には説得力があった。こうしてスポンサーは一社、また一社と集まるようになった。
オリヴィアがドミニクから婚約しようと言われたのは、そのさ中だった。
とても嬉しかった。オリヴィアは彼こそが運命の人だと疑わず、両親も彼女の婚約を喜んだ。
こうして両家の間で直ぐ話はまとまり、婚約は成立した。
しかしこの頃から、少しづつ歯車が狂っていく。
一つは資金の流れが不透明だったことだ。
全てのお金は、先ず研究費援助の名目で、スポンサーからドミニクの元に集まる。
そこから研究費や、オリヴィアの給料に割り振られることになっていた。
確かにオリヴィアの元には、研究費が継続的に入って来ていた。しかしどれだけ成果を出しても増えないままだ。
リリィを雇って、研究に必要な備品を買い揃えると、ほとんどが消えてしまう。
そのためオリヴィアは、足りないものは自腹購入するようになっていた。
彼女の実家の男爵家は貧乏だ。実家にも仕送りをしなければならないし、生活費もあるしでカツカツだ。
また、研究成果を頻繁に急かされるようになっていた。厳しいスケジュールの中、最近の彼女は睡眠時間を削って作業に打ち込んでいる。
以前はドミニクも研究を手伝ってくれることもあったが、今はそれもない。いつの間にか別々に過ごす時間が増え、いつの間にか彼の隣にはアビーが居た。
オリヴィアはドミニクの期待に応えることが正しいのだと信じてきた。
しかし精神的、体力的に、オリヴィアは限界を迎えつつあった。このままではいつ倒れるか分かったものではない。




