第5話 三人の絆 ~ ヒカル、八歳の記憶~
一緒に笑い、一緒に泣いた友との絆。
それはきっと、未来への道しるべになるのかもしれません。
三人の絆が結ばれた日の物語です。
山間に朝日が差し込み、澄んだ空気が広がっていた。
この村の子どもたちは、小さな頃から山を駆け回り、
風のような身軽さを身につけていく。
嵐と弁は、
谷から谷、枝から枝へ軽々と飛び移り、
山の中を駆け抜けていた。
ヒカルだけが、必死にその背中を追いかけている。
突然、嵐が方向を変えた。
「嵐!」
「危ないから行っちゃ駄目!」
ヒカルの叫びとともに、弁が後を追った。
嵐が笑いながら振り返る。
「大丈夫だって!」
その瞬間――。
踏み出した足元が崩れ落ちた。
「っ――!」
体勢を崩し、
嵐の身体が大きく傾いた。
「嵐!」
弁が迷うことなく飛び込んだ。
崖から落ちかけた嵐の腕を、強くつかむ。
「うわっ……弁!」
嵐の声が震える。
だが弁もまた、片手一本で細いツルへしがみついている状態だった。
ギシ……ギシ……。
ツルが嫌な音を立てる。
(このままじゃ……もたない……!)
ヒカルは駆け出した。
「弁……!
そのまま掴んでて!」
崖際へ飛び込み、弁の腰へしがみつく。
さらに近くの枝を両腕で抱え込み、必死に体を支えた。
こうして三人は、
ヒカル → 弁 → 嵐
の順に宙へぶら下がる形になった。
「ぐっ……!」
ヒカルの腕が震える。
弁の体重。
そして嵐の重み。
全部が、小さな体へ容赦なくのしかかっていた。
嵐の額から汗がこぼれ落ちる。
弁も歯を食いしばりながら声を絞り出した。
「う、おおおおっ……!」
渾身の力で、嵐の体を崖の上へ押し戻す。
「弁! あと少しだ!」
ヒカルが叫んだ。
嵐は必死に地面へしがみつき、そのまま崖の上へ転がり込む。
続いて弁も、荒い息を吐きながらよじ登った。
嵐は半べそをかき、
弁は満身創痍だった。
「よかった……
ほんとに……」
「ふぅ~」
ヒカルは大きく息を吐いた。
三人が顔を見合わせ、微笑み合った――その瞬間。
ミシッ。
嫌な音が響いた。
ヒカルの掴んでいた細い枝が、静かにひび割れていく。
「……え?」
次の瞬間――。
バキンッ!
枝が折れた。
「ヒカル!!」
二人の叫びが山へ響く。
ヒカルの体は、そのまま谷底へ吸い込まれていった。
風の音だけが耳を満たす。
空も、木々も、光も。
すべてが遠ざかっていく。
狭まっていく意識の中で、
ヒカルはぼんやりと思った。
(ああ……また迷惑をかける……)
そのまま、闇へ沈んでいく。
―――――
返事はなかった。
夕暮れが迫り、
山の空気が冷えはじめても、ヒカルの姿は見つからない。
誰もが言葉を失いかけていた、そのときだった。
「あっ……!」
嵐が何かを見つけ、駆け出す。
地面へ落ちていたのは、ヒカルの靴だった。
その近くには、乾きかけた血の跡。
嵐は息をのんで崖の下を見下ろす。
そこには――。
崖の斜面から突き出した一本の枝が、
折れそうになりながらも、かろうじてヒカルの体を支えていた。
「弁!
いた……ヒカルが……!」
嵐の叫びが震えていた。
―――――
三日後。
ヒカルはようやく目を覚ました。
ぼやける視界の中、
最初に見えたのは弁と嵐の顔だった。
二人は半泣きになりながら、何度も繰り返す。
「ごめんよ……」
「ごめん……ヒカル……」
ヒカルは弱々しく微笑んだ。
「僕は……大丈夫……
気にしないで……」
「心配かけちゃったね」
嵐と弁は震えたままだった。
命は助かった。
だが――
ヒカルの足は骨折していた。
三人の少年に芽生えた「守りたい」という想い。
その気持ちは、やがて誰かを支え、救う力になっていくのでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




