第4話 山を駆ける少年たち ~ 絆のはじまり~
山を駆けることは、前へ進むこと。
けれど、それは一人で進むことではないのかもしれない。
転びそうになった時、
立ち止まりそうになった時、
そっと手を差し伸べてくれる誰かがいる。
今回は、ヒカル、嵐、弁。
三人の絆が少しずつ形になり始める物語です。
「泣くには早いぞ!」
「狩りはまだ終わっちゃいない!」
山肌を震わせるような凪人の声が響いた。
木々を縫うように駆け抜けるその背中を、
ヒカルは荒い息を押し殺しながら必死に追いかける。
「ヒカル! ついてこれるか!」
「はぁ……っ、なんとか……!
叔父さんの背中は……まだ見えてる……!」
しかし次の瞬間には、
凪人の姿はもう見えなかった。
肩で息をしながら、ヒカルは後ろを振り返った。
後方を走る弁と嵐へ叫ぶ。
「弁、嵐……先に行ってくれ!」
二人は顔を見合わせ、ふっと笑った。
嵐が軽やかに肩をすくめる。
「気にすんなよ。
俺たちはヒカルの後ろにいたいから、ここにいるんだ」
「でも、僕……いつも二人の足を引っ張ってばっかりだ……」
悔しさを押し込めるように、ヒカルは唇を噛む。
湿った木の根へ足をかけた、その瞬間――。
バキッ。
嫌な音が、山に響く。
「っ――!」
足場が消えた。
ヒカルの身体が宙へ投げ出される。
(落ちたくない)
一瞬――世界の音が消えた。
(死ぬ)
手を伸ばしても、何も届かない。
ただ重力だけが、
容赦なく体を引きずり込んでいく。
「あっ――!」
すがるように伸ばした手を、
強い力がつかんだ。
「ヒカル!」
折れかけた枝へ全体重を預けながら、
弁が迷いなくヒカルの手首を引き寄せていた。
「……!」
揺れる視界の中で、
弁の顔だけが鮮やかに浮かぶ。
ヒカルは空いている手を胸へ当て、震える息をひとつ吐いた。
「……また、迷惑かけて……ごめん……」
「気にするな」
弁の静かな声が、
ヒカルの震えをそっとほどいていった。
その横で、嵐が苦笑する。
「ほんと、放っとけないやつだな」
その言葉のあと、嵐は大きく息を吐いた。
口元が崩れ、
今にも泣きそうだった。
ヒカルは二人を見上げた。
弁は、どんな時でも仲間を守ろうとする。
嵐は、どんな状況でも前を向き続ける。
ヒカルにとって二人は、
ずっと追いかけてきた背中だった。
そして――。
いつか自分も、
二人のようになりたいと願っていた。
―――――
■ 弁 17歳
―― 揺るがぬ背中で仲間を守る者
大人びた体格と、拳に宿る“守る意志”。
困難の前でも決して折れず、
仲間の盾となって立ち続けるその姿は、村の大人たちからも深い信頼を得ていた。
やがて“鉄拳の守護者”と呼ばれていく少年。
ヒカルにとって弁は、
“支えてくれる背中”そのものだった。
―――――
■ 嵐 16歳
―― 闘志を胸に、道を切り開く風
冷静沈着で、追い詰められても瞳の奥の闘志を失わない。
逃げ道のない状況でも、
必ず“一筋の光”を見つけ出す。
その強さは、仲間たちの信頼を決して揺るがせなかった。
やがて“疾風迅雷のハヤブサ”と呼ばれることになる少年。
ヒカルにとって嵐は、
“前へ進ませてくれる風”だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第4話では、後に「進化の境界線」を越えることになる三人の原点を描きました。
特別な力があるから仲間になるのではなく、
困った時に手を差し伸べるから仲間になる。
この小さな出来事が、
やがて三人の未来を大きく変えていきます。
次回もお付き合いいただければ幸いです。




